ロボゲー世界でロボに乗りたいので色々と画策してみる。 作:裁縫セット
後にその地を世界有数の機械産業都市へと変えた――かつて『悪徳令嬢』と蔑まれた少女は、その少年についてこう語った。
「彼?果てしないほどのロボットバカですわ。」
後に世界へその名を刻むこととなる英雄――比類なき剣の腕前と膨大な魔力、そして誰も及ばぬ操縦技術を持った男は、その少年についてこう語っている。
「ロボットに関することなら、彼に勝てる人間は、しばらく現れないだろう。」
歴史の転換点には、いつも一人の少年がいた。誰よりも『ロボット』を愛した少年。思えば、巨大な鋼の鎧を"ロボット"と呼んだのも、彼が最初だったのかもしれない。
心・技・体――その三つを一つに重ねた者だけが操れる、全高十メートルを超える鋼鉄の鎧。魔力を炉心に、無数の歯車を噛み合わせて動くその兵器は、巨大な剣で竜さえ断ち斬る。
人々はそれを『鎧』と呼び、だが、一人の少年だけは違った。
「やっぱかっけぇな……ロボットって奴は。」
彼自身も放った不意のひと言……その一言から始まり、あらゆる手段を使って世界中へ『ロボット』という存在を広め、そして誰よりもその可能性を信じ続けた男。
これは、そんな少年の物語である。
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『エンシェント・メタリカ』。
ファンタジーロボットアクションゲームを謳って発売された本作だが、その出来は、お世辞にも万人へ勧められるものではなかった。
最大の問題点は、ロボットに乗れるまでが、とにかく長い。ロボットゲームなのに、プレイヤーが最初にやることは生身で剣を振り、魔法を覚え、人間関係を築き、延々とストーリーを進めること。
「リアリティを追求しました。」
開発陣はそう語っていたが、プレイヤーからすれば「そんなことより早くロボットに乗せろ」である。しかもその間に用意されているのは、妙に作り込まれたストーリー分岐。
攻略対象と見紛うほど魅力的なヒロインたち、破滅フラグを抱えた悪役令嬢、王道ファンタジーさながらの世界観……ロボットゲームとは思えないほど寄り道が多く、気付けば半ばロボットがメインなのかファンタジーがメインなのか分からないような様相を呈していた。
もちろん、ようやくロボットへ乗れたからといって、そこで終わりではない。
今度は巨大兵器ならではの重量感ある操作が待っている。
生身の軽快なアクションに慣れ切ったプレイヤーほど、その独特な挙動に苦戦し、そこで脱落する者も少なくなかった。
カスタマイズ要素や機体設計の自由度は高く、決してクソゲーではない。
ただ――色々と惜しい。
そんなゲームだった。
そんなエンシェント・メタリカの世界に転生したのが俺……今世での名前は『アキ・ハグル』である。
生まれは『ニムベス領』と呼ばれる……所謂悪役令嬢の治める領地の生まれで、メカ屋、要するに機械の修理屋をやっている。
この世界はモンスターや魔法が当たり前に存在している世界観でありながら同時に機械も存在している……
まぁ、魔法といっても現代で言う電気とかが魔力なんてものに置き換わった位だし、あとなぜかなんちゃって中世ヨーロッパふうな街並みなだけである。
俺はそんな世界で今日も今日とて親父の仕事の手伝い……というよりも一階の工房で個別修行だ。
……古い時計のギアとギアを噛ませてオイルを塗り滑りを良くする。目がショボショボとブレてくると目を数度閉じては開き視界を安定させる。
歯車一枚噛み合わないだけで時計は狂う。オイルを一滴多く差しただけでも動きは鈍る。巨大な機械も、小さな機械も、結局は積み重ねだ。
「よし……」
最後のネジを締めると、改めてさっきまで止まっていた時計は、まるで何事もなかったかのように時を刻み始めた。
「うん、悪くねぇ。」
思わず笑みが零れる。前世でもプラモデルや細かい作業は好きだったが、実際に工具を握って機械を直すなんて経験はなかった。
だが、この世界では違う……生まれてこの方機械の、ロボットのことばかりを考えている。魔力で動く機械も、歯車で動く機械も、結局は機械だ。
仕組みが分かれば面白い。構造を理解すればもっと面白い。そして、それが巨大になればなるほど熱が入りやりごたえがあふれてくる。
「次。」
今度は魔力ランプ……まぁ、簡単に言うと電球のなかに入ったランプみたいなものだ。
俺は内部の魔石を取り出し、魔力伝導管を掃除する。
この世界の技術は面白い……特別な蒸気機関があるわけじゃない。電気があるわけでもない。
魔力を流して機械を動かしている。
だからと言って魔法だけの世界でもない。歯車は歯車だし、軸受けは軸受けだし、伝達機構もちゃんと存在する。魔法だけではどうにもならない部分を、機械が補っている。
そして、その究極系がロボットである……この世界では他に形容するすべがないのか鎧そう、呼ばれている巨大な人型ロボットである。
今日も2階にある俺の部屋からはでっかい領主様の家の庭にロボットが並んでいるのが見える。あの光景は何度見ても良いものだ……
ここがゲーム本編で圧政に苦しんでいるニムベス領なのも忘れてしまうほどに、俺の日常は平和だった。
朝になれば市場が開き、鍛冶屋からは鉄を打つ音が響く。
商人は荷車を引き、子供たちは走り回り、親父は今日も俺をこき使う。
少なくとも今の俺には、地獄の領地なんて印象は欠片もない。
……まぁ、それも当然か。
ゲームで語られていたニムベス領の悪評は、領民を虐げる暴君というよりも、異常なまでに厳しい統制によるものだった。
税は高い。
いや、正確にはより取り上げられているのは機械税とでも呼ぶべきか。歯車一つ、魔石一つにまで管理番号が振られ、大型機械を製造・所有するには領主への届け出が必要。
許可なく軍用規格の部品を扱えば没収。設計図の持ち出しは禁止。技術者の流出も認められない。職人からすればたまったものではない。
「何を作るにもお役所仕事だ。」
「領主は俺たちを信用していない。」
酒場ではそんな職人達の愚痴が毎晩のように飛び交っていた。
だからこそ、人々は彼女……この領地の令嬢。アルカ・ニムベスを『悪徳令嬢』と陰で呼ぶ。その父のハクア・ニムベスなんて『外道領主』なんてひっでで呼ばれ方だ。まぁ、言いたいだけな側面もあるだろうが……
もっとも……ゲームを知っている俺は、その理由も知っている。
ニムベス領は、この国でも随一の機械技術を持つ土地だ。
だからこそ狙われるのだ……他領からの産業スパイ、他国の工作員、盗賊団による部品の強奪。
ゲーム本編でも、序盤からそんなイベントが山ほどあった。
つまり領主らの政策は、領民を苦しめるためではなく、技術を守るための鎖だった。
……もちろん、やり過ぎなのは間違いない。
反発されても押し通すし、領民よりも技術を融通させている……確かに見方によっては悪役領主と言われても仕方がないだろう。本編でもいろいろあってそのあたりを解消したことで領地がより発展するルートもある。
勿論、領主達をただ落ちぶれさすだけなら何の解決にもならないのでノーマルエンド……徐々に衰退することが示唆されての終わりだ……いやこんな所作り込むなよロボットゲームとしての部分なんとかしろや!!
