スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
ペンは
……色んな意味で。
魔法省からの手紙を受け取ったダンブルドアは中身を開封せずにそのまま暖炉に投げ込んだ。これで35通目である。
理事会からも吠えメールを含めた抗議の手紙が殺到しているが彼は全く動じない。
そんな中、一人目の犠牲者が出た。コリン・クリービーという生徒だ。
(ふむ、ゴーントは犯人ではなかったのかのう?まあよいか)
セラフィーナの停学が解かれることはなかった。
◆ ◇ ◆
セラフィーナは鬱憤を晴らすかのように仕事に熱中した。
仕事では切りかえて、優しくも厳しい上司であり続けた。ここで八つ当たりをするのは愚の骨頂である。もちろん訓練では警備課をしごきあげたが、怒りをぶつけるような事はしない。
公安部や理事会からホグワーツには大量の手紙を送り続けているが無の礫だった。
部下であるジェマからの報告書によれば、他の生徒にも被害が出て石にされたと言う話だった。もう何日経過したことか。理不尽な停学からひと月近く経過している。
(停学の解除はなし。手紙はおそらく読んでない。公安もナメられてて、理事会にも出てこない──となればもう魔法省大臣かウィゼンガモットを動かすしかないわね。大臣はダンブルドアの傀儡、ならば一択……いや、その前にもう一手
その翌日、ホグワーツの朝食の間はざわめいた。
ホグワーツの闇、再び露わに:セラフィーナ・ゴーントの停学処分めぐりウィゼンガモット特別聴聞会へ
日刊予言者新聞
【記者:エリザベス・アクリー】
ホグワーツ魔法魔術学校で再び深刻な不正が行われた疑いが浮上している。伝説的な「秘密の部屋」事件に絡み、セラフィーナ・ゴーント(スリザリンの末裔とされる女子生徒)が、全くの無実と主張しているにもかかわらず「生徒襲撃の犯人」として無期限停学処分、つまり実質的な退学処分を下されたのだ。調査によれば、校内で起きた襲撃事件について、彼女は弁明の機会を得られず、一方的な断罪が行われたという。
最も注目すべきは、この杜撰な処分を下した張本人であるアルバス・ダンブルドア校長の管理体制の崩壊である。ホグワーツは、魔法界の未来を担う若者たちを育てるべき神聖な学舎でありながら、近年その秩序と安全保障に深刻な疑念が生じている。秘密の部屋事件においても、繰り返される闇の脅威に対し、校長は迅速で効果的な対応を怠り、校内に混乱が続いた末に罪なき生徒に制裁を加えた格好だ。これでは、教育者としての資質や公正な判断力を備えているとは到底言い難い。
さらに指摘せねばならないのは、闇の魔術に対する防衛術教師として招聘されたギルデロイ・ロックハートの存在である。彼は実務的知識や指導力を著しく欠如しており、その任用決定は校長自身の眼力不足以外の何物でもない。無能な教師を壇上に立たせ、真の危機に際しては何の役にも立たない人物を重用する体制は、校内の安全だけでなく、教育水準と生徒の将来をも危うくする。
こうした問題を放置しているのは、何もホグワーツ内だけではない。コーネリウス・ファッジ魔法大臣も強く批判されるべきである。古い魔法法によって魔法省の学校運営への直接介入は困難だとしても、大臣として魔法界全体の秩序を監督する責任を負う立場にある以上、このような不当な処分や管理不行き届きを傍観し続けるのは明らかな職務怠慢である。
しかし、ついに魔法界の司法機関が動きを見せている。セラフィーナ・ゴーントの処分問題と校内の不正への疑念を受けて、ウィゼンガモット特別聴聞会が開かれることが決定した。当聴聞会では、ダンブルドア校長をはじめ、関係者から証言を求め、教育現場における問題点が公に検証されることになる。ロックハート任用の経緯や、生徒たちへの説明責任の欠如について厳しく問われる見通しだ。
