第六話ですね。物語が大きな転機を迎えます。
さて、
この作品には
1:私のオリキャラ
2:雑な原作キャラクター再現
3:拙い文章
4:ロボトミーコーポレーションストーリーの勝手な解釈
5:流血、傷害、自死願望、死亡描写
が含まれます
お気をつけください。
大丈夫、という方は最後まで読んでいただけるとありがたいです
それではどうか、あなたの本が見つかりますように
初日以降の4日は、大きな事件もなく流れていった。
2日目に『宇宙の欠片』。
3日目に『罰鳥』。
そして4日目に『あなたは幸せでなければならない』という幻想体を収容した。
ただ、5日目は新たな幻想体がくることはなかった。
何はともあれ、ロンドンの「幻想体は複数存在する」という仮説は2日目にして早速証明されたわけだ。
最初こそ、新たな幻想体の作業に戸惑った。
しかし、管理人さんやマルクトのサポートもあって次第にスムーズにこなせるようになった。
マニュアルを読み、E.G.O.、ギフト、リスクレベル、PE-Box、抽出、クリフォト暴走、さらに試練と呼ばれる謎の敵対生物についても、少なくとも私が知れる範囲内の情報は覚えた。
覚えの悪い私のために深夜まで起きて、大広間で全てを頭に刻み込むことを手伝ってくれたロンドンには感謝しなければ…
それに、初日は
「職員グスタフソン、O-03-03に愛着作業を行ってくれ」
程度しか話しかけてくれなかった管理人も、
「グスタフソン、O-03-03に愛着作業を頼んだ」
と言ってくれるようになり、少し距離が縮まった気がした。
これから当分、同じ会社で働くのだ。
距離が縮まって悪いことはないだろう。
それに、マルクトも始めは少し不気味に感じたけれど、今となっては私たちの仕事をサポートしてくれる頼もしいアンドロイドだ。
確かに、マルクトは職員の成果に厳しいところがあるかもしれない。
でもそれは、彼女…彼女でいいのかしら?まあ、マルクトが職員の教育に熱心であることの裏返しでもある。
2日目と4日目に行われた合同訓練は、実用性のありそうな内容だった。
おまけに、支給される装備も警棒から『懺悔』へ、『懺悔』から『彼方の欠片』へとランクアップされた。
嬉しくなかった、と言ったら嘘になってしまう。
そうやって、日々が過ぎていったのだ。
特に大きな問題のない、穏やかな日々。
こんな日々がずっと続けばいいのに、と思うこともあった。
そして来る5日目。私は普段と同じように、いつも通りの朝を迎えた。
「今日も1日頑張りましょうね!」
「ええ。あなたもね、スーザン。」
「もちろんです!だよね!ロンドン!」
「当然。」
短いやりとりを終え、スーザンとロンドンに別れを告げて早速1日の作業を開始する。
『たった一つの罪と何百もの善』──長いので私は罪善さんと呼んでいる、の情報は全て解放してあるのに、未だに管理人が私を作業に送り続けるのは、どうやらギフトが必要だからだそうだ。
幻想体からのギフトがあれば、簡単に職員の能力を向上させることができる。
合理的な判断だ。
ただ…
「…君は一体いつまでギフトを受け取らないつもりだね?」
「私だって早く終わらせたいですよ…」
そう、なんとこの2日間ずっと罪善さんの作業をしているにもかかわらず、未だにギフトを貰えていないのだ。
「これは君にやる気がないからではないか?」
「そんな、違いますよ!」
口ではそう返しつつも、私が罪善さんに嫌われている、といった理由を勘繰ってしまう。
…そもそも、罪善さんに意識などあるのだろうか?
