コードギアス:The New Order ─ Last Days of Empire   作:オムライス黄色連盟

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こんにちは
今回からTNOとコードギアスのクロスオーバーを書きます。

基本的にはTNOの世界観にコードギアスの物語や要素をぶち込みました。
ギアス側のキャラや勢力、KMFは存在しますが、舞台は枢軸国が勝利した1960年代です。

1962年を描く共通ルートを書いた後、各国の顛末を描くそれぞれのルートに分かれて展開していきます。
よろしくお願いします。


プロローグ
1961年 ハワイ危機


1961年4月7日午前1時

東京 枢木家東京邸

 

 その夜、屋敷の上空を軍用機が何度も通過していた。

 窓ガラスが低く震えるたび、廊下に控える使用人たちは顔を上げた。しかし誰も口を開かなかった。

 帝都全域には灯火管制が敷かれている。

 街灯は消され、官庁街の窓には黒い幕が下ろされ、皇居周辺には高射砲部隊とナイトメアフレームが展開していた。

 ラジオは昼から同じ内容を繰り返している。

 

『神聖ブリタニア帝国海軍は、帝国領ハワイ周辺に設定した不法な臨検線をいまだ解除しておりません』

『日本政府は、これは明白な主権侵害であるとして、即時撤退を要求しています』

『ハワイ守備隊は厳戒態勢に入りました。国民の皆様は流言に惑わされず――』

 

 流言。

 その言葉で覆い隠されているものを、枢木スザクは知っていた。

 ブリタニア海軍が日本の輸送船を追跡していたこと。

 ハワイへ運び込まれた日本軍の核弾頭を、ブリタニア側が確認したこと。

 北米西岸のブリタニア軍基地で、爆撃機が核武装状態に置かれたこと。

 日本海軍の潜水艦と水中戦用ナイトメアフレームが、真珠湾沖へ展開したこと。

 そして、この屋敷の奥で、戦争を始める命令が作られようとしていること。

 

 スザクは、父の執務室へ続く廊下に立っていた。

 

 まだ十五歳の少年だった。

 

 それでも、枢木家の嫡男として、軍人や政治家が見せる顔と隠す顔の違いは理解していた。

 襖の向こうから、男たちの声が聞こえてくる。

 

「ブリタニア艦隊は、明朝にも第二警戒線を越える見込みです」

「臨検を認めれば、次は核弾頭の撤去を要求してくる」

「それだけでは済まん。ハワイそのものを非武装化させ、やがて返還交渉へ持ち込むつもりだ」

「しかし、こちらから撃てば全面戦争です」

「すでに戦争だ」

 

 最後の声は、父のものだった。

 枢木ゲンブ。

 枢木家当主。

 大日本帝国枢密院議員。

 陸軍と海軍の双方に強い影響力を持ち、戦後日本の対ブリタニア政策を支えてきた男。

 スザクは拳を握った。

 夕方、彼は偶然、父の机に置かれた作戦文書を見ていた。

 表紙には、ただ一言。

 

 天岩戸

 

 内容は、ブリタニア艦隊が臨検線を越えた場合に発動される先制攻撃計画だった。

 第一段階として水中KMF部隊がブリタニア空母へ接近し、艦底へ爆薬を設置。

 第二段階として日本海軍航空隊が残存艦艇と北米西岸の前進基地を攻撃する。

 第三段階は、ハワイ配備の中距離弾道弾を発射し、ブリタニア軍港と核航空基地を破壊する内容。

 目標一覧の中には、軍事施設だけではなく、その周辺都市も含まれていた。

 

 サンフランシスコ。

 

 ロサンゼルス。

 

 シアトル。

 

 かつてハワイへ原子爆弾を投下されたブリタニアが、報復として日本本土を核攻撃する可能性も記されていた。

 予想死者数は、数字だけで書かれていた。

 数十万。

 数百万。

 その下に、赤い鉛筆で父の文字があった。

 

 許容可能

 

 スザクは襖を開けた。

 室内の会話が止まる。

 長い机を囲んでいた将校、官僚、企業代表たちが一斉に彼を見た。

 壁には太平洋の巨大な地図が掛けられている。

 青い駒は日本軍。

 紫の駒はブリタニア軍。

 ハワイと北米西岸の間には、無数の矢印が引かれていた。

 部屋の最奥に、ゲンブが座っていた。

 

「スザク」

 

 父は眉一つ動かさなかった。

 

「今は子供が入ってよい場所ではない」

「天岩戸を見ました」

 

 室内の空気が変わった。

 将校の一人が立ち上がりかける。

 ゲンブは手を上げて制した。

 

「全員、下がれ」

「しかし、枢木卿――」

「下がれと言った」

 

 男たちは互いに顔を見合わせた後、書類をまとめて退室した。

 最後の一人が襖を閉じる。

 父と息子だけが残された。

 

