スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
4ヶ月弱ぶりの帰省である。
キングズ・クロス駅から家に飛んだセラフィーナは部屋に入るとそのままベッドにダイブした。
寮のベッドも十分快適ではあるが、やはり11年使ったそれとは安心感が違う。
しばらくゴロゴロしたあと、思い出したように母の部屋に向かう。
「母上、今しがた帰りました」
「あら、セラ。早かったわね、学校では良い子でいたのかしら?」
(退学になりそうだったとか言えない……)
「ええ、
「そ。結構。手紙にも書いたけれど、明日はマルフォイ家で晩餐会よ、粗相のないようになさい」
(学校から離れても結局顔合わせるのよね〜)
「はい」
話はこんなもん、とばかりに母エリスは再び机に向かった。大量の羊皮紙が散らばっている。
「母上、今日の夕食は私が作ります」
「あら、珍しいわね。楽しみにしているわ」
◆ ◇ ◆
ハウスエルフのドリーに手伝われながらセラフィーナは夕食の支度をした。いつもはドリーに任せきりなので滅多に人の手で料理することは無いが、今日は特別である。
「あなた、これはセラの手作りだそうよ。しかもあなたの好きなハンバーグ」
「ほう……」
両親ともに機嫌がいい。かつてはピリピリして厳しい言葉が飛んできていた時期もあったのでセラフィーナはつい無意識に両親のことを伺ってしまう癖があるのは自覚している。
教育上必要だったとはいえ、幼少期に膨らんだイメージというのはうっすらどこか残ってしまうものはある。何かをされた具体的な記憶より、自分の中の想像や恐怖を含んだイメージの方が圧倒的に大きいのが自分の認知の特徴……と自分でもわかっているので、まあ、引きずるものは全くないが。
「うむ、美味だな、やはりセラが作ったこれがいちばん美味い」
「ありがとうございます、父上」
言いつつワインをつぎ足す。今日はシャトー・マルゴーを選んだ。あの華やかなアロマはハンバーグによく合うはずだ。
「どういう風の吹き回しだ?」
気軽に父が問う。めったに夕食を作ることもないので、訝しむまで行かないが当然の疑問だろう。
「いえ、日頃の感謝の気持ちと久々に帰った今日くらいはと」
(退学せずに済んだお礼の気持ちとか言えないわぁ……)
「そうか、支障がなければまた作っておくれ」
「はい!」
食事を終え、紅茶の準備をしながらセラフィーナは杖を振った。
ふよふよと飛んできたのはケーキだ。
「母さまの好きなチーズケーキですっ」
「まぁ!」
ドリーに切り分けてもらっている間に茶葉を蒸らす。
「今日は素晴らしい日ね」
「全くだな」
ただただ、和やかな家族団欒であった。
◆ ◇ ◆
「ところでセラフィーナ、久々なのだ、戦いの腕前を見せてみろ」
(えぇ……ここは気持ちよく解散する流れでしょっ)
「わかりました、父上」
呪いの装身具を渡される。つけると途端にとてつもなく身体が重くなり、魔力がごっそりと封印される。そう、いつものようにデバフを掛けて戦いを挑む。……流石に設定きつすぎません?父上。まあいいけど。やるけど。
訓練用の部屋の中には閃光が飛び交い、時折悪霊の炎や怨霊の息吹と言った強力な闇魔法も出る。
「
セラフィーナが最後に無言で放った武装解除呪文はギャレットが全力で張ったプロテゴ・マキシマを貫通し、杖を弾き飛ばした。
「くっ……見事なものだ。もう外していいぞ」
(父上に勝った──!)
セラフィーナがメガネやイヤリングを外していると父は少し覇気のない声で言った。
「実はな、そのペンダントや指輪には掛けられる範囲で最大の効果を与えてある。何年もかけて徐々に強くしていたが、今日の魔力制限は30分の1といったところか」
「あ、そこまで……」
察してはいたものの、数字で言われると感覚が余計に麻痺する。
「ああ。死喰い人の中でもトップクラスだった私が全力で戦ってこのザマだ。きちんとした杖を得たというのもあるだろうが、お前は本当に、
……文字通り本当に強くなったな。これから成長期だ、どこまで伸びるのだろうな」
父は滅多にセラフィーナを褒めない。褒めたいのを押し込めて淡々と接することがほとんどであり、セラフィーナはそれを何となく察してはいたものの、ここまで直球の賞賛を受けたのは初めてである。驚きと嬉しさで言葉すら出てこなかった。
そして父は続ける。
「お前には本当に期待しているのだ。知識とて到底お前には敵うまい。
──前も言ったが、
「ありがとうございます──!」
少し、肩の力が抜けたような気がした。
そっか、
……や、前も言われたけどさ。もう、なにも怖くないや。