ロボゲー世界でロボに乗りたいので色々と画策してみる。 作:裁縫セット
俺たちの依頼内容は、このロボット――レーヴァテインの修復だった。ゲームでは主人公の機体として活躍し、数々の強敵を打ち倒していく名機。
そんな機体を、この時代、この状態で目の前にできる。
それだけで胸が高鳴る。
もちろん、領主側からしても理由は明確だ。
この機体が動けば、それだけで技術革新に繋がる。
失われた古代技術の復元、新たな機械技術への応用。
領地の象徴として民へ示すこともできる動く遺産。
それだけの価値が、このレーヴァテインにはあった。
そして俺にとってもまた、これを直すことができれば、ニムベス家へ恩を売れる。領内最高の技術者集団との繋がりができる。
もっとロボットを見られる。
もっとロボットを触れる。
もっとロボットを知れる。
……最後の方は完全に私欲だが。
ともかく、やるしかない。
そう思っていた。
――だが。
「……分からん。」
親父が、ぽつりと呟いた。
レーヴァテインの胸部装甲を開き、内部機構を露出させてから既に半日。
俺たちは工具を片手に、内部を隅々まで調べ続けていた。
魔力伝導管から歯車機構に駆動軸コアとなる魔石にその制御盤。どれもヨロイ……ほかの作業用ロボットと比べても即ちロボットに見たことがある。
……ように見える。
しかし、そのどれもが決定的に違う。
「この歯車……噛み合ってないぞ。」
「いや、噛み合ってる。」
「どう見ても浮いてるだろ。」
「なのに回転した跡がある。」
意味が分からない。
物理法則を無視している訳じゃない。
だが、俺の知っている機械工学の知識から、一歩だけ先へ外れている。
「この伝導管も……。」
魔力を流す管のはずなのに、途中で何本も枝分かれしている……まるで血管のようだ。ここまでくると人体の解剖をしている気分だ。専門分野外のことをしている……という意味でも。
「なんだこれ……。」
俺は思わず頭を掻く。
ゲームじゃ『古代文明のオーパーツ』で済まされていたが、直接実際に中身を見ると、本当にオーパーツだった。
理解できない。
理解が追い付かない。
それでも……
「……親父。」
「何だ。」
「これ、多分俺たちが知ってる機械とは考え方が違う。」
親父は腕を組み
「だろうな。」
とだけ答えた。
「だったら。」
俺は近くに置かれた紙を広げる。
「分からないなら、分かる形に置き換えよう。」
「置き換える?」
「全部。」
俺は紙と筆を執って歯車を軸を伝導管を書く。
一本一本、一つ一つ。
「みた事がないなら見たことある形に直せば良いんだよ!」
「なるほどな……んじゃ、まずはこの駆動輪からだが……」
理解できないなら、知っているものへ変換する。
巨大すぎるなら小さく。複雑すぎるならより単純に。
見たことのない構造なら、知っている構造へ。
俺たちは夜になるまで、ひたすら紙へ図面を書き続けた。
途中でハクアやアルカも何度か様子を見に来たが、話しかけられても生返事しか返せない。むしろその集中っぷりに惹かれていたのではないかと思えるほどには熱中していた。口にはしないが、親父も熱中していたと思う。
だが。
「……駄目だ。」
親父が椅子へ腰を下ろす。
「今日はここまでだ。」
外はすっかり暗くなっていた。
魔力灯だけが地下工房を照らしている。
「続きは明日だ。」
「……っす。」
一応生返事はした……だが。
納得はしていない。
親父は工具を片付けるし、領主家の使用人も作業場へ布を掛け始める。
今日は終わり。
誰もがそう思っていた。
もちろん俺以外は。
(……あと少し。)
何かが引っ掛かる。
この機構はどこかで見たことがある。
いや、違う。
見たことはない。だが、"考え方"だけは知っている気がする。
「アキ。」
親父が振り返る。
「寝るぞ。部屋を用意してくれるらしい……風呂もだ。」
「……うん。」
そう答えた。
答えただけだった。
その夜。
領主家が用意してくれた客間。
親父は疲れもあって布団へ入るなり寝息を立て始める。
