スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
セラ虐たすかるぅ
新学期一発目の授業は変身術だった。コガネムシを"ボタン"に変える課題が出され、眠気で半目になりながら一発で成功させたあと、セラフィーナはひたすら友人たちに教えることで何とか眠気を紛らわせようとした。
セラフィーナが変身させたのは黄色と黒のシマシマ模様の描かれた、透明なプラスチックの安全カバーで覆われている厳重な赤い
……誰かあたしのことを非常停止してほしい。げっろ。
特に厳しかったのはその次の薬草学の授業だった。眠気が一周回って吐き気に変わったタイミングで出された実習課題はよりによってマンドレイクの植え替えだった。
いつものセラフィーナであれば耳あてなしでも──なんなら一緒に仲良くコーラスするくらいのテンションでやれる作業だったが、耳当て越しでもあの泣き叫ぶ声は容赦なく脳を揺らし胃袋をひっくり返そうとした。
セラフィーナは授業が終わる度にトイレに駆け込んで強力な頭痛薬と吐き気止めを飲む羽目になった。大抵の強い薬品は胃を荒らす。それを無理やり押さえつけ、セラフィーナは笑顔を絶やさないよう神経を尖らせながら過ごした。
(あぁ……疲労がポンっと取れる薬無いかしら。略して……ヒロ……)
それ以上いけない。
◆ ◇ ◆
そしてその次は新任の教授による
授業が始まると、ブロンドの巻き毛のその教授はやけに胡散臭い笑顔を振りまきながら自分の著作を掲げながらのたまった。
「私だ──
ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週間魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞──もっとも、私はそんな話をするつもりじゃありませんよ。バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけじゃありませんからね」
(え、なに、コイツ。あたし寝落ちして悪い夢でも見てる?)
セラフィーナは新入生歓迎会に出席していないので完全にこれが初対面である。しかしどこからどう見ても怪しい臭いしかしない。
「全員が私の本を全巻揃えたようだね。大変よろしい。今日は最初にちょっとミニテストをやろうと思います、おおっと、心配ご無用──君たちがどのくらい私の本を読んでいるか、どのくらい覚えているかチェックするだけですからね」
テスト用紙が配られ教授は合図した。
「30分です。よーい、始め!」
1 ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
(は?)
思わず口に出すところだった。
2 ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?
(あっ……)
疲れから来る幻覚ではなかったらしい。
3 現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?
(マジですの……)
チラリと教壇を見ると鼻歌を歌いながら闊歩している。思わずセラフィーナは純粋な魔力だけで羽ペンを粉砕した。
そこはかとなく嫌な予感はしていたのだった。標準の教科書でなく中身のないスカッスカな冒険小説がフルセットで指定されていたことは引っかかっていた。
一応何か書いてあるのかと僅かな希望を持って最後まで読み進めたが何も無く、貴重な仕事の合間に7冊も本を読まされたセラフィーナは、思わずブチ切れて本を部屋の壁に思いっきり投げつけ、普通の紙の本を投げたはずがあのクソ頑丈な庁舎の壁に大穴が開いた。
勿論レパロで修復したが、部下にセラ捜査官ご乱心!?と羽交い締めにされて口に
……いちおう始末書をノリで提出したら
しかし余程のファンな魔女ババアでも出てくるのかと思ったらまさかご本人
セラフィーナは目の前の
彼女は完全記憶能力の持ち主では無いにしろ、なまじ記憶力がいい方ではあるのでちらほら分かる問題があるのがますます腹立たしい。
えも言われぬ不快な気分で羽根ペンを修復し──文字通り粉々にしたためそこそこ強力なレパロが必要だったが──それに魔力を消費したという事実すら嫌な気分になりながら、名前だけ書いてセラフィーナは爆睡を決め込んだ。
余談だが、彼女は今まで授業で寝たことだけはない。いくら内容を理解しているとはいえ、いくら暇で手遊びをしているとはいえ、最低限の教授へのリスペクトの気持ちを忘れたことはない。いや、
手遊びしていても別の本を読んでいても耳はきちんと傾けていて、少しでも為になることがあればと思って聞き逃さないようにしていたのだ。ノートは基本取らないが、覚えようと思ったことはきちんと記憶している。
──だがこれは無理だった。女子的に言うならば"生理的に無理"、というやつである。
