白い皿がテーブルへ並べられる。
デミウルゴスは手帳を片手に、静かに言った。
「まずは通常の食物から試しましょう。」
最初に運ばれてきたのは、色鮮やかな野菜だった。
「どうぞ。」
ニニャは震える指で一切れを口へ運ぶ。
「……っ!」
次の瞬間、強い吐き気が込み上げる。
「うっ……!」
飲み込めない。
身体が拒絶している。
慌てて吐き出し、肩で息をする。
デミウルゴスは淡々と記録を書き込んだ。
「なるほど。植物性の食物は適合しないようですね。」
次に出されたのは焼いた獣肉だった。
「これは馬の肉です。」
ニニャは自分に言い聞かせる。
(私は人間……。)
(食べられるはず。)
小さく口へ運ぶ。
飲み込めはした。
しかし味は感じない。
砂を噛むような感覚だけが残る。
「……栄養にはなるようですが、嗜好性は極めて低い、と。」
デミウルゴスはまた記録する。
続いて、魔物由来の食材が並ぶ。
「こちらも試してください。」
ニニャは慎重に匂いを確かめる。
先ほどよりは拒絶感が弱い。
「……これなら。」
少量だけ口にする。
「ふむ。」
「一部の魔物由来の食材には適性があるようですね。」
実験は続く。鳥、魚
そして最後に、蓋の付いた皿が静かに置かれた。
蓋が開く。
その瞬間。
ニニャの左目が熱を帯びた。
鼓動が速くなる。
本能が激しく揺さぶられる。
「……。」「ハァハァ・・・」よだれがこぼれる
無意識に一歩前へ出る。
「どうしました?」
デミウルゴスは表情を変えず観察している。
ニニャは我に返り、必死に後ずさった。
「……嫌。」
「何かがおかしい。」
胸の奥から湧き上がる衝動。
しかし理性が必死に押し返す。
「私は……そんなものを欲しがるはずがない!」
震えながら顔を覆う。
デミウルゴスは静かに皿へ蓋を戻した。
「なるほど。」
「強い本能的反応は確認できました。」
「しかし理性も十分に残っています。」
彼は手帳へ書き込む。
【半喰種。
食性は変化している可能性が高い。
ただし人格・倫理観は維持されている。
本能と理性の葛藤が顕著。】
デミウルゴスはニニャを見る。
「安心してください。」
「あなたを実験材料として壊すつもりはありません。」
「アインズ様は、あなたを救うよう命じられました。」
「ならば私は、その命令に従います。」
ニニャは涙を浮かべたまま、自分の左目を押さえる。
「私は……まだ、人間でいられるの?」
部屋は静まり返る。
その問いに、デミウルゴスは少しだけ考え、静かに答えた。
「それはこれからのあなた自身が決めることです。」
「本能に支配されるのか、それとも理性を保ち続けるのか。」
「その答えこそ、私にとっても非常に興味深い研究対象になるでしょう。」
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デミウルゴスは新しいページを開いた。
「それでは最後に、飲料について調べましょう。」
机の上にはいくつものカップが並んでいる。
「まずは水です。」
透明なコップをニニャへ差し出す。
ニニャは恐る恐る一口。
「……普通。」
喉をすんなり通る。
違和感はない。
デミウルゴスはさらさらと記録した。
「水は問題なし、と。」
続いて銀のティーポットから紅茶を注ぐ。
芳醇な香りが部屋に広がる。
「こちらは?」
ニニャはカップを口元まで運ぶ。
その瞬間。
「うっ……。」
眉をしかめる。
「だめ……。」
「匂いだけで気持ち悪い……。」
一口も飲めず、そっとカップを戻した。
「紅茶は拒絶。」
デミウルゴスは淡々と書き留める。
その後も果実酒や蒸留酒などを試すが、結果は同じだった。
「アルコール類も適性なし。」
「ふむ……。」
今度は黒い液体の入ったカップを差し出す。
「これは?」
「コーヒーです。」
ニニャは恐る恐る香りをかぐ。
「……あれ?」
さっきまでとは違う。
香ばしい苦味が、不思議と心地よい。
一口。
「……!」
目を丸くする。
「お、おいしい!」
二口。
三口。
「これなら飲めます!」
デミウルゴスは興味深そうに頷いた。
「なるほど。」
「では、こちらも。」
小皿の上に茶色い角砂糖を置く。
「甘味を加えてみてください。」
ニニャは一つ入れる。
かき混ぜる。
飲む。
「……おいしい。」
さらにもう一つ。
「もっとおいしくなりました!」
自然と笑顔になる。
「これなら毎日でも飲めそうです。」
デミウルゴスは静かに万年筆を走らせる。
水……可
紅茶……不可
各種ジュース……不可
酒類……不可
コーヒー……極めて高い適性
エキス添加で嗜好性向上
彼は小さく眼鏡を押し上げた。
(興味深い。)
(半喰種は苦味には適応し、茶葉由来の香気は拒絶する。)
(しかもエキスを加えることで嗜好性が上昇するとは。)
ニニャは気づかぬまま、空になったカップを満足そうに見つめていた。
「もう一杯……いただけますか?」
デミウルゴスは穏やかに微笑む。
「もちろんです。」
そう言って新しいコーヒーを淹れ始めた。
その様子を見ながら、彼は心の中で次の実験項目を組み立てていた。
半喰種という未知の存在。
その生態を解き明かすには、まだ調べることが山ほど残されていた。
ニニャが拒否した肉…両脚羊の肉 エキス…お察しください