スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
ダンブルドアの件でしばらく悩んでから、セラフィーナはスネイプ教授の研究室に向かった。今は癒しが欲しい。
教授は今日も何かの薬を煎じていた。
「む、ゴーントか。調子は良くなったのか」
「ええ、その節はありがとうございました」
「構わぬ。して、何か用か?」
「いえ、少し息抜きに」
スネイプ教授は若干呆れた様子で言った。
「他に行く宛ては無いのか?まぁ良い。私は手が塞がっているが自由に過ごすが良い」
「わーい、紅茶淹れますね」
自由である。戸棚を勝手に開けてポットとティーセットを取りだしてヤカンを沸かす。茶葉は迷った挙句、特殊なものを選んだ。だってあるんだもん。いいよね?
◆ ◇ ◆
「はい、教授」
カップにお茶を入れて鍋に向き合っている教授の手元に置く。スネイプはほとんど上の空で口に運んでから、
「っ!ゲホッ」
噎せた。
「
「いえ、戸棚にあったのでお嫌いでは無いのでしょう?それにそれしきで教授が失敗なさるはずもないでしょうし」
「まあ……たまには飲むが……」
その味はさながら東洋の胃痛に効く丸薬のようである。それが癖になる美味しさなのだが、ノールックで飲むにはきつい味である。
「ところで教授、シリウス・ブラックはどんな人物でしたの?」
教授は再び噎せかけた。
「知らん」
「あら?同学年だったのでしょう?そしてルーピン教授も」
スネイプはドラゴンの金玉を噛み潰したような表情になり、しばらくしてから口を開いた。
「まあそうだ。奴らと私はスリザリンとグリフィンドール、仲が良かったとは言えない。ポッターも……」
「ポッター?」
セラフィーナは聞き逃さなかった。
スネイプは口篭ったが、ジト目で見つめ続けると、やがて口を開いた。
「……うむ、ハリー・ポッターの父親だ。奴らは親友同士だった。私を目の敵にしておってな、やったりやられたりを繰り返す関係だった」
「あら、教授もやられたことがおありで?」
スネイプの顔がさらに曇った。
「奴らは不意打ちも上等、しかも四対一でだ。卑怯だと思わんか」
「四?三人ではなかったので?」
「ああ……。左様、もう一人いた。腰巾着がな。奴はブラックが消し飛ばした……」
「あら、それがピーター・ペティグリュー?」
「む、よく知っているな。そうだ」
「シリウス・ブラックはなぜ裏切ったのでしょうね?」
「わからん。仲は良かったように思うがな……。この話は終わりだ、あまり深入りして面白い話でもない」
「面白いですが!?」
セラフィーナは食いついて離さない。
「やめておけ。奴は13人ものマグルを殺した凶悪犯だぞ」
「ええ、でも私も教授もそれくらい朝飯前ですわよね」
「それはまあ……」
やるとは言ってない。
話を躱したセラフィーナは再び情報収集を試みた。
「では最後に一つだけ。ルーピン教授はどうでしたの?」
「どう、とは」
「いえ、うーん、裏切り者のシリウス・ブラックやポッターの父親とはどういう関係だったのかなと。──ついでに話逸れますがあの方、人狼ですよね?」
「ううむ……。私の口はそこまで軽くないぞ」
(ちっ……)
セラフィーナは再びジト目で教授を見つめる。
ややあって、教授は自然に目を逸らして鍋の中身をゴブレットに移し替えた。
「これは彼の『持病』に効く薬だ。私は『忙しい』ので代わりに届けてくれ。上手く『使え』」
セラフィーナは
「あら、教授もお人が悪い」
「なんの事だ?」
セラフィーナは残りの茶を飲み干して研究室を辞した。美味しかった。さすが『喫茶・蝙蝠』、変わり種も良い茶葉を置いている。
◆ ◇ ◆
脱狼薬
すぐに扉が開き、彼は意外そうな顔で出迎えた
「やあ、セラフィーナ。何の用かな?」
「立ち話もなんですから失礼できますか?」
「いいよ、入りなさい」
