スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄   作:魔法史編纂委員会

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1-7 深夜徘徊

さて、授業初日の夜、さっそくセラフィーナは同室の皆が寝静まるのを待ち、目くらまし呪文を自分に掛けてそっと寮を抜け出した。

つい1か月前までは毎晩遅くまで両親にしごかれてきたセラフィーナである。

(あぁ、自由って素晴らしい)

深夜徘徊はどうかと思うが。

 

セラフィーナがまっすぐ向かったのは例の『四階の右手の廊下』である。

(授業より楽しいといいけど)

何が待ち構えているのだろう、とワクワクしながらドアを開き、そして彼女は一瞬固まった。

(ケルベロス!?初めて見たわね)

三頭犬(ケルベロス)は突然の侵入者に驚き硬直したあと、ブァーーと唸り声をあげた。かわいい。

(うーん、どうしようかしら、まぁここは穏便に、)

インペリオ(Imperio)

と唱えた。十分に魔力の籠ったその呪いは一瞬にして三頭犬(ケルベロス)を大人しくさせる。

(これだけ?なら拍子抜けだけれど)

 

ここはあの万能呪文の出番である。

レベリオ(Revelio)

すると三頭犬(ケルベロス)の足元にあるトラップドアが示された。

「はーい、ちょっと退いて頂戴」

犬は尻尾をぶんぶんと振って後退した。

 

無意識に片手で顎の下をもふもふしながら杖を振って扉を開けて覗き込んだが、底は見えない。なので、

ルーモス(Lumos)マキシマ(Maxima)

まるで太陽のような明かりが底を照らした。

はるか彼方の床には何やら緑色のものが見えるが、遠すぎてよく見えない。

(まぁ、行くしかないわね?)

セラフィーナは身体を黒い煙に変化させると箒なしの飛行術で穴の中に飛び込んだ。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

床に近づくと、その正体は不気味な植物だった。

(悪魔の罠?まあスルーでいいでしょう)

おそらく、無防備に飛び込んだ者を捕らえる罠なのだろうが、箒無しで飛び回れるセラフィーナには関係なかった。

 

悪魔の罠の下には通路が続いている。

 

その音を聞きながらやや進むと何やら鳥の羽の音のようなものが聞こえてきた。

(何かしら?)

飛び回っていたのは羽がついた……おそらく、次の部屋への鍵。うわ、ちょっと綺麗。

部屋の中央にはご丁寧に箒が置いてある。

セラフィーナは別に箒に乗れない訳ではないが、

アキオ(Accio)

雑に呼び寄せ呪文を試した。

が鍵は来ない。それくらいは対策しているか。

 

咳払いをし……

「ん゛ん゛っ……ア キ オ(Accio!!)

今度は本気で魔力を通し杖を振った。

すると1本の鍵がびゅんと空から飛んできてセラフィーナの手に収まった。

(次は何かしら?)

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

次の部屋には巨大なチェス盤があった。

(えぇ……)

チェスが苦手な訳では無いが、想定外に一瞬だるいな、と思ったのは事実である。だが……

(まぁ、せっかくだし遊んでいこうかしら?)

 

25分後、クイーン役をやっていたセラフィーナがチェックメイトをかけ、相手が投了した。

(はぁ〜、久々に遊んだわね、チェス。前の前のパーティーの時以来、半年ぶりくらいかしら?)

セラフィーナは"魔法チェスの作法"に合わせ、敵を討ち取る度にノリノリでボンバーダ(爆破呪文)をぶっぱなしていた。駒がそれをやるなら自分もやらない方が"おかしい"だろう。その結果は瓦礫の山。死屍累々もいいところである。

投了して剣を棄てた敵のキングの顔が若干引きつってるような気がするのは……気のせいだろう。石像だし。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

死屍累々となっている盤上を通り抜けると、次の部屋はトロールが待ち構えていた。

(うっわ!くっさ!!)

