世界平和監視機構コンパス特務顧問「クライ・アンドリヒ」 作:isizu8
実は、コンパス所属のシン・アスカとターミナル所属のアスラン・ザラの二人だけは、クライ・アンドリヒの正体や彼の主張を正確に理解していました。
シンは野生動物並みに直感が鋭いため「あの人、マジで戦う気ゼロだし、口を開けば『帰りたい』と『お茶漬け』しか言ってねえ!」と本能で察知。そしてアスランは過去に散々「天才肌の変人」振り回されたり「言葉が足りない故に部下と揉めてしまった過去の自分自身」をクライの姿に重ね、クライの目が「あ、これ完全に現実逃避してる凡人の目だ」とプロの洞察力で見抜いてしまったのです。
しかし二人は知っています。クライが適当なノイズ(本音)を垂れ流すおかげで、繊細すぎるキラ・ヤマトのメンタルが奇跡的に大復活していること。そして、ファウンデーションの傲慢なアコードたちが、クライの無能さを「底知れぬ天才のハイド(偽装)」と深読みして勝手に自滅していることを。
「世界平和のため、そしてキラのため、今は黙っているのが正解だ……」
これは、そう血涙を飲む二人の、心の中のツッコミと苦悩の記録である。
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先の大戦において大敗を期したファウンデーションですが、「このままで終われるかァ!!!」と精神崩壊一歩手前だったアコードたちはクライへの憎しみの感情を糧に気合で超回復し、ロゴスの残党を説き伏せ、決死の大攻勢に出たのです。その結果、コンパスは現在戦略的に孤立していました。そして今は作戦会議中。ラクスやマリュー、キラたちが深刻な顔でモニターを見つめる中、特務顧問のクライがビクビクしながら発言します。
「あのさ……ぶっちゃけ、正面から戦っても勝てないと思うんだよねー。だからさ、みんなで適当に散らばって、適当に右とか左に逃げない? 僕はほら、一番後ろの目立たないコンテナの中に隠れてるからさ……」
軍人として、いやそもそも人として最低な発言である。このセリフを曲解しいち早く反応したのは……。
「……なるほど! 各個撃破を狙う敵に対してあえて全軍をバラバラに配置して、敵の包囲網の計算を狂わせる。さらに右と左……つまり敵の索敵網の『死角』を交互に突くゲリラ的突撃を敢行するということですね! さすがクライさんだ!」
「えっ、いやまあ……そうだねーうんうん」
クライによって精神的に救われたコンパス隊長『キラ・ヤマト』である。
「(ちげーよ!! あの人マジでただのトンズラかまそうとしてるだけだって!! なんでキラさんそんなに目が輝いてんだよ! 騙されるな!!)」
すかさずクライの真意を正確に把握している者の一人、シンが心の中で全力でツッコミを入れる。だが、クライの言を曲解するのはキラだけではない。
「さすがクライ顧問。敵の戦術ネットワークを完全に逆手に取った素晴らしい案です。さらに自ら殿のコンテナに残り、敵を誘き寄せるデコイになるとは……そのお命を賭した覚悟、敬服いたします」
「………………」
コンパス初代総裁である『ラクス・クライン』もまた彼の真意を曲解する者の一人だった。
「(おい、クライの顔が完全に絶望で引き攣ってるぞ。そりゃそうだ、ただ隠れてやり過ごしたかっただけのコンテナが、一番危険な『決死の囮』に認定されたんだからな……。だがキラの作戦理解度が120%だから、俺もここは黙っておくしかない……。すまんクライ、何とか護衛するから生き延びてくれ)」
アスランもまたクライを正確に理解する者の一人として彼に同情するのだった……。
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いざ戦闘が始まると、クライの乗ったコンテナ(※ただの物資搬送用)は、キラたちの猛護衛によって最前線を安全に(?)突き進みます。パニックになったクライは通信を開いて叫びます。
「ひえええ! 弾がめっちゃ飛んでくる! みんな! お願いだから僕の前に立たないで! あっち行って! 敵の方に突っ込んでってよぉぉ!」
クライが叫ぶ……ひたすら叫ぶ。全ては自分自身の保身のため。
「(うわ出たよ! 『僕の前に立つな(=お前らのせいで射線が塞がるから邪魔だ)』からの『敵の中に突っ込め(=全滅させてこい)』命令!! 言い方は完全に泣き言だけど、言ってる内容の凶悪さが戦神のそれなんだよなこの人!)」
と心の中で愚痴るシン。激しくツッコミたい彼の保身に塗れた命令を。だが、世界平和のためそれは許されない。
「了解です、クライ顧問! 敵を全滅させれば、顧問の前に飛んでくる弾はゼロになりますもんね! ぶっ潰してやりますよ!!」
「(シン、お前あの男の言動の真意を理解した上で、結局キラたちの手前『最強の顧問の命令』として処理してノリノリで突撃しているな……。まあいい、アコードの動きは確かにクライの『無思考』のせいで乱れている。今のうちに俺がシュラを仕留める!)」
シンは「クライ顧問の超高度な突撃命令(ただの八つ当たり)」を大義名分に、デスティニーで敵陣をめちゃくちゃに荒らし回ります。アコードたちは「クソッ、相変わらずクライの思考からは何の情報も掴めない、そしてシン・アスカの動きが完全に最適化されている……!」と恐怖します。
そして今度こそファウンデーションは完全敗北。かの国は降伏しC.Eの世界は救われました。ラクスや国際社会から、「神がかった戦術で世界を救った稀代の軍師」として表彰されるクライ。
「いや……僕は本当に、コンテナの中で震えながらお茶漬けのこと考えてただけなんだけど……。みんなが勝手に敵を全滅させてくれただけで……」
とクライがもはや何の意味もなさない弁解の意を述べます。それにしても、このお茶漬けへのこだわりは一体何なのだろうか……。
「ふふ、またそうやって自分の功績を隠そうとする。クライさんが『お茶漬け(=日本古来の簡素な食事=戦火で疲弊した民衆への配慮と平和の象徴)』を口にすることで、僕たちに『何のためにこの戦いを早く終わらせるべきか』を、言葉ではなくその背中で示してくれていたんですよね!」
「ええ。クライ顧問のその無欲さ、まさに真の指導者に相応しいお姿です。クライ顧問に報いるため、コンパスの終身最高顧問の席をご用意いたしました」
全く話を聞いてくれないキラとラクスにドン引きし「あぁ……ゲロ吐きそう」と心の中でつぶやくクライ。
「(深読みのレベルがスピリチュアルの域に達してやがる……!! ああ、今すぐツッコミたい! あの人マジでただの食いしん坊の一般人だって!!)」
「(……可哀想に。元の世界に帰りたがっていた男が、その圧倒的な勘違いのせいで、この世界で最も辞職できない最高権力者の椅子に縛り付けられてしまった。だがこれで、世界が平和になりキラの心の平穏を守れるのなら……クライ、お前の犠牲は無駄にはしない)」
シンはツッコミたい衝動をSEEDを発動させることでギリギリのところで踏みとどまり、アスランは、心の中でクライの冥福(※生きています)を祈りながら、そっと胸の前で敬礼を捧げるのでした。