武蔵転生記外伝 必殺喰種人   作:masasoukoku

12 / 16
「負けても勝負」

コーヒーショップ「ツアレ」。

 

開店して間もない昼下がり。

 

「お願いします!」

 

制服姿の少女が店へ飛び込んできた。

 

「父を……助けてください!」

 

少女は魔法学院の入学許可証を握り締めていた。

 

「父が……南方から来た賭博師に騙されて……。」

 

「家も畑も全部……。」

 

「今夜で全部取られてしまいます。」

 

涙を流しながら続ける。

 

「学院へ行くためのお金まで……。」

 

「もう残ってません。」

 

「このままじゃ……。」

 

少女はうつむいた。

 

「わたし……身体を売るしか……。」

 

ニニャは立ち上がる。

 

「そんなこと、させません!」

 

奥でコーヒーを飲んでいた元締めが煙管を置く。

 

「待て。」

 

「その手の相手は危険じゃ。」

 

先生も静かに言う。

 

「相手は賭博で生きている人間だ。」

 

「正面から挑んでも勝てん。」

 

おばさんも頷く。

 

「やめときな。」

 

「罠の匂いしかしないよ。」

 

しかしニニャは首を振る。

 

「でも!」

 

「助けを求められたんです!」

 

「見捨てられません!」

 

そう言って店を飛び出していった。

 

元締めはため息をつく。

 

「……若いの。」

 

-------------------------------------------------------------

夜。

 

酒場の一角。

 

地下賭博場。

 

中央には緑色の布が敷かれた丸い卓。

 

南方から伝わったという新しい遊び。

 

「ぽあかぁ」。

 

異世界の"ぷれいやー"が広めたという賭け事だった。

 

「へぇ。」

 

賭博師が笑う。

 

「お嬢ちゃんが俺に勝負?」

 

ニニャは金貨袋を置く。

 

「勝ったら返してもらいます。」

 

「少女のお父さんのお金を。」

 

賭博師は肩をすくめる。

 

「いいとも。」

 

「勝てたらな。」

 

周囲がどっと笑う。

 

カードが配られる。

 

一回目。

 

ニニャは勝つ。

 

二回目。

 

また勝つ。

 

「お?」

 

客たちがざわつく。

 

しかし三回目から流れが変わった。

 

「……。」

 

賭博師の指先がわずかに動く。

 

カードがすり替わる。

 

袖口へ消える札。

 

合図を送る見張り。

 

ニニャは気付かない。

 

「フルハウス。」

 

「ストレート。」

 

「フラッシュ。」

 

負け。

 

負け。

 

また負け。

 

気が付けば、持っていた金はすべて卓の向こうへ消えていた。

 

賭博師は笑う。

 

「勝負は終わりだ。」

 

「嬢ちゃん。」

 

「世の中、正義だけじゃ勝てねぇんだよ。」

 

ニニャは拳を握る。

 

(そんな……。)

 

店の外。

 

遠くの屋根の上。

 

元締めたち三人が、その様子を静かに見ていた。

 

「だから言ったろ。」

 

モン・ドーが帽子を深くかぶる。

 

おばさんは苦笑する。

 

「あの子、まっすぐ過ぎるんだよ。」

 

先生は静かに杖を握った。

 

「さて。」

 

「授業の時間だ。」

 

元締めは煙管を口に運ぶ。

 

「負けても勝負は終わらん。」

 

「ここからが、喰種人の仕事じゃ。」

 

-------------------------------------------------------------

酒場の地下賭博場。

 

「ニニャちゃん。」

 

おばさんが肩に手を置く。

 

「ここからは見てな。」

 

人垣が左右に割れる。

 

ゆっくりと一人の男が卓へ歩み出た。

 

黒いローブ。

 

白い仮面。

 

杖は持っていない。

 

先生だった。

 

「私が相手をしよう。」

 

静かな声が場内に響く。

 

「――ぽあかぁでな。」

 

賭博師は目を細める。

 

「ほう。」

 

「今度はお仲間ですか。」

 

先生は椅子へ腰を下ろす。

 

その後ろには煙管をくゆらせる元締め。

 

賭博師は笑う。

 

「それで?」

 

「元金は?」

 

先生は懐から革袋を取り出す。

 

ドサリ、と卓へ置く。

 

中から金貨があふれた。

 

「元金金貨二千枚。」

 

場内がどよめく。

 

「二千だと?」

 

「本気か?」

 

賭博師も一瞬だけ目を見開いた。

 

「……これはまた。」

 

「景気のいいお客さんだ。」

 

先生は淡々と言う。

 

「私が勝ったら。」

 

「お前が売ろうとしている少女。」

 

「そしてニニャから巻き上げた金。」

 

「すべて返してもらう。」

 

賭博師は大きく笑う。

 

「よござんす。」

 

賭博師は指を鳴らす。

 

周囲の床が淡く光った。

 

魔法陣。

 

「念のため申し上げます。」

 

「この卓には魔法障壁を張ってございます。」

 

「透視。」

 

「精神支配。」

 

「未来視。」

 

「幻覚。」

 

「そういった魔法は一切通じません。」

 

「もちろん、魔法によるいかさまも不可能。」

 

先生は仮面越しに微笑む。

 

「結構。」

 

「私も魔法を使うつもりはない。」

 

「……ほう?」

 

賭博師が初めて興味深そうな顔をする。

 

「それでは。」

 

先生は静かにカードへ手を伸ばした。

 

「始めよう。」

 

賭博場に静寂が落ちる。

 

