スリザリンの継承者と虚飾に満ちた英雄 作:魔法史編纂委員会
奇人ウリックがクラゲを帽子に被っていたのはガチらしいです。
セラフィーナが赤い石を手に入れた数日後……
魔法史の授業はスリザリンとレイブンクローの合同だった。
高齢なゴーストのビンズ先生の授業は恐ろしく退屈で、皆は眠くなるのを必死にこらえながらメモを取っていた。幽霊の形をして二酸化炭素でも撒き散らしているのだろうか。
ハーマイオニーは一番前の席で必死に慣れない羽根ペンを動かしてガリガリと羊皮紙を埋めていた。
セラフィーナはと言うと、持ち込んだ本を読み終えてしまい、あまりの退屈さにどれだけ繊細に羽ペンの羽の繊維を手を使わずに魔法で毟れるかという、これ以上なく非生産的な遊びに興じていた。一応耳は傾けてはいるが。
「ねぇ、セラ」
ぶちっ。あ、ちぎれた。隣に座ったダフネに話しかけられ、セラフィーナは髪の毛ほどに細く剥がした羽の繊維を途中で切ってしまったのに顔を一瞬顰めてから、
「なあに?」
と小声で応えた。
「奇人ウリックはなんでクラゲを帽子に被っていたのかしら」
「言われてみれば……語尾はギョ、だったのかしらね?」
それはきっと、未来の東洋で有名になる魚類学者である。"くらげクン"とでも呼んでおこう。面白い話なのになんでこんなに眠くなるんだろう。
セラフィーナはハーマイオニーに話しかけなかった。
わざわざ話しかけるほど仲良くなったわけでもないのと、
例の本、『魔法使いとマグルの血について』の検証がまだ進んでない上にドラコ以外にはまだその話を一切しておらず、スリザリンの末裔である自分が衆人環視の前で『穢れた血』に話しかける訳には行かないからである。
遠目で見る限り彼女の知識を披露する癖は相変わらず健在だが、レイブンクローという知性を重んじる寮である程度上手くやっているようだった。
◆ ◇ ◆
魔法史の後の授業は昼食を挟んで飛行訓練である。
飛行訓練は多くのホグワーツの新入生が心待ちにしていた授業だ。前の日から食卓では箒の話で持ち切りで、ドラコもまた例外でなくマグルのヘリコプターなる乗り物を躱して飛び回った話などを延々と垂れ流していた。ちなみにセラフィーナが好きなヘリコプターはチヌークというやつである。後ろがカエルの顔にしか見えないアレが
「ああなると男子は止まらないわよねぇ……」
パンジーはスターゲイジーパイのニシンの頭をフォークでつつきながら遠い目をして呟いた。
「まぁ、男の子の遊びといえば箒ですものねぇ」
セラフィーナはシェパーズパイを口に運びながら応じた。
「一年生は箒持ち込み禁止なの、なんか納得できるわ」
ダフネもカレーを取り分けながら会話に参加する。
「事故とか起きたら嫌だから私は大人しくしているわ」
パンジーはニシンの目にフォークを突き刺して言った。
「グロいからお止めなさいよ…まぁスリザリンに何かあったら私が止めるわ」
「この間のおでき薬事件は本当に助かったわ。ね、グリフィンドールに何かあったら?」
「指さして爆笑するに決まってるでしょう」
ニシンが虚空を見上げてる。こっち見るな。
◆ ◇ ◆
運動に備えて少なめの昼を終えたスリザリンの生徒たちは校庭に集まった。
グリフィンドール生は……まだ現れない。
結局、時間が過ぎてから彼らは慌ててやってきた。
担当のフーチ教授はその態度にしょっぱなからイラついている。無理もない。
「何をぼやぼやしているのですか。さあ、箒の横に立って、早く」
スリザリン生からすればとばっちりである。
「右手を箒の上に突き出して『上がれ!』と言いなさい」
しばらく『上がれ!』『上がれ!』という声が校庭に響き渡った。セラフィーナはちょっと滑稽だな、と思いながら心の中で『おいで〜』と呟いた。
無言呪文みたいなものである。わざわざ口にするまでもなく、箒は素直に手に収まった。
いつまで経っても上がらない、垢抜けない少年──そう、おでき薬を爆発させたロングボトムである──を放置して、教授は箒のまたがり方を指導した。
ドラコは間違った握り方をしていたようで、グリフィンドール生達がはやし立てて、彼は羞恥と怒りに震えていた。
(ぷっ、ダサ)
セラフィーナもまた内心で小馬鹿にしていると、
「うるさい!」
ドラコが顔を真っ赤にしていた。
「あれ、口に出てた?」
そうしてわちゃわちゃしている間にセラフィーナのところにも教授が回ってきた。
「まぁ良いでしょう。もう少し親指を内側に捻った方が素早く飛べますよ」
と軽く指摘された。
(別に競技するつもりないし握って安定する方が楽じゃないかしら?)
