スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
さらに翌日……。
セラフィーナがマグルの世界からさっそく取り寄せた一流ホテルのガレットを片手に、スネイプが言った。
「それにしてもミス・ゴーント」
「はい?」
はにゃ?と擬音がつくくらい可愛らしく首を傾げたセラフィーナにスネイプは少し厳しい顔を向けて続けた。
「君は大半の教科でまともに授業を聞いていないだろう」
「あー、そんなことはぁーございませんよーぅ?……たぶん。耳は絶対に傾けてますし」
最後だけガチである。聞いてはいる。そこはほんと。
「真面目な話だ。君は授業を一切聞かなくともO.W.L.……いや、N.E.W.T.試験すら余裕で通るのではないか?」
あっはい。真面目な話ですね。
「僭越ながら……まぁ」
「故に、話を聞かず本を読み耽っているかつまらん手遊びをしていること自体を責める気はない。いや、少しは反省してもらいたいのが本音だが……
……君に面白い授業を提供できない此方が悪いと思う。教師として情けない限りである。まぁ魔法薬学の授業は割と真面目に楽しそうに取り組んでくれているようであるし、気が向けば周りの生徒に教えているというのも見聞きする。故に、どの教授も君を叱ったりはせず、代わりに積極的な加点もしないという暗黙の了解があるのだが」
ここで言葉を切って紅茶で口を湿らせた。
「それはそれとして、思いつきで手当たり次第に本を読む程度では退屈だろう。何かテーマを決めて研究をしてみてはどうだ。研究テーマに関係する科目に取り組んでいる間はつまらん課題は基本的に免除し、授業中も空気を乱さない程度に好きにして良いという言質も教授会で取ってきた。どうだ、やらんか?
……というか、ここまでお膳立てしてやったのだ、やれ」
そんな提案にセラフィーナは目を丸くした。
「その、ありがとう存じます……」
「いきなりはさすがに思いつかんだろうから図書館にでも行ってこい」
スネイプはしっしっ、と払う仕草をし、セラフィーナはお茶を飲み干すと研究室を辞した。
◆ ◇ ◆
地下教室を追い出され、セラフィーナは図書館で羊皮紙を前にして悩んでいた。
今まで一切研究という活動をしたことがなかった、というわけではないが、今までの勉強は比較的、覚えたり理解したり技能を高めたり理屈を繋ぎ合わせる、といった類のものが多かった。なのでパッと言われて"これを研究したい!"というものはなく、思考の海を漂流していた。
(えーーー、なにをしようかしら……)
◆ ◇ ◆
翌日。
とある有名ビスキュイ専門店のフィナンシェを頬張りながらセラフィーナは切り出した。
「研究テーマは"魂と魔法の相互作用の定式化"にしたいと思うのですが」
スネイプは噎せた。
「馬鹿か?そんなもの、闇の魔術ど真ん中ではないか。退学になりたいのかそうか、私から校長に進言しておこうか」
セラフィーナは顔色ひとつ変えずにハンカチを取り出して続けた。
「もう、冗談ですわよ?"したいと思う"だけですので。こちらが本命です。色々思いついたもののここから絞れずご相談申し上げたく……」
と、羊皮紙を差し出した。
「どれ……まずは……」
i) 魔力の効率的な収束と拡散の研究
→ 魔力の浪費を抑え効率よく魔法を行使する方法の模索
「これができたら呪文学は飛躍的に進歩するな。物騒だが」
ii) 呪文構築における古代言語の役割の再整理
→ 呪文に使われる言語が持つ構造的意味と、新しい呪文体系への発展可能性の探究(せらめも:あんな呪文やこんな呪文(自主規制)も開発し放題!)
