スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
セラフィーナはホグワーツ特急に乗り込んだ。
例によって早めに到着して席を確保したためコンパートメントは一人で独占である。
シリウス・ブラック対策で忙しくはあったが、今回は余裕を持って仕事を終わらせたので寝ることなく本を読み耽っている。
いや、正確には一人では無い。一人と一匹である。
去年散々な目にあったので、忙しい中ようやく時間を取ってペットショップに出かけたのだ。
ショップでケースを往復して見て回る前に一匹のフクロウと目が合った。純白の羽毛に琥珀色をした目を持ち、サイズは中型でとても優雅で気品があった。その目は深い知性を湛えており、セラフィーナは思わず声を掛けた。
「貴方、私の相棒にならない?」
フクロウは羽を広げ、ホウ、と一声鳴いた。
「この子をお迎えします!」
即決だった。箒の時と同じように一目惚れだった。誰よりも賢い目をしたそのフクロウにセラフィーナはぞっこんである。
セラフィーナはその子にニケという名前をつけた。ニケはフクロウを従える知恵の女神アテナの側近で勝利の女神の名前。アテナはさすがにベタすぎるのでひとひねり加えた形である。
部屋で放してみるとまったく手のかからない子であった。糞は決まったところでしかせず、優雅に飛び回って決して邪魔をしない。手紙を託せばあっという間にそれを届け、セラフィーナが乱雑に積んだ本の中でなくした手紙を探していたらすっと書類の中に飛び込んで見つけてのけたほどである。
そんなニケはコンパートメントの中でふわりと飛び回っている。一応籠は用意したものの、セラフィーナはもはやほとんどその必要性を感じていなかった。もちろん決まった寝床は必要だが自由にさせている。そして不思議なことに手紙を出そうと思うときちんと帰ってくるのだ。
(あー可愛い、癒しだわ〜)
と日に10回は呟いている。
◆ ◇ ◆
発車したあと、制服に身を包んだ男が列車の廊下を歩いてきた。セラフィーナにとっては嫌という程見慣れたあの黒くて格好いい制服である。
彼は順にコンパートメントの中を覗く。よく見ると警備課のマグナスだった。魔法道具オタクの彼である。彼はコンパートメントに顔を突っ込み、手早く中を見回した。
セラフィーナは小声で声をかけた。
「あら、マギー。あ、今は誰もいないから普通に喋っていいわよぉ」
マグナスも小声で返答する。
「お疲れ様です!」
「ええ、あなたもね。楽にして頂戴。念の為の見回りね?ご苦労」
「はい。念には念を入れて確認しております。さすがに居ないとは思いますが……」
「いい心がけよ。はい、砂糖羽根ペンあげる〜。頑張ってね」
「はい!ありがとうございます」
マグナスは不自然にならない程度にすっと敬礼し、セラが素早く答礼すると次のコンパートメントに向かった。
(今年は何も起きないでね……)
◆ ◇ ◆
変なフラグを立ててしまった気もするが、
ともかく、列車を降りるまで何も起こらなかった。
ホグズミードの駅で降りて先に進むとそこにはセストラルが牽く馬車が待機していた。去年は公務で行けなかったので初めてである。
(あら、可愛い子)
見ようによってはキモいというか不気味なその馬をセラフィーナは軽く撫でてから馬車に乗った。
「何してたんだ?」
いつの間にか現れたドラコが取り巻き二人を連れて乗り込んできた。二人が乗ると馬車が少し沈み込むのを感じた。少し痩せろ。
「ん?ああ、あー、見えないか。これね、セストラルよ。貴方には見えないでしょうけど」
「ええと……死を目にした者にしか見えないっていうあれか」
「そ。よく勉強してるじゃない」
「まあな、魔法生物飼育学の教科書は一通り読んでおいた」
「えらーい」
「ということは……、セラフィーナ、君は」
「ま、目にしたことあるわよ。喋らないけど」
「あ、ああ……」
(あら、純粋ね。やらなかったのね。私は父上にやらされたわ。
気まずい空気が流れているがお構い無しにセラフィーナは本を読み、生徒たちは運ばれていく。
そして暫くして、キリのいいところまで読み終えたセラフィーナは本をポン、と閉じた。
「そういえば新しい箒が発売されたわね──見た?」
ドラコはその気まずい空気を吹き飛ばすように明るく応えた。
「ああもちろん。ファイアボルト、最強の箒って噂だね」
「
「あー、どうだろうな。値段は君の物のほうが倍以上するんだろう?」
「ええ、でも発売が後だからどうかしらねー」
「量産品と一点物ではまた話が違いそうだが……。お前ら、どう思う?」
「ん?あぁ……」
(聞いてなかったわね、ゴイル)
「乗り比べてみたいわね、ドラコ貴方、一本買ってきてくれれば良かったのに」
「さすがに高いな……。まあ買えるが」
「ニンバスを使っていたプロチームは挙って乗り換えてるみたいね」
「らしいな、性能表見たが圧倒的だよな」
「
「うーん、買うかなあ……」
ぶっちゃけ男子には箒の話を振っておけば一生会話が続く。二人は学校に到着するまで会話を楽しんだ。
◆ ◇ ◆
新入生歓迎会はつつがなく進行した。新たな
それ以外には特筆することも無く、生徒たちは寮に向かった。
三人部屋に着くとパンジーが腰に手を当ててセラフィーナに言った。
「今年はちゃんと外に出てくるんでしょうね?去年度みたく一生引きこもってたら私たちいじけてスーツケースの前で踊りを踊るわよ」
セラフィーナは吹き出した。
(なんだっけ、東洋の神様のアマノイワトだっけ?てことは何、全裸で踊るの?そりゃ出てくるわよあたしも)
「まあ大変そうだったからそっとしといたけどね」
「ありがとう、二人とも。今年は……何事も起きないといいわね」
「それは本当にそうね」
セラフィーナだけが真相を知っているが、生徒が石にされた事件はまだ記憶に新しい。表向き解決したことにはなっていないので生徒たちにはまだ怯える気持ちが残っている。
「もし何かあったら私がぶっ飛ばすわ!」
セラフィーナが力強く宣言すると小さな拍手が起こった。
「いよっ、スリザリンの継承者!」
「それはあんまし笑えないわね……」
楽しい学校生活がまた始まる。セラフィーナは久方ぶりに落ち着いた気持ちを取り戻していた。