本で壁に大穴を空ける程度にはもともと苛ついていた、その火種にエルンペントの毒液を樽ごと突っ込まれた気分だった。爆発?まだしてない。いちおう。
誰か、この
◆ ◇ ◆
「……どうか叫ばないようにお願いしたい。連中を挑発してしまうかもしれないのでね……」
ふと目を覚ますととっくにテストは回収され、
(なぁにもう。眠いんだけど)
再びふっと意識が遠のきかけて、次に彼は、
「……君達がピクシーをどう扱うのかやってみましょう!」
と叫んで籠らしきものの戸を開けた。
あっという間に悪魔のような小妖精がロケットのように飛び出した。窓ガラスが割れ、インクを割り本やノートを引き裂く。
ロックハートが何やら訳のわからない呪文を叫んだあと退場していったのも目に入らず、もはや人生で初めてくらいぷっつんと来たセラフィーナは危うく叫びかけた。
「
いけない、それは本当にいけない。
すんでのところで思いとどまったセラフィーナはいつものアイアンウッドの杖──やや重いが、こちらの方が強力だ──を大きく振り回し、唱えた。
「
ピクシー妖精たちは一匹残らず汚い真っ赤な花火に変わった。その後のことはあんまり覚えていない。
◆ ◇ ◆
何度もぶっ倒れそうになりながらも、セラフィーナは新学期初日の授業を乗りきった。
目覚めの水薬はもはや何本飲んだか考えたくもない。飲む度に増す吐き気は耐え難いものだったが、根性と執念と胃薬で乗りきった。乙女の尊厳は守られたのである。
──肝臓的な何かと引き換えに。守られたのか?……うるさい。
本来ならば教授方への挨拶回りや忙しくてイベント以外で全く会えなかった友人と談笑したかったが、
……初日から出歩くのもどうかと思いつつ、放課後になった瞬間『
……もっとも、
魔法警察庁 警備企画課 報告書
文書番号: K-24-1213-A
発行日: 1992年9月4日
作成者: セラフィーナ・ゴーント (警備企画課特別監視官補)
宛先: ガウェイン・ロバース (警備企画課情報担当理事官)
件名: ギルデロイ・ロックハート教授およびアルバス・ダンブルドア校長に関する能力調査報告
1. 要旨
本報告書は、ホグワーツ魔法魔術学校における闇の魔術に対する防衛術教授、ギルデロイ・ロックハート氏の任命とその職務遂行能力に関して発生した複数の疑義を調査し、あわせて彼を任命したアルバス・ダンブルドア校長の行動基準について検討するために作成されたものである。
調査の結果、ロックハート教授の能力は著しく欠陥があり、その任命過程および任命責任を負うダンブルドア校長の判断についても、重大な問題が認められる。よって、速やかな措置が必要と考える。
2. 対象者情報および調査内容
1. ギルデロイ・ロックハート氏について
職位: ホグワーツ魔法魔術学校 闇の魔術に対する防衛術教授
略歴: 数多くの著書を発表し、多くの魔法界住民から「英雄」として認知されている。しかし、その実績については信憑性を疑う報告が後を絶たない。
2. 調査内容
調査では、以下の事項を確認した。
1. 授業内容
・授業は主にロックハート氏自身の著書に基づいているが、実質的な闇の魔術への防衛策についての指導は皆無である。
・実技指導においては、基本的な呪文の正確な発動すらできない場面が観測され、生徒への実害が報告されている。
2. 実務能力
・実際の緊急事態における対応能力に欠けることは明白である。
・例として、実技と称して生徒を混乱状態に陥れた事件 (詳細は付録A参照) では、危機収束のための判断および行動が著しく遅れた。
3. アルバス・ダンブルドア校長の行動基準
1. 問題の指摘
ロックハート氏の任命は、ホグワーツの教育水準と安全管理において甚だしい問題を引き起こしている。このような欠陥ある人物を重要な職位に就けた校長の判断基準は、大いに疑問視されるべきである。
2. 過去の判断の再検証
ダンブルドア校長の過去の任命事例や行動を参照すると、感情的あるいは私的な理由で決定を下している可能性が示唆される。本件においても、客観的な審査を経ていない恐れがある。
3. 安全保障上の懸念
ホグワーツは魔法界の中核的教育機関であり、その管理体制に欠陥がある場合、魔法界全体の安全保障にも影響を与え得る。この点で、ダンブルドア校長の行動は重大な危険を孕んでいると考える。
4. 提言
1. ギルデロイ・ロックハート教授の即時解任
・彼の職務遂行能力の欠如は、教育機関の信頼性と生徒の安全を著しく損なうものであり、直ちに解任されるべきである。
2. アルバス・ダンブルドア校長に対する監査の実施
・校長としての職務遂行能力および判断基準を徹底的に監査し、必要であればその地位を再検討するべきである。
3. 教育委員会および魔法警察庁による独立した監視機構の設置
・教育現場の安全性と適正性を保つため、外部監視機構の設立を検討すべきである。
以上
付録:
A. ロックハート教授による過失事例
B. ダンブルドア校長の過去の判断に関する資料
セラフィーナ・ゴーント
魔法警察庁 警備企画課 特別監視官補