コードギアス:The New Order ─ Last Days of Empire 作:オムライス黄色連盟
1962年4月21日午後3時02分
神聖ブリタニア帝国 首都ペンドラゴン
医療トラックの中で、スザクは白衣の男を見上げていた。
「僕に、KMFへ乗れと?」
「そう」
男──ロイド・アスプルンドは、まるで新しい玩具を見せる子供のように笑った。
「もちろん傷は開くかもしれない。普通なら、とても勧められない状態だ」
「なら、なぜ」
「君が普通じゃないから」
ロイドは端末を操作し、スザクの身体データを表示した。
「反応速度、筋力、平衡感覚。どれも非常に高い。それに、撃たれた直後でも民間人を守ろうとした」
「それは操縦能力と関係ありません」
「僕はあると思うな」
ロイドは医療トラックの扉を開けた。
外には大型輸送車両が停車していた。
荷台の装甲扉が開き、その内部に白いKMFが固定されている。
スザクは息を呑んだ。
既存のサザーランドとは、まるで違う。
白と金の装甲。
細身でありながら、全身へ力が凝縮されているような機体。
脚部には高出力ランドスピナー。
両腕には見慣れない剣。
右腕側には大型の射撃兵装。
盾の代わりに、サクラダイトの光を帯びた防御装置が組み込まれている。
「試作第七世代相当ナイトメアフレーム」
ロイドが誇らしげに言った。
「Z-01《ランスロット》」
「ランスロット……」
「非常に高性能だけど、扱える人間がいなくて困っていたんだ」
「騎士専用機では?」
「本来ならね。でも、適合する騎士が見つからない」
「僕は騎士ではありません」
「知ってるよ。日本人で、二等兵で、味方に撃たれた命令違反者だ」
スザクの顔が曇る。
「だからこそ、誰も君を候補に考えない」
ロイドは楽しそうに続ける。
「僕は身分より数値を信用する。機械は血統を見ないからね」
スザクは白い機体を見上げた。
旧市街地では、今も戦闘が続いている。
民間人もいて、巻き込まれている。
ルルーシュも、まだ生きているかもしれない。
「この機体に乗れば、掃討作戦を止められますか」
「それは君次第だ」
「テロリストを倒せば、軍は住民への攻撃をやめる?」
「少なくとも、クロヴィス殿下が求めている積荷と反乱部隊を短時間で確保できれば、無差別な制圧を続ける理由は減るだろうね」
ロイドの言葉は保証ではなかった。
それでも、スザクにはほかの手段がない。
「乗ります」
「傷は?」
「動けます」
「死ぬかもしれないよ」
「ここで何もしなければ、もっと多くの人が死にます」
ロイドは一瞬だけ目を細めた。
そして、嬉しそうに笑った。
「契約成立だ」
白い機体が輸送車両から降りた。
ランスロットの足が地面へ触れる。
コックピットの中で、スザクは操縦桿を握っていた。
腹部の傷が脈打つ。
鎮痛剤で痛みは抑えられているが、身体を強く動かせば縫合が開く可能性がある。
『聞こえるかい、スザク君』
ロイドの声が通信機から響く。
「はい」
『基本操作はサザーランドと同じ。ただし反応速度も出力も、まるで違う。慎重に――』
スザクがペダルを踏む。
フルスロットルだった。
ランスロットが一瞬で加速した。
「速い……!」
機体が道路を駆け抜ける。
通常のKMFなら減速する曲がり角を、ランスロットは壁面を蹴りながら通過した。
スザクの身体に強い横加速度がかかる。
傷口が痛む。
それでも機体は、彼の意思へ即座に応えた。
『反乱機を前方に確認』
ブリタニア軍の管制が告げる。
カレンが奪ったサザーランドが、撤退する構成員を援護していた。
スザクは大型射撃兵装――ヴァリスを構える。
だが、コックピットを直接狙わない。
足元へ発砲する。
エネルギー弾が道路を砕き、カレン機の進路を塞いだ。
「何!?」
カレンが驚く。
白い機体が煙の中から飛び出した。
「新型……!」
カレンはアサルトライフルを連射する。
ランスロットの前面に光の障壁が展開した。
