スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
首に鎖をかけ、くるくると回す。
毎回思うが、こんな代物をただちょっと回すだけというのは如何なものだろうか。せめてセイフティロックくらい搭載してしかるべきだし、軸も軽く回りすぎて怖い。
ともかく、重複した授業を終えたあと、2時間戻して仮眠だ。
そのぶん歳をとるのは分かっていつつ、こうでもしないと寝不足で倒れそうだし、睡眠サイクルが壊れるので昼寝と眠り薬や元気薬で調整しないとやっていけない。定例の
それはさておき、今日はハーミィと、さらにレイブンクローの後輩というルーナ・ラグブッドちゃん(?)と三人でお茶会の約束をしていて、地下の古城の絵の前で待ち合わせと伝えてある。
絵の前に向かうと二人はもういた。ハーマイオニーはいつもどおり、人を殴り殺せそうな厚さの本を立ち読みし、もう一人──間違いなくそのルーナちゃんだろう──はなにやら雑誌を逆さに読んでいる。
セラフィーナは礼儀正しい顔を作って話しかけた。
「はじめまして。少し話は聞いていたけれど、セラフィーナ・ゴーントよ」
するとその女の子は雑誌を開いたまま抱えるようにして応えた。
「あ、スリザリンの
お、おう。……や、これ悪気ないやつだ。
見かねたのか、ハーマイオニーが付け足した。
「えーっと、こんな感じ。ルーナって呼んであげていいわよ。前も話した通り、同じレイブンクローの後輩ね」
「計り知れぬ英智こそ、われらが最大の宝なり♪」
ルーナは歌うように言い、それを聞いたセラフィーナは内心で盛大に顔を顰めた。
その寮の標語も
いや、この子は胡散臭くはな……ごめん、蕪を耳からぶら下げてるのは別のベクトルで胡散臭いわ。
それはさておき、なるほど。
割とこう、感覚で生きているというか、思ったことはまっすぐ口に出し、なにか思いついたら特に空気読まずに言う……感じかな。うん、ハーミィとは確かに対極だわ。
「それで、地下に喫茶店なんてあるの?」
ルーナが目をきらきらさせて言った。
あ、ハーミィそのまま伝えたのね。てか、ハーミィもこれ分かってないやつだ。ウケる。まじでウケる。
「あるよ、ちゃんと三人席の予約とったから、行きましょ」
そう適当なことを言い、歩き出す。ちなみに予約なんてとってない。ただし、『友人を連れてきてもいいですか?』と聞いたところ、『暗黙の了解を守れて無闇に言い触らさない者ならよい』と言質をとったのは事実だ。つまり予約したも同然。
教授の研究室はすぐ近くである。
スタスタと歩いて唐突にクイッと向きを変えて扉をバーンと開ける。
教授はなにやら本棚を弄っていた。どうした、と言いたげな教授の顔をよそに、セラフィーナは堂々と
「ここが喫茶・蝙蝠、私の行きつけのお店だよー」
ばすん。
たまたま手に持っていた分厚い論文か何かが頭に振り下ろされた。
◆ ◇ ◆
「ささ、こっち座って座って。
と一切悪びれずにセラフィーナが言うと、スネイプ教授は目覚めの水薬を飲みすぎた翌日のような顔をしながら戸棚を開けかけ、それから何も手に取らずにすぐに閉じてから口を開いた。
「私はここをたまり場にしていいとは言っていない──」
帰れ、と言いそうなそれにセラフィーナは被せて言う。
「あら、"無闇に言い触らさないなら連れてきてもよい"」
「……」
「とおっしゃいましたし、
──それに二人ともそんなことしませんわよね?」
と振り返る。二人に向けて若干、意識的に瞳孔を開いて圧をかける。二人はこくこく頷いた。
「……というわけで、お願いしますわ。今日の気分はギダパール農園のファーストフラッシュですわね」
と畳み掛ける。教授はため息をついてから湯を沸かし始めた。文句なんて言わせない。
やったぜ。あたしの勝ち。
あ、そういう空気感?とふたりが困惑してるのは……しらん。
◆ ◇ ◆
紅茶を四人分入れると、ダージリンを片手にごく自然とスネイプ教授は席に着いた。
「……それで、スリザリンの筆頭
あ、そこ掘るんですか。はい。
「企みとは失礼な。ハーミィと仲良くなったものの、一応曲がりなりにも純血思想のコアたるわたくしがマグル生まれの"初代"と仲良くする姿を周りに見せて、誤った理解であらぬ風に関係性を受け取られるのはさすがに避けたいので……まともに肩の力抜ける場所なんて校内でも
としか言いようがない。そして教授にはもちろん
「……なるほど。いや、待て、なんだ、その初代とは」
「あれ?お話してませんでしたっけ」
あ、話してないかも。
ローブの懐を探って
教授と、ついでにルーナにも渡した。
◆ ◇ ◆
読み進めるにつれ、教授の顔色がどんどん悪くなっていった。
そして呟く。
「リリー……」
り?なんて?セラフィーナはそれをほとんど聞き取れなかった。
(ん?なにか地雷踏んだ?ただあたしが悪いやつでもない?まぁ、いいか……)
そして、そのまま資料を片手に奥へ引っ込んでいった。どしたんだろ。
もうしばらくしてルーナが読み終えたのか、口を開いた。
「これおもしろい。パパに言ったら特集になると思う〜」
ん?
「特集?なにか報道関係の仕事してるのかしら」
「
そう示されたのはさっき逆さに読んでいた雑誌。名前は……ザ・クィブラー。
ばっ。
セラフィーナは目にも止まらぬスピードで資料を回収した。
(
◆ ◇ ◆
なんとも言えない空気のまま、なんとなく空気が発散してしまった。
ルーナは再び雑誌『ザ・クィブラー』をマイペースに読み始め、ハーマイオニーは手持ち無沙汰なまま本を開き、セラフィーナは火にかかったままの鍋を覗き込む。あ、脱狼薬。
セラフィーナはそのまま続きを煎じる。
材料はあらかた机の上に揃っていたので、手際よく続きの作業を進める。出ていなかった材料は勝手知ったる薬棚を漁った。
◆ ◇ ◆
そして夕食の時間が近づき、なんとなく解散かなと思い、
「じゃ、またそのうちここでお茶飲みましょ〜」
とやんわり二人を追い出して完成まで一人でコトコト煮込んだあと、
『責任もって完成させて
と書き置きを残してセラフィーナもまた無人の研究室を辞した。教授は最後まで顔も見せなかった。
……思ったより核地雷だった?ま、そっとしときましょ。