主人公ガチ恋勢、悪役転生する〜TSしてでも勇者と結婚したいからバグを悪用しよう。メインヒロインなんかに渡すもんか! 作:丸尾裕作
「どうせだめですよね」
私は理想を描いても、現実をつい見つめすぎてしまうところがある。
どうやったらできるだろうか。
スラロスがぴょんぴょん跳ねている。
「かわいい」
私はスラロスを優しくなでる。
すると、スラロスが私の胸元に飛び込んできた。
ぐりぐりと私に体を押し付けてくる。
どうやら、私に協力したいらしい。
スラロスとクッキーをボロボドス様に作ろう。
なんとなくそれが一番いいような気がする。
※
「ボロボドス様、クッキーですよー」
私はできるだけ一生懸命笑顔を作りながら、スライム型のクッキーが乗った皿をボロボドス様に差し出す。
ボロボドス様はそれを受け取り、すんすんとにおいをかいでみる。
焼きたてなので、嗅ごうとしなくても甘い香りが私の鼻にも入ってくる。
「スラロスと一緒に作りましたよぉ、愛情たっぷりです」
片目でウィンクをしながら、両手でハートマークを作ってみる。
女の子アピールだ。
報われるか分からないけど、少しでも意識してもらいたい私のささやかな努力だ。
恥ずかしいですけれど。
「おお、ありがとう、食べさせてもらうよ」
ボロボドス様は嬉しそうに笑ってから、ひょいっと口にクッキーを放り込み、もしゃもしゃと噛み始める。
「噛めば噛むほど、癖になる味がするな、 うーん、ぐにゅぐににゅしつつ、なんだかゼリーみたいな触感が…一応うまいな、何でできてるんだ?」
顔をしかめるボロボドス様。
「スラロスです」
「ごふっ!」
ボロボドス様はクッキーを一部吹き出してしまった。
なんだか余裕そうなボロボドス様が慌ていて、可愛いです。
こういう姿を見ると、胸がきゅんきゅんします。
私って悪い子なんでしょうか?
「今日もアリシアはアリシアだな」
苦虫をつぶしたようなボロボドス様が自分が汚した床を掃除し始めていた。
顔は悪そうなのに本当にいい人です。
この人にはついいたずら、いや、甘えたくなっちゃうのだろう。
「スラロスも手伝ってくれたんですよ」
そう言うと、ボロボドス様は手をびくびくと震わせながらもクッキーを全部食べてくださった。
罰が悪そうな顔をしているボロボドス様を見ているのが楽しかった。
言い訳するなら、甘えろといったのはボロボドス様だ。
やっぱり私は悪い子だ。
「そういえば、スラロスって性別あるのか?」
「女の子みたいですよ」
「えっ、もしかして、スラロスが人間化したら俺になつくってこと? アッシュルートをつぶされたくないからちょっと困るんだけどなぁ」
ボロボドス様は顎に手を当てて、ぶつぶつ言い始めた。
またアッシュ様のこと考えてる。
私のことをちっとも考えてくれないんですから。
別に慣れっこですけど。
「どうして、口をとがらせて? なんか気に触ることをいったか?」
「いいえ」
私は努めて笑顔を作る。
すねているってばれて、器の小さい女の子って思われたくない。
「なんか笑顔が怖いんだが。そういや、どうやって作ったんだ?」
ボロボドス様は後ずさりをしている。
「まずクッキープレートにスラロスが飛び込みます」
「うんっ、ちょっとよくわかんないけど続けて」
「スラロスに水分を含ませて、ぷくぷくに膨れたら、スラロスが体を切り離します」
ボロボドス様はまた唸り始めた。
「たこやきみたいな感じだろうか。原作にはない設定だわ、なんなんだそれ」
どうやらわかってくれたみたいだ。
やっぱりボロボドス様は理解が早い。
「あとは焼けば完成です」
「肝心のクッキーの成分はどこにいった?」
ボロボドス様は首を90度ぐらいかしげている。
「スラロスはボロボドス様に食べられたいと言ってます」
「ねぇ? スラロスにいったい何があったの?」
ボロボドス様は納得していなさそうだった。
一方、スラロスは嬉しそうに跳ねていた。
自分がパパの役に立ててうれしいと喜んでいるみたい。
びちびち。
窓に何かが張り付いた音がした。
ボロボドス様は恐る恐る、そちらを見ると窓に赤いスライムがびっちり張り付いていた。
「ぎゃああああああああああああああ!」
「そういえば、スライムフェロモンが入ってるんでした」
「早く言えって!」
ボロボドス様が慌ててる。
可愛いです。
「私特性のスライムを惚れられる薬も少ししか入ってません!」
「入ってるじゃねぇか!」
ボロボドス様、渾身のツッコミ。
面白いです。
あと、やっぱり可愛いです。
ローズグランの仕込んだ赤いスライムがおびただしい数でいた。
やっぱり来ましたか。
その瞬間だった。
ぷるぷる。
ぷるぷるぷる。
「窓が危ない、逃げるぞ」
窓から
ぴょんぴょん。
赤いスライムが増えていく。
一匹、二匹、どんどん分裂していく。
「これスライムが指数関数式に増えていくと大変だよな」
廊下、庭、城の壁。
見える範囲のスライムでびっちり埋まっていた。