ブレイズルミナス。
銃弾が弾かれる。
「防いだ!?」
スザクはMVSを抜いた。
赤く発光する刀身。
カレン機の銃だけを切断する。
続けて脚部を蹴り、機体を転倒させた。
コックピットへ攻撃は加えない。
「投降してください!」
『誰がするか!』
カレンが立ち上がろうとする。
だがランスロットは既に次の目標へ向かっていた。
玉城たちが奪った装甲車。廃工場の屋上から射撃する構成員。地下道入口を守る武装班。
白い機体は一機で戦場を駆け回り、武器と移動手段だけを次々に破壊していく。
殺すためではない。
戦闘を続けられなくするための攻撃だ。
それでも、その速度と正確さは移民組織にとってはとてつもない脅威だった。
『何だよ、あの白い奴!』
玉城が叫ぶ。
『サザーランドが全然ついていけてねえ!』
『全員、予定どおり排水路へ!』
扇が退避を急がせる。
カレンは再びランスロットへ向かおうとした。
『カレン、相手をするな』
謎の指揮官――ルルーシュの声が割り込む。
「でも、あいつを止めないと!」
『止められない』
「やってみなきゃ分からない!」
『今のお前では勝てない』
ルルーシュはランスロットの動きを通信映像越しに分析していた。
機体性能だけではない。
搭乗員の反応と判断が異常に速い。
敵を撃破できる場面でも、意図的に非致死攻撃を選んでいる。
無謀なほど正面から突っ込みながら、民間人や味方を巻き込まない経路を選ぶ。
その戦い方に、奇妙な既視感があった。
「パイロットは誰だ……」
ルルーシュが呟く。
緑髪の少女が外部映像を見つめる。
「知り合いか?」
「分からない」
顔は見えない。
通信も共通周波数ではない。
だが、あの戦い方。
自分を危険へ晒してでも他人を助けようとする、愚直な選択。
まさか。
ルルーシュはすぐに可能性を否定した。
スザクは撃たれ、意識を失っていた。
回収されたとしても重傷者だ。負傷者している兵士が、あんな新型KMFへ乗れるはずがない。
『指揮官!』
カレンの声が響く。
『このままじゃ、みんな逃げ切れない!』
ルルーシュは地図を確認した。
ランスロット一機によって、ブリタニア軍全体の動きが回復し始めている。
白い機体が反乱部隊を足止めする間に、サザーランド部隊が封鎖線を再構築していた。
盤上へ突然、規格外の駒が投入された。
こちらの作戦を、一機で崩せる駒。
「なら、その駒を盤上から外す」
『何をするつもり?』
「俺が引きつける」
『無茶よ!』
「ほかに方法がない」
ルルーシュは奪ったサザーランドを動かした。
ブリタニア軍の識別信号はまだ生きている。
味方機を装いながら、ランスロットの進路へ接近する。
正面から戦う気はない。
狭い路地へ誘い込み、建物を崩して動きを止める。
あるいは地下構造物へ落とす。
機体性能で劣るなら、地形と罠を使う。
ルルーシュは廃ビルの陰へ身を隠した。
「来い、白兜」
同時刻
旧市街地 廃墟ビル
ランスロットのコックピットで、スザクは周囲を見渡していた。
反乱勢力の動きが変わった。
先ほどまで統制されていた退却が、突然乱れ始めている。
いや。
乱れているように見せかけている。
一部の兵力が意図的に姿を見せ、こちらを誘導している。
「指揮官がいる」
『何か言ったかい?』
ロイドが聞き返す。
「この人たちは、ばらばらに逃げているんじゃありません。誰かが全体を動かしています」
『あー、クロヴィス殿下も同じ判断をしているよ。ただ敵指揮官の位置は不明だ』
スザクは戦場を見渡す。
敵が逃げた方向。ブリタニア軍が誤誘導された地点。反乱機が現れた時刻。通信妨害の発信源。
それらを頭の中で結ぶ。
スザクは戦術家ではない。
だが、自分が戦場でどう動かされているのかを感じることはできた。
敵指揮官は、ランスロットを反乱部隊から引き離そうとしている。
そのために、わざと一機だけ不自然な動きを見せている。
「見つけた」