「どこで見た」

「父上の机です」

「勝手に読んだのか」

「そうです」

「ならば、枢木家の嫡男として、機密を守る責任も理解しているな」

「そんなことを聞きに来たんじゃありません」

 

 スザクは机へ歩み寄った。

 

「本当に撃つつもりなんですか」

「必要ならばな」

「必要って、何がですか」

「日本が生き残るためだ」

 

 ゲンブは立ち上がった。

 背後の地図へ視線を向ける。

 

「ブリタニアはハワイを諦めていない。あの島は奴らにとって被爆地であり、敗戦の象徴だ。皇帝も軍も、いつか必ず奪い返そうとする」

「だから核兵器を置いたんですか」

「核がなければ、すでに上陸している」

「でも、それで戦争になったら――」

「戦争を避けるために、戦争の準備をするのだ」

「そんなの、おかしい」

「お前はまだ若い」

 

 ゲンブの声には怒りよりも、疲労があった。

 

「力を持たぬ国がどうなるか知らない。交渉とは、善意を確かめ合う場ではない。どれだけ相手を傷つけられるか示した上で、互いに妥協点を探すものだ」

「ブリタニアの艦隊が線を越えたら、本当に攻撃するんですか」

「越えさせないために、攻撃命令が必要だ」

「答えてください!」

 

 スザクの声が部屋へ響いた。

 ゲンブは息子を見た。

 

「撃つ」

 

 短い答えだった。

 

「ブリタニア艦隊が臨検を強行した時点で、水中KMF部隊へ攻撃を命じる。空母を沈め、指揮系統を破壊する」

「その後、ブリタニアが核を使ったら?」

「こちらも使う」

「東京に落とされたら?」

「それでもだ」

「ナナリーが死んでも?」

 

 ゲンブの目がわずかに動いた。

 スザクは続けた。

 

「ルルーシュも、ナナリーも、今はブリタニアにいる。父上が命令したら、二人がいる街にも核が落ちるかもしれない」

「彼らはブリタニアの皇族だ」

「僕の友達です!」

「そして、お前は日本の人間だ」

 

 父の声が低くなる。

 

「枢木家の嫡男だ。個人的な情に国家の命運を左右させるな」

「国家って何ですか」

「何?」

「何百万人も殺して、それでも残るものが国家なんですか」

「残らなければ、何も守れん」

「でも、生きている人がいなくなったら、何を守ったことになるんですか!」

 

 ゲンブはしばらく黙っていた。

 やがて机の上から文書を一枚取り上げ、スザクの前へ置いた。

 ブリタニア軍の配備図だった。

 

「見ろ」

 

 北米西岸に赤い印が並んでいる。

 

「戦略爆撃機六個飛行団。中距離弾道弾部隊。原子力潜水艦。さらにブリタニアは、アラスカ方面へ新型KMF部隊を移動させている」

「だからって――」

「向こうはすでに我々へ刃を向けている」

「こっちだって向けています」

「向けなければ斬られる」

「だったら、ずっと終わらないじゃないですか!」

 

 ゲンブは目を閉じた。

 

「終わらせる必要はない」

 

 スザクは言葉を失った。

 

「均衡が続けばよい。互いに撃てないほどの力を持ち続ければ、平和は保たれる」

「今、撃つって言ったじゃないですか」

「均衡を破ろうとする側があれば、罰を与えねばならん」

「それは平和じゃない」

「平和とはそういうものだ」

「違う!」

 

 スザクは机を叩いた。

 茶器が倒れ、畳へ茶が広がった。

 廊下の向こうで、護衛が動く気配がする。

 しかしゲンブは呼ばなかった。

 

「父上が間違っている」

「そうかもしれん」

 

 意外な答えだった。

 

「だが、正しい者が常に国を守れるとは限らん」

「じゃあ、誰かが止めないと」

「誰がだ」

「僕が」

 

 ゲンブは息子を見つめた。

 哀れむような、あるいは試すような目だった。

 

「お前に何ができる」

「命令を取り消してください」

「できん」

「内閣の協議を待ってください。桐原公たちは交渉を続けています。ブリタニア側にも戦争を望んでいない人がいるはずです」

「希望で艦隊は止まらん」

「でも――」

「スザク」

 

 ゲンブの声が、父親のものから政治家のものへ変わった。

 

「明朝四時、最終命令を発する」

 

 スザクの顔から血の気が引いた。

 

「ブリタニア艦隊がその時点で警戒線内に留まっていれば、攻撃を開始する」

「線を越えていなくても?」

「臨検態勢を解除していない以上、敵対行動は継続している」

「それじゃ、父上から戦争を始めることになる!」

「歴史に記録されるのは、先に撃った者ではない。最後に立っていた者だ」

 

 ゲンブは机の引き出しを開けた。

 中から命令書を取り出す。

 すでに署名も押印も済んでいた。

 

