コードギアス:The New Order ─ Last Days of Empire   作:オムライス黄色連盟

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今回で共通ルートは終わりです。
次回からは各国家のルートで進みたいと思います。


軍閥たち

 

 ゼロが世界へ姿を現してから、数日が過ぎた。

 その映像がロシアの大地へ届いた頃には、ブリタニアでも日本でも、すでに次の政治的駆け引きが始まっていた。

 だがロシアでは、時間の流れそのものが異なっている。

 通信網は寸断され、鉄道は破壊され、都市と都市の間には無数の軍閥がひしめく。

 ラジオの電波は妨害され、新聞は国境ごとに内容を変え、外国の映像記録は密輸品のように扱われていた。

 

 それでも、仮面の男の姿は届いた。

 

『私はゼロ』

『ブリタニアだけではない』

『日本も、ドイツも、すべて変える』

 

 その声は、爆撃に怯える都市へ。

 略奪に焼かれた村へ。

 凍てつく塹壕へ。

 そして地下深くに築かれた司令部へ届いた。

 

 ロシアでは今日も、誰かが死んでいた。

 

 ドイツ空軍は工場を焼き、鉄道を断ち、農地へ爆弾を落とす。

 軍閥の兵士は隣村から食料を奪い、明日には別の軍閥によって殺される。

 

 国家は失われ、法も秩序も遠い記憶となった。

 

 平和とは程遠い世界。

 

 それでもロシアの大地では、誰かが待っていた。

 この世界へ反逆する者が現れる日を。

 


 

1962年4月30日

西ロシア革命戦線 暫定首都アルハンゲリスク

 

 北方の港湾都市には、冷たい風が吹いていた。

 海は鉛色に濁り、埠頭には補修を終えていない輸送船が並ぶ。

 市街地の外れでは、先日の戦闘で損傷した車両が雪解けの泥へ半ば沈んでいた。

 

 革命戦線は、フィンランドとの間に位置する反共義勇防衛軍による収奪行為を撃退したばかりだった。

 防衛軍は村々から穀物を徴発し、若者を連れ去り、拒んだ者を反共闘争の敵として処刑していた。

 その部隊が革命戦線の勢力圏へ踏み込んだことで、戦闘が始まった。

 赤軍の名残を継ぐ部隊はこれを退けた。

 だが勝利の代償として、弾薬と燃料の多くを失っていた。

 

 暫定政府庁舎の一室。

 

 アレクサンドル・エゴロフは、卓上に置かれた映写機を見つめていた。

 壁に映し出されているのは、ブリタニア首都で撮影された粗い映像。

 御料車の上に立つ、黒衣の男。

 その脇には、ブルグントの標章を持つ黒いコンテナ。

 

「もう一度、止めろ」

 

 エゴロフの指示で、映像が静止する。

 ゼロが片手を掲げた場面だった。

 机を囲んでいるのは、ゲオルギー・ジューコフとミハイル・トゥハチェフスキー。

 同じ革命戦線に属しながら、戦争観も国家観も異なる二人である。

 

「ブリタニアの皇子を殺し、軍の面前から容疑者を奪還した」

 

 エゴロフは報告書へ目を落とした。

 

「しかも、ブルグント由来の機密物を手にしている」

「宣伝映像としては上出来です」

 

 ジューコフが言う。

 

「市民の前で帝国軍を屈服させた。銃撃戦で勝つより効果がある」

「宣伝だけではない」

 

 トゥハチェフスキーは映像の一部を指した。

 

「配置を見ろ。軍は車両を完全に包囲している。それでも撃てなかった」

「コンテナを盾にしたからでは?」

「それだけではない。指揮官の態度が急変している」

 

 映像では、ジェレミアがスザクの解放を命令していた。

 その直前まで、彼はゼロを射殺しようとしていた。

 

「何らかの脅迫材料を握っていたのかもしれん」

 

 エゴロフが言う。

 

「オレンジという言葉か」

 

 ジューコフは鼻を鳴らした。

 

「何の意味もない言葉に見えるが」

「意味がないからこそ奇妙だ」

 

 トゥハチェフスキーは目を細めた。

 

「それだけで軍人が命令を変えるとは思えない」

「ブルグントの研究と関連がある可能性は?」

 

 エゴロフの問いに、部屋が静まる。

 ブルグント。

 ヒムラーの騎士団領とされ、ドイツ本国以上に閉ざされ、その内部では人間を材料とした研究が行われているという噂が絶えない。

 

「現時点では断定できない」

 

 ジューコフが答える。

 

「だが、ゼロが三帝国すべてを変えると宣言したことは重要だ」

「本気で言っていると思うか」

「少なくとも、ブリタニアの皇子を殺す程度には本気だ」

 