魔法界を担う若き世代を育む場が、このような混乱と不正義に満ちていてはならない。特別聴聞会を契機に、教育と行政が真摯に向き合い、是正すべき点を徹底して洗い出すことが求められる。今回の事件が、ホグワーツと魔法界のあり方を再考する転機となることを切に願う。
新聞報道を受け、ダンブルドアはようやく重い腰を上げた。
一瞬すっぽかそうかとも考えたが、さすがにウィゼンガモットの戦士からそっぽを向かれるのはまずい。
(まぁ、うまく言いくるめればなんとかなるじゃろ。もうちと仕込みをしておくべきじゃったかの。しかし
◆ ◇ ◆
冷たい静寂の中、ウィゼンガモット特別聴聞会は厳かな魔法の光に照らされていた。
半円形に配置されたそれぞれの席には重厚な法服に身を包んだ魔法界有数の賢者、戦士たちが並び、彼らのうちの幾人かの表情には険しさが隠せない。しかしその大半は
傍聴席には魔法省関係者や報道陣が詰めかけ、一挙一動を見逃さない構えである。ただし、彼らの意見は必ずしも一致しておらず、ひそひそと囁く声が絶えない。
はじめからこの場には奇妙な空気が漂っていた。会場の張り詰めた緊張感をよそに、ダンブルドアは颯爽と現れると、穏やかな微笑みを浮かべ、髭を撫でつつ席の中でも最も目立つ位置に静かに腰を下ろした。
その態度は、決して高圧的ではない。むしろ古い絵巻から抜け出したかのような好々爺っぷりで、全てを呑み込むような包容力すら感じさせる。
──そう、ここはダンブルドアの聖域とも言える空間である。
聴聞会は異様な雰囲気の中、始まった。
◆ ◇ ◆
まず判事が口火を切った。この男、ガリソンは公平でよく
「ダンブルドア
それに対し、ダンブルドアは
「ああ、なるほど、なるほど。皆が懸念なさることは実によく分かっておりますぞ。セラフィーナ嬢の件は……そうじゃの、若者たちが成長する過程で、時として不可解な事象が起こるものじゃ。私としては、あの事件がどう転ぶか見極める上で多少の時間が必要だったと言おうか。教育というものは、光と影が織り成す布地のようなもので……」
「
ダンブルドアはぬけぬけと言った。
「お急ぎにならずとも、真実はいつか姿を現すじゃろう。セラフィーナ嬢の事案は、私も心を痛めておる。しかしながら、学校運営というものは複雑な織物であり、端糸を引っ張れば全体が歪むこともあろう。あの時点で
しかし、半数くらいの賢者たちはそれをにこにこと頷きながら聞いている。
「アルバスのことだ、何か考えが……」「うむ、まずはゆるりと状況を見極めばならぬ」
などといった声がわざとらしくない程度にわざとらしく聞こえる。
報道関係は眉をひそめ、判事は明確に眉に皺を寄せ、傍聴席の半分くらいは腕組みしている。
しかし、肝心の賢者の席でそういった空気を形成するにはおよそ程遠い。ここはあくまでダンブルドアの
ガリソンは苛立ちを隠せない。
「つまり、あなたはミス・ゴーントの無実の訴えを聞き入れず、ロックハートを引き続き任用した合理的説明を用意していない、ということですか?」
それにまた、立て板に水、朗々と応える。
「合理性という概念は、非常に主観的なものですじゃ。
傍聴席から失望混じりのため息が漏れ出すのと同時に賢者たちが頷く。
「教育とは短期で成果が上がるものではない」「うむうむ」「簡単に解決できるほど魔法は簡単ではないからな」「然り」
一方、判事は腹を固めたらしい。
「自然と浮かび上がる、と仰いますが、校長、あなたは去年、ミス・ゴーントに対して真実薬および開心術を行使したとの証言を得ています。これは真実ですか?」
ダンブルドアはいかにも鷹揚に髭を撫でながら、内心で頭をフル回転させて考える。
(あやつめ、チクリおったの?
