世界平和監視機構コンパス特務顧問「クライ・アンドリヒ」 作:isizu8
先日、性懲りもなくオークションへ参加し競り落とした宝具『世界の車窓から(仮)』をたいして警戒せず弄り回したことにより、突然C.E.(コズミック・イラ)の地球へと転移したクライ・アンドリヒ。彼は運悪く、新設された世界平和監視機構「コンパス」の総裁ラクスクラインの乗る艦に直接おちてしまいます。ボロボロのコート、頼りない態度、そして何を言っても「あの方にはすべてが見えている」と深読みするキラとラクス、そして一部を除いたコンパス隊員たち。こうしてクライは、なぜかコンパスの「特務顧問(本人はデスクワーク専門希望)」に就任させられてしまったのです。
そんな役職早々に引退し元の世界へ帰りたいと嘆くクライの元に大きな試練が訪れます。いえ、ある意味彼と対峙する者への試練といったところでしょうか。その試練とはファウンデーション王国への謁見です。
王国の宰相オルフェ・ラム・タオら「アコード」は、他者の思考を読み、精神を同調・支配する能力を持っています。しかし、謁見に同席したクライを前に、彼らはかつてない恐怖を味わうことになります。
オルフェやイングリットらがクライの心を読もうとしても、聞こえてくるのは「今日のご飯、お茶漬けがいいな」「早くベッドで寝たい」「ティノ、助けて」という、世界平和の命運をかけた戦いとは到底思えない、あまりにも低次元かつ脈絡のない雑音(本音)だけ……オルフェは一人、心の中で叫びます。
「(バカな……精神を完全に偽装している!? 思考の表層にノイズを流し、本心を完璧に偽装しているというのか……!)」
そんな彼をイングリットは心配そうに見つめます。会見が終わった後、痺れを切らした他のアコード達はキラに対して軽く精神攻撃を仕掛けた後、クライに対しては「闇に堕ちろ」と本来、キラ・ヤマトへ使うつもりだった最大限の念を込めて精神攻撃を行います。しかし……それをクライに放った瞬間、彼の心にある「数々の理不尽な死線(圧倒的強者である幼馴染達に無自覚に振り回された思い出)」の記憶が逆流。アコードたちが逆にそれを「真の地獄」と捉え幻視して発狂しました。
「この男、一体どれだけの地獄をくぐり抜けてきたというのだ!?」
「精神の深淵が……深すぎる!」
そんな彼らの絶望を知る由もなく、当の本人は『面倒臭い謁見からようやく解放された』とご機嫌な様子でお茶漬けこそありませんでしたが、パーティのご馳走に夢中になっていました。
シンやルナマリアが軽く引く量のご馳走を平らげたクライは夜風にあたりあわよくばお菓子でも買ってこようと外へ出ました。しかしそこには先客として、コンパスの隊長「キラ・ヤマト」が憂鬱な表情を浮かべ一人佇んでいました。
キラはラクスへの感情と今後の平和への重圧。そしてアコードたちがクライへ使う前に試験的に放った「心の声」を突く精神攻撃により、彼は自分の能力や選択に深い迷いを抱えていました。夜、バルコニーで一人佇むキラのもとへ、夜風に当たりに(夜食の買い出しのついでに迷子になった)クライが通りかかります。
「……クライさん。……起きていたんですか」
キラは顔を上げ救いを求めるような視線をクライへ向けました。一方そのころ、当の本人はというと……。
「(うわ、キラくんだ。顔がすっごい曇ってる……。彼っていつもこう、心に闇を抱えてるよね。関わるとろくな目に遭わないから早く部屋に帰りたい……あ、部屋どっちだっけ?)」
などと、同じ隊員が曇っているにも関わらずろくでもないことを考えていました。
「ああ、うん。ちょっとね。迷子になっちゃって……」
「……!!」
迷子になった……クライのその一言はキラの心にまるでシュベルトゲベールが刺さったブリッツガンダムの如く強く突き刺さりました。キラはまさに自分の進むべき道に迷っていたのです。自身の迷いを言い当てられた(と思い込んでいる)彼はいてもたってもいられなくなりクライへ問いかけます。
「クライさんは、怖くないんですか? あんな風に、自分の考えていることが全部筒抜けになって、自分の存在意義すら否定されるような言葉をぶつけられて……。僕は、自分が何のために戦っているのか、分からなくなってしまったんです」
「心の声? ああ、確かあの……えーと……あこーでぃおん? とかいう人たちのやつだっけ? まあ僕なんて毎日色んな人に変に持ち上げられて、存在意義どころか人間扱いされてないから今更だよ。恐怖、か。まあ、慣れだよ慣れ。僕なんて毎日が恐怖の連続だからね。考えても仕方のないことは、考えないのが一番だよ」
愕然とするキラをよそに彼は「それに、心なんて読まれたところで僕の考えてることなんていつも『帰りたい』だけだしね」と心の中で一言付けたしました。彼の言葉に天啓を得たキラは今までの曇り切った表情から一変して、驚愕と羨望の眼差しをもってクライの目を見据えました。
「……っ! 慣れ、ですか……。あなたはそれほどの地獄を、誰にも頼らず一人で超えてきたというんですか……? 僕は、自分が『アコード』として作られた存在なんじゃないかって、思い始めていた。でも、クライさんはそんな『定められた運命』なんて、最初から一歩引いたところで見ていたんですね」
「(えっ、何の話? 僕はただ、才能がないからいつも一歩引いてみんなの後ろに隠れてるだけなんだけど……)まあね、僕にできることなんて何もないし。全部みんなが勝手にやってくれるから……僕はただ、流されるままにそこにいるだけさ。自分の意志なんて、あってもなくても世界は回るしね」
突然様子が変わったキラに若干引きつつも、クライは彼に対してまたも適当な事を口にします。しかしキラの耳にはまたも曲解して伝わります。
「……! 『自分の意志に縛られるな、世界を信じて委ねろ』……ということですか。僕が一人で背負い込もうとしていたから、空回りしていたんだ。僕には、支えてくれるラクスや、一緒に戦ってくれる仲間がいるのに……!」
「え、あ、うん。まあ、仲間が強いなら全部丸投げして寝てるのが一番だよ。僕はいつもそうしてるし」
「全てを仲間に託せるほどの、絶対的な信頼……! クライさん、ありがとうございます。僕、もう迷いません。僕たちの絆は、アコードの能力なんかじゃ断ち切れない!」
「あ、うん、頑張ってね……(よし、話が逸れた隙に逃げよう)」
キラは意気揚々と熱弁し、とうとうついていけなくなったのかクライはそっとその場を離れ自室へと戻っていきます。その間もラクスが訪れるまでキラは熱弁し続けるのでした。
その翌日、キラは晴れやかな顔で朝を迎え、翌日の出撃で見事な復調を見せます。ラクスはそんな彼の様子に「あの頑なだったキラの心を、わずか数言で救うとは……クライ顧問、恐ろしいカウンセリング能力ですわ」と、またしても評価を跳ね上げるのでした。