「海軍司令部へ送る」

 

 スザクは命令書を見た。

 紙一枚。それだけで、太平洋が燃える。

 ハワイで兵士が死ぬ。北米の都市が焼かれる。日本本土へ核が落ちる。

 ルルーシュが死ぬかもしれない。ナナリーも死ぬかもしれない。

 知らない何百万人もの人間が死ぬ。

 スザクは父の前へ回り込んだ。

 

「渡さないでください」

「退け」

「嫌です」

「これは命令だ」

「僕は軍人じゃない」

「ならば、父の命令に従え」

「父上が間違っているなら、従えません」

 

 ゲンブは初めて、はっきりと怒りを見せた。

 

「枢木の名を持ちながら、国家より友人を選ぶというのか」

「国家のためなら、何をしてもいいんですか」

「必要なことをする。それが責任だ」

「人を殺すことが?」

「時にはな」

 

 その言葉が、スザクの中で何かを切った。

 父は命令書を手に、廊下へ向かおうとした。

 スザクはその腕をつかんだ。

 

「離せ」

「行かせません」

「護衛を呼ぶぞ」

「呼べばいい」

「スザク!」

 

 ゲンブが腕を振り払う。

 少年の身体が机へぶつかった。

 引き出しが開き、中の物が床へ散らばった。

 

 書類。

 

 印章。

 

 拳銃

 

 枢木家当主が護身用に所持していた小型拳銃だった。

 

 二人の視線が同時にそこへ落ちる。

 

 ゲンブが拾おうとし、スザクも手を伸ばす。

 指が重なり、拳銃が畳の上を滑った。

 スザクが先に握った。

 重かった。

 こんなに小さいのに、腕が下がりそうなほど重く感じた。

 

「置け」

 

 ゲンブが言った。

 スザクは拳銃を向けた。

 手が震えている。

 

「命令を取り消してください」

「置きなさい」

「取り消して!」

「撃てるものか」

 

 ゲンブは一歩近づいた。

 

「お前は優しい子だ」

「来ないで」

「人を殺せない」

「来ないでください!」

「だから、お前は指導者にはなれん」

 

 父の手が拳銃へ伸びる。

 

「優しさだけでは、何も守れない」

 

 スザクは引き金を引いた。

 銃声は、思ったより小さかった。

 ゲンブの身体が止まる。

 胸元に赤い穴が開いた。

 数歩後ろへ下がり、机へ手をつき、そのまま畳へ崩れ落ちた。

 

「父上……?」

 

 拳銃がスザクの手から落ちた。

 ゲンブは答えなかった。

 スザクは膝をつき、父の身体を抱き起こした。

 

「父上」

 

 血が手についた。

 温かかった。

 

「父上、僕は……」

 

 ゲンブの唇がわずかに動いた。

 声にはならない。

 視線だけが、息子の向こう側にある何かを見ていた。

 

 国家か。

 

 戦争か。

 

 あるいは、自分が守ろうとした日本か。

 

 やがて、その目から光が消えた。

 スザクは動けなかった。

 襖の向こうから足音が近づいてくる。護衛が銃声を聞いたのだ。

 床には命令書が落ちている。海軍司令部へ届けば戦争が始まる。

 父は死んだ。

 それでも命令書は残っている。

 

 スザクは震える手で文書を拾った。

 署名された命令書を、灯油式の暖房器具へ押し込む。

 紙の端へ火が移った。

 『天岩戸』の文字が黒く縮れ、炎に飲まれる。

 その時、襖が開いた。

 

「枢木卿!」

 

 護衛たちが室内へなだれ込む。

 床に倒れたゲンブ。血に濡れたスザク。

 燃える命令書。落ちている拳銃。

 誰もが、何が起きたかを理解した。

 スザクは抵抗しなかった。ただ、炎を見つめていた。

 これで戦争は止まる。そう思いたかった。

 父を殺せば、命令も消える。

 自分が罪を背負えば、ほかの誰かは死なずに済む。

 だが、屋敷の外では軍用機の轟音が鳴り続けていた。

 ハワイでは日本軍とブリタニア軍が向かい合っている。

 

 核兵器は消えていない。

 

 憎しみも、帝国も、何一つ消えてはいない。

 スザクが止めたのは、世界ではなかった。

 ただ、一人の父親の命令だけだった。

 翌朝、日本政府は短い声明を発表した。

 

 枢木ゲンブ公爵、急逝。

 

 死因は心臓発作。

 

 帝国の危機に際して職務へ殉じた忠臣として、国葬をもって遇する。

 息子の名は、どこにもなかった。

 同じ朝、日本政府はハワイ周辺における軍事行動を一時停止し、ブリタニア側との緊急交渉再開を発表した。

 

 世界は核戦争を免れた。

 

 誰も、十五歳の少年が父を殺したからだとは知らなかった。

 

 こんな筈じゃなかった。

 

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