武蔵転生記外伝 必殺喰種人   作:masasoukoku

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「罠にかかった喰種人」その4

「ふふふ……。」

 

ニニャの口元から唾液が垂れる。

 

赫眼が妖しく輝く。

 

「おいしそう。」

 

その視線は獲物を見る肉食獣そのものだった。

 

モン・ドーが剣を構える。

 

「来るぞ!」

 

次の瞬間。

 

「アハッ!」

 

ニニャの姿が消える。

 

ドン!

 

地面が砕ける。

 

同時に十本の赫子が四方八方から襲い掛かった。

 

「ぐうっ!」

 

モン・ドーが剣で受け流す。

 

だが一本を弾けば二本、三本と続く。

 

完全に捌き切れない。

 

「ぐわあ!」

 

ついに直撃を受け、吹き飛ばされる。

 

先生も杖を振るう。

 

「拘束魔法!」

 

魔法陣が浮かぶ。

 

だが赫子が瞬時に砕く。

 

「くっ……!」

 

先生は防御に徹するしかない。

 

元締めもまた紙一重で避け続ける。

 

だが。

 

ズブリ。

 

「ぐうっ!」

 

一本の赫子が腕を貫いた。

 

元締めの身体が揺れる。

 

モン・ドーが叫ぶ。

 

「元締め!」

 

炎の中。

 

ニニャは笑う。

 

「もっと。」

 

「もっと遊ぼう?」

 

彼女の声は幼い。

 

だがそこに理性は感じられなかった。

 

先生が歯噛みする。

 

「まずい。」

 

「完全に暴走状態です。」

 

元締めも苦しそうにうなずく。

 

「このままでは……。」

 

その時だった。

 

「困りますね。」

 

静かな声。

 

全員が振り向く。

 

炎の向こう。

 

スーツ姿の男がゆっくり歩いてくる。

 

眼鏡を押し上げながら。

 

まるで夜の散歩でもしているかのように。

 

「きさまは、」

 

先生が呟く。

 

ナザリック守護者。

 

悪魔。

 

そして。

 

半喰種ニニャを生み出した張本人。

 

デミウルゴスは暴走するニニャを見て小さくため息をついた。

 

「やはりでしたか。」

 

「精神的負荷が限界を超えれば暴走するとは予測していましたが。」

 

ニニャが赫眼で彼を見る。

 

「おいしそう。」

 

十本の赫子が一斉にデミウルゴスへ襲い掛かる。

 

モン・ドーが叫ぶ。

 

「危ねえ!」

 

だが。

 

デミウルゴスは動かない。

 

ニコリと微笑む。

 

次の瞬間。

 

赫子が彼の目の前で停止した。

 

まるで見えない壁に阻まれたように。

 

「なっ!」

 

モン・ドーが目を見開く。

 

デミウルゴスは眼鏡を直した。

 

「ニニャ君。」

 

「少々、おいたが過ぎますね。」

 

その声には怒りも殺意もない。

 

教師が問題児を叱るような穏やかな響きだけがあった。

 

しかし。

 

それを聞いた元締めは冷や汗を流す。

 

「……まずい。」

 

先生も頷く。

 

「ええ。」

 

「今夜一番危険なのは、暴走したニニャではありません。」

 

炎の中。

 

微笑む悪魔こそが、この場で最も恐ろしい存在だった

 

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「おいたには、罰を与えないといけませんね。」

 

デミウルゴスは穏やかな笑みを浮かべたまま、左腕をゆっくりと前へ出した。

 

その瞬間。

 

筋肉が異様な音を立てて膨れ上がる。

 

スーツの袖がはち切れそうになり、悪魔のような巨大な腕へと変貌した。

 

「――悪魔の諸相《剛腕》。」

 

ニニャは咆哮を上げ、十本の赫子を一斉に伸ばす。

 

しかしデミウルゴスは避けない。

 

「遅いですね。」

 

ブンッ!

 

振り抜かれた剛腕が空気を裂く。

 

衝撃だけで赫子が弾き飛ばされ、そのまま拳がニニャの腹部をとらえた。

 

「――っ!」

 

ニニャの身体は宙を舞い、燃え落ちた屋敷の壁を突き破って地面へ転がる。

 

土煙が上がる。

 

しばらく静寂が続いた。

 

やがて。

 

ニニャの赫眼から赤い光が消えていく。

 

十本あった赫子も一本、また一本と縮み、腰の中へ吸い込まれるように消えていった。

 

意識を失ったニニャは、その場に静かに横たわる。

 

「ふむ。」

 

デミウルゴスは懐から小さな革張りの手帳を取り出した。

 

さらさら、と羽根ペンを走らせる。

 

『極度の精神的・肉体的負荷により赫子が異常増殖。理性を喪失するも、戦闘能力は飛躍的に上昇。』

 

さらに数行を書き加える。

 

「興味深い。」

 

眼鏡を指で押し上げ、眠るニニャを見下ろえる。

 

「彼女の成長には、実に目を見張るものがあります。」

 

「まだ不安定ではありますが……。」

 

「この先も、楽しみですね。」

 

くすり、と満足そうに笑う。

 

その笑みは、部下の成長を喜ぶ上司のようでもあり、新たな実験結果に胸を躍らせる研究者のようでもあった。

 

元締めたちは黙ってその様子を見ていた。

 

モン・ドーが小さく息を吐く。

 

「……あの嬢ちゃん、助かったのか?」

 

デミウルゴスは手帳を閉じると、穏やかに答えた。

 

「ええ。」

 

「命に別状はありません。」

 

「少し眠れば目を覚ますでしょう。」

 

そして三人を見回し、静かに続けた。

 

「彼女をお願いします。」

 

そう言い残すと、デミウルゴスの足元に黒い魔法陣が広がる。

 

一瞬で、その姿は夜の闇へと消えた。

 

残されたのは、静かに眠るニニャと、燃え尽きつつある屋敷の炎だけだった。

 

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元締め

 

かつてリ・エスティーゼ王国全土にその名を知られた伝説の義賊。

 

貴族や悪徳商人から財を奪い、貧しい者へ分け与えるその手口から、庶民には英雄と称えられ、権力者には「決して捕らえられぬ影」と恐れられた。

 

しかし歳月は誰にも等しく訪れる。

 

老境に入り、自ら前線で戦うことを退いた彼は、一つの決意をする。

 

「一人の義賊では救える者に限りがある。」

 

法の届かぬ悪。

 

権力に守られた悪人。

 

泣き寝入りするしかない弱者。

 

そうした者たちを救うため、裏社会の情報網と人脈を結集し、闇の制裁者集団を組織した。

 

それが――喰種人である。

 

元締めは依頼人の話を聞き、本当に裁くべき相手なのかを厳しく見極める。

 

恨みや私怨だけの依頼は決して受けず、弱き者を苦しめる悪人のみを標的とすることを掟とした。

 

表向きは年老いた古道具屋の主人として静かに暮らしているが、夜になると裏稼業の顔を見せる。

 

喰種人たちは皆、彼を敬意を込めてただ一言――

 

「元締め」

 

と呼ぶ。

 

その本名を知る者は、喰種人の中にもほとんどいない。

 

モデル 【助け人走る】清兵衛 

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