スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
「やっぱりスリザリンの継承者って……」
「あいつがマグル生まれを襲ったんだ」
囁き声が聞こえてくる。
セラフィーナは言った。
「そうよ、私が本当の継承者よ。だから、止めさせる。神聖な学び舎でこんなこと許されないわ。始祖サラザール・スリザリンがこんな状況を望むはずがない。だから皆も力を貸して。人か化け物か、団結して継承者を騙る偽物を討ち倒すのよ」
堂々としたその姿に、疑う気持ちはゼロではないながらも、日頃のセラフィーナの信頼の積み上げでスリザリン生は頷いた。加えて"初代"についてじんわり浸透させていることもあって、なおさら関係ないだろうと考えている者も多い。レイブンクロー生は我関せずといった雰囲気で、ハッフルパフ生はだいぶ疑惑の目を向けつつ目を逸らし、グリフィンドール生は全く信じずにセラフィーナを睨みつけている。ポッターだけはそうでもないというか、戸惑っているのはなぜだろうか。
セラフィーナはその様子を見て小さくため息をついた。ま、そんなもんよね。
────(今、ゴーント、蛇のことあやしてただけだったよね?でも……蛇の言葉わかるのって、僕もおかしいのかな)
◆ ◇ ◆
翌日、生徒たちがいつものように朝食を摂っていると音を立ててドアが開き、ルシウス・マルフォイ氏と魔法省の役人らしき人物が入ってきた。
マルフォイ氏は声を張り上げた。
「ギルデロイ・ロックハート、貴様にはもはや、ホグワーツ魔法魔術学校の教壇に立つ資格はない!
先頃新設された教育委員会は、貴様の職務態度と、防衛術教授として到底許されぬ魔法技能の欠如を確認した。そして、これまで散々誇示してきた『英雄譚』が、虚偽によって紡がれた欺瞞であることも判明している。
それを受け、我々ホグワーツ理事会は
それを受けてダンブルドアは鷹揚に立ち上がった。
「そうか……。かようなことがあるとなれば
ダンブルドアは深くため息をつき、静かに椅子に腰を下ろした。
その姿は、微かな寂しさと同時に、現実を受け入れる老賢者の落ち着きを帯びているように見えた。
一方でロックハートは自らの華麗な外見を保とうと、繕った微笑みを浮かべたが、その薄い虚栄心をもはや保つことは出来なかった。
彼の瞳には動揺と恐れ、それから呆然とした戸惑いが浮かび、周囲の生徒たちからの厳しい視線から逃れようとするかのように、身を引いた。
派手な衣装は今や彼を引き立てることなく、大広間の冷たい空気の中で、その華やかさもむなしく霞んで見える。
結局、ロックハートは言葉もなく、恥辱と不信の視線を浴びながら逃げ出すように退出した。
セラフィーナはようやくか、と軽く息を吐いた。
◆ ◇ ◆
その日の夕方、またひとり、生徒が襲われた。ちなみに日中は絶対に誰かとまとまって動くようにしている。疑われてはかなわないし、おかげでいちいち余計なことは言われずに済んでいる。
そして深夜。セラフィーナは考え事をしながら校内をぶらぶらと歩いていた。外出禁止令が出されていたがガン無視である。
(目撃証言が取れないのは厄介ね……。生徒と猫は石にされた。解呪できないということは『
被害者は今のところマグル生まれ、つまり"初代"。壁に書かれた文字から察するに純血主義者──スリザリン内部は互いの潔白のためにも常にまとまって行動するようにしているし、それを嫌がる生徒はひとりもいない。ジェマと自分が見ているので見落としはまずない。
となると犯人は教師?いいえ、去年からいた教員に怪しい者は見当たらない。
うーん、やっぱりさすがに情報が足りなさすぎるわね。話では49年前にも秘密の部屋が開かれたという。ちょうどトム・リドルが在学していた頃……
その時、セラフィーナの鋭敏な耳がずりずりと何かを引きずるような音を捉えた。
そして声を聞きとった。
「引き裂いてやる……殺してやる……八つ裂きにしてやる……」
(これは……蛇語?去年も散々校舎を歩いたけどこんなのいなかった。体躯は相当大きそう。これが生徒たちをやったの?蛇──陸棲の蛇の怪物──そんなもの一つしかいない。バジリスク!?その特徴は睨みつけ、目を合わせた者は即死。被害者は何らかの理由でたまたま目を合わせなかっただけ、かな。『継承者』の手先としても納得できる怪物だわ。厄介ね、どうする?
おそらく敵は壁か床の中にいる。手当り次第爆破して討伐?
一刻も早く駆除しないと。警備課に応援要請を……いや、彼らの手には余る。しかし、とても放置はできない。寮や大広間に現れた日には大量の犠牲者が出る。とりあえず追いかけつつ……
いや、蛇語を喋るということは意思疎通ができる?)
「あー、あー。どうも、バジリスクさん?」
這い回るような音がぴたりと止まった。
「む?何者だ」
蛇語が答えた。
「私はセラフィーナ・ゴーント。正当なスリザリンの継承者よ」
「なんと、それは真か?長い生を送ってきたが二人の継承者と同時に出会うのは初めてである」
「ええ、ここでは場所がなんだから落ち着いて話せる場所はあるかしら?」
そう、今セラフィーナは壁に向かって大声で謎の言葉をブツブツ言っている可哀想な子である。
「良かろう。ついてくるのだ」
再びズルズルと音が響いた。セラフィーナは小走りになって追いかける。
──あ、ちょっと待って、速い。む、すまぬ。
……やがてたどり着いたのは女子トイレだった。
再び声が響く。
「その中央の手洗い場から中に入れる」
セラフィーナは『開け』と唱えた。