スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
夏休みは長い。
セラフィーナは二日に一回は警備課に顔を出してメンバーをしごき上げた。一度だけ警備企画課で他の同僚とも顔を合わせたが、挨拶だけして秘密保持の為お互い名前も名乗らなかった。
◆ ◇ ◆
「今日はここまでにしましょう。だいぶ動きが良くなったわ、お疲れ様」
「「「ありがとうございました」」」
警備課のメンバーもだいぶ気心が知れてきた。例えばエドモンドはクィディッチの大ファンらしい。アイルランド出身なので同チームを応援している。アラリックは甘いものが好きで、マグナスは
「セラ捜査官、紅茶です」
「ありがとう、エド」
呼び名も紆余曲折あってこの呼ばれ方に落ち着いた。気軽に呼んで欲しいが上司と部下という関係である。バランスをとってこうなった。
紅茶を飲み終えたセラフィーナは鞄を持ち上げた。
「それじゃあね、来週から学校が始まるから、その前に一回は顔を出すわ」
「「「いってらっしゃいませ」」」
軽く手を振って部屋を出た。
◆ ◇ ◆
向かったのは同じフロアの会議室である。部屋に入るとガウェインはもう机に向かっていた。
「遅くなり申し訳ありません」
「気にするな。さて、このあと行うのは特別監視官補の最終面接が二件だ」
「補、ということは、」
「そうだ、ホグワーツ生だ。同僚であり君の部下になるから同席してもらう。あと20分で始まるから資料に目を通せ。最初は私が話すので、質疑応答の途中で話を振ったら自由にしてくれ。
それからこれを飲め。他のメンバーの髪の毛が入ったポリジュース薬だ。さすがにその姿だと問題があるからな。偽名は──ウィンチェスターでいいか。服はそれだ、警備課の制服を借りてきた。
面接終了後は彼らにはそれぞれ別室で待機してもらい、採用になった者にはすぐに辞令を出す。その間に君は解除薬を飲んでもらい、改めて顔合わせという流れだ」
「承知しました」
早足でトイレに向かい服を脱いでから小瓶を飲み干す。最悪の味だが仕方ない。げっろ。
「あー、あー」
声帯を調整することも忘れない。
そして手早く制服に着替え、鏡で確認した。セラフィーナは警備課ではないので初めて袖を通す。かっこいいじゃん。
◆ ◇ ◆
部屋に戻り、資料に目を通す。
一人目の名前はセドリック・ディゴリーと書いてあった。
「彼は魔法生物規制管理部の課長、エイモス・ディゴリー氏の息子だ。推薦を受け、志願もあり選考の上で通した」
「なるほど」
経歴、使える呪文と今までの選考の流れをざっと確認する。問題なさそうだ。直接あまり面識はないが、若くしてクィディチのキャプテンを務めているのと、性格の穏やかなイケメンナイスガイと女子が噂しているのを聞いたことがある。
二人目の名前はジェマ・ファーレイとあった。
「彼女は、元闇祓いで今は特別監視官のロデリック・ファーレイ……の娘だな。親と同じ職場になる上に、
「承知しました」
ガウェインの言う通り、ジェマ先輩とは仲がいい。監督生で面倒見が良く明るい性格だが怒ったときは怖い。
……怒られたことはないが。彼女ならうまくやっていけそうだ。
◆ ◇ ◆
やがて時間になり、扉が4回叩かれた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
セドリックがきびきびと入室し、
「本日はよろしくお願いいたします」
と言いお辞儀をした。
そして椅子の横に立ち、
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
セドリック・ディゴリーと申します。よろしくお願いいたします」
と言い、ガウェインは、
「どうぞ、お掛けください」
と返した。セドリックは
「失礼します」
と一礼し、着席した。面接の始まりである。
◆ ◇ ◆
しばらくガウェインが質問したあと、セラフィーナにボールを渡した。
「それでは、ウィンチェスター、君から何かあるかね」
「はっ。それではミスター・ディゴリー」
「はい」
「今までで一番困難で危険だった出来事を教えてください」
「はい。半年前、変身術の応用実験で独自に設計した変身呪文を友人が試した際、大規模な魔力の暴発が起き、教室全体が破壊されかけました。その時は『フィニート・インカンターテム』では呪文を抑えられず、自らの魔力を盾にして収束を試みるという非常に困難な選択を迫られました。事態を収拾できたものの、魔法の扱いにおける慎重さと責任を学ぶきっかけとなりました」