廃ビルの谷間。
帝国軍識別信号を発している一機のサザーランドが、ほかの部隊と異なる方向へ移動していた。
味方なら、G-1ベースの再編命令へ従うはずだ。
だがその機体は命令を無視し、戦場を見渡せる高台へ向かっている。
『味方機だよ』
ロイドが言う。
「違います」
『どうして?』
「あの機体だけ、戦っていません」
スザクは操縦桿を握り直した。
「あそこから全員へ指示を出している」
ランスロットが方向を変える。
高出力ランドスピナーが地面を削った。
白い機体が一気に加速する。
同時刻
旧市街地 廃墟ビル
警告音が鳴った。
ルルーシュのサザーランドが、急接近する高出力反応を捉える。
「気づいたか!」
ルルーシュは機体を後退させる。
廃ビルの間から、白い影が飛び出した。
──速い。
予測よりはるかに速かった。
ランスロットは道路を走っていない。
建物の壁へスラッシュハーケンを打ち込み、振り子のように空中で軌道を変えながら接近している。
「右へ!」
ルルーシュが操縦桿を倒す。
サザーランドが路地へ飛び込む。
直後、背後の道路へランスロットが着地した。
衝撃で路面が砕けた。白い頭部が持ち上がる。
ファクトスフィアが展開し、ルルーシュの機体を正確に捉えた。
「逃がさない!」
スザクが叫ぶ。
ランスロットの脚部が地面を蹴った。
白い騎士が、ルルーシュのサザーランドへ飛びかかった。
刃が、サザーランドの頭部を薙いだ。
ルルーシュは機体を屈ませ、紙一重で回避する。
ランスロットのMVSが背後の壁へ食い込み、赤熱した刀身がコンクリートを溶かした。
「この反応速度……!」
ルルーシュは操縦桿を切る。
サザーランドがランドスピナーを滑らせ、ランスロットの側面へ回り込む。
アサルトライフルを連射。
ランスロットは振り向きざまにブレイズルミナスを展開した。
銃弾が光の障壁へ弾かれる。
「射撃も通じないのか」
ルルーシュは舌打ちした。
機体性能にはあまりにも大きな差がある。
自分のサザーランドは正規軍の量産機。
対する白いKMFは、従来機の常識そのものから外れている。
何より、搭乗者の判断が速い。
ランスロットが再び地面を蹴った。
真正面から迫る。
ルルーシュは後退しながら、スラッシュハーケンを上方へ射出した。
ワイヤーが老朽化した高架橋の支柱へ巻きつく。
「落ちろ!」
サザーランドがワイヤーを引く。
亀裂の入っていた支柱が折れ、巨大なコンクリート片がランスロットの頭上へ落下した。
だが白い機体は止まらなかった。
MVSを振り上げる。
赤い刃が落下する瓦礫を切り裂いた。
「何だと……!」
砕けたコンクリートの雨を突き抜け、ランスロットが迫る。
ルルーシュは機体を横へ滑らせた。
白い脚部がサザーランドの肩を蹴り抜く。
装甲が砕け、機体が建物の壁へ叩きつけられた。
警告表示が一斉に点灯する。
『右肩部損傷』
『火器管制異常』
『駆動系出力低下』
「まだだ!」
ルルーシュはサザーランドを立て直した。
敵は強い。
だが、戦い方には一貫性がある。
相手はコックピットを狙わない傾向があると見た。武器と脚部だけを破壊し、搭乗者を生かそうとしている。
戦場で自ら不利を背負ってまで、敵を殺すことを避けている。
そんな戦い方をする人間を、ルルーシュは一人しか知らなかった。
「まさか……」
白い機体が再び剣を構える。
ルルーシュの無線へ、カレンの声が飛び込んできた。
『聞こえる!?』
「カレンか」
『今からそっちへ行く!』
「来るな。お前でも相手にならない」
『だからって一人でどうにかできるの!』
「できないから撤退する」
『だったら援護する!』
「仲間はどうした」
カレンは一瞬だけ、何かを確認するかのように間を置いた。
『排水路へ入った。扇さんたちなら、もう包囲の外へ出られる』
「なら三十秒だけ稼げ」
『三十秒?』
「それ以上は必要ない」
ルルーシュはサザーランドの残ったスラッシュハーケンを発射した。
