古道具屋の地下。
薄暗い部屋には重苦しい空気が漂っていた。
モン・ドーが腕を組み、元締めを見つめる。
「それで、ニニャの捕まった場所は分かったのか、元締め。」
老人は静かにうなずく。
「うむ。」
「高利貸しの屋敷じゃ。」
「で?」
「……でとは?」
モン・ドーはいら立ったように机を叩く。
「助けるのか、助けないのかだ!」
「どっちなんだ!」
元締めは煙管を置き、静かに答えた。
「我々は喰種人。」
「捕まれば、自分一人で始末をつける。」
「死ぬときは黙って死ぬ。」
「それが掟じゃ。」
モン・ドーは苦い顔になる。
「ニニャは新入りだ。」
「拷問されれば……しゃべるかもしれん。」
その時だった。
部屋の隅で黙っていた先生――エルダーリッチが口を開く
「……いや。」
「彼女はしゃべらない。」
モン・ドーが振り向く。
「なんでそう言い切れる。」
先生は静かに答える。
「あの子は、自分が半喰種になったことを知った時、自分の存在を呪っていた。」
「それでも、人を助ける道を選んだ。」
「その覚悟は、本物だ。」
「だから仲間は売らない。」
部屋が静まり返る。
元締めも目を閉じたまま、小さくうなずく。
「……ああ。」
「先生の言う通りじゃ。」
「ニニャはしゃべらん。」
しばらく沈黙が続く。
やがてモン・ドーが低い声で言った。
「だから見殺しにするのか。」
その一言に、元締めはゆっくりと目を開けた。
その瞳には、いつもの飄々とした色はなく、長年修羅場をくぐり抜けてきた男の厳しさが宿っていた。
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地下室に、かすれた悲鳴が響く。
「あああああっ……!」
尋問に立ち会っていた男の一人が眉をひそめた。
「……あの女、しぶといな。」
別の男が、ニニャを見て息をのむ。
「おい……髪が。」
茶色い髪は、根元から少しずつ色を失い、雪のような白へと変わり始めていた。
赫眼も以前より深い赤に染まり、瞳には人ならざる光が宿っている。
男は腕を組み、静かに近づいた。
「……そろそろ限界か。」
「もういいだろう。」
「お前は十分黙った。」
ニニャは荒い息をつきながら、男を見上げる。
男は少し身をかがめた。
「元締めはどこだ。」
「仲間は何人いる。」
「言えば楽になる。」
ニニャの唇がかすかに動く。
「あ……。」
男は口元をゆがめた。
「そうだ、それでいい。」
「何だ?」
聞き逃すまいと耳を近づける。
その瞬間。
「がっ!」
ニニャは残った力を振り絞り、男に食らいついた。
「ぐあっ!」
男は思わず後ずさりし、周囲の男たちが一斉に武器を構えた。
「離れろ!」
「こいつ……!」
男は傷口を押さえながら怒りをあらわにする。
「最後まで反抗する気か……!」
ニニャは血のにじむ唇で笑った。
「……誰も……売らない。」
その瞳だけは、決して折れてはいなかった。
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夜のエ・ランテル。
高利貸しの屋敷を見上げる三つの影。
モン・ドーが肩を回す。
「やっぱり来たか。」
隣には、杖をついた先生。
骸骨の顔は相変わらず表情一つ変えない。
「あなたもですか。」
モン・ドーは苦笑する。
「見捨てられる性分じゃないらしい。」
先生は静かに答えた。
「彼女は仲間です。」
その時、背後からゆっくりと足音が響く。
「ニニャを助けに来るお人好しは、もう一人おったようじゃ。」
元締めだった。
煙管をくわえ、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。
モン・ドーが笑う。
「結局、あんたも来るんじゃねえか。」
元締めは肩をすくめる。
「年寄りは約束を守るものじゃ。」
「仲間を見捨てるとは約束しておらん。」
モン・ドーは剣の柄を握る。
「よし。」
「それじゃあ屋敷に突入――」
その瞬間だった。
轟音。
ドォォォン!!
屋敷全体が内側から吹き飛ぶ。
炎が夜空を赤く染める。
「!」
「なんだ!?」
三人は思わず足を止めた。
崩れ落ちる屋敷。
燃え盛る炎。
その中心から、一つの人影がゆっくりと歩いてくる。
パチパチと燃える木材を踏みしめながら。
白く変わった髪。
両目は赫く輝き、人ならざる光を放っている。
腰からは十本もの赫子がうねり、生き物のように宙を這う。
その一本一本からは、圧倒的な殺気があふれていた。
そして。
その口元には。
今までのニニャには決してなかった、不気味な笑みが浮かんでいた。
「……ニニャ。」
モン・ドーが思わず名を呼ぶ。
だが、その瞳に宿る光は、彼らの知る優しい少女のものではなかった。
先生は静かに呟く。
「……これは。」
「半喰種の力が暴走している。」
炎を背に立つニニャは、ゆっくりと三人へ顔を向ける。
その笑みだけが、静かな夜に不気味に浮かび上がっていた。
ニニャのことは仲間に入る際 話したという設定です