なるほど。悪くない。これは掘りがいがある。
セラフィーナは圧迫面接気味に掘り下げた。
「なるほど。その状況で『自らの魔力を盾にする』という選択肢を取る判断が、本当に適切だったと今でも言えますか?それは冷静な判断だったのか、それとも感情に流された自己犠牲的な行動に過ぎないのか、どう考えますか?」
これに対し、セドリックは怯まずに答えた。
「その選択が適切だったかどうか、今でも完全に正しかったと言い切ることはできません。あの場では数秒のうちに判断を下す必要があり、教室全体に被害が拡大する可能性が迫っていました。そのため、状況を収束させるための即応的な行動が求められました。
……確かに、自らの魔力を盾にする選択はリスクの高いものでしたが、他の選択肢では被害を防ぎきれなかったと今でも考えています。
一方で、感情的な自己犠牲の側面が完全に無かったとは言えません。当時の私は、友人や周囲の人々を守りたいという強い気持ちに突き動かされていましたのは事実です。
しかし、その気持ちが状況判断を曇らせることなく、むしろ迅速な行動に繋がったと信じています。
現在は、あの状況を教訓として冷静さを維持し、計画的に行動する重要性を理解しています。もし再び同じような事態が発生したとしても、私はより正確に状況を分析し、適切な手段を選択できる自信があります」
ふむ。もっと掘り下げよっと。
セラフィーナはやや殺気に似たオーラを意図的に纏って、更に掘り下げた。
「ふむ、その場での魔力収束は非常に高度な技術を要するはずです。『自らの魔力を盾にした』と仰いましたが、それが成功する確率はどのくらいだと考えていましたか?また、失敗した場合に備えた具体的な準備はしていましたか?」
セドリックはやや気圧されつつも、それを表に出さないようにして打ち返す。
「……成功する確率を正確に算出することは不可能でしたが、状況を即座に判断した結果、それ以外の選択肢ではさらに深刻な被害が避けられないと考えました。魔力の暴発の規模や速度から、即座に『
もちろん、失敗のリスクも認識していました。そのため、魔力を放出する際には周囲の安全を最大限確保するよう努めました。具体的には、暴発の中心となっている友人を魔力の影響範囲から隔離し、教室内の他の生徒に避難を指示しました。また、呪文を収束させる際に、暴発が自分に集中するよう魔法障壁を展開してエネルギーを抑え込みました。
私の行動は即興的な対応に近いものでしたが、普段からの魔力制御の訓練がこの判断を可能にしました。この経験を踏まえ、今後はさらにこうした緊急時の対応をシミュレーションし、準備を整えることの重要性を痛感しています」
なるほど、なるほど。これ以上はいいや。じゃ、本番行くか。
そしてセラフィーナはあえて怒気に似たさっきまでのオーラを止めて、氷のように冷たい温度で問いかけた。
「それに関連して、公務においてなんらかの事件や事故に際して大怪我、あるいは自分が命を落とすことで誰かを救う可能性があるシチュエーションであなたはどう思考し、どのように行動しますか?」
それに対してセドリックは緊張した面持ちで答える。
「……はい、公務において命を懸けた選択を迫られる場面は、非常に重いものだと認識しています。しかし、私が最も重要視すべきは、常に冷静で合理的な判断を下し、状況に最適な行動を取ることです。もし自分の命を犠牲にすることで、他の命を救うことができると確信した場合、その判断をする準備はできています。
ただし、感情的な決断ではなく、事前の訓練や経験に基づいて最も効果的な結果を生み出す行動を選びます。例えば、私が命を落とすことがその場で最も効率的な解決策であっても、冷静に全体の状況を判断し、他に救える方法があるか、どの選択が最も多くの人命を救うかを考慮します。
私の命が公務として"救える人命"に繋がるのであれば、その行動を選びます。しかし、それは単なる自己犠牲ではなく、最終的に大きな目標を達成するための合理的な選択でなければなりません。また、もし命を賭けるべきでない状況があるならば、その選択は回避し、他の方法で問題を解決するための最善策を講じます。
──最も重要なのは、感情や焦りに流されず、冷徹に状況を見極めることだと考えています」
「なるほど。私からは以上です」
セラフィーナは軽く息を吐き、上司にボールを戻した。
ボールを戻されたガウェインが再び問いかける。
