スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
フローリッシュ・アンド・ブロッツで買った本はあまりに衝撃的な内容だった。
……魔法使いはマグルから突然変異的に生まれるもので、どの魔法使いも祖先を辿れば皆マグルから生まれて来たものである……
(魔法使いは皆マグルから生まれた?では純血とは何?)
その答えは本の続きに書いてあった。
……マグルの両親から生まれた魔法使いのことを『初代』と呼ぶ。そして魔法使いを両親に持つ魔法使いは『純血』である。一方、マグルと魔法使いの混血のことを俗に『穢れた血』と呼び、蔑まれる対象である……
(父上も母上もマグルの両親を持つ魔法使いのことを穢れた血と呼んでいた。あれは間違いということ?)
……近年、『初代』のことを穢れた血と呼ぶ例が増えているが、それは誤用である……
本をひっくり返して奥付けを確認すると刊行は1951年と書いてあった。
(これは真実なの?もっと調べる必要があるわね…)
セラフィーナは家中の本を漁ったが、情報はなかなか出てこなかった。魔法界の血統に関する資料はもともと少なく、まして穢れた血という差別用語について書いてある本は皆無だった。意図的にオミットされているのか、あるいは本当にそういった本が少ないのか。
(この本に書いてあることが正しいとして、皆間違って使っている?だいぶ根本的に価値観がひっくり返るけれど……)
その答えはまだわからない。
◆ ◇ ◆
それ以外に特筆することはなかった。1ヶ月で教科書には全て目を通し、自分の知識と相違ないことは確認済みである。些か……いや、だいぶ初歩に過ぎて途中から読み飛ばし気味だったが。いや、うん、基礎は大事。それはほんとにそう。
それと、ノクターン横丁で買った本である『血塗られた呪文:闇の魔術の深淵』はなかなか興味深い内容だった。
そして本に夢中で用意は全く進んでいなかった。
前日の夜から徹夜で荷物を詰め、持っていく魔法材料と本を厳選するのにとてつもなく時間がかかったものの、なんとか朝には支度を整えることができた。できたのか?最後もはや目につくものを全部放り込んだ気がするが。整理は学校についてからでもできる。
厳選──いや、結局、"かもしれない"思考で大抵のものは詰め込んだ。可能性を狭めるのはストレス。髪が痛みそう。
「それでは行って参ります」
「楽しんできなさい。まあ気が向いたら手紙でも寄越しなさいな」
「はい、母様」
父のギャレットは家を留守にしていたので、見送りは母だけだった。普通の家族なら汽車まで送りに来るのだろうが、なんというか、今さら涙混じりに送り出すような親子でもない。せいぜい長期旅行感覚である。
セラフィーナはリビングで母に見送られつつ、姿くらましを使ってキングズ・クロス駅に飛んだ。免許がないと使ってはいけないことになっているが、
かなり早く着いてしまったがホグワーツ特急はもう入線していた。見送りと親との別れで騒がしいホームを尻目にさっさと汽車に乗り込み、コンパートメントを確保してセラフィーナは目を閉じた。徹夜で眠かったのである。
◆ ◇ ◆
コンパートメントのドアがガラガラと開く音がしてセラフィーナは目を覚ました。
「ここ、いいですか?どこもいっぱいで……」
おずおずと尋ねてきた相手は茶色の毛がふさふさ、というよりボサボサした少女だった。ちょっと前歯が出っ歯。真面目そう。
「ええ、構わないわ……あなた、新入生?」
まあ、見るからに新入生だろうと当たりをつけて問えば、上級生と勘違いしたのか、かなり緊張した返事が返ってきた。
「はい、そうです……」
「敬語は不要。私も同じ」
眠気のせいか若干口調が雑な自覚はあるが、まあいいか。
セラフィーナがそう返すと、もじもじしていたのが嘘のように少女は怒涛の勢いで喋り出した。
「あなたもそうなのね!私、初めて魔法の世界に来たの。先月家に教授が来て魔法を見せてくれたの。両親は普通の歯医者だからものすごくびっくりしたわ。私、小さい頃から不思議な力が使えてずっと隠していたんだけど、これってこっちの世界では普通のことなのね。まだわからないことばかりだけどこの世界に早く馴染めるといいなって思うわ。教科書は全部読んだわ。それだけで足りるといいんだけど……私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなたは?」
おかげで目が覚めたセラフィーナは接し方を数秒悩み────