「私も学生の頃かじったが、やめろ……。誰にも読ませられない禁書が増えるだけだ……」
iii) 多層結界の安定化に関する数理的解析
→ 高度な防御魔法で用いられる魔法障壁の調和と持続性についての研究(せらめも:最終目標としては死の呪いを破り、許されざる呪文を解禁……)
「途中まではいいのだが……、最後のは本気でやめろ」
iv) 時空魔法の副作用に関する実験的検証
→ 時空操作の際に生じる予期せぬ効果を観測し、制御するための理論フレームワークを構築
「こんなもの世に出したら一生神秘部に監禁されるぞ!?」
v) 魔力の物質化プロセスとその限界について
→ 魔法エネルギーを物質として固定化する実験と課題の洗い出し(せらめも:魔力を外に蓄えることができたらとてつもなく巨大な魔法現象を自在に発現させることができるかも!)
「やめろ、君が本気になったら最終的に世界が滅ぶ気がする」
vi) 魔法植物同士の相互作用と成長促進の条件
→ 魔法植物同士の共生・競争関係を明らかにし、成長を最大化する条件を探る
「他と比べると地味に見えるが面白い。魔法薬の研究家としてもこれは素直にありがたい」
vii) 遺伝子組み換え魔法植物・動物の検証とその限界について
→ 標題の通り。(せらめも:超巨大マンドレイクとかそそりません!?)
「遺伝子組み換えとはわからぬが、そこはかとなく嫌な予感がする。というかマンドレイクの巨大化はやめろ。そそらぬ」
viii) 自動修復魔道具の仕組みとその発展可能性について
→ 自動的に修復を行う魔道具の動作原理を経験論ではなく科学的に解明する(せらめも:ホグワーツを魔改造できるかも!)
「趣旨は理解できるが、やめろ、本気でやめろ」
ix) 魔法の鏡の情報保存機能の解明と活用
→ 憂の篩などの記憶を保持する魔法具がどのような仕組みで情報を保存しているか、またどのように活用できるかを研究(せらめも:最終的には蘇りの石を再現できるかも!)
「これも神秘部案件すぎるのだが……」
x) 魔法教育のカリキュラム改革案
→ 現行の魔法教育を分析してより効果的なカリキュラムを提案する(せらめも:新しい学校作っちゃう!?)
「校長に暗殺される未来を幻視したぞ」
xi) 魔法医療の可能性と倫理的課題について
現行の癒術とは違うアプローチでマグル的な侵襲的なアプローチも含む医療と魔法の掛け合わせの可能性を模索、それに伴う社会的・倫理的な課題も解決し普及に努める
「前半は極めて興味深いが、言うに事欠いてお前が倫理を語るな!!」
はぁはぁ。
『せらめも!』というわざとらしいくらい可愛いフォントで書かれたえげつない無駄な補足に地味にイラっとする。
と同時に正気度がゴリゴリと削られてくる。
スネイプは深々と椅子に座り込み、深呼吸したあと頭痛薬に手を伸ばした。
「お前が規格外なのはよく分かった。どうしたらそんな発想がポロポロ出てくるのだ?
それで、とりあえず、神秘部案件は本気でやめろ。あそこに関わったら幾つ命があっても足りん。
6か……1を大人しくする程度にしておけ。1もな……最初の研究から風呂敷を広げすぎても大変であるし、まずはシンプルなところから、6で良いと思うぞ……」
「ご助言、ありがとう存じますわ」
一瞬で邪悪な表情になって続けた。
「ここで羊皮紙をひっくり返してくださいな⭐︎」
そこには、
† ま、現実的には6一択でしょ⭐︎ †
と書かれていた。
「私の頭痛と時間を返せ!!」
がん!
痛い、痛いですってば。本の角はないでしょう、角は。
やかましい!まず研究慣れしてないような顔するのをやめろ!!絶対昔から研究やっていただろうが!!
あ、はい!やってました!研究めっちゃすきです!
クソが!!
がん!がん!
あ、そこ凝ってたのでもっとお願いしますぅ〜
力加減してやったのになんだその言い草は!!
歩く知的災害である。