スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄   作:魔法史編纂委員会

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1-6 初めての授業

記念すべき最初の授業は変身術だった。

マクゴナガル教授は開口一番に訓示(チュートリアル)を始めた。

「変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中でも最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で臨む生徒は追い出しますし、二度と授業を受けさせません」

それは正しいとセラフィーナは思った。変身術は割と簡単に死に繋がるし、下手な呪文よりよほど高度な知識が必要だ。

と、その時、バタバタと足音がして赤毛の男の子とボサボサの黒髪の男の子が教室に入ってきた。黒髪の方はあのハリー・ポッターである。

「あなたたち2人を懐中時計に変身させましょうか、そうすれば遅刻しないでしょう」

マクゴナガル教授、さっそくおこである。

「道に迷って……」

「では地図にしましょうか」

「……」

「地図なしでも席は分かりますね?」

(聞いた?いまの。ウケる)

(ああ、最高だな)

セラフィーナはドラコと顔を見合せてニヤッと笑った。それはもう、悪い顔で。

真顔であんな面白くて知的なキレ方されたらそりゃ笑ってしまう。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

黒板3枚を使って理論を説明したあと、マッチ棒が配られ、それを針に変身させるという実習課題が出た。

セラフィーナは適当にマッチ棒を杖で叩いて針に変化させた後、退屈しのぎに本を開いた。変身術の授業に合わせ、タイトルは『人ならざる形への招待』である。

(この触手だらけのニャルラトホテプみたいな化け物になりたい人なんているのかしら……)

そんなことを考えていたら教授が教室を回ってきた。

「おや、ミス・ゴーント、もうできたのですか!?」

「はい、まあシンプル(クソ簡単)な課題でしたので」

「皆さん!ミス・ゴーントがやりましたよ、この鋭く尖って美しい針をご覧なさい」

皆は身を乗り出して教授の手元を見た。

「素晴らしい出来栄えと予習の成果にスリザリンに5点差しあげましょう」

(もしかして、私、なんかやっちゃいました?)

なんちゃって、である。

 

ドラコや同室の二人をはじめ、皆が苦労しているので板書の補足説明をしたり、変身の術をあえてゆっくりやって見せたりしているうちに授業終了の時間になった。

次の授業もグリフィンドールと合同で、魔法薬学の授業だ。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

地下教室はひんやりしていて少し湿っぽい。

壁にはずらりとガラス瓶が並び、ホルマリンだかアルコール漬けになった動物などがぷかぷか浮いている。気持ち悪いと思う者もいれば、わくわくする者もいるだろう。セラフィーナはもちろん後者である。

始業の時間と同時にバーンとドアが開き蝙蝠のようにローブを翻して担当のスネイプ教授が大股で部屋に入ってきて、呟くように語り出した。

「この授業では杖を振ったり馬鹿げた呪文を唱えたりはしない。魔法薬調合の微妙な科学と芸術的な技を諸君が理解できるとは期待しておらん。だが、一部の……」

隣り合って座っているドラコとセラフィーナの方をちらりと見てから続けた。

「……素質のある、選ばれた者には伝授してやろう。人の心を操り感覚を惑わせる技を。名声を瓶の中に詰め、栄光を醸造し死にすら蓋をする……そういう技を」

ドラコはキラキラとした目で教授を見ていた。セラフィーナもまた、いくつかの論文で教授の名前を見ている。純粋に尊敬である。

「ところで──諸君の中には自信過剰の者がいるようだ。既にホグワーツに来る前に力を持っているから授業など聞かなくてもいいと言うわけか?」

……それはもしかしなくてもセラフィーナのことかもしれない。が、スネイプ教授がロックオンしていたのはなにやら羊皮紙に落書きをしているハリー・ポッターだった。うわ、態度悪っ。ここは耳を傾けるところでしょうに。空気読みなさいよ。

 

「ミスター・ポッター?その名も高きミスター・ポッター?」

ああ、もう面白い。静かな声質のねっちょり感が最高。

教室は更に静まり返ってポッターは慌てて羽根ペンを置いた。

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加えると何になる?」

ポッターは首を振った。

「分からんか。ではもう1問。ベゾアール石を見つけるにはどこを探せばいい?」

「分かりません……」

ドラコはニヤニヤと笑っている。いや、ベゾアール石なら教科書のかなり前半に書いてあったけど。……読んでないな、これ。

「ではモンクスフードとウルフスベーンの違いは」

「分かりません」

「全く……情けない。名前ばかり有名でも仕方ない、そうは思わんかポッター」

ねっとりとした教授の声に耐えきれず、ぷっ、とセラフィーナが噴き出す音がしんとした教室に響いた。おっと失礼。優雅じゃないわね。

(まああの導入で話聞いてなきゃそりゃ教授もお怒りになるわよね。いい話なさってたのに。……しっかし面白すぎるでしょ)