 エゴロフは椅子へ深く腰掛けた。

 革命戦線にとって、最優先はロシアの再統一だった。

 軍閥を制圧し、赤軍を復活させ、モスクワを奪還する。

 

 その先にあるのは、ドイツへの報復。

 

 だが現在のロシアには、ドイツと正面から戦う力はない。

 西ロシア戦争の敗北によって、赤軍は砕かれた。

 兵士は残っている。

 将軍もいる。

 思想も消えていない。

 しかし工場も、燃料も、何もかも足りない。KMFや航空機に至っては絵に描いた餅だった。

 

「もしゼロの目的が本物なら」

 

 エゴロフが静かに言った。

 

「ドイツは西でも揺さぶられる」

「ブリタニアと日本まで敵に回す男だ」

 

 ジューコフは腕を組む。

 

「信用はできない」

「信用する必要はない。利用できるかどうかだ」

 

 トゥハチェフスキーが答えた。

 

「ゼロがドイツ国内で反乱を起こせば、空軍と治安部隊の一部は西へ向く。東方占領地への圧力も弱まる。その隙に、我々がロシアを統一する」

 

 ジューコフは地図へ視線を落とした。

 アルハンゲリスクの周りには、幾つもの軍閥がある。

 ヴォログダ、コミ共和国、サマラ、そして今はドイツの手にあるモスクワ。

 地図の上には、無数の境界線が引かれている。

 

「今の革命戦線には外国へ工作員を送る余裕は少ないぞ」

「正規の代表団を送る必要はない」

 

 トゥハチェフスキーは言った。

 

「密輸商人、亡命者、共産主義系移民組織を使う」

「ブリタニア国内の左派団体へ接触するのか」

「ゼロ自身が世界を変えると言った。それなら、こちらから存在を知らせる価値はある」

 

 エゴロフは二人を見比べた。

 ジューコフは慎重だった。

 まず軍を再建し、国民を守り、確実に一歩ずつ進む。

 一方のトゥハチェフスキーは、戦争そのものを革命の手段として見ている。

 外国の混乱も、敵の内乱も、すべて攻勢へ転じる好機だった。

 

「非公式な接触を許可する」

 

 エゴロフは結論を下した。

 

「ただし、革命戦線の正式な承認は与えない」

「こちらの名を伏せると?」

「当面はな」

「臆病では?」

 

 トゥハチェフスキーの言葉に、ジューコフが視線を向ける。

 

「国家すら統一できていない我々が、世界革命を名乗る方が滑稽だろう」

「世界革命とは言っていないぞ」

「言葉を変えても同じだ」

「二人ともやめろ」

 

 エゴロフが制した。

 

「ゼロが何者であれ、我々の戦争を代わりに戦ってくれるわけではない」

 

 映写幕の仮面を見つめる。

 

「ロシアを救うのは、ロシア人だ」

「だが外の世界に亀裂が入るなら、利用する」

 

 エゴロフは報告書を閉じた。

 

「赤軍を復活させるために」

 


 

ほぼ同日

中央シベリア東部 ブリヤート

 

 バイカル湖から吹き込む風が、革命政府庁舎の窓を震わせていた。

 ヴァレリー・サブリンは、小さなラジオの前に座っていた。

 机上には、ゼロの演説を文字へ起こした資料が置かれている。

 映像そのものはまだ届いていない。

 手に入ったのは、外国放送を傍受し、複数の通信員が書き写した断片だけだった。

 

『帝国は絶対ではない』

『ブリタニアも、日本も、ドイツも変える』

 

 サブリンは何度もその部分を読み返した。

 

「ずいぶんと大きなことを言う男だね」

 

 サブリンの言葉に、側近が苦笑する。

 

「皇子を殺したとも認めています。革命家というより、冒険主義者では?」

「そうかもしれない」

 

 サブリンは否定しなかった。

 ヤゴダとNKVDに対する蜂起の時、彼は血を流して指導者の座へついた。

 革命は、理想だけでは成り立たない。

 だからこそ、ゼロの言葉に単純に酔うことはできなかった。

 

「だが、彼は国を一つだけ選ばなかった」

「日本もドイツも敵に回した点ですか?」

「敵に回したというより、変える対象として扱った」

 

 サブリンは資料を持ち上げる。

 

「普通の民族解放運動なら、ブリタニアを倒すと言うだろう。外国勢力の工作員であれば、日本かドイツの利益を語る。だけど」

 

 若き指導者は、側近に向き直る。

 

「ゼロは、そのどちらでもないと言った」

「本当に独立している保証はありませんが……」

「そうだね」

 

 サブリンは笑った。

 

