主人公ガチ恋勢、悪役転生する〜TSしてでも勇者と結婚したいからバグを悪用しよう。メインヒロインなんかに渡すもんか! 作:丸尾裕作
「今日は精霊様を呼ぶために来たんでしょ」
「分かったわよ、頼めばいいんでしょ、頼めば」
ミラ姫がアリーナを宥める。
「精霊様、出てきてください」
エリーナが湖に呼びかけた。
何かおかしいと首を傾げた。
「精霊さまー! あれ? やけに静かね」
「湖の上に魚や鳥が1匹たりともいませんね、モンスターもいませんね」
ミラ姫も不思議そうに首を傾げる。
ごごごごごご。
湖から地響きが聞こえる。
「ん?」
アッシュが何かに気づいたようだ。
にゅる。
湖に一本の触手が生えてきた。
「きゃあああああああ!」
触手の先の人が悲鳴をあげていた。
ん? 悲鳴ってデジャブだな。
ばしゃーん
湖から巨大な波が発生し、俺たちはその水を必死に避けた。
「なんで俺だけ全身ずぶ濡れなんだよ」
アッシュだけ全部水を浴びたけど。
やっぱり貧乏くじを引いていた。
ちょっと水に濡れた姿もセクシー、アッシュ!
水も滴る男ってこのことだね!
白い三角頭。
2メートルぐらいの白い巨体。
簡単に言えば、でかいイカが現れた。
よく観察すると、1人の美女がでっかいイカの触手に絡まれていると分かった。
胸の谷間やパンツのあたりで触手がうねうねと動いていた。
「レイククラーケンじゃん!」
アッシュが叫んだ。
こいつ特殊ボスで、序盤で出るパターンかよ。森の道中で3匹同時で出る乱数だからもしかしたら思ったけどさ。
「あーん、変なところ触らないで!」
精霊様がなんかエロいことになっている。
エロゲーみたいなことに。
この特殊パターンも原作再現かよ。
「なんでこんなところにいるのよ! レイク・クラーケンなんて餌の魔物が全部狩られたらでもしない限り出ないわよ!」
さっ。
ミラ姫がさっと顔を背ける。
横でエリーナはオロオロとしてる。
「私のせいかもごめんなさい! さっきの魔法が暴発しちゃって」
すると、ミラがエリーナを安心させるようにポンと頭に手を置く。
ちなみに隅に丸まってるのは、触手が苦手なロミアさん。
本当に使えないなって思ったけどな。
ほっておくしかない。
「大丈夫だよ、エリーナ。多分私が憂さ晴らしに湖の魔物を手当たり次第殴り倒して、多分私が湖の主様を怒らせたせいだよ」
『お前のせいかよ』
アッシュと俺が突っ込んだ。
いや、突っ込まずにいれるだろうか。
というか、原作でもミラ姫が魔物狩りをストレス発散でやってるってそういえばあったな!
ミラは片目を瞑って、両手を合わせ申し訳なさそうにする。
「ごめんなさーい、ストレス発散したかったのー、えへへ」
「もうミラは世話が焼けるんだからっ!」
エリーナは少し涙目になっている。
「どうでもいいから、さっさとこいつをなんとかしなさーい! いやーん」
精霊様はめっちゃ怒っていた。
あと、引き続き、触手に喘がされていた。
湖の主様 レイク・クラーケン。
名前の通り湖にいるクラーケンだ。
中ボスである。
「でも今の俺たちじゃ対抗しょうがなくないか、こんなやつ」
「私の魔法が無理だよぉ〜」
アッシュもエリーナも眉を顰めていた。
俺は手をパーにして、みんなの前にかざす。
「大したことないさ」
「どうしてですか?」
ミラ姫がこちらの様子を伺ってきた。
心配してくれているのは分かる。
「みんながいるからさ」
俺は即答した。
あと、俺の原作知識通りなら。
「俺の作戦通りにしてもらおうか」
周りが頷いた。
「本で読んだだけど」
前置きをこんなふうにした。
これは嘘である。
原作知識である。
「レイク・クラーケンは挑発に弱い。ヘイトを俺たちに向けて触手を切りつけて、精霊様を助ける。俺が小細工を加えてから、雷魔法が弱点だからぶつける、戦略はこんなところかな?」
俺は人差し指でエリーナを指す。
「鍵になるのはエリーナだ!」
「無理だって、私魔法に使えない!」