赤毛の男子がセラフィーナを睨んでいたが、華麗にスルーしドラコと顔を見合せて二人はくすくす笑った。笑う以外の選択肢があろうか?──いや、ない。

 

「さて、誰か分かる者はいないのかね?」

セラフィーナは控えめに、すっと手を挙げた。ドラコは手を挙げかけて迷っていた。この空気の中で答えるには自信が足りない方が勝ったようである。

目線で促され、セラフィーナは簡潔に答える。

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加える……単なる苦い汁ですが……」

ここでチラッと上目遣いで様子を伺う。いいぞ、という表情が見えたので続けた。

「……ご質問の意図的に、刻んだカコノソウの根と催眠豆の汁も合わせれば生ける屍の水薬になります。

万能解毒塊(ベゾアール石)を探すならヤギの胃袋の中。

モンクスフードとウルフスベーンは同義、アコニタム(トリカブト)の別名です。……違いと仰られたので俗称の地域差と亜属(Subgenera)の対応関係までお答えすべきでしょうか?」

ドラコは横で頷いている。まあ、こんなもんかな。

「いや、十分だ。結構。実に結構

……諸君、なぜ今のをノートに書き取らんのかね?(Why not?)

教室中が慌てて羊皮紙を広げて羽ペンを手に取った。

「ミス・ゴーントに2点やろう。それからミスター・ポッター、その無礼な授業態度に1点減点」

ポッターはなにか言おうとして横の赤毛に肘打ちされて慌てて黙った。

「さらに詳しく説明してやろう。生ける屍の水薬とは……

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

板書の後、授業はおできを治す薬の実習に移った。

ヘビの牙は胡麻粒大になるまで注意深く均等に砕く。これが品質を上げるための密かなコツである。干したイラクサは、教科書には書いていないが実は適当な量でもいい。しかし手がかぶれるので手袋は必須だ。カエルの脳はよく練ってから投入する。

角ナメクジはペアで組んだドラコが綺麗に茹でてくれた。地味に、雑に茹でるとグズグズになってしまうので簡単ではない(結構ダルい)のだ。感謝である。

「諸君、ミスター・マルフォイが角ナメクジを完璧に茹でたから見るように」

とスネイプ教授が言った。スリザリンからおお、という声が上がる。正当なお褒めの言葉だし、皆も参考に覗き込む。コツは?などと聞かれてドラコも心做しかドヤ顔──

 

──と同時にグリフィンドール側のテーブルで爆発音がして強烈な緑色の煙が上がった。やばい、雨が降る。

セラフィーナは反射的に杖を抜いて、

プロテーゴ(Protego)マキシマ(Maxima)

()()()()を内心で叫んだ。有言呪文では間に合わない。まさに反射である。

 

銀色の盾がスリザリン生全員を覆い、盛大に飛び散ったおできの薬──というよりおできにする薬と言った方が正しい──から同級生を守った。盾にはそれなりにグリフィンドール生も含まれたか。

「馬鹿者!大鍋の火を落とす前にヤマアラシの針を入れたのだろう?」

教室の半分は阿鼻叫喚だった。

直撃を避けたグリフィンドール生も、床にこぼれた薬が広がって椅子の上に避難している。薬を被った生徒には真っ赤なおできが広がり、泣き出す者もいた。

「医務室へ行きなさい」

 

そしてスネイプ教授は八つ当たりのように隣で作業していたポッターに言いがかりをつける。

「ポッター、針を入れてはいけないとなぜ言わなかったのかね?ロングボトムが間違えれば自分の方が良く見えると考えたのか?グリフィンドールはもう1点減点」

そして顔をいつもの仏頂面に戻してからセラフィーナの方を向いて、

「ミス・ゴーントの見事な盾呪文に3点」

「ありがとう存じます」

「しかし最大防御呪文(プロテゴ・マキシマ)はさすがに役不足だろう」

それはそう、である。教授も心做しか鉄面皮の下で少し嗤っている気がした。

「咄嗟の反応でしたので……」

てへ。

 

ひと騒動あったが、初日の授業はこんな風に過ぎていった。

 

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