【⚠ 注意書き ⚠】
コチラのお話はタイトルに『バニーボーイ』とありますが、露出度の高い衣装ではございません。
ただしコスプレ要素は出てくるので、そういうのがニガテな方はスクロールする手を止めてください。
また、誰がどんなバニーになっているかは……読んでみてのお楽しみ!
ソコは明かせないんです。ごめんなさい。
大丈夫そうな方のみ、お進みくださいね。
キングクーロン 謎のバニーボーイを追え!
1、
『ESP4678-201』識別名『
男性型アンドロイドで、外見は人間とほとんど見分けがつかないほど精巧に造られている。
すこし癖のある栗毛を長く伸ばし、藤色の瞳は高感度センサーが組み込まれているもののわずかに潤んですらいた。
外見は十八、九程度の青年で、周囲が言うには『結構男前』なのだそうだ。
これまで単身調査に勤しんできたので本人に自覚はないものの。
数週間前、そのアンドロイドはスリープ状態でカプセルに閉じ込められて漂流していたところを『エイハブ鯨捕りカンパニー』に拾われた。
先述した外見的特徴より人間だと勘違いされ、弔われていた最中に再起動。
なぜ宇宙へ投げ出されたのかすらも覚えていなかった。
記憶喪失のアンドロイドに行くあてなどないので、紆余曲折はあったもののエイハブに説得されて鯨捕りの連中のもとへ戻った。
一員として廃棄された宇宙船を漁り、本拠地であるキングクーロンで戦利品をさばく日々。
それ以外、デュウはあまり他のメンバーとは関わりたがらなかった。
自分を連れ戻しに来てくれたエイハブには何となく感謝しているが、他の連中には目覚めて間もない時にさんざん暴れ回ったため、どう接したらいいかわからなかった。
ゆえにフリーの時間はキングクーロンを適当にぶらついている。
アジトにいると、アトレという爆発したような赤毛の子どもが構いにくるからだ。
カンパニーの中でも子ども相手は特に難しい。周囲に毒されているのか下世話なダジャレばかり言うので反応にも困る。
よく隣で付き合わされている金髪頭のラッキーも微妙な表情で聞いていた。……彼女は『女の子』なのだから当然ではある。
ラッキーが女性だとデュウはひと目見てわかったので、なぜ周りが彼女を男性名で呼び、男扱いするのかサッパリだった。
じゃれ合っているようで、互いの深いところには入り込まないような、変な連中。
それが『エイハブ鯨捕りカンパニー』への、デュウの現状での印象だった。
改めて思考をまとめると、それでも悪い連中ではなさそうだし、拾ってもらったし、もう少し籍を置かせてもらおうかという結論になる。
デュウは座っていた看板の上でのそのそと腰をあげ、そろそろ帰ろうとした。
いつでもどこか薄暗くて、派手なネオンと大型モニターが忙しなく灯る都市。
この一帯は歓楽街だろうか。賭博に明け暮れる人々の嬌声や罵声が聞こえる。
そんな喧騒の中、スタンと華麗に着地を決めるデュウ。
しかし。
どんがらがっしゃんしゃん……
けたたましい音がしたので振り返れば先ほどまで腰を下ろしていた看板が転がり落ちていた。根元からもげた鉄筋は錆びており、寿命だったのだろう。
店舗の自動ドアが開き、オーナーらしき中年男性が慌てて出てくる。
彼は看板があった箇所と、すっかり粉々になった看板そのものとを見比べて口をあんぐりと開けていた。
デュウが様子を窺っていると、気配を感じたのかオーナーがこちらを向いた。
訝しげな目でじっとりと見つめられる。首をクイと動かして中に入るように促された。
そんな流れで、とりあえず店舗へ言われるがままに引きずり込まれたのであった。
♢
「困るんだよ。人ンちの看板にケツ乗っけられちゃァ!」
「……申し訳ない」
ツバを撒き散らして怒鳴りつけてくるオーナーに、デュウは謝罪した。
ここは『パチンコ店』らしく、ピンボールのような機器で賭博に興じる施設らしい。
通されたスタッフルームの扉を隔て、銀の玉が排出される音がする。
「監視カメラにバッチリ証拠が残ってっから、誤魔化しても無駄だぞ。
看板がなきゃ、このキングクーロンじゃ商売あがったりだ。周りを見ろよ、どこもかしこもピッカンピッカンしやがってよーったくよー」
「しかしかなり老朽化が進んでいた」
「あ? だとしても、おめえが腰かけた直後に落ちたんだろうがよ! おめえがきっかけになったのは事実だろ!」
顔をずいと近づけられ、デュウは後方へ下がった。ソファの上なので背もたれに邪魔されてしまうが。
その態度が気に食わなかったのか舌打ちされてしまう。
「とにかく、弁償してもらうからな。見たところお前さん、かなり若いな?
