スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄   作:魔法史編纂委員会

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それはいいけどセラ、あんた遊んでる暇あるの?



2-8 クィディッチ選考会

夕方から死んだように睡眠を貪ったセラフィーナが目覚めるともう爽やかな朝が来ていた。爽やかかって?……そういうことにしておいてほしい。

 

朝風呂をキメて着替えた彼女はそのまま大広間に向かった。ここ2日くらいポーションの類と昨朝のスープ一口以外何も食べていなかったので、重度の低血糖(ハンガーノック)状態でふらつく足を懸命に運ぶ。身体に力が入らない。

……監禁拷問の実地訓練になったと思えば()()()()である。たぶん。

 

まだ大半の生徒たちは降りてきていない。消化に良さそうなものを選んで腹八分目を強く意識して食事を採っていると、ドラコがいつメン(クラッブとゴイル)と喋りながら現れ、セラフィーナの隣に座った。

「……だから父上にお願いするんだ、ニンバス2001をチーム全員分買ってもらうのさ」

人らしい心地を取り戻しつつあるセラフィーナは耳聡くそれに反応した。

「ニンバスを全員分?」

ドラコは少し意外そうにセラフィーナを見て答えた。

「ああ、そうすれば今年こそ我がスリザリンは優勝間違いないだろ?」

 

セラフィーナは自分の箒を手に入れてから一気にクィディッチやレースの世界にのめり込んでいた。彼女は凝り性(オタク気質)である。雑誌を創刊号から一通り買って目を通し、何冊もの本と合わせて今や知識はそこらの店員に負けないほどだ。

 

「やめた方がいいわよ、シーカーならともかくチェイサーやビーターはコメットの方が向いてるわ。他のブランドもあるし。メンバーの好みやスタイルに合わせて最適な箒を選ばないと逆に動きにくくなるでしょう」

ドラコはド正論パンチに咄嗟に返事に窮した。

 

 

そしてセラフィーナは続ける。

「それと、折角だから私も選抜試験を受けようと思ってるわ」

彼は驚いて言った。

「セラフィーナ、君はクィディッチに興味なかったんじゃないのか!?」

「状況が変わったの。私は愛するミスティと出会って箒に魂を捧げる女になったのよ」

ドラコは眉に皺を寄せた。

「誰だ?」

「ミスティ。この子よ」

セラフィーナはローブの内側に手を突っ込んで愛する箒をずいと取り出した。どこにしまっていたのやら。

「!?」

ドラコはその箒を見たことがなかった。紅く細身で優雅なその箒はひと目見るだけで彼の持つニンバス2001よりもずっと上等なものに思えた。

「どこの箒だ!?」

「あら、知らない?けっこう有名だと思ったんだけどな。エーテルウイング・クラフトワークスのミスリルアローよ」

雑誌で名前だけは見かけたことがあった。確かその箒は、

「まさか、幻の箒っていう、あの、」

「そう。私はこの子と運命的な出会いを遂げたの。私はすぐにこの子と愛し合って一生を添いとげるって決めたのよ」

 

──キモい。キモかった。

 

「私はこの子と一緒にならどこまでも、()()()()まで飛んでいくわ。そしてミスティが囁くの。"さあ、セラフィーナ、クィディッチをやりましょう"……って」

「あぁ……よかったね……」

ドラコはドン引きであった。

 

──セラフィーナ、貴方疲れてるのよ。

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

セラフィーナに諭されて(オタク語りされて)メンバー分の箒をおねだりするのを保留にした彼は、何人ものスリザリン生と共に競技場に向かう。

今日は土曜日、クィディッチチームの選考会である。

 

キャプテンのマーカス・フリントが声を張り上げた。

「今から我がスリザリン・クィディッチチームの選考会を始める!まずは基礎技術から見ていく。応募者は順番に巡航速度でフィールドを一周しろ」

案外ここでつまづく者も多かった。ダメ元や記念で受ける者たちだ。

ドラコが危なげなく回り、次はセラフィーナの番だった。

彼女は箒にまたがると凄まじい勢いで飛び出した。体幹の強さをフルに発揮し綺麗に体を傾けてゴールポストの前を回り、あっという間にスタート地点に戻ってくる。

 

「ミス・ゴーント、俺は巡航速度と言ったんだが」

少し困惑したようにマーカスは言った。

「ええ」

「ええ、じゃなくてだな……」

「え?」

「ん?」

何かが噛み合っていない。

「巡航速度でしたが?」

こてん、と首を傾けて混じり気のない顔でセラフィーナは言った。

「今のがか!?」

「ええ、そうですが」

セラフィーナは全く自覚なくスピード狂の才能を開花させていた。

直近のホグズミードとホグワーツの行き来を最高速度でぶっ飛ばしていたのが決め手で、200km/h程度ではなんとも思わなくなってしまっていたのである。

「君、箒は何を使っているんだ!?」

「ミスティ──ミスリルアローですっ!」

「「「ミスリルアロー!?」」」

「はい?」

「それは反則だろ……」

「ブルジョア……」

控えめに非難の声が上がった。

「や、たまたま売ってたので……店に通い詰めれば買えますよ?()()()

「売ってても買えるわけないだろ!」

「俺見せてもらえなかったぞ」

「え?()()()?」

金銭感覚もバグっていた。

 

