コードギアス:The New Order ─ Last Days of Empire 作:オムライス黄色連盟
1962年4月21日午後3時10分
旧市街地 廃倉庫
ルルーシュは、廃倉庫の陰でサザーランドを停止させた。
機体は限界に近い。
右肩部は破壊され、脚部駆動系も不安定だった。
このまま乗っていれば、いずれブリタニア軍の追跡網に捕捉される。
「ここまでだな」
ハッチを開ける。
ルルーシュは帝国軍兵士の制服のまま地上へ降りた。
緑髪の少女も続く。
「機体を捨てるのか」
「必要な役目は果たした」
「次はどうする」
「戦場を終わらせる」
ルルーシュは遠方を見た。
旧市街地の外縁。
帝国軍車両が集結している中央に、巨大なG-1ベースが停車している。
クロヴィスの指揮所。
「敵の王を取る」
ルルーシュは兵士のヘルメットを深く被った。
混乱は続いている。
偽命令、通信障害、正体不明の指揮官。
白い新型KMF、そして部隊の再配置。
誰もが情報を求め、指示を待っている。
その混乱の中では、血と埃に汚れた一人の兵士など、誰も注意しない。
G-1ベース周辺には、負傷兵と連絡将校が行き交っていた。
ルルーシュは堂々と歩いた。
足を速めず、遅くもせず、周囲と同じように焦った顔を作る。
「所属は?」
入口の警備兵が問いかけた。
ルルーシュは顔を上げ、ギアスを発動。
左目に赤い紋様が浮かんだ。
「緊急命令だ。指揮所の人員を全員、外部へ退避させろ」
警備兵の瞳に赤い鳥の印が映る。
「……全員を退避させます」
「理由を尋ねられたら、爆発物の疑いがあると伝えろ。俺を内部へ案内した後、お前も外へ出ろ」
「イエス、ユア・ハイネス」
警備兵は敬礼した。
ルルーシュはそれを一瞥し、内部へ入る。
「緊急退避! 車内に爆発物の疑いあり!」
指揮所が騒然となった。
「何だと?」
「どこからの命令だ!」
「工兵隊を呼べ!」
「殿下をお守りしろ!」
兵士や参謀が次々と出口へ向かう。
ルルーシュは通路ですれ違う人間の目を見て、必要な者には追加でギアスをかけた。
「車外へ出ろ」
「……車外へ出ます」
「戻るな」
「……戻りません」
「指揮所を封鎖しろ」
「……指揮所を封鎖いたします」
命令を受けた者たちは疑いもせず従った。
やがてG-1ベースの内部は静かになった。
残ったのは、最奥の指揮室にいるクロヴィスだけだった。
「どういうことだ!」
クロヴィスは通信機へ怒鳴った。
「誰が退避命令を出した! 私は何も命じていないぞ!」
返答はなかった。
指揮卓の表示には、部隊からの通信が次々と入っている。
『G-1ベース、応答せよ』
『殿下、追撃許可を』
『第七小隊、指示を請う』
『住民救助のため前進停止』
「誰かいないのか!」
クロヴィスは席を立った。
その時、指揮室の扉が開いて一人の帝国兵が入ってきた。
「何をしている。すぐに通信班を戻せ」
兵士は答えなかった。
扉を閉め、内側から施錠する。
「聞こえなかったのか?」
クロヴィスが苛立った声を上げる。
兵士は腰の拳銃を抜いた。銃口がクロヴィスへ向けられ、引き金に手をかける。
第三皇子の顔から血の気が引いた。
「貴様……」
「全軍に停戦を命じろ」
「何者だ」
「質問できる立場だと思うか?」
「私を誰だと思っている」
「クロヴィス・ラ・ブリタニア。第三皇子。ペンドラゴン特別行政区の総督。そして、兄弟の顔も忘れた男だ」
クロヴィスの目が見開かれる。
「何を……」
ルルーシュは銃口を動かさず、通信卓を示した。
「全軍へ命令しろ。戦闘を停止し、現在位置で待機。追撃も発砲も禁止だ」
「拒否すれば?」
「ここで死ぬ」
「私を殺せば、お前も逃げられないぞ」
「命令を出しても、お前が生きられる保証はない」
ルルーシュの声には、感情がなかった。
「だが拒否すれば確実に死ぬ。選べ」
クロヴィスは拳を握りしめた。
しばらく銃口を見つめた後、ゆっくりと指揮席へ戻る。
通信回線を開いた。
『全軍へ告ぐ』
その声は震えていた。
『これより戦闘行動を停止する』
各部隊から困惑した返答が届く。
『殿下?』
『敵勢力は撤退中です。追撃を――』
『命令を変更する』
クロヴィスは背後の銃口を意識しながら続けた。
『全KMFおよび地上部隊は現在位置で待機。発砲、追撃、住民への攻撃を禁止する。これは皇族命令である』
『しかし、積荷が――』
『繰り返す! 全軍、戦闘停止!』
命令は暗号化され、全ての部隊へ送られた。
4月21日午後3時15分
旧市街地
旧市街地で、銃声が途切れた。
進撃していたサザーランドが停止する。
装甲車が砲塔を下げる。
民間人を包囲していた歩兵部隊も、突然の命令に戸惑いながら銃口を下ろした。