「確かに仮面を被った男の言葉を、そのまま信じるほど私は純粋ではないよ」

 

 それでも、彼はゼロに奇妙な親近感を覚えていた。

 巨大な国家。

 腐敗した官僚。

 暴力によって維持される秩序。

 そこへ、一人の人間が反逆を宣言する。

 ゼロの方法が正しいとは限らない。

 だが、世界は変えられると公然と言い切ったことには意味があった。

 

「革命は、誰かが最初に不可能を口にするところから始まる」

 

 サブリンは窓の外を見た。

 ブリヤートの街では、若い兵士たちが訓練をしている。

 旧式の装備、不足する弾薬、擦り切れた軍服。

 それでも彼らは、ヤゴダの恐怖政治を終わらせ、自分たちの手で新しい国を作れると信じていた。

 

「ゼロに接触しますか」

 

 側近が尋ねる。

 サブリンは少し考えた。

 

「今はしないよ」

「関心があるのでは?」

「あるからこそだよ」

 

 彼は資料を机へ置いた。

 

「こちらには、彼へ差し出せるものがない」

「思想的な連帯は?」

「言葉だけの連帯では、彼に利用されるか、こちらが期待しすぎる」

 

 サブリンは立ち上がった。

 

「まず、ブリヤートを安定させよう。住民へ食料を配り、兵士へ規律を教える」

「その次に、周辺を統一するおつもりですね?」

「ああ。そして、いつかロシア全土を」

 

 サブリンは遠い未来を語っていた。

 

「だが、ヤゴダの国を大きくするのではない。ブハーリンの轍を踏むわけじゃない。人が恐れる国家じゃなく、国家が人を守るロシアを作りたい」

 

 彼は壁に掛けられた赤旗を見上げた。

 

「もしゼロが本当に世界を変えるなら、いつか我々も向き合うことになる」

「味方として、でしょうか?」

「それは、その時の彼と私たち次第だ」

 

 サブリンは静かに拳を握った。

 

「だがロシアは、誰かに救われるのを待つだけの国にはしない」

 

 今日この地で、彼は改めて誓った。

 自分の理想によって、ロシアを統一すると。

 


 

ほぼ同日

国家再生政府 首都オムスク

 

 空襲警報が鳴っていた。

 ドイツ空軍の爆撃機が、地平線の向こうから飛来する。

 迎撃機はない。

 対空砲弾も不足している。

 警報が発せられると、人々は工場から、学校から、畑から地下へ逃げ込んだ。

 

 数分後。

 

 爆発が大地を揺らした。

 

 工場の屋根が吹き飛ぶ。

 橋脚が崩れる。

 校舎の窓が割れる。

 畑には巨大な穴が開き、積み上げられていた収穫物が炎に包まれる。

 軍事施設だけではない。

 ドイツ軍は、ロシア人が生きるために必要なものすべてを破壊した。

 防空壕の中。

 母親は子供を抱きしめる。

 老人は壁の振動を聞きながら、目を閉じている。

 若者たちは無言で天井を見上げていた。

 恐怖よりも強い感情が、その目に宿っている。

 

 復讐。

 

 この日だけではない。昨日も爆撃された。そして奴らは明日も来る。

 家を焼いた。学校を壊した。家族を殺した。

 ならばいつか、同じものをドイツへ返さなければならない。

 

 そんなオムスクの地下深く。

 

 国家再生政府の司令部は、厚いコンクリートと鋼鉄扉によって守られていた。

 照明は暗く、空調設備は低い音を立てている。

 壁面を埋めるのは、ドイツ支配地域の地図。

 ドミトリー・カルヴィシェフは、その地図の前に立っていた。

 老いた身体、深く刻まれた皺、長年の捕虜生活と戦争によって削られた顔。

 それでも、目だけはまだ鋭かった。

 その向かいに立つのは、ドミトリー・ヤゾフ陸軍元帥。

 若く、無表情で、黒い軍服を寸分の乱れもなく着込んでいる。

 遠くで爆発が響く。

 地下司令部の天井から、細かな埃が落ちた。

 

「また学校が爆撃されました」

 

 参謀が報告する。

 

「死傷者は確認中です。西部の鉄橋も破壊されました」

「復旧させろ」

 

 カルヴィシェフが答える。

 

「夜間作業で、明朝までに通行可能にする」

「はい」

 

 参謀が退出する。

 カルヴィシェフは椅子へ腰掛けた。

 

「私は、長く生きすぎた」

 

 ヤゾフは何も答えない。

 

「ロシア帝国を、革命を、内戦を、赤軍を見た。そしてドイツに敗れ、ロシアが砕けるところまで見た」

 