エリーナは大きな声で言った。
でも俺は違うと思う。
「これだけは絶対言える」
「何よ?」
「どんなエリーナも最高だから、絶対忘れんな」
「はぁー、本当あんた変わったわね」
大きなため息をつくエリーナ。
原作ファンの代弁しただけだがな。
アッシュを取り囲むことを大切にしてこそ、まことのアッシュファンというものだ。
「そこまで言われて引き下がるなんてできないわ」
エリーナがキラキラした笑顔を見せてきた。
「私がいかにすごいか思い知らせてあげるわ」
エリーナが手をかざす。
「私の胸の中のこの温かい気持ちがあるならどんなこともできるわ」
こんな緊迫した場面なのに、エリーナは頬を桜色に染めて笑っていた。
「風よ、精霊様をを助けて」
そんな言葉だけで十分だった。
ひゅーるるる。
風が強くて、触手は精霊様を手放す。
そのまま、風は精霊様を優しく包み込み、安全なところに運び出す。
「風さん、ありがとう」
「エリーナ、助かりました」
森の精霊様はぺこりと頭を下げる。
レイククラーケンの触手は風によってこちらに近づけず、本体の方へと向かっている。
やっぱりエリーナはあっさりできた。
メンタルさえなんとかなれば魔法のセンスは原作ピカイチだ。
「ね? やっぱり私は最高でしょ?」
エリーナが俺に向かってウィンクしてきた。
「もちろん」
俺も親指を立てて、返事をする。
やっぱりエリーナは自信たっぷりなのがらしいよなぁ。
原作キャラのいいところを見れて嬉しくなる。
触手がエリーナに向かって向かってきた。
パターン通りだな。
原作知識が体の芯まで身についてるからもはや止まってすら見える。
さて、エリーナがここまで頑張ってくれたんだ、俺も助太刀ぐらいはしないとな。
「さてと、ヘイトが溜まってくれた。触手うざいからなぉ、じゃあ」
触手は的確にエリーナを狙ってくる。
俺はその軌道に剣を3回振る。
「ミラージュソード3連撃」
しゅぱんっ。
「クラーケンのゲソの出来上がりっと、ご馳走さん」
全く触手が3本も減れば楽だろ。
足狩りはRTAの常識だし。
「どうした? 3人ともぼっーとして」
俺は大したことしてないのに3人とも驚いた顔をしていた。
ミラ姫が口を動かす。
「目に見えない速さでした、一体どういうこと?」
「一瞬で切れちゃった、なんで?」
エリーナの声も聞こえた。
ちなみにアッシュは嬉しそうににやにやと笑っていた。
ミラ姫やエリーナ、アッシュは俺のミラージュソードを見て思うところがあったかなと思う。
単なるズルだけどなぁ。
でも、今は説明している暇がない。
さてと、もう少しレイク・クラーケンを弱めないとな。
「これぐらい大したことないさ、俺は夢も天国も見せられるんだよ」
俺からしたらレイク・クラーケンそんなの雑魚である。
RTAプレイヤーを舐めんなよ。
「レイク・クラーケンくん、だったら君は分かるよね?」
しつこく迫り来る触手を見て、俺はニヤリと笑いかける。
指先から摘めそうなぐらいの大きさの霧の球体を出力させる。
「膨張」
霧の球体を一気にクラーケンを覆い込むぐらいに一気に大きくする。
「お前には地獄を見せてあげるよ」
俺は目を瞑る。
「魔覚醒 『幻覚空間 暗闇針地獄』」
「ぐおおおおおおおん」
レイク・クラーケンが苦しみ始める。
今、地獄の針地獄をイメージした世界にやつは閉じ込められていて、針が突き刺さった幻覚を見ている。
痛覚付与はもちろんしている。
だから、今、地獄の針の痛みで苦しみ続ける罪人のように、レイククラーケンは苦しみを味わっている。
「ま、こんなもんかな?」
トドメは刺せるけど、最速になるなら別だ。
俺のRTAチャートの攻略ではない。
これ以上は俺の出番は絶対ないな。
エリーナは口を手で押さえていた。
「嘘でしょ、魔覚醒って。私たちはいらないんじゃ」
アッシュは満足げにうなづいている。
俺ならできて当然だと言っているようだった。
何目線?