トロール(M.O.M.分類 XXXX)を見て咄嗟に死の呪いを撃たなかったのはこの試練のぬるさに毒されている証拠かもしれない。

ブワー、と唸る声を前に、セラフィーナは首を傾げて一瞬考える。

(アスレチックっぽいし、あんまり(従業員)を無駄に傷つけたり解体したりしないほうがいいわよね。うーん、穏便に?でもこいつ服従させるのもなんか気色悪いから嫌だし……ま、いっか)

そして魔力をしっかりと込めて唱えた。

ステュピファイ(Stupefy)

赤い閃光は襲いかかろうとしていたトロールの巨体を貫き、そのあとその体は床に崩れ落ちる。

(これ、上級生ならともかく、確かにそこらの一年生なら『とても痛い死に方』をするかもしれないわね?)

今更かい。

 

 

強力な麻痺呪文で気絶したトロールにできるだけ近づかないようにして鼻を押えながらセラフィーナは次の部屋に向かった。

そこにあったのは机に並ぶ小瓶と謎かけの文章、そして燃え盛る炎だった。

謎解きは脳内で条件を並べたら普通に解けた。まあナンプレ感覚である。いい問題だった。

 

薬は一番小さい小瓶。間違いない。だが……

(これ、普通の火?悪霊の炎(フィーンドファイヤ)とか悪魔の護り(プロテゴ・ディアボリカ)じゃないわよね?なら、)

イグニス(Ignis)レニス(Lenis)

中世に流行した炎凍結呪文である。おそらくホグワーツの教員……たぶんスネイプ教授が配置したものであろう薬だが、ポリシーとして得体の知れないものを拾って飲むのは、なんというか生理的に受け付けない。

炎に入るとくすぐられるような感触があり、それを抜けた先の部屋には小さな包みが転がっていた。

 

(これが報酬?中身は何かしら……)

包みを開けると赤い宝石のような手のひら大の石が転がり出た。

(ふーん綺麗。まぁでもわざわざこんな学校の、前フリつきのいかにもな部屋にこうやって置いてあるということは、普通に考えて──いや()()()()()()クエストの報酬よね?遠慮なく頂いていきましょ。なんだろ、赤いし、炎系の何かの石かしら?)

あ、そうだ、と呟き、セラフィーナは杖を振った。

ジェミニオ(Geminio)

双子呪文である。

見た目だけならその石にしか見えない偽物を彼女は元のように包みに戻し、部屋を出た。特に意味は無いが、"万が一"持ち出し禁止だったとしたらめんどいし。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

(せっかくなら私が来たという痕跡を残したくはないわね?薬飲まないで正解だったわ。いや、どうなんだろ、補充されるのかな?まいいや。)

トロールは気絶したままだった。防衛機構(アトラクション)(スタッフ)が気絶したままというのも考えものだ。セラフィーナは鼻を押えながら、

リナベイト(Rennervate)

と唱え、トロールが動き出す前にドアを素早く閉めた。

 

チェスの間に戻ると盤面は元に戻っていた。

(あら、何もしなくても大丈夫そうね?)

魔法チェスでもゲームが終わると修復されるので、そのスケールが大きいだけなのだろう。大丈夫だ、問題ない。

 

続いて鍵の間も問題ない。

悪魔の罠の脇を箒無し飛行術で抜け、最後に三頭犬に掛けた服従の呪文を解除する。

ワンコ(ケルベロス)は呪文が解けたにも関わらず、ぐるぐると可愛く唸りながらしっぽをぶんぶんと振っている。セラフィーナはしばらくその犬をモフり散らかしたあと、名残惜しそうに四階の廊下に戻っていった。

 

(チェスがいちばん楽しかったわね。あとあの子可愛かった。アスレチック担当じゃなかったらペットに拾いたかったくらいだけど、ま、いっか。またモフりにくればいいし)

伸びをひとつして、セラフィーナは自室に戻った。

(で、この石、どんな効果があるのかしら……)

ほんとにどうすんだよ。ソレ。

 

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