まあよい。裁判ではないにせよ法廷の場で否定はあとあと面倒か。しかしこの程度で刺したと思うでないぞ)
──そして、口を開く。
「儂は校長職として常に生徒の安全を第一に考えておる。
その点において、まさにこの、秘密の部屋を開け、怪物を解き放ったスリザリンの継承者である彼女の片鱗が見えた時、その危険性にいち早く気づき、そして問うたのじゃ──」
賢者が大きく頷こうとしたその瞬間、判事が絶対零度で切り込んだ。
「校長、思い出話は結構です。
──私の質問は、真実薬と開心術を行使したかどうかです」
「ああ、つまり、それらの手段は……」
「はいかいいえで回答してください」
「しかしそのような……」
「では、"いいえ"以外の発言は肯定とみなします」
「よし、よし、まずは落ち着こうぞ。整理をいたそう。」
「肯定ですね。記録します」
それを無視してダンブルドアは続ける。
「まず、彼女の危険性についてじゃ。彼女は……」
判事が
「静粛に!!」
すかさず、賢者たちから抗議が始まった。
「話をまずは聞こうではないか」「英雄に敬意を示すべきだろう」「今のやり方は実に横暴だ」「おちおち話も聞けぬのか」「これだからたかだか五十年程度しか生きておらぬ若者は」
しばらく罵詈雑言が傍聴席と賢者と判事の間で飛び交った。
そしてその間ダンブルドアは実に落ち着いた顔で髭を撫で続けた。実に遺憾である、と顔に書いてあるようだ。その顔がこれまた飄々として賢者たちは徐々に落ち着きを取り戻す。
そしてようやく、
「──聴聞会を続けます。要点を明確に。
真実薬と開心術について、先程使用を肯定されたこと
即座にまた荒れ、
「当局の尋問において、真実薬は傷害・暴行容疑以上でなければ使用しないことは
以上を踏まえ、あなたの教育法について深刻な疑義を呈します。一時休憩!」
議場は即座に荒れたが、判事は耳を貸さずに控え室に戻っていった。
ラウンド1、終了である。有効。しかし"技あり"にもまだ遠い。
◆ ◇ ◆
会が再開される時間に対して、判事よりも先にダンブルドアはフライングで爆弾を投下した。
「先の件じゃが、
彼女は校舎内で飼育していた生物に、教授3人の目前で死の呪いを行使し平然としておったのじゃ。これを儂は重く見て、今後の犠牲者が出る前にと苦渋の決断で一歩踏み込んだ聞き取りに及んだ次第じゃ」
一瞬で議場は荒れた。
「なんと!」「邪悪な」「それは聞き捨てならん」
傍聴席からも囁き声が上がる。
ダンブルドアはそれを片手で制し、続ける。
「しかし、同時に当時の儂は彼女の善性を信じ、不問にすることを決めた。この判断が、校舎内での襲撃事件を許してしまったかと思うと、反省もあれど……。のう、こういう事なのじゃ。常に教育現場とは均衡と臨機応変な対応が肝要。
今回の対応に関しては、
ガリソンは言葉が途切れるのを待ってから、横でひたすらペンを走らせていた秘書らしき女性が素早く渡した紙をチラ見しつつ、素早く刺し返す。
「ところで校長、その件については当局から既に資料の提供を受けております。
まず、当該案件については、学校内で行方不明となって現在も消息不明のクィリナス・クィレル教授が当時密かに飼育しており、加えてその個体については当時"侵入した"というていでクィレル教授が解き放ち、それによって、とある女子生徒が命の危険にさらされていた状態にて、ミス・ゴーントはそれを救うために……」
しばらく説明が続き、議場は静まり返った。
そして、その上で判事は改めて刺す。
「故に、この件において真実薬・開心術の行使は、少なくとも妥当だったとは断定できず、
その上で問います。今回の停学処分の妥当性についての言説を改めてご提示いただきたい」
◆ ◇ ◆
ここから聴聞会は成果を得られないまま長い時間続いたあと、秘書から判事の元に素早く新たなメモが手渡された。
判事はメモに目を通したあと、頷いて言った。
「よろしい、校長。貴方の抽象的な弁明には、もはやこれ以上の価値を感じられません。こうした曖昧な方針と無責任な体制が続くことは許容しがたい怠慢であります。