歳は? 親は?」
聞かれても答えられない。
デュウはアンドロイドであって外見と稼働年数は比例しないし、親といわれても『アンドロイドになる前の』記憶がないので知らない。
沈黙していたら不審に思われたのか、ジロジロと見られる。
ふと、オーナーの目線が首もとで止まった。
無遠慮にハイネックをズラされ、首の識別番号を確認される。
燐光が『201』と示していた。
「ああ、アンドロイドか。
じゃあ、管理者は? そいつに払ってもらおう」
電話を取り出し、連絡を取ろうとするオーナー。
デュウは『管理者』という単語に反応した。今、自分はエイハブの会社に所属している形だ。
だとしたら支払わされるのは彼ということに。
「連絡は待ってほしい」
オーナーへ頼むデュウ。
相手は受話器は手に持ったままで『何だよ?』と言う。
機械だとわかった瞬間にさらに見る目が厳しくなった。
痛い視線を受けながら言いすがる。
「今回の件は、あなたの言うとおり、おれの責任だ。自分で稼いで支払う」
そう伝えるとオーナーから『は?』と間の抜けた声を漏らされた。
「ナニ言ってんだおめえ。アンドロイドとなんか書面もかわせねえや、連邦に睨まれンのもごめんだし……。
どこの物好きがンなめんどいモン拾ったんだか」
「それは言えない」
「ハイハイ。わかったよ、ワケありか?」
オーナーが顔をしかめる。
うなずいてみると『マジか……』と小声で言ったのが聞き取れた。
「ウーン。じゃ、看板持ちでもしてもらおうか……時給で……」
「かんばんもち」
「呼び込み用のヤツがある。店前で持って立っとけ」
もうそれでいい、とオーナーが投げやりに腰を上げる。
バックヤードにこもったかと思えば何かを手に戻ってきた。
持ち手があり、ひっついた板に『ぱちんこ く〜ろん』と派手な書体で書いてある。
「ホラ」
有無を言わさず持たされた。
無理やり立たされ、店に通された時と同じルートで外へ放り出される。
プラカードのせいか道行く人から好奇の目にさらされた。
「弁償分しっかり働けよ」
オーナーはピシャリと言って、そのまま店内に引っ込んでいく。
残されたデュウは人々の視線を浴びながらも、言われたとおりプラカードがよく見えるように持ち直した。
最初こそ物珍しさに足を止める人もいたが、次第に興味を失ったのか誰もが通り過ぎてゆく。
しばらく突っ立っていると自動ドアがウィーンと鳴ってオーナーが大股で近づいてきた。
「おい! いくらなんでも少しは呼び込みぐらいしたらどうなんだ!
おめえちっとも反省してねえなあ!?」
「『持って、立ってろ』と……」
「『いらっしゃいませ』ぐらい言え! ついでに『よく当たる』とか、適当にセールスでもしろ!」
まったく、これだから機械は。
などと禿げた頭から湯気が出そうなほど真っ赤なオーナーが再び帰ってゆく。
急に叱りつけられてデュウにしては目をわずかに丸くしたが、言われてみれば店に客を呼び込むのが看板の役目だ。
怒鳴られていたのを数人から見られていた。
せっかくなので近くにいた男性市民へ声をかけてみる。
「いらっしゃいませ」
バツの悪そうな顔をして去られた。
その後も道行く人へ声をかけてみるが、まあ目もくれない人の多いこと。
ただ、時折トンボ帰りしてパチンコ店へ吸い込まれる通行人もいるので完全に無駄というワケではなかった。
そのパターンを学習すると、店へ足を向ける可能性のある人物像が大体見えてくる。
気が緩んでいそうで、脈拍も安定している男性が成功率が高い。気分がいいほうが『当たるかも?』と楽観視しやすいようだ。
「当たりそうな台を教えてくれよ。ニーチャン」
言われるとデュウはそっと店内を見て、釘の打ち方の差や直近の確率をパッと演算しつつ、
「あの台が大当たりの可能性が高いです」
と指さした。
『ホンマかいな』と大方の客は冷やかし程度でその台に座ってくれる。
そして、帰るころには、
「オッ、ニーチャン! さっきの台ホントに当たったぞ。ありがとさん。コレはお礼な」
とホクホク顔でチップ替わりのささやかな景品を押しつけていく。
それが溜まってくると控え室へ戻っては宛てがわれたロッカーへ保管しておく……。
二時間ほど続いたころだろうか。客層に変化が表れた。
「わァ〜ッ、このお兄さんカッコイイね」