(あの本が本当だとするとこの子は『初代』ということになる。"それはとても尊い存在である"と書いてあった。どうしましょーね。しかしあの本が正しいという確証はない。もう少し調べてからにしたいところではあるけれど……。もし普通に会話したと父上や母上が知ったら激怒するでしょうけど、アレが真実で両親が納得するだけの資料を積んだらむしろ家の方針ごと変わるし、その場合は仲良くしておいたほうが得。さて、どうしようかな)
────口を開いた。
「私はセラフィーナ・ゴーント」
「ゴーントさん、よろしく。あなたのご両親は魔法使い?」
「ええ」
「いろいろ聞いてもいいかしら。ホグワーツについてとか。あなたはどの寮に入るか決まっている?私、いろんな人に聞いて回ったけどグリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいって」
げっろ。セラフィーナは思わず顔を顰めた。
少なくとも例の本が正しいか確証が持てるまで仲を深める気は無かったのだが、つい口を挟みたくなったのは仕方ない。
「それはなんとも言えない……かな。それぞれの寮の特徴は聞いていて?」
「ええ、グリフィンドールは勇猛果敢で騎士道精神を重んじる。ハッフルパフは勤勉で謙虚、レイブンクローは知性・機知を重視しスリザリンは狡猾で野心的──って本に書いてあったわ」
ああ、"ホグワーツの歴史"の
「まぁ、そうね。言い換えるとグリフィンドールは自分の正義を振りかざして傲慢、ハッフルパフは弱気で貧乏くじ、レイブンクローは孤立主義で頭でっかち、スリザリンはまぁ貴方が言った通り。どれも良し悪しね。ちなみに私はサラザール・スリザリンの末裔だから間違いなくそこに組み分けられるでしょうね」
「スリザリン!?あそこは闇の魔法使いを輩出する寮って聞いたわ」
彼女の顔が少しこわばった。あのさ。まあいいか。
「そういう決めつけとか正義感、あなた確かにちょっと"グリフィンドール的"なところあるかもね。聞きかじった話であまり物事に先入観を持ちすぎないほうがいいと思うけれど。
ま、グリフィンドールにも──それなりに有名なところだと闇の魔法使いデリックとか、全然いるにはいるし。……というか、スリザリン側の話聞いたことある?」
「ん゛ん゛……」
ポリジュース薬を飲み干したような顔になった。しーらね。
「それ、たまに親から言われるけど、同い年に言われたのは初めてだわ……」
「失礼、私も言葉を選ばないところは自覚しているわ。……まぁ直す気はないけれど」
「……。ええと……それでスリザリン側としてはどうなのかしら」
「んー、親から聞いた話だから自分で見たわけではないけれど、個人を尊重しつつ仲間思いで社会性の高い寮と聞いているわ。身内にはとことん優しく、団結力はホグワーツ1。ただ、
ハーマイオニーはなるほど、と頷いている。案外に素直である。
ので付け加える。
「まぁ似たもの同士な短所と……、加えて、グリフィンドールの正義感に対し、スリザリンはどんな手段でも使う、という点でも水と油なのは間違いないでしょうね。目的のために手段に拘らず、力を求める野心がある、と言う面で、……でもそう考えると確かに闇の魔法使いを輩出しやすいのは事実かもねぇ。でもそれって結局個人の感性というか良心の問題だし……。」
良心とかお前が言うなオブザイヤーである。うっさいな、あるわ良心。
そして最後にもう一言。
「ま、私自身がスリザリンの末裔だし、父もそうだし、母もスリザリンだし、これまた鵜呑みにする必要はないけれどね。外から見たら嫌味っぽい寮なのは聞いただけの私でもわかることだし、貴方もわかるでしょうし」
それに対し、彼女は頷いた。
「スリザリンの良いところは聞いたことなかったわ。……だいぶ印象が変わったわ。ありがとう。まあ私とは合わなそうね」
「でしょうね」
そうとしか言いようがない。
若干気まずいかもしれない空気でしばらく沈黙。いや、意外とそうでもないか。
セラフィーナにとって少し意外なのは、案外とハーマイオニーは普通に考え込んでいるというところ。この子頭よさそう。
そしてややあった後、再びハーマイオニーはセラフィーナに話しかけた。
「ところでその本は見たことないけれどどんな本?教科書は全部読み切っちゃって……。他にもっと本を買えばよかったわ」
「これ?戦闘の実戦向きの呪文がたくさん載っているわよ。……読む?」
読む?とか言ってしまってから考えるが、──この本なら別に
そして手渡す。
「いいの?ありがとう」
二人とも性格はだいぶ違うが本の虫であることには変わりない。セラフィーナも別の本をポーチから取り出して二人は読書に熱中しはじめた。
普通に考えれば魔法使いってみんなマグルから生まれたんじゃねーの?って昔から思ってましたが、ここをいじった二次創作はあんまり見たことないんですよね。
なんか、純血家の利権とかそういう闇をすごく感j……
† 作者は粛清されました †