元締めが煙管の煙を細く吐いた。

 

「さて。」

 

「南方一の賭博師と、何百年も生きた魔法使い。」

 

「どちらが一枚上手かの。」

 

-------------------------------------------------------------

一回戦。

 

「フルハウス。」

 

賭博師がカードを開く。

 

先生は静かにカードを伏せた。

 

「負けだ。」

 

歓声が上がる。

 

二回戦。

 

「ストレート。」

 

また賭博師の勝ち。

 

先生は表情一つ変えない。

 

三回戦。

 

四回戦。

 

五回戦。

 

すべて賭博師の勝利。

 

「ははは!」

 

「おやおや。」

 

「大口を叩いた割には、大したことはありませんなあ。」

 

賭博場は笑いに包まれた。

 

ニニャは拳を握る。

 

「先生……。」

 

先生は落ち着いたままだった。

 

賭博師は卓の上の金貨を指で弾く。

 

「あなたの残りは、あと金貨一枚。」

 

「どうします?」

 

先生は静かに答えた。

 

「構わん。」

 

「六回戦を始めよう。」

 

(馬鹿な奴。)

 

賭博師は心の中で笑う。

 

(この卓では俺が負けることはない。)

 

配られたカードを確認する。

 

(ぐふふ。)

 

(キング四枚。)

 

(これを超えるのはエース四枚だけ。)

 

(そんな都合のいい札が相手に来るわけがない。)

 

先生は手札を一瞥しただけだった。

 

「このままでいい。」

 

交換しない。

 

賭博師は目を細める。

 

「ほう。」

 

「では、この上に二百枚。」

 

「積みます。」

 

先生は元締めを見る。

 

「頼む。」

 

元締めは何も言わず、金貨を積んだ。

 

「四百。」

 

賭博場がざわめく。

 

「まだ積むのか。」

 

賭博師も笑う。

 

「なら三百。」

 

先生。

 

「受ける。」

 

元締め。

 

さらに金貨。

 

「五百。」

 

「うおっ!」

 

「あっという間に五千枚だ!」

 

「本気か!」

 

賭博師は汗をぬぐった。

 

(なんだ……。)

 

(こいつ。)

 

(まさか。)

 

(魔法でカードを……。)

 

すぐに考えを振り払う。

 

(いや。)

 

(この卓は魔法を封じてある。)

 

(それとも。)

 

(俺の知らない技術……。)

 

(キング四枚でも負ける手……。)

 

心臓が速く打つ。

 

先生は一言もしゃべらない。

 

ただ仮面越しに見つめている。

 

その沈黙が、賭博師の不安をさらに膨らませた。

 

(積め。)

 

(積めば勝てる。)

 

(いや……。)

 

(もし負けたら。)

 

(全部終わる。)

 

額から汗が落ちる。

 

周囲も静まり返る。

 

長い沈黙のあと。

 

賭博師は深く息を吐いた。

 

「……分かった。」

 

「降りる。」

 

どよめきが起こる。

 

先生は初めて笑った。

 

「そうか。」

 

ゆっくりカードを開く。

 

そこに並んでいたのは――

 

何の役もない五枚。

 

ブタ。

 

一瞬、誰も声を出せなかった。

 

「……え?」

 

賭博師の顔から血の気が引く。

 

「ブタ……だと?」

 

先生はカードを揃えながら静かに言った。

 

「勝負に勝つ者が、強い者ではない。」

 

「相手に『負けるかもしれない』と思わせた者が勝つのだ。」

 

元締めが煙管をくわえ直し、小さく笑う。

 

「負けても勝負。」

 

「それが本当の博打というものじゃ。」

 

-------------------------------------------------------------

人物紹介

 

先生

 

本名不詳。

 

喰種人の仲間たちは、ただ敬意を込めて**「先生」**と呼ぶ。

 

その正体は、高位アンデッドであるエルダーリッチ。

 

生前は王国でも指折りの魔法使いであり、「魔法は弱き者を救うためにある」という信念を抱いて魔法学院へ身を置いていた。

 

しかし現実は違った。

 

学院が求めたのは、人助けではなく利益。

 

才能ある者は貴族へ売り込み、研究は金儲けの道具とされ、貧しい者は見捨てられる。

 

理想と現実のあまりの隔たりに失望した彼は学院を去り、各地を放浪しながら無償で人々を救い続けた。

 

だが、旅の果てに力尽き、名もない荒野で静かに息を引き取る。

 

その強大な魔力と無念が肉体に宿り、彼はエルダーリッチとして蘇った。

 

人々からは怪物として恐れられ、救おうとした者にすら石を投げられる日々。

 

「結局、人は姿しか見ないのか。」

 

そうして世界への未練を失いかけていた時、一人の老人が彼に声を掛けた。

 

それが、喰種人の元締めだった。

 

「なら、その力で本当に救うべき奴を救えばいい。」

 

その言葉に心を動かされた先生は、元締めの仲間となる。

 

現在は喰種人の軍師であり、医学、魔法、錬金術、薬学など幅広い知識で仲間たちを支える頭脳役。

 

戦いでは高位魔法を操る一方、必要以上に命を奪うことは好まない。

 

異形の姿となった今も、その心は生前と変わらず、人を救うことを願い続けている。

 

喰種人たちは皆、彼を畏敬を込めてこう呼ぶ。

 

「先生。」

 

その本当の名前を知る者は、もはや誰もいない。

 

モデル 【翔べ! 必殺うらごろし】先生

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。