スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
セラフィーナの休暇は相変わらず忙しい。警備課に足繁く通い、教育委員会にも顔を出して、夜はしばしばマルフォイ氏の家で父と三人で密談をする。学校にいる間は顔を出せない以上、皺寄せが全部ここへくるのだ。
(あーもう、どうにかしてホグワーツから直接家に飛べないかしら?こんなん学生の生活じゃないわよ)
それが出来ても忙しくなるだけなのだが。
とはいえ概ね平和であった。新聞を見るとウィーズリー家が『ガリオンくじグランプリ』を当ててエジプトに旅行するとかなんとか。
(正気?父親、アズカバン行きこそ執行猶予になったけど当局を首になったんじゃなかったっけ。来期からの学費払えるのかしら。知らんけど)
まあそんなニュースが流れるくらいには公安部も穏やかであった。
◆ ◇ ◆
そんな中ある日、驚くべき情報が飛び込んだ。
険しい顔をしたガウェインが眉間の皺を揉みながら多忙の中時間を作ってセラフィーナを呼び出した。
「詳細は資料の通りだ。凶悪犯のシリウス・ブラックが
そして、問題は、奴がハリー・ポッターを狙うかもしれないということだ。つまりホグワーツが危ない。一部の闇祓いは
それはともかく、来期からは魔法警察が警備を担当し、警備課の連中がそれの指揮に当たる。彼らにはお前と接触しても基本的には知らぬふりをするよう釘を刺しておいたが、事が起これば連携して対処することになる。合意形成は済ませておけ」
「承知しました」
「言うまでもなく、もし奴がホグワーツに現れた場合は君の担当範囲だ。責任もって柔軟に対処せよ。ポリジュース薬は切らすな。報告は随時上げろ、優先して確認する。それと暇があったら不自然にならない程度に奴の経歴や素性を調べてくれ。もちろん私や他のメンバーも調査するが。教職員の中には奴を知るものもいるだろう。他の監視官から上がってきた調査ももちろん共有するが、今は多角的な情報が欲しい」
「拝命しました」
「よろしい。ではこれで。ああ、全く……」
言い終わるとガウェインは急ぎ足で出ていった。
(えーまた面倒事?もうやーなんだけどぉ……)
給料──もとい、手当がいいのが唯一の救いか。セラフィーナは十分に資産があるのであまり興味が無いが。
◆ ◇ ◆
仕事を終え帰宅するとセラフィーナの父がキッチンで資料と新聞を片手に難しい顔をしていた。
「ああ、帰ったか」
「お早い帰宅ですね?てっきり缶詰かと思いましたが」
「ああなに、家で残業だ。エリスには文句を言われたがな。
しかしお前と話がしたかった。まず当たり障りないところから──成績は確認した。学年トップ、点数も含めて文句の付けようがない。それはいいとして問題は選択科目だ。希望はあるか?」
「全科目受けれるなら受けたいですが……まだ選びかねています」
「ああ、そうだな。私の時は
セラフィーナは瞠目した。
「なんと、そんな手が」
「ああ、それで本題だが、」
「シリウス・ブラック……ですか」
「そうだ。ロバーズとは話したな?」
「守秘義務は一応あるのですが──」
「いや、いい。私の立場だとほぼ全て耳に入ってくる。
調査を命じられているな?それに関してだが──ロバーズには話していないが、私は死喰い人としての奴の姿を見たことは無い。一度も、だ。あの組織でそれはまず有り得ない話だ。
寝返れば組織内で大々的に喧伝される。服従させればそれを成したものがやはり大々的に褒章の対象となる。スパイですらも組織内ではかなり盛大に送り込まれる」
「つまり──」
「うむ、そうだ。奴は直前に裏切ったか、直前に服従の呪文で操られたか、全くの冤罪か、何かしらの裏がある可能性が高い。なにか引っかかる。さすがに私が死喰い人だったことは公には無かったことになっているのでロバーズには伝えられんが、調査の上で裏が取れたら共有してくれ」
「承知しました」
「それと、あとは平和な話だ。友人のミス・グレンジャーとそのご家族を家に呼びたいと?エリスから聞いたが」
「まずかったですか……」
セラフィーナは父の厳しい顔に少しだけびびりながら聞いた。
「いや、いいだろう。例の『初代』の話を聞いたことだし、お前のそのマグル知識からくる見識で少しマグルに対する見方が変わってきているところだ。どこからその情報を仕入れてくるのだ?研究レポートも見たぞ。"わーぷろ"だか"ぱそこん"とやらにも興味が出てきているほどだ。書類が多すぎてな──それで、その娘は成績優秀なのだろう?」
「ええ」
「友誼を深めておいて損は無いと判断した。公には言えんがな、招待したまえ。私も時間が合えば顔を出す」
セラフィーナは顔をぱっと輝かせた。
「ありがとうございます!」
「その件についてもゆっくりと公表していくつもりだ。まずは信用出来る人間に限定して周りに話している程度だが、どう進めたものか。お前が考えておけ」
「はい」
「話は以上だ。では私は仕事に戻る」
セラフィーナは思わず声を掛けた。
「その、父上」
ギャレットは一瞬足を止めて顔を向けずに返事をした。
「なんだ」
「ありがとうございます!」
返事は返ってこなかったが、セラフィーナは満足気な顔を綻ばせた。
◆ ◇ ◆
「……おめでとう、ダフネ。もしそうなったらあなたの家は全国の魔法使いに笑われるでしょうね。『全員が石化したが、娘は元気でした』って日刊預言者新聞に見出しがつくわ」
「「「あっははははは」」」
今は、寮で同室のパンジーの家が主催のパーティーである。
若くして魔法省に出入りし、有用なレポートを学会に上げているセラフィーナはやや怪しい目をした大人たちから引っ張りだこだったが、主催のパンジーの父親が気を遣ってしばし子供たちだけの時間を作ってくれたのだ。
余談だが、スリザリン生の間では多少のブラックジョークやからかいはむしろ会話上手と見なされる。それがグリフィンドール生たちから余計な恨みを買っている節もあるが、
その時、ドラコがなんの気なしに言った。
「セラフィーナ、そういえばこないだうちに来ていたが、父上とそんなに仲が良かったのかい?」
あちゃー、とセラフィーナは内心で頭を叩いた。
「まあね、この間書いた論文、『多層結界の安定化に関する数理的解析』の件ね。興味深いからぜひ解説に、と」
ノータイムでしれっと答えた。ちなみに嘘は言っていない。
「なにそれなにそれー!」
「簡単に言うとプロテゴ──呪文を跳ね返す盾の呪文ね、それの強度を上げてつよつよにしちゃおうって内容ね」
「ふーん」
「なるほどー」
とりあえず聞いただけなのか、反応は薄かった。
(あぁ、ハーミィが聞いたら絶対食いつくのに。寮のみんなとバカ話して話すのもすごく楽しいけど、技術的な話で盛り上がれないのはちょっと、なんというか、残念ね……。ここはじわじわと魅力を伝えていかなきゃ)
セラフィーナはテーブルの下でそっと拳を握った。
楽しい歳の近い魔女、いや男子もいる──との語らいはあっという間に過ぎ去り、再びパーティーのメイン会場に戻る。
「ミス・ゴーント、初めまして。私はフェンウィックと申しますが──」
パーティーは長い。セラフィーナは顔に出さず内心でげっそりとした顔をした。
(あー、だっる……)