それに全部こっちを向いている。
目がないのになぜかわかった。
「こわあああああああああああああああああい」
「大人気ですね、ボロボドス様」
赤いスライムがボロボドス様めがけて一直線で集まってくる。
「俺じゃなくてスライムフェロモンのせいだろ!」
「今や、スラロスはスライムの世界で一番モテますからね」
「何があったんだ! スラロス!」
その中でも一匹だけ必死に向かってきた。
スラロスだった。
「どうしたんですか? スラロス、ふんふん」
「なんか役に立ちそうなことを言ってるか?」
「ご主人様は渡さないだそうです。え? まだ何か?」
「状況考えて!」
ボロボドス様はそう言ってため息をついた。
一方、スラロスは体を伸び縮みをさせて、プレゼンを続ける。
「人間になったらご主人様と結婚したいみたいです」
「おまえ、人間にならないような、ならないよな?」
ボロボドス様はおろおろしていて、可愛いかった。
「スラロス、可愛いですぅー」
「呑気か!」
私はスラロスを胸元で抱きしめる。
むぎゅううううう。
スラロスは体をびよーんと伸ばした。
逃げようとしている。
ぷぎゅ、ぷぎゅ。
変な擬音が発生している。
「嫌がってるぞ!」
「照れているだけですよね、スラロス! とはいえ、いくらあなたでも一番大切なものは渡しませんよ、ふふふ」
私はスラロスを顔をうずめた。
「すーっ」
「何してんの?」
すごく落ち着く。
ボロボドス様の声が聞こえたので、一瞬スラロスから顔を離した。
「スライムをかいでます」
「スライム吸い! 今やってる場合か!」
エリーナがやってきた。
「どうしたの?」
「アッシュの写真を撮ってたわ」
「助けろよ!」
ボロボドス様がエリーナを軽くしかると、エリーナはちろりとベロを出す。
「面白いんだもの、私はミラに伝えてくるわね」
エリーナはミラのもとへ走りに行っていた。
「助けに行こう! 別にアッシュがかわいそうな目に合ってるのを見たいわけじゃないなっ!」
ボロボドス様が走り出したので、私も走りだす。
すると、少し嫌なことを思い出した。
「何か悩んでるのか?」
ボロボドス様が声をかけてくださった。
「さすがボロボドス様。バレちゃってましたか」
「顔に書いてあるからな」
あーあ、さすがボロボドス様。敵わないなぁ。
「忘れてるかもしれませんけどこれでも私は聖女ですから」
私はできるだけ小さく呟いた。
聖女ゆえの責任感がいつも心にあった。
「スラロスとの幸せの家庭を築きたい気持ちは強くなるばかりなんですけど」
「いいことじゃないか」
「余計に自分の理想なんて無理なんじゃないかと思うことがあるんです」
ボロボドス様の足が止まる。
「めっちゃわかる。理想と現実のギャップに悩むのはRTAプレイヤーの性だ。それでも挑戦するしかない。理想が高くて、現実はガバばかりで辛く辛く遠い道でしかない。それでもそんな理想を追い求めしまう自分に嘘をつかない。そんなくだらない夢を見るなんて馬鹿じゃないかと自己否定したくなることもある、うんうんって悪い………俺の話だ」
「いいですよ。よくわかりませんでしたけど」
ボロボドス様が「だよなぁ」と苦笑する。
私のそのお姿にも胸がまたキュンとした。
ずるいぐらいに可愛い人だ。
「私のわがままのせいで困る人が増えたらどうしようって」
私は自分がやってることが型破りで、常識はずれでかなりふざけていることしかないと実は内心思っています。
「聖女として人を幸せにしたい気持ちは本当なんですが、考えれば考えるほど自分のことが嫌になりまして」
「そうか、答えは出ないよなぁ、俺と違って、アッシュなら答えを簡単に出してくれるけどな」
話していると、いつの間にか、アッシュ様の元にたどり着いた。
「いやーん」
アッシュ様がスライム攻めをされていた。
「もうアッシュ様ー!」
私はアッシュ様の元に駆け寄り、引っ張ってベリベリとスライムを引き剥がした。
「ありがとぉ〜、アリシア」
「服が溶けてますよ」
私はアッシュ様をスライムたちから引きはがした。
「いやーん、恥ずかしー」
「ボロボドス様、見ちゃだめですよぉー」
ボロボドス様は両手で目を覆っていたが、隙間から少しだけ見ていた。
案外エッチな人だ。
「赤いスライムってことは………」
「ローズグランの仕業だろうなぁ」
ボロボドス様がぽつりつぶやいた。
先の方向を見て、ボロボドス様が何か気づいたようだ。
「校庭が大変っぽい」
「スライムに詳しいのは私です。私が頑張らないと」
「思ったことをすぐやってみる、それぐらいの方がたぶんアリシアにちょうどいいぜ、アッシュならいいこと教えてくれるから」
ボロボドス様は私の目をまっすぐ見て、そんなことを伝えてきた。
「はい!」
私の心の中にポカポカした温かい気持ちが芽生えてきた。
なんか行けそうな気がする。
謎の自信もわいて生きて、魔覚醒もできるかもしれないと思う私だった。