だが、俺の目は冴え切っていた。
頭の中では、レーヴァテインの構造が何度も何度も組み上がっては崩れていく。
歯車や魔力の伝達率に駆動軸に伝導板……どれを思い出しても興奮でタガが外れそうになる。いや、すでにタガが外れていると言ってもいいだろう。
「……寝れるかよ。」
小さく呟く。
こんな面白いロボットを……機械目の前にして、技術屋としてぐっすり眠れるほど俺は出来た人間じゃない。
静かに布団を抜け出し、工具箱を抱える。
起こさないよう扉を開けると、月明かりの差す廊下へ足を踏み出した。向かう先は一つ……地下工房。
眠ったままのレーヴァテインが、俺を待っている気がした。
―――――――――――――――――――
――アルカ・ニムベスからすれば。
ハグル親子の第一印象は、一言で済む。
変な職人達だった。
父であるナル・ハグルは、噂に違わぬ腕利きだった。
無駄口は少なく、一度機械を前にすれば視線は一切逸れない。自分が話しかけても、生返事しか返ってこないほど没頭する姿は、ある意味職人らしいと言えた。
だが。
その息子の方は、もっと変だった……レーヴァテインを見た瞬間のあの目。宝石を見つけた商人でもなく、財宝を見つけた盗賊でもない。憧れ続けた何かへ、ようやく手が届いた子供。
そんな目だった。
しかも、修理の最中もずっと楽しそうに笑っていた。
「これは何だ?」
「どうなってんだ?」
「訳がわかんねぇ……!」
普通なら理解できない構造を前にすれば嫌気が差す。
実際、王都から招いた技術者達はそうだった。
「資料がない。」
「解析不能。」
「危険だ。」
そう言い残して帰っていった。なのに、あの少年だけは違う。理解できないことを、楽しんでいる。
アルカには、それが理解できなかった。
(……唯の骨董品ですのに。)
レーヴァテインは確かに貴重な発見だ。
だが、動かない以上はただの古い鎧や置物。
歴史的価値はあっても、それだけ。
父がここまで執着する理由も、まだ腑に落ちていないくらいなのだ。
なのに。
あの少年は違う。
まるで昔から知っていた親友と再会したかのように、その機体へ話しかけるような目をしていた。
「……変わっていますわ。」
思わず独り言が漏れる。
気付けば窓の外はすっかり夜だった。
夕食も終え、自室で本を読んでいたものの、昼間の光景が何故か頭から離れない。
だから。
ただの気まぐれだった。どうせ全員寝ているだろう。
そう思いながら、地下工房へ足を向ける。
魔力灯だけがぼんやりと照らす静かな通路。
人の気配はない……はずだった。
だが、耳を澄ませば聞こえてくる
小さく金属を叩く音。
歯車が噛み合う音。
紙へ何かを書き込む音。
(……まさか。)
アルカは歩みを速める。
地下工房の扉は半分だけ開いていた。
そっと中を覗く。
そこには。
「……違う。」
床へ図面を何十枚も広げ工具を片手に、レーヴァテインの胸部へ半身を突っ込みながら、一人ぶつぶつと何かを呟くアキ・ハグルの姿があった。
「ここが血管なら。」
紙へ線を引く。
「こっちは心臓。」
魔力炉を見上げる。
「いや違う……肺か?」
また消す。
「なら駆動軸は骨……。」
また書いては眺め消しては再思考……その繰り返しだ。本人は周囲などまるで見えていない。
夜も。時間も。眠気も。全部忘れている。
「……そうか。」
ぽん、と手を打つ。
「もっと生き物と同じように考えれば……!」
そう呟くと、また猛烈な勢いで図面を書き始めた。
アルカは思わず目を瞬かせる。
(何を……。)
理解できない。
昼間から十数時間。
もうとっくに寝たと思っていたのに、休まず同じことを続けている。普通なら、とっくに諦めている。それなのに。
疲れた様子よりも、楽しそうな様子の方が強い。
まるで遊んでいる子供のようだった。
(……変な人。)
昼間もそう思った。
だが今は、少しだけ違う。
変人。
そう表現するのが、一番しっくりくる。
理解できないから投げ出すのではなく、理解できるまで考え続ける。
そんな人間を、アルカはこれまで一人も見たことがなかった。