ミラ姫も「わぁわ、ボロボドス様、凄い凄い」とパチパチと拍手をしてくれていた。
「奴は雷魔法特効だ。アッシュ、あとは任せたぞ」
「おうっ、親友!」
アッシュは飛び上がり、剣を振った。
「雷帝弾」
アッシュは雷の球をレイククラーケンに当てた。
それだけでレイククラーケンはフラフラしていた。
ミラ姫は小さく手を挙げた。
「あのぅー、ボロボドス様」
さっきからミラ姫はそわそわしている。
ちらちらと、エリーナと俺を交互に見ている。
なんでそんなに後ろめたそうに見ているかわからなかった。
「むしゃくしゃするんでレイククラーケン殴ってもいいですか?」
「ん? もちろん、お好きなだけどうぞ」
なんでむしゃくむしゃするかはよくわからなかった。
自分だけ何もしていないのが嫌なのかな?
「むぅー、なんでわかってくれないんですか!」
ミラ姫がほっぺたをぷくぅーと膨らませた。
うん、いらいらしているんだなぁ。
ストレス発散させないと。
「どうぞどうぞ、あんなやつ殴ってください」
「もう! だったら、遠慮なく殴ってきます!」
しゅたっ。
ミラは高く飛び上がる。
ぼかぼか。
ぼかーん。
ぐしゅ。
ぺちゃ。
ぶちゅ。
ミラ姫がレイク・クラーケンを殴った音が聞こえる。
いろいろ聞こえてはいけない音もする。
「うわぁー」
エリーナがジト目を向けていた。
ぐおおおおおお。
今、やつはタコ殴りにされている。
この世界のクラーケンはイカだけどね。
もはや、クラーケンの方がなんか可哀想だった。
ミラ姫、だいぶイラついていたんだなぁ。
5分後。
クラーケンは湖に沈んでいった。
「少しだけスッキリしましたぁー」
ミラ姫が満足そうに汗を腕でふいた。
少しかいと突っ込んではいけない。
横で、「手袋お代えいたします」とロミアが手袋の交換をしていた。
ロミアに「手袋の交換以外、何もしてないよね!」とツッコみたかったが、心の内でしまっておいた。
「よく倒せたなぁー、すげぇーことだぞ、まじで」
アッシュがにこやかに笑う。
原作知識があるとは言え、協力プレイがあったらスムーズにいったと言える。
「ありがとな、ボロボドス、って、どうしたんだ、泣いて」
「違うんだ、おぐっ!」
前世の俺はいても生きている価値を感じなかったんだ。
自分が尊敬している大好きな人に頼られると泣きたくなるほど嬉しい。
人の役に立つってこんなに幸せなんて知らなかった。
「いやっ、人に感謝されるのがこんなにも嬉しいって知らなくてさ」
「そっか。お前苦労してるもんな」
アッシュに撫でてもらえる。
俺は憧れた人に感謝される、こんなにも。
見てるか、ボロボドス。
勇者アッシュの笑顔だぞ、お前は感謝されているんだぞ。
ボロボドス、俺はお前の本当の夢を叶えたぞ。
アッシュがニコニコと笑った。
「お前がいなかったらまじヤバかったわ、本当に助かったぜ?」
「あんなのに強いのに、変な奴ね。本当あんた、いろいろ変わったわね」
エリーナにそんなことを言われた。
「人として当たり前のことを今更やってるつもりでな、取り返しつかないかもだけど」
前世でできなかったことをやりたいだけだ。
「別に当たり前なことではないわよっ!」
エリーナは叫んだ。
アッシュは嬉しそうに笑う。
「言ったろー、ボロボドスはいいやつなんだよ」
「今回の功労者はエリーナだろ」
「ふんっ」
エリーナはそっぽを向いた。
「勘違いしないでよね、別に魔法がうまくいったのあんたのおかげなんてちっとも思ってないから」
「そ、そ、そうだね、エリーナの努力のおかげだね、怒らせてごめん」
あんなに頑張ったのに好感度また下がったのかよ!
