主人公ガチ恋勢、悪役転生する〜TSしてでも勇者と結婚したいからバグを悪用しよう。メインヒロインなんかに渡すもんか!   作:丸尾裕作

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第1話  主人公ガチ恋勢、悪役転生する

 あなたの人生で尊敬する人物は誰ですか?

 

 自己分析を就活でやった時、頭ではこう浮かんだ。

 

 アッシュ。

 知る人ぞ知る名作RPGのゼルドラファンタジーの主人公だ。

 もっとも本当にそう書くわけにはいかないから適当に両親と書いていたけど。

 

 アッシュ。

 命をささげたいです、大好きです。

 ゼルファンのプレイヤーが選択できる主人公、男勇者だ。

 

 アッシュこそが俺がゼルファンを愛する理由そのものだ。

 強くて、かっこよくて、何もかも憧れてしまう男だ。

 

 おかげさまでメインヒロインたちからモテにモテまくる。

 アッシュに欠点ないんだもん、当然さ。

 もしも、TSできたなら結婚しちゃいたいぐらいに!

 

 ちなみに俺はゼルファングッズはアッシュだけはすべて集めた。

 軽く1000万円分ぐらい。 

 金はそこしか使うところなかったからな。

 俺のアイデンティティは勇者アッシュLOVEなところだ。

 

 おかげで、隠れた名作RPG「ゼルドラファンタジー」、略してゼルファンを食って寝て仕事する以外の隙間時間を全て費やしている。

 

 ハマりまくって、一分一秒でも早くクリアを目指すリアルタイムアタック、略してRTAにまで没頭するようになった。

 ゼルファンRTAの歴史を変える重大なバグ技を発見したのはこの俺だ。

 

 命をささげる覚悟でやったら、世界記録だって何度も取れた。

 俺の生きている中での唯一の誇りだ。

 

 そんなことを繰り返して、世界記録の更新が100回目となったとき。

 

 記録更新を目前にして、俺の意識はぶっ飛ぶ。

 

 アッシュを全力で愛し続けて、数十年、無理した生活がたたって、ゲーム画面を前に、俺の命は燃え尽きようとしていた。

 

 アッシュへの愛で命を捧げ、俺は微塵の後悔もない!

 

 「勇者アッシュ、愛してるぜ」と遺言を残して、俺は笑顔で逝った。

 

 

 

 次に意識を取り戻したとき、天蓋付きの硬いベッドの上だった。

 起き上がると、窓から入る光がやたら眩しい。

 

 どこだ?ここ。

 

 少なくとも、俺のワンルームじゃない。

 

 まず、体の違和感があることに気づく。

 

 自分なのに自分じゃない感じがある。

 

 なんか体がまず軽い。

 自分の手をグーパーさせてみると、前世より手が小さいことに気がついた。

 肌のみずみずしいし、柔らかい感じがする。

 

 ベットから起き上がり、立ってみると視界もなんか低かった。

 

 今までの俺じゃない。

 それだけはわかる。

 

 キョロキョロと周りを見る。

 

 壁に薄茶色の世界地図が飾られていることに気づく。

 羊皮紙に手書きで地形が書かれていて、古ぼけていて、一部黒く霞んでいる。

 

 近づいて、よく見てみると、その大陸の形に見覚えがあった。

 

 それは前世で俺が暗記して脳の一部となってるゼルファンの全体マップとそっくりだった。

 

 もしかして、俺はゼルファンの世界に転生してしまったのか?

 

 そんな考えに俺はすぐに思い至った。

 

 しっかり確かめるべく、改めて、部屋をじっくり観察することにしよう。

 

 貴族の肖像画や割ってはいけなさそうな壺、高級そうな赤いカーペット、天蓋付きのベッドなどなど。

 

 やたら豪勢な部屋だった。

 なんか貴族っぽい部屋だ。

 

 あらゆるものがゼルファンの世界のものだと俺は断言できる。

 

 あれだけやり込んだんだ、見間違えるはずがない。

 

「よっしゃあー」

 

 自分の大好きなアッシュがいるゲーム世界だ。

 喜ばないでいられようか。

 アッシュに会えるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 

 すると、疑問が浮かぶ。

 じゃあ、俺は一体誰なんだ?