気付けば、しばらくその背中を眺めていた。
その時だった。
「……あれ?」
アキがようやく人の気配に気付き、ゆっくりと振り返る。
そしてアルカの姿を見つけるなり、少しだけ驚いた顔をした。
「……あ。」
アキはようやくこちらに気付いた。
ほんの少しだけ気まずそうな顔をすると、工具を置いてレーヴァテインから身を乗り出して頭を掻く。
「ど、ども……。」
「……こんばんは。」
アルカも小さく会釈を返す。
地下工房には静寂が戻る。
気まずい。
昼間は修理の話しかしていなかったせいか、こうして二人きりになると何を話せばいいのか分からない。
先に口を開いたのはアルカだった。
「まだ続けていらしたのですね。」
「あー……。」
アキは苦笑いを浮かべる。
「寝ようとは思ったんだけど、どうしても気になっちゃって。」
「ですが、明日も作業がありますでしょう?」
「あります。」
「でしたら休まれた方が。」
「そうなんだけどさ。」
そう言うとアキはレーヴァテインを見上げた。
「俺こういうの気になったまま寝るの無理なんだよな。」
その言葉に、アルカは首を傾げる。
「そんなにも拘る理由があるのですか?」
「ある。」
即答だった。
迷いもなく。
一切考えず。
「好きだから。」
あまりにも単純な答えだった
「……好き?」
「うん。」
アキはレーヴァテインの脚をぽん、と軽く叩く。
「ロボットが。」
「……ろぼっと?」
アルカにとっては聞き慣れない単語だった。
「あ。」
アキは不味いこと言ったと言わんばかりに口元を押さえる。
「あー……いや、その。」
隠し事をするように少し照れ臭そうに笑う。
「俺が勝手にそう呼んでるだけ。この鎧のこと。」
「鎧を……ロボット。」
「うん。」
アルカはその単語を小さく繰り返す。
ろぼっと。
妙な響きだった。
だが、不思議としっくり来ないわけではないではない。
「何故、そのような呼び方を?」
「何となく。」
アキは笑う。
「鎧って言うと、人が着るものって感じがするだろ?」
「そうですわね。」
「でも、こいつは違う。」
レーヴァテインを見上げるその目は、昼間と同じだった。
「剣でもない。鎧でもない。道具でもない。」
「もっと……こう。」
言葉を探すように頭を回転させるが……いまいち思いつかなかったのか諦め気味に空を見上げて呟く。
「兎に角俺にとっては、それくらい特別なんだ。」
「特別、ですか?」
アルカには理解できなかった。
機械は機械。便利な道具。兵器。
それ以上でも以下でもない……だから聞いてしまう。そんな、機械に愛を注げる人間の言葉を。
「そこまで好きになれるものがあるのですね。」
「アルカ様はないんですか?」
「え?」
「何でもいいですよ。好きなもの。夢中になれること。時間を忘れてやっちゃうこと。」
矢継ぎ早に聞かれ、アルカは言葉に詰まる。
「私は……。」
アルカはそっと考える。
勉学。礼儀作法。領地経営。政治。剣術。魔法。
どれも毎日取り組んでいる……だが、好きかと聞かれれば。
「……ありませんわ。」
自然と口から出た。
「全部、必要だからやっています。」
領主になるためにり父の期待に応えるために。彼女にとってはそれだけのものだった。
「そうなんだ。」
否定もしない。同情もしない。ただ一言、アルカに語りかける。
「見つかるといいな!いつか」
そうは言われてもよく分からないアルカは苦笑いもせずに軽く肩を窄めるだけだ。だが、一度しゃべりだすとこういう類いのオタクは止まらないものだ。
「失敗しても面白いし。分からなくても面白い。出来たらもっと面白い。だから、やめられない。」
そう言ってレーヴァテインへ向き直る。
「こいつも同じだ。全然分かんねぇ……だから面白い。」
その笑顔は。
昼間よりもずっと楽しそうだった。自分と同じ年ごろなのに、はるかに幼子のようで……
アルカは、その横顔から目を離せなかった。
機械……彼の言うロボットではなく、それを見つめる少年の方が、今は不思議に思えたからだ。