ランスロットが回避する。
その瞬間、側面の建物からカレンの奪取したサザーランドが飛び出した。
「こっちよ、白兜!」
カレン機がアサルトライフルを連射する。
ランスロットがブレイズルミナスを展開し、射線を遮った。
ルルーシュはその隙に機体を反転させる。
「煙幕を使え!」
『分かってる!』
カレン機の肩部から煙幕弾が発射された。
白い煙が路地一帯を覆う。
センサーが一時的に乱れる。
ルルーシュはサザーランドを煙の中へ滑り込ませた。
同時刻
旧市街地 裏路地
「待て!」
スザクはランスロットを前進させた。
ファクトスフィアを展開し、煙幕の向こうを探る。
二機のサザーランドの反応。
一機は西へ。
もう一機は北側の廃工場へ向かっている。
どちらが指揮官機か。
「ロイドさん、識別できますか」
『難しいね。煙幕に金属片を混ぜている。両方とも帝国軍の識別信号を使っているし』
「動きが違う」
西へ逃げる機体は、極端に慎重だった。
遮蔽物を選び、追撃経路を限定しようとしている。
北へ向かう機体は、意図的に姿を見せている。
援護役だ。
「西の機体です」
スザクはランスロットを加速させた。
煙幕を突き抜ける。
遠方に、損傷したサザーランドの背中が見えた。
「逃がさない!」
その時、右手の建物が崩れた。
爆発ではない。
先ほどの戦闘で損傷していた集合住宅の一部が、遅れて崩壊したのだ。
壁面が道路へ落ち、歩道にいた住民たちが悲鳴を上げる。
「危ない!」
スザクは追跡を中止した。
ランスロットが急旋回する。
落下する外壁へスラッシュハーケンを打ち込み、軌道を変える。
巨大なコンクリート塊が道路脇へ逸れた。
だが建物の下層には、まだ人が取り残されていた。
『スザク君、敵指揮官が逃げるよ』
「分かっています!」
『追えばまだ間に合う』
スザクは遠ざかるサザーランドの反応を見た。
今なら追いつける。
あの指揮官を捕らえれば戦闘を終わらせられるかもしれない。
しかし、崩れた建物の内部から助けを求める声が聞こえている。
「救助を優先します」
『敵を逃がしても?』
「目の前の人を見捨てて追うことはできません」
ランスロットは瓦礫の前へ膝をついた。
MVSを収め、両腕で崩落した梁を持ち上げる。
『なるほど、面白い子だね』
ロイドの声は、呆れているようで、どこか楽しそうだった。
同時刻
旧市街地 南側街道
「追ってこない」
カレンは後方を確認した。
白いKMFの反応が止まっている。
『建物が崩れた。住民を助けている』
ルルーシュの声が返る。
「戦闘中に?」
『あの搭乗者なら、そうする』
「知ってるの?」
一瞬、通信が途切れた。
『推測だ』
カレンはそれ以上追及しなかった。
「私は仲間のところへ戻る」
『そうしろ。奪った機体は地下へ隠せ。帝国軍が停戦しても、すぐに出てくるな』
「停戦?」
『これから止める』
「どうやって?」
『頭を押さえる』
「頭って――」
通信が切れた。
「ちょっと!」
カレンは怒鳴ったが、返事はない。
損傷したサザーランドは、既に旧市街地の南へ向かっていた。
解説
『Z-01 ランスロット』
特別嚮導派遣技術部が開発した試作嚮導兵器にして、世界初となる第7世代のナイトメアフレーム。パイロットは枢木スザク。
本機以前の日独、そしてブリタニアの第5世代KMFの機動は、基本的に脚による歩行やランドスピナーによる滑走といった地面上の二次元運動に限定されていた。
一方、本機から始まる第7世代機はこれまでにない量のサクラダイトを使用し、跳躍、バク転などの三次元挙動が可能な驚異的な機動性を誇っている。
通常は頭部に1基のファクトスフィアも、胸部に2基搭載。武装は両腕に搭載されたブレイズルミナス、腕部と腰部に計4基装備された強化型スラッシュハーケン、MVS、ヴァリスがある。
一方で試作機なので稼働時間が少ない問題や、脱出機構が搭載されていないなどの欠点もある。