森の奥。
盗賊たちのアジト。
木々を揺らす音とともに、赫子が闇を裂く。
「そこだ!」
ニニャが一直線に突っ込む。
腰から伸びる赫子が盗賊たちの武器を弾き飛ばし、次々と戦意を奪っていく。
「ば、化け物だ!」
「逃げろ!」
盗賊たちは統率を失い、四散した。
ニニャはそのまま建物へ飛び込む。
「弟さんはどこ!」
部屋を一つずつ調べる。
だが――。
「……!」
裏口の扉が開いていた。
「まさか!」
その頃。
盗賊の頭目は、少年の腕をつかみ森の中を急いでいた。
「ちっ。」
「金は持ち出した。」
「しばらく身を隠せばいい。」
少年を乱暴に引っ張る。
「お前の姉はまだ利用価値がある。」
「また働いてもらうさ。」
その時だった。
「ねえ。」
背後から、のんびりした女性の声が聞こえた。
頭目が振り返る。
そこには、大きな荷物を抱えた中年のおばさんが、切り株に腰掛けていた。
「あん?」
おばさんは地面を見ながら言う。
「落とし物だよ。」
「何を落としたんだ?」
頭目は怪訝そうに近づく。
「ほら。」
「よく見てごらん。」
頭目が身をかがめた、その瞬間。
おばさんはふっと笑った。
「――あんたの命だよ!」
その姿がゆらりと揺れる。
丸めていた背筋が伸びる。
白髪交じりだった髪が艶を取り戻し、中年の面影は消えていく。
そこに立っていたのは、鋭い眼差しを持つ妙齢の女性だった。
細い指先から、鋭い鉤爪が静かに伸びる。
頭目が息をのむ。
「お前……!」
一瞬。
森に風が吹き抜けた。
頭目は力を失い、その場に崩れ落ちる。
何が起きたのか理解する間もなかった。
女性はすぐに爪を収め、少年の前にしゃがみ込む。
「もう大丈夫。」
優しく頭をなでる。
「お姉ちゃんのところへ帰ろう。」
張り詰めていた緊張が切れたのか、少年は安心したように目を閉じ、そのまま眠ってしまった。
女性は少年を背負う。
その瞬間、再び姿がゆらぎ、見慣れた"おばさん"の姿へ戻っていた。
しばらくして。
「おばさーん!」
ニニャが森の中を駆けてくる。
「いました!」
おばさんは笑顔で振り返る。
「弟ちゃんは無事だったよ。」
背中では少年が静かな寝息を立てている。
ニニャは安堵の表情を浮かべた。
「頭目は?」
おばさんは肩をすくめる。
「ああ。」
「この子を置いて、どこかへ逃げちゃったみたい。」
「そうですか……。」
ニニャは少し悔しそうだったが、弟が助かったことに胸をなで下ろした。
その様子を見ながら、おばさんは心の中で小さくつぶやく。
(喰種人は恨みを晴らすためじゃない。)
(救いを求める人を、救うためにいる。)
そして何事もなかったように笑った。
「さあ、帰ろうか。」
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人物紹介
ニニャ(第2段階)
元「漆黒の剣」のマジックキャスター。アインズによって蘇生され、デミウルゴスの実験で半喰種となった少女。
高利貸し一味に囚われ、過酷な拷問を受けたことでさらなる変化を遂げる。
髪は白髪へと変化。
通常時は左目のみ赫眼だが、覚醒状態では両目が赫眼となる。
腰から展開する赫子は従来の1本から10本へと増加。
身体能力・攻撃力は飛躍的に上昇し、多数の敵を圧倒できる。
しかし、覚醒状態では理性が不安定になり、敵味方の区別も曖昧になるなど、まだ完全に力を制御できていない。そのため、喰種人としては未完成の存在である
おばさん
コーヒーショップ「ツアレ」の手伝いとして、元締めからニニャのもとへ派遣された女性。
町では気さくで世話好きな「近所のおばさん」として振る舞い、店の常連からも親しまれている。しかしその本当の役目は、未熟なニニャの監視役兼教育係である。
普段は穏やかで飄々としているが、任務となれば冷静沈着。豊富な経験と観察眼で事件の裏を見抜き、ニニャを導く。
その正体は、真祖(高位の吸血鬼)。
だが本人は過去の記憶をほとんど失っており、自分が何者だったのか、どこで生まれたのかさえ思い出せない。
真名は不明。
元締めからも「あの人は"おばさん"で十分だ」とだけ告げられており、喰種人の仲間たちも誰一人として本名を知らない。
戦闘時には中年女性の姿を解き、本来の若々しい姿へ戻る。その圧倒的な実力は喰種人の中でも屈指だが、本人はそれを誇ることなく、今日も「ツアレ」でコーヒーを淹れながら、人知れず弱き者を見守っている。
モデル 【翔べ! 必殺うらごろし】おばさん