スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
週明け一発目は
生徒の前にはガタガタと揺れる大型の洋服箪笥が置かれている。
「やあ、みんな」
ルーピン教授は気さくに話し始めた。
「今日は教科書はいらないよ。今日は実地訓練をしよう」
実地訓練と聞いて生徒たちの間に若干の苦い空気が漂った。去年の最初の授業でピクシー妖精騒ぎがあったのはまだ記憶に新しい。
「さて、ここにいるのは
セラフィーナは辺りを見回し、誰も手を挙げないのを見てからすっと手を伸ばした。
「形態模写妖怪、相対した者が最も怖いと感じる物に姿を変えます」
「その通り。だから、中の暗がりにいる
(相手したことないのよねぇ……。閉心術極めてたらどうなるのかしら?)
「さあ、
「「「
「明瞭に、大きな声で」
「「「
「よーし、いいね。でもこれだけでは十分じゃない。
……ネビル、いいかな。君が一番怖いと思うのは何かな?」
指名されたロングボトムがおどおどと答えた。
「……スネイプ教授」
生徒は皆爆笑した。が、ルーピン教授は真面目な顔で何かひそひそと話し始めた。
そしてそれが済むと教授は杖を抜いた。
「それでは始めよう……いち、に……さん」
取っ手がガチャリ、と回った。
「
スネイプ教授の姿で現れた
「並んで、順番にやっていこう」
生徒たちは押し合いへし合いして列を形成した。
セラフィーナは列の先方寄りの位置に収まった。
(私、何になるのかしら。怖いもの……校長?いやそんなに怖いとは思わないかな。うーん……)
◆ ◇ ◆
ミイラやバンシー妖怪、蜘蛛に大蛇などと怖いもの見本市が続いたあと、セラフィーナの番がやってきた。
グルグルと身体を蠢かせたあとそこに現れたのは彼女の両親だった。それだけでも人が死にそうなほどの殺気を漲らせ、恐ろしい形相で杖を振り上げている。あの幼少期にさんざん悪夢で魘された、実在しない、純粋な記憶ですらない、"恐怖の擬人化"である。
ひゅっ、とセラフィーナの喉が鳴った。
心の一番奥に眠っていた恐怖が身を竦ませる。それを必死に表に出さないようにし、彼女は傍目には平然と呪文を内心で唱えた。最速で処理したいので発音する気すら湧かない。
(
両親がサンタクロースの格好に変わり、にこやかに笑いかけた。笑えねー。ぜんっぜん笑えない。まあ、別に、良いけどさ、目の前のこいつなんて。それは本当にどうでもいいけど、笑えない。うん。
列から外れ、壁にもたれ掛かる。他の生徒たちは次の挑戦者に気を取られていてセラフィーナの様子には気づいていない。
ふーーーっ、と深い息を吐く。
(過呼吸になるかと思ったわ、なんで忘れていたのかしら)
それはもはや条件反射であった。
そして疲労も相まって、訓練後に見る悪夢と、恐怖のイメージがすべて混ざり込んでああいう形で恐怖が肥大し、それを
(というか初回の授業で
ってか、どうするのよ、誰かの前で全裸の男性が出てきたら。その子飛び降りるわよ、窓から。せめて個人授業でやるか、少なくとも一発目の授業でこれはない。マジでない。それとも何、勇気友情勝利でなんとかなると思ってた?言いたくないけど、
強いストレスの記憶は体が無意識に封印して忘れようとするものである。しかしそれを強制的に思い出させられたセラフィーナはお腹の底がキュッとなる感覚がずっと続いていた。
◆ ◇ ◆
その後、ポッターの番がやってきた。ぐるぐると変化した姿はクィレルに寄生した
生徒たちから悲鳴が上がり、ポッターが強ばった表情で杖を振り上げようとした時、ルーピン教授が割り込んだ。
そして再び変わった
(雲間から輝く月?なぜ?ってか、
ルーピン教授は面倒くさそうに杖を振って
「今日はここまでにしよう。宿題として
皆ガヤガヤと喋りながら教室を出ていった。セラフィーナも、ずーんと重い身体を引きずって人の波に飲まれながら教室を後にした。
◆ ◇ ◆
ふと思い立ってセラフィーナは地下教室へ向かった。
研究室のドアを開き、
「きょーじゅー……」
とだるそうな顔を隠さずに入室した。
スネイプ教授は何かの薬を調合している最中だった。
「どうした、ゴーント──む、気分でも悪いのか」
「そんなところですわ、ちょっと、色々、思い出したくないものを思い出しまして」
セラフィーナは顔を顰めて言った。
「授業か?何があった」
「
「なるほど」
スネイプ教授は手を止め、棚に向かった。
セラフィーナは机に突っ伏している。
「5%ハナハッカ水で希釈した安らぎの水薬だ、飲んでおくか?」
「いただきますわ……」
教授はすぐにまた大鍋に戻った。そして煎じている薬から目を離さずに呟くように言った。
「見ての通り、今は手が離せないのでな。しかし会話くらいなら可能だ。しばらく休んでいけ」
「ありがとうございます……」
◆ ◇ ◆
結局セラフィーナは特に語らなかったが、カタカタと薬を煎じる音を聴きながら頬杖をついてぼーっと時間を過ごし、そして次の授業の時間が迫ったところで研究室を辞した。
「お邪魔致しました」
「構わぬ。いつでも来るが良い」
セラフィーナはぺこり、と頭を下げた。
「ありがとう存じます」
ちなみに昼は抜いた。とても食べる気分ではなかった。