よって、教育委員会の設置についての採決に移行します。これらの委員は、
これは敵対関係ではなく、学校運営を補佐する機関と位置づけるのがよろしいでしょう。当然にして、助言を行う必要がなければ当委員会のレポートはひとえにその学校運営状況を保証することとなりますし、それを理想の状態としてすべての関係者が生徒のために活動すべきです。校長、貴方はこの新たな枠組みに沿って、透明性のある改革と改善に直ちに着手するように」
ダンブルドアは微笑を浮かべ、言葉を選びながら言った。
「おや、教育委員会ですか……もちろん、皆様のお考えは尊重したいと存じますが、古来よりホグワーツは独立と伝統を重んじ……」
ガリソンは制止するように手を挙げて声を被せた。
「校長、これ以上の答弁は結構です。この特別聴聞会は裁定に移ります。賛成多数の場合、今後、教育委員会の諸決定に貴方は速やかに対応することが
◆ ◇ ◆
採決は何年かぶりに記名投票で行われた。挙手ではかなりギリギリの接戦が予想されたからである。
格式ある札が順に積まれ、傍聴席は目を光らせてその手元を注視する。
最後のひとりが積み終わった時──
それは2枚差で賛成が多数となっていた。
ダンブルドアは髭を撫で、求められてもいないのに飄々とコメントする。
「……ああ、ああ。もちろん、委員会のご意見を尊重するとしましょうぞ。
それをほとんど聞いていない風に、判事は冷静に言った。
「結論が出ました。各位がどうお感じになろうと、これはウィゼンガモットの裁定です。魔法省は速やかに教育委員会を編成し、学校運営の改善案を提示することを要求します。
傍聴席からは、双方への安堵と期待と不安、批判的な囁きが混じったざわめきが聞こえてくる。
判事は
「これをもって本日の特別聴聞会を終了とします。教育委員会の発足および、ホグワーツ内での再検証作業が整い次第、速やかに周知するよう求めます。解散!」
賢者たちは立ち上がり、威厳ある態度で退席し始めた。
傍聴席では低いざわめきが続く中、ダンブルドアはなおも柔和な微笑を湛え、どこか達観した様子で静かに場を後にした。
その場の空気にはえも言われぬ不快な空気が残り、今後の展開に期待と不安が入り混じっていた。
◆ ◇ ◆
「お疲れ様でした」
「ああ……実に疲れたよ」
そう話すのは、やりきった顔をしてソファに沈みこんでいる判事ガリソンと、……
ポリジュース薬が切れて秘書らしき成人女性の姿から元に戻ったセラフィーナである。
「しかし、完璧なタイミングで完璧な資料が出てくる。
さすがだな、ギャレット氏もいい娘さんをお持ちだ」
「いえ、判事が"均衡の守護者のなかでも特に話せるお方"だとは父から聞いていましたが、間近で拝見するとさすがの切れ味でしたわ」
「いや、実に手強かった。しかし、私からも言わせてもらえば、君のあの"今なら票を刈り取れます。ただし3票差の勝利±1票"とのメモ、あれが痺れたね」
「いえいえ。難しいタイミングだったと思いますわ。引き伸ばしてもダレて日和見票が出かねませんし、焦ると浮動票が掴めません。判事がうまく泳がせつつ刺しつつのバランスを……なんて、釈迦に説法、失礼でしたね」
「これでも20年やっているからね。しかし今日のは過去最高の難易度だったよ。
……むしろこんな最高難易度の聴聞会にいきなり飛び入りで入ってきてあれだけサポートできる君の方が、……若者の言葉を借りるなら"ヤバい"と思うけれどね」
「父に仕込まれましたので」
「ああー。愚問だったね」
「いえとんでもないです〜」
「また、爺相手にする時は頼みたいものだね。なんなら毎回頼みたいくらいだが……」
「学生の健全な扱いについてさっきあれだけ爺を詰めてたお方の発言とは思えませんね」
「っはは、全くだな。」
「冗談ですよ、時間が合う限りいつでもサポートしますので」
「……正直、本当に助かる」
「いえ、おなじ
ちなみに、(本作では)
ホグワーツ法に手を入れるには
・ウィゼンガモット2/3以上の賛成 + 校長の同意
もしくは
・ウィゼンガモット全会一致
の条件を満たす必要があります。無理。それは無理。ぜぇーったいに、無理。