 

「誰かいないかぁ?」

 

 もし俺が貴族ならばメイドの1人や2人はいるのではないかと思って、声をあげた。

 声もやたら高い。

 やっぱり子供にまで若返ったのか?

 

「ボロボドス様、お呼びでしょうか?」

 

 控えめなノックと共に、メイド服の女性がムチを持って、部屋に入ってきた。

 メイドの持ってるムチが結構気になったが、それよりも気になる言葉があった。

 

 ボロボドス様? まさか……!

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺はある嫌な考えに思い至る。

 

 部屋がやたら豪勢で、呼べばすぐに来るメイドもいるわけだ。

 どうやら、俺はどうやら貴族なのは確定っぽい。

 

 だったら、鏡ぐらいはあるんじゃないかと探す。

 

 見渡すとすぐに見つかった。

 

 急いで、鏡をのぞき込む。

 

 すると、憎たらしい顔の子供が映っていた。

 白髪、赤い瞳で、悪人顔。

 笑う顔がとにかく怖い。

 

 あと、あんまり可愛くない。

 

 さっきまでの幸せだった気持ちを返してくれ。

 俺は落ち込まずにはいられなかった。

 

「よりによって、おまえかよ」

 

 鏡に映る前世の俺とは全く違う人物に俺は語り掛ける。

 

 だが、鏡に映る人物こそ俺である。

 

 この人物は見間違いようがない。

 

 まごうことなく「ゼルドラファンタジー」の悪役貴族「ボロボドス」だった。

 よりによって、アッシュを苦しめ続けるおまえかよ!

 

 俺はまたしても訪れた自分の悲しい運命を呪った。

 

「ははっ」

 

 悲しくなって、薄ら笑いが出た。

 

「急にどうされたんですか? ボロボドス様」

 

 メイドがオロオロと様子で見てきたが、なんか可愛かった。

 

 改めて見てもとんでもない美少女だ。

 ピンク髪で、身長も俺より少し低い。

 歩くだけで胸が揺れてたぞ。

 少なくとも、Eカップはあるぞ。

 もしや、Fカップ?

 

 すると、メイドの名前を急に思い出した。

 

 そういえば、このキャラはメア・ロドクルーンだったな。

 ゲーム世界とはいえ、まじで発育がいいんだよな。

 設定では12歳時点でFカップ。

 えっ………でっけぇおっぱい。

 

「そんなに私ばっか見て。どこかおかしいところありましたか? 私の顔に何かついてますか?」

 

 メアは頬が赤くなったのが恥ずかしいのか、両手で顔を隠した。

 

「す、す、すまん」

 

「私の体がそんなにエロうございますか」

 

「ほぇ? 子供相手に何を言ってんの? そういや、俺何歳だっけ?」

 

 エロいことは確かに考えたのは事実なので話を誤魔化す。

 

「俺……ですか? 口調が…、まぁこの際いいですか。えっーと、10歳ですね」

 

「本当10歳に言っていい言葉じゃないよ!」

 

「そんなぁー。いっぱい私の体をムチで叩いてくださったじゃないですかぁー」

 

 メアは俺の服の裾を掴み、泣きついてきた。

 ゲームの資料本読み込んだし、12歳だと容姿を見ただけで判断できるけど、メアが本当に2歳年上とは思えない。

 

「いや、なんでだよ。俺はそんな趣味はないよ…うん、やってたな」

 

 変なこと言われたおかげで、悲しい気持ちが一気に吹っ飛んだよ。

 

 原作で俺の転生前とはいえ、まじで何やってんだよ、俺。

 

 確かにボロボロスの裏設定で、メイドに対して「この雌豚が」と5歳から罵倒しつつ、ムチで叩き喘がせるプレイを楽しんでいたとか書いてあったな。

 さすがのアッシュも苦笑いしてたんだよ、そりゃあそうだよ。

 

「とにかく今日からやらんから、お前は体を労われ」

 

 俺はできるだけ優しくメアに微笑む。

 

 まぁいくらなんでも転生前のボロボドスは酷すぎだしな。

 人と関わる以上、最低限の礼儀を大切にしたい。

 アッシュに好かれる人間になるためにな!