とはさすがに口に出さなかった。
◆ ◇ ◆
そして授業は次の段階に進んだ。
「さあ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴って飛んでください。ぐらつかないように強く箒を押え、2ヤードくらい飛んだら前屈みになって降りてくるように。笛の合図で!いち……に……」
一斉に生徒たちが飛び立とうとしたその時、さっきのロングボトムが緊張したのか思い切り地面を蹴って飛び立ってしまった。
「うわあああぁぁぁ…………」
空に舞い上がるにつれ声が小さくなり、
やがて箒から落ちたようで再び、
「…………ぁぁぁあああ」
どすっ、バキャ、思わず目を背けたくなるような嫌な音を立てて地面とキスした。いたそー。まぁ杖のひと振りで治るとは思うが。
教授は駆け寄り、声を上げた。
「手首が折れているわ」
泣き叫ぶ少年を抱え、教授は生徒にこう言って、
「私はこの子を医務室に連れていきます。その間誰も動いてはいけませんよ。もし箒に触ったらクィディッチのクを言う前に私が退学処分にします」
……ロングボトムを連れていった。まあ退学云々は脅しでしょうけど。
教授が見えなくなると笑いをこらえていたドラコが噴き出した。
「見たか?あの間抜けの顔を」
そう言い、他のスリザリン生も笑いだした。
グリフィンドール生は身内をバカにされたと怒ったが、セラフィーナとしては客観的に見てもやけに時間をかけて『……ぁぁぁあああ』と声を上げて落下する彼はとても滑稽だった。
もしこれがドラコや他のスリザリン生だったとしてもセラフィーナは爆笑しただろうし、今笑っている皆も割とそんな感覚である。
◆ ◇ ◆
ひとしきり笑ったあと、
「ああ、ロングボトムの婆さんが送ってきたバカの玉だ」
そう言いながらドラコが拾い上げたのは"思い出し玉"だった。
「あら、肝心の何を忘れているか思い出せない残念グッズ?」
セラフィーナが応じると、ドラコは"ほい"と、手に持ったそれを軽く投げてよこした。
(ふぅーん、買ったことないから実物初めて見たわね)
ただ観察していただけなのに、その様子を見て顔に青筋立てたポッターが絡んできた。
「ゴーント、それをこっちに渡してもらおう」
(別に見てただけなのに……ま、いっか。"スリザリン"が見てたら突っかかってくる、そういうことよね?)
「さすがグリフィンドール、正義感に熱い方々ですこと」
売られた喧嘩はきっちり買う主義である。そしてそのまま話を振る。
「──ですって。ドラコ、これどうしようかしら?」
「ロングボトムが後で取りに来れるように木の上にでも置いておいたらどうだ?」
「それをこっちに渡せ!」
その怒鳴り声が耳に刺さる。
「うるさいなぁ」
セラフィーナはごく自然にイラッとして、杖を抜いて呪文を唱えた。
「
瞬間、迫撃砲のようにバカ玉……もとい、思い出し玉が発射された。しらね。こんくらいじゃ割れないでしょ。
するとポッターは箒に跨り風のように飛びだした。
校庭を横断して丘を越え、森の方まで飛んで行ったそれを──ポッターはキャッチした。やってのけた。
「あら、すごい」
セラフィーナはイラッとしたことを忘れて感心した。
「これはやられちゃったわね」
「感心している場合か!」
ドラコは歯噛みしていたが、
「ポッター!」
とマクゴナガル教授が血相を変えて走ってきたのを見て一瞬でにやけ顔に変わった。
「ざまぁないな」
「ま、私たち箒に指一本触れてないし?」
いや、待って。フーチ教授ならともかく、マクゴナガル教授?なぜ?
それが実は100年振りの最年少シーカーの誕生の瞬間だったと知るのはもう少し先のこと。
セラ「アレストモメンタム?知らない子ですね」