後について部屋に入る。部屋の中には
「どうぞ、掛けて。それで話ってなにかな?」
ルーピン教授は朗らかに言った。
セラフィーナはニコニコとした笑みを浮かべながら言い放った。
「では単刀直入に。教授の『持病』の件ですが」
ピシリ、とルーピンの顔が凍りついた。
「なんの、事かな?」
「あら、では『月のもの』とでも言い替えましょうか?女性でもないのに。ね、狼さん。あーら、やらしーっ」
ルーピンは天を仰いだ。
「いつから……」
「初回の授業で
ルーピンは深々とため息をついた。
「いい職場だったんだけどな……」
セラフィーナは笑顔のまま告げた。
「それはまだ分かりませんわよ、質問に答えていただければ。もしかしたら私はそこまでお喋りじゃないかもしれませんし」
「何なりと……」
もはやルーピンに拒否するという選択肢はなかった。
「シリウス・ブラック」
セラフィーナがその名を口にするとルーピンは動揺した顔を上げた。
(隠し事とか苦手そうねー、この狼。初回授業の気持ちちょっとは……うん、わかんないでしょうね、いちいち丁寧に繋げてやらんけど)
「彼とはどういう関係でしたの?」
「友人だった」
簡潔に答えた彼の目は泳いでいる。
「それだけですの?あー、私、友達とお喋りしたくなってきたかも」
セラフィーナはにこやかにそう嘯いた。
「いや、待ってくれ。……親友だった」
「それで?」
圧をかけるとルーピンは喋りだした。
「私の『個人的な事情』も知って、それでも彼らは付き合ってくれた」
「彼ら──ポッターの父親と、ピーター・ペティグリューですわね?」
「よく調べているね……。そうだよ。正直、彼が裏切ったと知った時とても信じられなかった。今でも信じられない気持ちだよ。彼はたとえ拷問されたとしても裏切るくらいなら死を選ぶような性格だった」
「ふぅん……。脱獄した方法に心当たりは?」
「分からないよ」
その言葉には何か後ろめたいものがあった。
「嘘ですわね」
セラフィーナは薬の入ったゴブレットを目の前に置いた。ルーピンが手を伸ばすと同時にそれを後ろに引っこめて言った。
「あるのでしょう?」
ルーピンは何度か口を開きかけては閉じるのを繰り返したあと、躊躇いながら言った。
「彼、いや、彼らは未登録の
セラフィーナの目が大きく見開かれた。
「それで
「……おそらく。奴らや人の目を誤魔化すのは容易いと思う」
「それで、なんの動物に?」
ルーピンは再び躊躇ってからゴブレットをチラチラと見て、重い口を開いた。
「シリウスは黒い犬だった」
「ふぅん……。で?」
「ぇ」
「残り二人」
「あ……ああ、ジェームズ──ハリーの父親は牡鹿、ピーターは小さな鼠だった。この件はどうか……」
「まあ、いいでしょう、"わざわざ喋る"相手も居ませんし」
セラフィーナはしれっと言ってゴブレットを彼の前に置いた。
(
それはそうである。
はぁーーーー、とルーピンは深いため息をついた。
「それで、ブラックは本当に裏切ったか怪しい、と?」
「うん、私としては半信半疑くらいかな。でも状況からは彼が裏切ったと考えざるを得ないし、事実、判決もそうなっているからね」
「うーん、なるほど。彼はホグワーツに現れると思いますか?」
「どうかな。シリウスがハリー、ジェームズの息子に殺意を抱いているとは、私としてはあんまり考えにくい」
「そうですか……」
謎は深まったが、得られる情報はそれくらいか、とセラフィーナは判断した。
「では私はここで。もし何か分かったら教えてくださいね?黙っていたら……もしかしたら私、お喋りになってしまうかもしれませんわ」
「ああ……わかったよ」
ルーピンはげんなりした顔でセラフィーナを見送った。
以前連載していた時はここまででした。
これからは投稿ペースが今までほどにはならないと思いますが、
今回は完走するつもりですので、引き続きご愛読いただければ幸いです。