 

 メアの目がかっと見開いた。

 

「嘘っ! どうされたんですか、ご主人様! 神を超えし僕たんっていつも言ったのにどうしたんですか! 口調もそうですが、何か心境もあったんですね、私びっくりしました」

 

「そんな驚くことではないだろ」

 

 俺は大したことやってない。

 憧れのアッシュをまねしているだけだ。

 それにしても、転生前とはいえ神を超えし僕たんって改めて聞いてもイタすぎるな。

 

「いいえ、違います」

 

 メアは目をキリッとさせた。

 

「心を入れ替えて、すぐに実践できるなんて普通の人にはなかなかできないことですよ」

 

「いや、そんなことは」

 

「謙虚は美徳じゃありません。私は自負すべきことだと思います」

 

「ありがとな、メア」

 

 照れくさくなった俺は褒めてくれたメアの頭を撫でる。

 アッシュならこうするからな。

 

「きゃー! メアのことを気遣ってくださるなんて。はっ、まさか、夜の御伽のために」

 

 メアは目を爛々にさせてこちらを見てきた。

 

 心の中で俺は叫んだ。

 

 メアは俺が年端も行かない子供であること忘れてんだろ。

 

 原作の俺は何を吹き込んでいたんだ。

 

「うん、一旦落ち着こうか、メア」

 

 そう言って、俺はメアを落ち着けようと、より優しく頭を撫でる。

 

 ちなみに、おっぱいが体に当たって子供とはいえ、なんか恥ずかしいわ。

 一応、男なんでね!

 

 すると、メアは「ふみゅー」といって、静かになり始めた。

 

 まじかよ!

 アッシュのまねをするだけで、どうやら人間関係良くなるみたいだ!

 やっぱりアッシュってすげええええええ!

 

 

「まずは現状の分析からだな……」

 

 なぜか名残惜しそうにするメアをなんとか説得して、退出してもらった後、俺は自分の考えを整理することにした。

 

 まず、メアってあんなにボロボドスにグイグイ来るキャラだっけ?

 とはいえ、ゼルファン世界での女キャラである限り、アッシュに惚れないことは不可能だ。

 メアにだってアッシュのことは渡さない!

 

 一部で人気な隠れた名作RPG〈ゼルドラファンタジー〉。

 

 剣と魔法の王道ファンタジー世界を舞台に勇者である主人公がパーティを成長し、やがて魔王を倒して、世界を救う物語。

 

 一見すると、隠れた名作、王道RPGだ。

 

 アッシュをはじめとするキャラが魅力的ということで人気が出た。

 メインヒロインたちはユーザーから人気であり、俺もアッシュの魅力を引き出してくれるからメインヒロインだって好きだった。

 

 各ヒロインたちとのハッピーエンドや隠しイベントを見るために隅々までやりこんだ。

 どんなかっこいいアッシュがいるんだろうかってことごとくに知るためにな。

 TSして、アッシュと結婚したいと何度思ったことか!

 

 しかし、このゲームの魅力はそこだけじゃない。

 一部のマニアはシステム上に数多あるバグを使って遊び、好評だった。

 バグといっても、RTA勢しか使わない特殊テクニックだが。

 RTAする奴には最高のゲームでしかなかった。

 

 ただし、どんなゲームにだって短所がある。

 

 一人だけ、完全無欠のアッシュを嫌うキャラがいたのだ。

 

 もちろん、俺は大嫌いだった。

 

 でも、俺だけじゃない!