「あなたの今後の目標は何ですか?この職に就いた後、どのように自分を成長させ、貢献していきたいと考えていますか?」
「ありがとうございます。面接を通じて私の考えを伝えられたことを嬉しく思います。私の目標は、この職務を通じてより多くの経験を積み、魔法界の治安維持と秩序のために貢献することです。そのためには、より高いレベルでの魔法の運用能力を身につけ、状況判断力をさらに研ぎ澄ませ、他の捜査官たちと連携しながら効果的に問題解決を行いたいと考えています。
また個人のスキルだけでなく、チームとしての協力が不可欠です。私がこれまで培ってきた冷静さや迅速な行動力をもって、任務において責任を全うし、魔法界に対する信頼を築き上げたいと思っています」
セドリックは爽やかな顔で答えた。うん、雰囲気の切り替えも悪くないか。
「では最後にひとつ。この組織では年次と役職が一致しないことがありえます。もし年上を指揮することになったと想定した場合、どのような点を意識してチームを運営しますか。簡潔で構いません」
この質問は彼の想定に少しなかったらしい。
「……ええと、はい。年上を指揮する場合は、……そうですね、敬語は徹底します。また、あまり干渉しすぎず、意思決定になるべく参加してもらい、裁量は渡し、リスペクトして働いてもらいたいと考えます」
セラフィーナは呟いた。こっちはカモフラである。
「なるほど」
そして
「では逆、つまり年下に指揮される場合、どのような部下として振る舞いますか?」
「そうですね、なるべく年齢を忘れて、フラットに振る舞い、その上司が話しやすいような空気に出来ればと思いますが……自分としては実際にそういったことを気にしないので、年上の方と接するのと特に変わりはないと思います」
それを聞き、ガウェインはこの場を締める。
「なるほど。ありがとうございました。非常に意欲的で前向きな姿勢を感じました。
──それでは面接を終了します。結果については追ってお伝えしますので、案内された控え室にてそのままお待ちください」
と指示し、セドリックは
「本日はお時間を頂きありがとうございました。結果をお待ちしています。ご面接いただき、光栄でした」
と頭を下げ退出した。
◆ ◇ ◆
「ふぅ」
セラフィーナにとって初めての面接だった。父と数年前あたりから散々やったことがあるので慣れてはいたが、実際にやってみると、さすがに肩に全く力が入らなかったといえば嘘になる。
さて、ここからはディスカッションである。
「冷静で落ち着いていたな。的確に説明できていたのは評価に値する。状況判断とリスク管理についても淀みなかった」
「ええ。しかし、やや慎重な傾向は感じましたね。合理的な判断を優先するとは言っていましたが現場で咄嗟にリスクを取る時瞬発的な決断力があるかどうか……あと検討スべきは自己犠牲傾向についてですかね。私としては、正直にさらけ出した方だと思うのと、このような職責の最終面接の場としてのアピールに感じたのでほとんどネガティブには感じていませんが」
「まあ年齢と経験を考慮すれば十分だろう。現時点でこれだけ冷静さと分析力があるならあとは訓練次第だな。感情的に衝動で判断するリスクが少ないのはむしろ安心材料だ。自己犠牲についても同感だ。自分で自分のことを
「あとは……圧迫質問にも十分対応できていましたね。掘り下げましたが動揺が見られなかったのと、その空気でも正直に成長意欲を見せていたのは評価できると思います。柔軟性も感じました」
「うむ。年齢の件も、君の下につく想定では全く問題ないだろう。情と任務のバランスは、ある程度からは現場でしか見えん。採用レベルでは問題ないと思う。あとは君が
「そうですね、強いて言うならリーダーシップや指揮力は面接を通してあまり見ることができなかったように思いますが、補佐・メンバーロールなら問題ないかと。冷静さと責任感は年齢を考えれば十分に思います。──私が言うのもなんですが」
ここでガウェインは少しだけ笑った。
「構わない。君はそれを言う資格があるよ」
「恐縮です。──だいたい出尽くしましたかね。私は合格で良いと考えます」
「同感だ。採用でいいだろう。細部は任務を通して適性を見極めれば良い」
「ですね」
「よし、休憩しつつあと17分後に次だ。引き続き頼む。ポリジュース薬を飲むのを忘れるなよ」
「はい」
就活を控えた皆さん、ご参考に。
……いや、マグルの皆さんには参考にならないことも多いとは思いますけど。
面接が終わった後はこんなことを会話しがちです。