まぁ、そんなわけで。
ゲームの知識がある俺からすれば、この領地は「悪役の本拠地」というより「もったいない領地」という印象の方が強い。
技術はある。職人もいる。資源にも恵まれている。
なのに、人も物も縛り過ぎて自分で自分の首を絞めている。
ゲーム中でも何度「そこは素直に説明しろよ!」と思ったことか。
……まぁ、それも俺には関係のない話だ……どうにかしようにもやれることと言ったら酒場出口を聞いてやるか、デモ隊組んで領主に突撃して縛り首になるくらい。
俺は勇者でもなければ、世界を救う主人公でもない。悪役令嬢を改心させる攻略対象でもない。
俺の目的は一つ。ロボットに乗ること。
それだけだ。そのために今は腕を磨く。
修理技術でも、機械の知識でも、魔力制御でも、何でもいい。ロボットに繋がるなら全部身につける。逆に繋がらないなら、今はまだ身につける気はない。
「アキ。」
店の奥から親父の声が飛んできた。
「はいはい。」
「ランプ終わったなら次はそっちの蓄魔器だ。」
「了解。」
棚の上に置かれた円筒状の蓄魔器を持ち上げる。
魔力を蓄えるための装置で、言ってしまえばこの世界のバッテリーだ。外殻を開き、魔石を取り外す。
「……あー、なるほど。」
魔力伝導板に細かい傷。魔石も少し劣化している……けど、こっちはまだ新しいし問題は伝導版のほうだな。これじゃ効率が落ちるわけだ。
「親父ー。」
「何だ。」
「これ伝導板だけ交換した方がいい。」
「理由は。」
「魔石はまだ使える。板だけ傷んでる。」
親父は俺の手元を覗き込み、
「……正解。」
と短く頷いた。
相変わらず褒め方が淡白である。
だが、職人の世界じゃ「正解」の一言が十分な評価なのも知っている。だから少しだけ嬉しい。
そんな時だった。
カラン、と店先のベルが鳴る。
「失礼します。」
入ってきたのは見慣れたライルという青年だった。
領内の配達を請け負っている郵便屋で、工房にもよく顔を出す。
「あれ、ライルさん。」
「よう、アキ坊。」
軽く手を上げて笑うライルさんだったが、今日は様子が少し違った。やけに姿勢がいい。それに、両手で大事そうに一通の封筒を抱えている。
「ハグル工房のご主人はいらっしゃいますか?」
「俺ならここだ。」
親父が作業場から姿を現す。
ライルさんはすぐに封筒を差し出した。
「領主館からのお届け物です。」
「領主館?」
思わず聞き返してしまう…………だって、うちみたいな町工場に領主館から?普通はない、むしろその圧政でみんな技術屋が文句をたれているのにだ……親父も少しだけ眉を動かしていた。
「確かに受け取った。」
封筒は厚手の上質な紙。封蝋には、歯車と剣を組み合わせたニムベス家の紋章が刻まれている。間違いなく本物だ。
「……珍しいな。」
親父が呟きながら封を切る。俺も自然と横から覗き込む。数行ほど目を通した親父は、小さく息を吐いた。
「アキ。」
「ん?」
「お前も来い。」
「へ?」
「指名だ。」
「……俺が?」
意味が分からない。
まだ十五歳そこそこの見習い職人だぞ?
そんな俺を領主館が指名する理由なんて、一つも思い当たらない。
親父は書状を俺へ差し出す。
そこには丁寧な筆致で、こう記されていた。
『ハグル工房当主ならびにご子息アキ・ハグル殿へ。
貴工房の技術を見込み、修理ならびに技術的助言を願いたく存じます。つきましては、都合の良い日にニムベス家へお越しください。――アルカ・ニムベス』
……は?
アルカ・ニムベス。
ゲーム本編で主人公たちの前に立ちはだかる悪役令嬢。その本人から、うちの工房へ依頼状が届いた……当然、領主の、館にはヨロイが、ロボットが居るだろう。
…………これは上手く取り入ればロボットいじれるチャンスなのでは……!?俺は渋い顔をする親父とは裏腹に内心ハイテンションで事に臨む気満々なのであった。