 

 このキャラはゼルファンをプレイした人ほぼ全員から嫌われたキャラクターだ。

 

 それが俺が転生先の「悪役貴族のボロボドス」。

 

 勇者と仲良い幼馴染だったが、魔王に唆されて最終的には勇者を裏切ったりする。

 

 肝心の強さはというと、大したことない。

 

 雑魚すぎる癖に勇者にしつこく付き纏って、何度も戦うことになり、うざがられた。

 プレイヤーからついたあだ名は白いゴキブリ。

 

 親からも愛されない一方、愛情豊かな家庭に育った主人公に嫉妬するがゆえに主人公に付き纏っている。

 

 主人公はそんなボロボドスの内面を理解する唯一の親友だ。

 アッシュ、こんな奴にまで優しいなんてお前最高すぎだよ。

 俺はアッシュのことを余計に好きになった。

 

 そもそも街中から嫌われている。

 それに加えて、メインヒロインに主人公の気を引きたくて、ヒロインにキスすることをきっかけにプレイヤーからも嫌われている救いようがないキャラクターだ。

 

 それが原作におけるボロボドスの役回りだった。

 

「俺はアッシュに殺されるのか」

 

 しかも、ただ死ぬだけじゃない。

 

 勇者に殺させる未来を恐れる魔王に唆されて、勇者を裏切る。

 

 嫉妬心から勇者の行く先々で妨害して、最終的には「どうして…僕はただ人から好かれたかっただけなのに」という遺言とともに、あっけなく砂となって死亡する。

 

 ただ一人の理解者のアッシュが悲しそうな目で仕方なく殺す。

 

「俺は悲しく死んじゃうのか」

 

 俺は虚空を見つめる。

 

 自分の心を支配する絶望をごまかすにはそれしかできなかった。

 

 

 おそらく、1,2時間は放心状態となっていたことだろう。

 

 不安をごまかすべく、意味もなく、ずっと部屋をぐるぐると歩いていた。

 

 頭が空っぽになったおかげか、突然、俺は閃いた。

 

「……そういえば、ここってゼルドラファンタジーの世界だよな」

 

 ここでふと、自分の前世の記憶があることを思い出した。

 

「そうだ……今の俺にはゼルファンのRTA世界記録保持者だ!」

 

 この世界の元凶の魔王の倒し方。

 

 どうすれば最速で最強装備が手に入るか。

 

 最短でレベルマックスになる方法。

 

 どんなふうに魔法を使えば、簡単に敵を倒せるか。

 

 RTA走者としてチャートを開拓した俺の知識のすべて。

 

 それらを駆使すれば、これからそんなふうに死ぬ運命を何とか回避することができるかもしれない。

 

 いや、むしろ……。

 

「〈ゼルドラファンタジー〉の世界なら、俺の知識は全部通用するんじゃね?」

 

 裏切り貴族? 白いゴキブリ?

 

 原作通りになんてさせてたまるか。

 

 俺はアッシュとTSしてでも結婚したい。

 

 だったら、どうするか?

 

 バクを悪用すればいい。

 性別をバグらせるのだって可能なはずだ。

 

 そのためには魔王を倒して、最速で倒す必要がある。

 必要な寄り道は全部するけど。アッシュのかっこいいところ生で見たいし。

 

 まず、原作のプロローグが始まるのは2年後である。

 それに向けて、まずは準備をしよう。

 

 アッシュと仲良くなれば、そもそも破滅エンドも訪れない。

 完璧な計画だ!

 

「ならば、修行を始めるとするか」

 

 俺はこれから、訓練場に向かう。

 

 バグをどこまで悪用できるかを確かめなければならない。

 RTAで培った原作知識を武器にな。

 

「さてとこっちかな?」

 

 手始めに俺は部屋の壁をすり抜ける。

 

「何事ですかっ!」

 

 通り抜けた先の廊下には執事服を着た初老の男性がいて、腰を抜かして、ぺたりと床に座っていた。

 

 やっぱりバグってたわと俺は思わずニヤリと笑ってしまうのだった。

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