スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
父ギャレットから辞令を受け取ったセラフィーナは翌日、魔法省に赴いた。事故惨事部の玄関ホールで出迎えたガウェイン・ロバーズは荒々しい顔つきで歴戦の猛者という出立ちである。
「初めまして、ロバーズ理事官」
お互いに手を差し出して固い握手をする。
「ああ、初めまして。君のことは父君からよく聞いている。
戦えば彼を30人相手にしても勝利し、書類を書かせれば明日にでも隠居できる娘だ、とね。話を盛るような方でないことは私もよく存じ上げている。実に頼もしい。
──着いてきたまえ」
案内されたのはいかにも前線の指揮所といった見た目の執務室だった。機材や資料が散らばっているが乱雑すぎない程度だ。
ロバーズは事務机とセットの椅子に雑に腰掛け、打ち合わせが始まる。
誰かの席だろうが、居ないから適当に座る、くらいの雰囲気である。セラフィーナも遠慮なく腰掛けた。
「もう辞令は受け取っているかね?」
「はい」
「結構。他の何人かはもう任務についているが──ホグワーツ生を含めた残りのメンバーはまだ書類選考や面接を行なっている最中だ。なにせ扱う内容が内容だからな。秘密保持能力は最優でなければ採用できんし、戦闘能力、知性、洞察力、あらゆる面で選び抜かれたエリートのみで構成する。時間が合えば君にも面接に出てもらうかもしれん。
基本的には皆出払っているだろうから部下以外の他のメンバーと顔を合わせることは少ないと思うが、ここで会ったら挨拶くらいはしておけ。ただし、機密保持の観点から互いに必要以上の接触はするな。
レポートラインは直通でいい。私の他に上司はいない。席は見ての通りだ、空いているテーブルを
あ、やりやすいわ、この上司。もうすき。
「背景も説明しておこう。私は元々闇祓い局の次官を務めていた。そこに大臣顧問のマルフォイ氏からお声が掛かってね、イギリス魔法界の治安維持と情報収集、諜報を行う専門組織の立ち上げが求められたのだ。闇祓い局は戦闘に特化した組織なのと、局員それぞれ独立志向が強すぎてね、捜査から執行までの統合的な動きができる組織がなかったのだよ。
大臣顧問と上級次官──君の父君だが──からは私の古巣である闇祓い局も含めた反体制主義者の徹底的な調査を行うよう命じられている。我々は情報収集を主とし、強制捜査の執行は本庁警備課、一般の魔法警察官から選抜したメンバーだが、そこが行う。もちろん緊急の案件では我々
表には私だけが顔を晒す。私が矢面だ。何かあったら私の名前を使っていい」
「理解しました」
うん、趣意書通り。ほんっとに話がわかるお方だわ。信頼できる。
「それで君の任務の内容だが、特別監視官補、つまりホグワーツ生から選抜された者の少数精鋭チームの指揮だ。具体的にはホグワーツ内部の調査を行ってもらいたい。その他、学生という身分が潜入などに活用できる状況があれば声を掛ける。捜査対象は職員生徒
ガウェインは声を落とした。
「メインは校長だ。その動向、思想と行動を詳細にレポートしてもらいたい。辞令には勝手な行動は厳禁とする、とあるが、あれは書類上の表向きだ。実際にはチームの指揮を含め
「拝命致しました」
なるほどね。ま、書類には書けんわな。
「大変結構。私は危惧しているのだ。
「ええ、あくまで推測ですが、おそらくはポッターと対面させる為に」
「それだけでもとんでもない事案だ。今、上級次官の働きかけで内乱罪や外患誘致罪といった法律の有志の検討会が設置されたところで、一部の職員はこの事態を極めて重く見ている」
あーそれあたしが起草したやつ。
「──まだ君は若いが優秀な官僚として扱っていいと聞いている。どうかこのイギリス魔法界を護るのに力を貸してくれ。期待している」
「はい。最善を尽くします」
うん、ほんとに。なんとかしなきゃだもん。
「うむ──そろそろ時間が押している。次も面接だ。このあとは警備課のメンバーと顔を合わせておきたまえ。執行の際には彼らを指揮することになる。案内しよう」
「はっ」
◆ ◇ ◆
続いて先ほどよりもずっと広い部屋に案内された。
制服を身に纏った厳つい男たちが書類と紅茶を片手に仕事を行なっている。いや、女性も少し混じっているか。
──その制服は、権威と威圧感を漂わせる漆黒のデザインで統一されていた。艶のある黒いジャケットは体にぴったりとフィットし、肩章と袖口には銀の刺繍が細やかな模様を描いている。胸元には鋭く輝くサラマンダーの徽章が飾られ、何本もの
頭部を覆う制帽には黒い布地の中央に銀色のエンブレムが鎮座し、帽章の上下には緑のラインが引かれている。黒い革のブーツと相まって、纏う雰囲気をぐっと締める。
全体的に無駄のない直線的なデザインは、制服を纏う者が秩序をもたらし、統制された存在であることを示していた。
ガウェインが入室したのを見てメンバーは全員弾かれたように立ち上がり、"気をつけ"の姿勢で敬礼し、微動だにしない。
──いいじゃん。ちゃんとしてる。
ガウェインは答礼を素早く返し、局員の手が降りると口を開いた。
「楽にしたまえ。紹介しよう、昨日付で警備企画課の情報担当特別監視官補に採用されたミス・セラフィーナ・ゴーントだ。組織上は非正規局員だが、実際的には君たちを指揮することになる。上司と思いたまえ。若いが、侮るな。推薦者の話では君たち全員が束になっても敵わないそうだ。私はすぐに別件で行かなければならないが、よく交流を深めたまえ。
──そうだな、隣の訓練室で戦ってみると良い。ゴーント、上手く掌握しろ。では」
「「「はっ」」」
ガウェインが退室すると雰囲気は適度に緩む。
一番奥に座っていた男が近づいてきてセラフィーナに握手を求めた。
「ゴーント特別監視官補、私は警備課長のビクター・アッシュクロフトです。理事官から話は伺っております。どうぞよろしくお願い致します。あとで情報と資料など共有させてください」
「よろしく、気楽に。ゴーントでいいわよ」
「では……ゴーント捜査官。担当はホグワーツを中心にと伺っております。ハイランド地方の担当を紹介します。
──エドモンド!」
「はっ。スコットランド・ハイランド地方チーム、係長のエドモンド・ブラックソーンと申します。有事の際には基本的に私か、こちらのアラリックが一次受けになります。どうぞよろしくお願いします。あとで魔法通信機の説明や事務処理のやり方など説明させてください」
「よろしく」
「この島に座っているのが部下になります──」
「アラリック・ドレッドモアです」
「マグナス・クロウリーです」
「イゾルデ・ラーベンシェードです」
……
セラフィーナは順番に握手をしていった。
セラフィーナは帝王学の一環として、当然にして部下の扱い方についても学んでいた。しかし実際にそれが発揮されるのはこれが初めてである。
共有を受けながら資料を読み、現状をざっくりと把握した彼女はビクターに声をかけた。
「ところで理事官が戦闘訓練と仰ってましたが……」
「ああ!そうですね、やりましょう。お手合わせ願います──全員、訓練室に集合!」
◆ ◇ ◆
ぞろぞろと入室したそこは無機質な石造りで天井が高い大きな部屋だった。
「それでは……どのように進めましょうか?」
「お互いに実力を把握する為、手加減はなし、
ポーチからごろごろと取り出す。200個くらい出しときゃいっか。あとで
「か、かしこまりました」
「最初から本気で来なさい。それでは──始め!」
一斉に閃光が飛び交った。