マーカスが咳払いと共に彼らを抑える。

「ん゛ん゛っ。まぁいいだろう、いくら箒が凄くても腕が伴わなければそれだけの話だ。選考を続けるぞ」

混乱の中、選考が再開され、3割の生徒が脱落した。うち1割は飛ぶ前に辞退した。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

「次は最高速度を見る。順番に、出来るだけ早くフィールドの端から端までゴールポストを回って往復して見せろ」

「「「はい!」」」

何人かの生徒が飛び立ち、やがてセラフィーナの番がやってくる。

セラフィーナは今度こそ本気で地面を蹴った。

 

彼女はようやくミスティと心を通じ合わせることが出来てきたような感覚を覚えていた。

凄まじい加速と共に、フィールドに風が吹く。

ゴールポスト前でほとんど減速することなく柄をねじ込んで空中で凄まじい水平回転(ヨー)を発生させる。完全に箒が進行方向に対してほとんど横を向いたままぐるりと回り、なおも加速を続けた。

スタート地点に向かってそのまま突っ込むように見えたが、ギリギリのところで柄を渾身の力で引っ張り、180度近く反転(逆噴射)させて無理やり失速させ、柄を戻すと彼女はふわりと地面に降り立った。

「さ、348km/h……」

速度測定係の生徒が魔法速度測定器(スピードガン)を見て呆然と呟いた。

 

ここで少し説明しよう。ニンバスやコメットを含めた殆どの箒メーカーは最高速度について、個体差のあるなかから選び抜かれた箒を使用した上で、振動などにより最早それ以上コントロールできない()()()()()をメーカーの表記としている。なんなら改造疑惑のあるメーカーすらあるし、プロがまぐれで出した上振れを記載するのもよくある話。

 

しかしエーテルウイング・クラフトワークスは違う。同工房は箒が振動し出す手前の速度の最低値、つまり()()()()()()()()()()()()速度を表記としていた。そしてミスリルアローはドラゴンの琴線を搭載しているため、使い込んで心を通わせると性能が向上する。

セラフィーナのミスティはまだ使い込んだとはとても言えない(エージング中)状態だが、個体差の中ではかなりいい方(アタリ)を引いていた。それもあり公称値の315km/hを遥かに上回る数値を叩き出してのけたのである。

……しかも、セラフィーナはまだ箒に慣れていないのでガチの本気では無い。

コイツ(セラフィーナ)選考する意味あるか?」

マーカスは人知れず呟いた。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

足切りで30余名まで減ったあと、希望するポジションに分かれて最終選考が始まった。

生徒を交代させながら試合形式で進めていく。本当の試合と違う点はスニッチをキャッチしても試合を終了せず再び放して続けるルールだ。というか、シーカーだけ半分別競技といっても過言ではない。時折マーカスの指示でビーターがシーカーに集中攻撃するくらい。

……その様子を見ながらマーカスは生徒を見定めていく。

 

たまに適性を予想して本人の希望では無いポジションをやらせるケースもある。ドラコがそれだった。

「ドラコ、お前ビーターやってみろ」

「えっ、でも僕はシーカーが」

「お前、アレに勝てるのか?」

マーカスが顎で指したのはセラフィーナだった。ちょうど8回目のスニッチを終始背面飛行のままキャッチしたところだ。

……いや待て、いまバックしながら飛んでなかったか!?気持ち悪っ。

 

「……この際言うがな、お前んとこの親父さんからよろしく言われてんだわ。けどこの結果じゃどう考えても補欠だな。つまらん意地張ってベンチ温めるか、胸張って選手やるか、どっちだ」

「…………ビーター、やります」

「おう、やってみろ。ちなみにお前、マジで多分ビーターの方が向いてるぞ」

マーカスは勢いよく背中を叩いて送り出した。

(まあ、ゴーントの親父さんのほうが正直怖いしな……そっちからはよろしく言われたわけじゃ全くないが……)

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

しばらくして、マーカスはセラフィーナを呼び出した。

「ミス・ゴーント、今度はこれ使ってやってみろ」

「えっ」

突き出したのは彼の箒、ニンバス2000だ。

「でも、私にはミスティという心に決めた恋人が」

「あ?何言ってんだ……?これも能力を測るためだ、やれ

仕方なくセラフィーナはマーカスの箒に跨った(浮気した)。加速し、減速する。くるりと回ってからフル加速し振動を抑え込む。しばらくぐるぐる飛び回ったあと、彼女は戻ってきた。

「やれるな?よし、続けろ」

「はぁい」

ぶー。

 

ニンバスというセラフィーナの恋人(ミスティ)と比べて劣る箒を使っても彼女は圧倒的だった。全く癖のない箒で慣れた身体は、どこが違ってどう対処したらいいかを本能的にカバーしていた。安定性の悪い部分を上手く体幹で押さえ込み、機動性の良さをフルに発揮する。天性の戦闘の勘と鍛えられた身体能力がここへ来て爆発していた。

最高速度や加速だけはどうにもならないが、それはハンデにならない。

11回掴んだスニッチが"そろそろ堪忍してつかぁさい"と言っているような気がした。

──いや?やめないけど?

 

「もういいぞ……」

マーカスはセラフィーナを見定めた。こいつはいいシーカーになる、と。

セラフィーナは再びミスティに跨ったが、箒が嫉妬しているのを感じた。

ごめんて。

誰よその女!!!

 





セラの脳内字幕なのかガチなのかは……セラに聞かないとわかりません。

え?ああ、本人もわかんないっぽいです。そうですか。
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