スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
田園風景がいつのまにか鬱蒼とした森や川に変わった頃、コンパートメントのドアが叩かれる音で二人は顔を上げた。
「セラフィーナ?セラフィーナじゃないか」
声の主はプラチナブロンドの髪をオールバックにした青白い顔の男の子だった。
ああ、出たよ。とりあえず煽る。
「あら、ドラコ、いたの!?びっくりだわ」
「いるさ!同い年だろう!?」
彼ことドラコ・マルフォイとセラフィーナは純血家の当主の子供同士として交流が深い。年数回のパーティーや、親の訪問に同伴したりもよくある。そしてセラフィーナはこの背伸びしたいのが隠せない小生意気な
「いえ、なんだろ、頬が痩せこけすぎて入学資格を満たさなったとか、顔色が
「僕をなんだと思っているんだ!」
「なんだと言われたら特になんとも」
としれっと返すと、彼はげんなりした顔で話題を逸らしにかかった。
「はーっ、もういい……で、そちらは?」
「ハーマイオニー・グレンジャーさん」
ドラコは一気に顔を曇らせて小声で言った。
「グレンジャー?聞いたことないが。もしかしてマグル生まれか?」
「そう聞いてるわ」
「セラフィーナ、君は純血主g「
ドラコが目を白黒させて口をパクパクさせるがセラフィーナはお構いなしにコンパートメントの外に彼を引っ張り出し、本を胸に押し付けて早口で言った。
「これを読んで頂戴。まだ私も半信半疑だけれど。これが真実なら彼女とは仲良くしておいてもいいかもしれないわ。少なくとも私は裏付けが取れるなり間違いだと分かるまでは保留にしておきたいと思ってる」
付箋が貼られたページを開いて指差すと徐々にドラコの目が見開かれていく。
「到底信じ難いが?」
「まだわからないと言っているでしょう。とにかく今は大人しくしていて。
……余計なこと言ったら
「ああ……」
「その本はとうぶん貸すから読んで。引き続き調べるからあなたも協力して頂戴。
この本が誤っているって分かれば距離感は改めるし、もし合っていたら色々身の振り方考えなきゃいけない、でしょう?」
「まぁ……、わ、わかった」
「とりあえずあなたは話を合わせて。迂闊なこと言ったら
と強めに言ってからセラフィーナは再びドアを開けた。
◆ ◇ ◆
「失礼したわ、彼は私の……なんだろう?知り合い?」
セラフィーナは改めてハーマイオニーに紹介を始めた。弄りは呼吸。
「普通に友人と言ってくれないのか……」
ドラコは今し方の混乱を顔に出さないようにしつつ、げんなりした顔で言った。
「まぁ、幼馴染というやつですわ。親戚でもあるわね。彼は多分この汽車の中で一番のお金持ちのボンボンよ」
いや、あたしの方が資産あるかな。まあいっか。
「そんな紹介はやめてくれ……」
ハーマイオニーもまた混乱した顔でドラコを見た。
「よろしく、ええとミスタ……」
「マルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」
彼女はつい今し方、初対面で突然内緒話を始めた二人を不審に思って問う。無理もないか。
「あの、さっきは何か……」
「いや、なんでもないんだ、その……勘違いだった」
「ふぅん……」
彼女の顔はまだ訝しげ。なのでセラフィーナはしれっと煙に巻く。
「彼がボンボンの世間知らずで変なこと言いかけたので軽くしばいただけですわ。まあお気になさらず☆」
ドラコの顔には"違うだろ!"と書いてあるが、無視。
そしてハーマイオニーは、まあいいか、と好奇心が上回っていつもの調子に戻る。
「ところでマルフォイ君のご両親は魔法使い?私、魔法の世界があるなんて今まで知らなかったの。教科書は全部読んだけれど、それで足りるか心配だわ。ああ、ホグワーツってどんなところかしら。幽霊がいるって本当?幽霊って触れるのかしら、死んだ後の記憶ってどうなるの?」
「ええと……、幽霊は……
話は尽きない。
◆ ◇ ◆
セラフィーナとドラコがハーマイオニーの質問攻めに遭っていると、さらに客が現れた。
ブロンドで丸顔、なんというかその、
「あの……ぼ、僕のトレバー、えっと、ヒキガエルを見なかった?」
「いや?見てないが」
ドラコが代表して答えた。
「一緒に探してあげましょうよ」
ハーマイオニーが本を閉じて立ち上がった。が、
「えぇ……」
セラフィーナは本から目を上げずに呟き、ドラコも
「自己責任じゃないか?」
と、いかにもだるそうに応えた。
「私は行くわ」
ハーマイオニーがコンパートメントのドアに手をかけたのを見て、とても面倒くさそうにセラフィーナは杖を振る。
「
ひょいっ、と杖を回すと数秒後にカエルが猛スピードで列車の通路を飛んできた。
ふっと杖を下ろすとカエルは減速し、ぼんやりした顔の男の子の顔にねっちょりと張り付いた。ゲコ
「あ、ありがとう!君は、えっと……」
「んー、ゴーント。はいはい、礼とかいらないいらない」
本に視線を戻し、上の空でセラフィーナは答えた。
男の子はぺこぺことおじぎをしたあとためらいながら帰っていった。
「今のなんて呪文?教科書には載っていなかったわ!」
ハーマイオニーは立ち上がったまま興奮してセラフィーナに食いついた。
セラフィーナは本をポンと閉じて答えた。
「呼び寄せ呪文ね、遠くにあるものを引き寄せることができるわ。こうやって……
ポーチから別の本がひょいっ、と飛び出した。
「確か四年生の呪文学の教科書に載っていたはずね、ええっと……」
そう言いながら本を捲り、差し出したのは『基本呪文集:グレード4』だ。
「ゴーントさん、あなたもうそんなところまで読んでいるの!?」
「ええ、まぁホグワーツの指定教科書は全部買って読んだけれど……」
「ああ、私もそうすればよかったわ!今からダイアゴン横丁に行けないかしら!」
ドラコはさっき渡された本の内容のせいで内心頭を抱えつつ、呆れた様子で口を挟んだ。
「図書館にあるんじゃないか……?」
「そうだわ!ああ、楽しみ、ホグワーツ、どんなところかしら」
「それは私も」
「ああ」
列車は湖畔を渡り、まもなく到着しようとしていた。
あ、本作では呪文の表記が一般的に知られているカタカナと違うことがあります。