まじやばい。
何がまずかったんだ。
「い、い、いやっ、あのっ」
なぜかエリーナが慌てる。
「悪い、こんな見た目だし。嫌だよなぁ、機嫌損ねるようなことして」
すると、「そうじゃないわよ」と言って、エリーナはしゅんとした。
「エリーナにお詫びしたくてさ、せっかく湖にでもきたし、星空でも見ようぜ」
「何もないじゃない」
あ、場違いなことをいっちまったのか。
「そうでもないさ」
ぱちんっ。
「魔覚醒『幻覚空間 星空』」
幻覚魔法で星を見せる。
メアに見せたやつと同じだ。
「レイククラーケン倒せて、こうやってゆったりできるのはみんなのおかげだよ、ありがとう」
倒し方知ってても俺1人じゃあ最速クリアとか楽に倒すのはきついからね。
ミラ姫は綺麗なお辞儀を見せる。
「こちらこそです、感謝してます、あなたのおかげです、ボロボドス様」
アッシュは親指を立てた。
「さすがだぜ、ボロボドス」
エリーナだけはそっぽを向いていた。
「エリーナ、これじゃダメかなぁ? 所詮夢でも星は見てて気持ちいいでしょ」
「気持ちいいなんて、何言ってんのよ、バカっ」
エリーナが顔を赤らめてる。
これは素直じゃないだけで星空に喜んでもらえてるだけだな。
「魔法使えるようになって良かったね、エリーナ大活躍だったね」
「ありがと、あんたのアドバイスのおかげでもあるわ、なんかやたら自分の顔嫌ってるけど、どうでもいいわ」
「そうなの?」
少しぐらいは仲良くなれたかな?
「感謝ぐらいは今回だけはしておいてあげるわ」
ミラ姫は近くで笑っていた。
「むっつりですねぇ、これはこれは」
「そうか、ボロボドスの良さにやっと気付いたかぁー、見た目じゃなくて心だって。本当友達になるまで長かった」
アッシュもうんうんとうなづいていた。
ここまでやっとけば極端に憎まれることもないかなぉー。
それにしても胸本当でかいなぁ。
「胸ばっか見んじゃないわよー、バカっー!
間違ってた。
さっきのは怒ってたのか。
調子に乗って勘違いしてたわぁー。
「ふふっ、もう素直じゃないんだから」
ミラ姫が横で笑っていた。
エリーナが好きなことがよく伝わってくる。
それより、早く謝んないと。
「胸でっかなんて、思ってないから」
「この変態ーっ!」
しまったー、俺のエロ心がぁー。
もっと好かれるようにがんばないと。
※
エリーナとアッシュは影で笑っていた。
「エリーナは本当に照れ屋さんですね」
近くでミラ姫はくすくすと笑っていた。
今日1番楽しそうだった。
「今回1番活躍したのはボロボドス様なのになんであんなに謙虚なんでしょう?」
「本当に強いからさ、最強と言った方がいいか?」
アッシュは笑う。
「エリーナもそこは分かってるだろ」
ミラ姫は首を傾げる。
「魔覚醒もできちゃうぐらい本当凄いんですよ。もしかして、アッシュ様より勇者に相応しいかもですよ? 慌てませんか?」
アッシュはすごく嬉しそうに笑う。
「最後に勝つのは俺さ、本気のあいつと戦って勝てばいいだけさ」
ミラ姫はアッシュはやはり勇者だと納得した。
それでも、最強候補はボロボドスだけどねとアッシュにはバレないように笑った。
ちなみにこの頃、ボロボドスはエリーナに胸にぽかぽかと叩かれていた。
アッシュはそんなエリーナを見て思う。
自分だったら風で飛ばさせるところだ。
自分と違って、エリーナに風を吹き飛ばされないし、ミラ姫に殴られないボロボドスは本音ではめちゃくちゃ羨ましかった。
王国最強クラスのジェイデンさん、魔法の天才メアもボロボドスを絶賛している。
そんなことは風の噂で知っていた。
ボロボドスは最強なのに加えて、人望もある。
目指すべき手本がこんなにも身近にあるのがただ嬉しくてたまらなかった。