瓦礫を持ち上げていたランスロットの中で、スザクも通信を聞いた。
「停戦……?」
『クロヴィス殿下直々の命令だね』
ロイドが答える。
「なぜ急に」
『さあ。さっきまで全滅させる勢いだったのに』
スザクはG-1ベースの方向を見た。
何かがおかしい。
だが目の前では、瓦礫の下から救助された親子が泣きながら抱き合っている。
今は、命令の理由を考えるより救助を続けるべきだった。
同時刻
旧市街地 G-1ベース指揮所
指揮室で、クロヴィスは通信を切った。
「命令したぞ」
「確認した」
「これで満足か」
「まだだ」
ルルーシュは片手でヘルメットを外した。
黒い髪が現れる。
兵士の仮面の下から、学生服姿の少年の顔が露わになる。
クロヴィスはその顔を見つめた。
最初は理解できなかった。
やがて、過去の記憶と現在の顔が重なった。
「まさか……」
クロヴィスの唇が震える。
「ルルーシュ?」
「久しぶりだな、兄上」
「生きていたのか」
「残念か?」
「いや、私は──」
「ナナリーも生きている」
クロヴィスの顔に、さらに強い動揺が浮かぶ。
「ナナリーまで……」
「俺たちは死んだことにされた。父上に捨てられ、戦争の道具として日本へ送られた」
「それは私の決定ではない!」
「知っている」
ルルーシュは一歩近づいた。
「だから別のことを聞きに来た」
銃口がクロヴィスの胸元へ押し当てられる。
「母さんを殺したのは誰だ」
クロヴィスが息を止める。
「マリアンヌ様の事件は、公式にはテロリストの犯行と──」
「嘘を言うな」
「私は何も知らない!」
「それを確かめる」
ルルーシュの左目に、ギアスの紋様が浮かんだ。
クロヴィスの瞳に赤い鳥の印が映る。
「答えろ、クロヴィス」
ルルーシュは命じた。
「母マリアンヌ暗殺事件について、お前が知っていることをすべて話せ」
クロヴィスの表情から抵抗が消えた。
「私は……詳しいことを知らされていない」
「誰が知っている」
「事件の後、宮殿内の警備記録が消された。証言者も配置換えされた。私が調べようとした時、止められた」
「誰に」
「第二皇子シュナイゼル」
ルルーシュの目が細くなる。
「シュナイゼルが殺したのか」
「分からない。だが、兄上は事件直後から何かを知っていた。皇帝陛下と直接話していた」
「ほかには」
「コーネリア」
「コーネリアも?」
「マリアンヌ様を敬愛していた。事件当日の警備配置について、独自に調査していた。彼女は何かを突き止めたはずだ」
「なぜ黙っている」
「分からない」
「嘘ではないな」
「嘘ではない」
ギアスに支配された声は平坦だった。
「母さんを殺した実行犯は」
「知らない」
「命令した者は」
「知らない」
「父上は関与していたか」
「分からない。ただ、陛下は事件後に調査を打ち切らせた」
ルルーシュの指が、わずかに引き金へ近づいた。
クロヴィスは命令に従って話している。
恐怖も命乞いもない。
ただ知っている事実だけを口にしている。
「シュナイゼルとコーネリア。二人なら、私より多くを知っている」
クロヴィスの瞳から赤い光が消えた。
意識が戻る。
「私は……何を」
彼は自分の口から漏れた言葉を思い出したように、顔を青ざめさせた。
「ルルーシュ、待て」
銃口が、クロヴィスの額へ向けられる。
「私はお前たちが死んだと聞かされていた」
「そうだろうな」
「生きていると知っていれば、私は──」
「何をした?」
ルルーシュは冷たく問い返す。
「俺たちを助けたか。父上に逆らったか。母さんの事件を公にしたか」
クロヴィスは答えられなかった。
「お前は何も知らなかった」
「そうだ。だから私を殺す理由は──」
「知ろうともしなかった」
クロヴィスの身体が震えた。
「私は皇族だ。私を殺せば、帝国全体がお前を追う」
「望むところだ」
「ナナリーまで危険にさらすぞ!」
その名が出た瞬間、ルルーシュの目から温度が消えた。
「だからお前は生かしておけない」
「待て、ルルーシュ!」
クロヴィスが手を上げる。
「兄弟ではないか!」
「兄弟だから聞いた」
ルルーシュは引き金へ指をかけた。
「そして、兄弟だから俺自身の手で終わらせる」
「ルルーシュ!」
引き金が引かれた。
銃声が鳴った。
解説
『クロヴィス・ラ・ブリタニア』
コードギアス側キャラ。
今作ではエリア11ではなくペンドラゴンの総督・軍政責任者。
芸術を好む一方、ハワイ危機後の治安強化と日本系住民弾圧に関与している。
ブルグントから回収した兵器の研究計画の責任者。機密漏洩を隠すため旧市街地の移民組織と住民を処分しようとし、最終的に弟のルルーシュに射殺された。