軽薄そうな女性に絡まれるようになった。
許可も取らずにベタベタ触ってくるので、肩を引くと、
「ウブだァ。ねえねえ、ナンでこんなトコでバイトしてんの? もっと稼げるトコあるでしょうに」
と距離を縮められる。
『街を露出の高い格好で歩くような若い女性は遠慮がない』とデータベースにはあるが、実際に遭遇したのは初めてだった。
「看板を落としたので弁償のために呼び込みをしています」
「へっ? ココ、スゴいボロだったよね。ははァ、お兄さんつけこまれたなぁ?」
首肯すると大笑いされる。女性は目に浮かぶ涙を拭いつつ、
「わかってるのに真面目に稼いでるんだ。エラ〜い。
じゃ、アタシもチョット遊んでいこうかな。長引くとカワイソーだし」
と意気揚々に店へ入っていった。
そんなやりとりも増え、呼び込みパターンを蓄積・再検討しながら、そろそろカンパニーへ帰ろうかと考えはじめた。
看板を肩に背負い、騒がしい店内へ入る。
カウンターにいるオーナーへ声をかけた。
「え? そろそろ帰りたい? バッカ、夜はこれから……」
「船長が心配する」
言ってから失言かとハッとする。
だがオーナーはそれを聞いて目を泳がせ、
「持ち主、船を持ってるような輩かよ……」
とボソボソとひとりごちていた。
彼はデュウの手を引いて控え室まで下がらせる。
扉をカッチリ閉め、早口でまくしたてられた。
「いいか? 弁償分にはまだずぇ〜んずぇん届いてない。
だから時間が空いているときに! 看板持ちのバイトに来い。時給で換算してやるから。な?」
デュウも『はい』と答える。
するとオーナーは歯を見せて満足そうに笑った。
「よしよし。今日はおかげで客足も上々だった……この調子で頼むぞ。
よく見るとお前さん、なかなかキレイな顔だ。かなり人間に近いし、だいぶ上等な型だな。客を呼び込むのにルックスは大事だからな!」
オーナーが控え室のロッカーをひとつ開けると、中から宴会用らしき小道具が転がり出て床に散らばる。
ガチャガチャと音をたてて物色し、『これだ!』と何かをつまみあげた。
「おい、着けてみろ」
微動だにしないままデュウは甘んじて頭にソレを戴く。
薄汚れた鏡を見れば黒いプラスチック製のウサギ耳のカチューシャ。安っぽい光沢を放ち、ピョコンと頭上に立っている。
「ウン、幸運を運ぶってね。次回からソレ着けて呼び込みしてくれよ」
バンバンと背中を叩かれる。
馴染みのない自分の姿に戸惑いつつ、
「わかりました」
と承諾した。
早く弁償が終わるといい、と頭の隅で思いながら。
2、
デュウがいない。
いつものことだが普段と違い、決まった時間に姿をくらます気がする。
エイハブは相変わらず麻雀にふけこむスピードキングとババへ声をかけた。
「なあ、デュウ知らねえか?」
決まりきった回答をよこしてくる。
「知らね。そのへんほっつき歩いてんじゃねえの」
「ババも知らなァ〜い」
その後はまた雀牌をガチャガチャかき混ぜてバカ騒ぎ。
やれやれ、とエイハブは肩をすくめた。
他の連中に聞いても仕方ないので外出の準備をする。
「船長、どこへ?」
廊下でアトレとじゃれていたラッキーが尋ねてきた。
エイハブはコートに袖を通しつつ、
「ンー……ちょっと野暮用」
「そっか。たまにずっと帰ってこなくなるから……」
「今日はそこまでの用事はないさ」
カンパニーに見習いとして籍を置かせてから、気まぐれに付き合わせすぎたのかラッキーは心配性だ。
後ろのアトレなんて何でもなさそうに口笛吹いているのに。
「土産でも買ってきてやる」
「いいよォ、そんな」
ラッキーの遠慮に微笑みつつ事務所を後にした。
水路を過ぎるとキングクーロンの埃っぽい空気が肺になだれこんでくる。
雑踏にまぎれ、先をゆく。
中にはエイハブを見知っている者もいてチラチラと視線を送ってくる。
空色の髪に、片目片足の大男。所業も含めて覚えられないほうがおかしい。
もう慣れたし気にかけない。……いちいち反応していたら舐められるからだ。
ここはならず者たちの終着駅。
違法取引、賭博、凶悪犯罪なんでもござれだ。あの手この手で身ぐるみを剥がそうとしてくる。
だからデュウのことが気にかかる——腕っぷしは強いものの、世間というものをまるで知らない。
気まぐれな猫でも飼っているかのようだ。好き勝手出かけてはどこかで迷っている。