 老人は息を整えた。

 

「だが、最後までは見られない」

「元帥」

「私の身体は、もう長くない……」

 

 ヤゾフの表情がわずかに動く。

 

「医師の診断ですか?」

「医師に言われなくとも分かる」

 

 カルヴィシェフは自分の手を見た。

 わずかに震えている。

 

「私は、この国家再生政府を作った。生き残るための軍を作った。だが、最後の審判を下すのは私ではないだろう」

 

 ヤゾフは黙っていた。

 それが何を意味するか、理解している。

 

「ドミトリー・ティモフェーエヴィチ」

 

 カルヴィシェフは彼の名を呼んだ。

 

「本日より、君を私の正式な後継者に任命する」

 

 地下司令部にいた参謀たちが一斉に姿勢を正す。

 ヤゾフは一歩前へ出た。

 

「私に、大審判を委ねるのですか」

「そうだ」

「ドイツを滅ぼすために」

「ドイツだけではない」

 

 カルヴィシェフは地図を見上げた。

 

「ドイツを生み出した世界そのものに、ロシアの痛みを刻み込む」

 

 壁面の一角に、ゼロの写真が貼られていた。

 外国から入手された粗い写真。

 黒い仮面の男。

 その隣には、翻訳された演説の一部。

 

『ブリタニアだけではない。日本も、ドイツも変える』

 

 ヤゾフが写真を見る。

 

「こいつは世界を変えると言ったな」

 

 カルヴィシェフは冷たく言う。

 まるで彼の理想を嘲笑うかのように。

 

「世界を変えるという者は、最後には自分が世界を支配しようとします」

 

 ヤゾフは彼の言葉に即答した。

 

「そうだ。それでいい」

 

 カルヴィシェフは笑った。

 

「奴も含め、まとめて裁けばいい」

 

 ヤゾフは再びゼロの写真を見た。

 

「利用価値はあります」

「ドイツ国内へ混乱を起こすならな」

「接触を試みますか」

「不要だ」

 

 カルヴィシェフの声に迷いはなかった。

 

「我々は他人の革命に期待しない。ブリタニア人がドイツ人を殺しても、ロシアの死者は蘇らない。日本がドイツを裏切っても、焼かれた村は戻らない」

 

 カルヴィシェフはゆっくりと、古傷の残る身体で立ち上がる。

 

「我々が自らゲルマニアへ進み、報いを与えなければ意味がない」

 

 その言葉に、ヤゾフは敬礼して答えた。

 

「承知しました」

 

 カルヴィシェフは立ち上がる。

 足元がわずかに揺れたが、杖には頼らなかった。

 

「最後の審判は、復讐ではない」

 

 老人は言った。

 

「義務だ。ロシア人が二度と踏みにじられないために、敵を完全に消し去る。その義務を、お前へ渡す」

 

 ヤゾフは右手を胸へ当てた。

 

「必ず成し遂げます」

「たとえ、我々自身が滅びようとも」

 

 その言葉に、地下司令部の誰も異議を唱えなかった。

 頭上では、再び爆弾が落ちていた。

 地面が揺れる。

 照明が明滅する。

 だがオムスクの人々は、もう空を見上げない。

 彼らが見ているのは西だった。

 

 ドイツがある方角。

 

 いつか自分たちの軍隊が進むべき方角。

 カルヴィシェフが老いて見ることのできなかった光景を、ヤゾフは受け継いだ。

 ゲルマニアの炎。

 ドイツ帝国の崩壊。

 

 そして世界を巻き込む、最後の審判。

 

 ゼロはまだ、ロシアを見ていない。

 自分の宣言が、砕かれた大地の奥深くまで届いたことも知らない。

 

 だがその日。

 

 ロシアの三つの場所で、それぞれ異なる未来が動き始めた。

 革命の赤旗。

 理想を掲げる若者。

 世界を焼く復讐。

 

 誰がロシアを統一するのか

 

 そして統一されたロシアが、ゼロの前へ味方として現れるのか。

 あるいは、世界最後の敵として立ちはだかるのか。

 その答えは、まだ誰にも分からなかった。

 

 

 

 

反逆を待つ大地 

 




解説
『ロシア軍閥』
TNO世界のロシアは、史実の日中戦争以前の中華軍閥よりもさらにカオスな無政府状態である。
シベリア地域は連日ドイツ空軍の爆撃に晒されており、国家の再生どころかインフラの維持すらままならない。そのためロシア人は常に暴力と略奪、そして思想の坩堝の中で暮らしており、平和な地域は本当に一握り。
ゲーム内ではこれら軍閥のほとんどをプレイできる上、ルートも充実しているので人気のあるコンテンツである。
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