だが、今はそんなことを考えていても仕方がない。
「グスタフソン、O-03-03に愛着作業を。」
もう何度目かわからない指示を聞きつつ、私は再度収容室へ入室する。
もちろん結果は相変わらず。
しかし、こうして時間を浪費している間にも、カウントダウンは進んでいた。
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業務終了まで残り1時間弱となった時。
1日の終わりが近づき、全員が油断し始める時間帯。
その時、それは起こった。
「罰鳥が脱走したみたいです! 確認おねがいします!」
というマルクトからの報告。
これは、なんら珍しいものではなかった。
罰鳥は作業を行わないと脱走すること、放っておけばそのうち一人でに収容室へ帰ることもわかっていたため、毎回放置していたのだ。
「またですか。」
「まただな。」
その程度の感想しか出てこないほどの、ありふれたこと。
しかし、今回はそう上手くいかなかったようだ。
施設内が、唐突に赤く照らされる。
そして、耳をつんざくような警報音が周りに鳴り響く。
「管理人さん!」
私は声を張り上げる。
「待て!今何が起こったか把握している最中だ!」
スピーカーからも切羽詰まった声が聞こえてくる。
管理人さんも、状況を掴みきれていないようだ。
「…まずい。」
「管理人さん!何が起こってるんですか!?教えてください!」
「端的に言う。オフィサーのうち一人が誤って罰鳥に危害を加えたようだ。あとは言わなくてもわかるだろう」
「そんな…!」
息が詰まる。
罰鳥に危害を加えるというのは、自殺行為に等しい。
懲罰を終えれば罰鳥は収容室へ帰るとはいえ、メインルームが悲惨な状況になっていることは想像に難くない。
私は、すぐさまメインルームに向かって走り始めた。
「グスタフソン、急ぎメインルームに向かって── クソッ…」
「今度はなんなんです!?」
「オフィサーが一人パニックになった。宇宙の欠片を脱走させようとしている。」
宇宙の欠片。TETHランクの幻想体。
自発的に致命的な危害を加えない罰鳥とは違い、宇宙の欠片はこちら側を積極的に攻撃してくる。
もし、そんなものが野に放たれたら──
「…急がないと。」
「その通りだ。なんとか間に合わせろ、グスタフソン」
「言われなくても!」
そう言い、私は足を全速力で動かした。
宇宙の欠片の収容室がある廊下に向かう途中、メインルームを横切る。
そこには、オフィサーだったであろう肉塊と散乱した内臓、嘔吐する人。放心状態の人。俯いたまま動かない人。
足が鈍ることはなかった。
…ただ、
「…スーザンもロンドンもいない」
どこを見ても、二人の姿はなかった。
「スーザンにロンドンというと、君がよく話しているオフィサーのことか」
「ええ、そうです!安全な場所にいるといいのですが。」
「待っていろ、今確認する。」
「感謝します!」
走りながらそう会話を交わす。
スーザンとロンドンが安全な場所にいることを祈りながら。
しかし、その祈りはあっさりと裏切られることとなった。
「…最悪だ。」
と、管理人の独り言にも近い言葉が聞こえてくる。
「これ以上最悪な状況があります──」
そう言いかけたところで、マルクトの報告が聞こえてきた。
「皆さん、宇宙の欠片が逃げ出したから、気をつけて!」
「…間に合わなかったんだ。」
「そんな…!」
「さらに、スーザンとロンドンが宇宙の欠片と戦闘をたった今開始した。」
冷や汗が額を伝うのが感じられる。
「なんでそんなところにいるの!?」
「パニックになったオフィサーを助けようとしたようだ。どうやら、事が上手く運ばなかったらしい。」
「ああ、もう!」
何に対してかわからない怒りを感じながら、私はひたすら走り続けた。
一刻も早く、二人を助けに行くために。
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例の廊下に通ずるドアの前に辿り着くまでの3分間が、まるで永遠のように感じられた。
「やっと着いた…!」
「心配するな、彼らはまだ生きている!多少傷を負ってはいるが、戦えている!」
確かに、丸窓からは宇宙の欠片と戦闘を繰り広げる二人の姿が見えた。
生きている、二人ともちゃんと生きている
間に合った。
そう考え、扉を足で蹴り開ける。
手で押し開けている暇などない。
「今助けに──」
サイレンが鳴り響く中、それとは別の、聞き慣れない小さな音が耳に残る。
スーザンの腹部から、何かが生えていた。
黒く、細長い、先の尖った何かが。
赤く照らされた廊下の中で、その光景だけが一際鮮明に見えた。
それが宇宙の欠片の一部であることを理解するのに、数瞬しかかからなかったはずだ。
それでも、その数瞬は、あまりにも長かった。
「────!」
ロンドンが、何かを叫んでいる。
しかし、何を言っているのかはわからなかった。
そして、スーザンは自分の腹部を見下ろしていた。
その口からは、血が溢れ出している。
一拍の間を置いて、それが引き抜かれた瞬間──
スーザンは、膝から崩れ落ちた。
体に空いた穴から、血が、内臓が、零れ落ちる。
その体が地面にぶつかるまでの間に、私はスーザンの目から光が消えるのを見た。
そして、体が地面にぶつかり横たわる。
そのまま動かない。
認めたくなかった。
信じたくなかった。
まだ、大丈夫なはず。
早く手当てをすれば、まだ助かるはず。
いや。
理性は、とっくにそれを否定していた。
スーザンはもう、二度と動くことはない。
「うわあああああああ!」
喉から、自分のものとは思えない叫び声が迸る。
そして、半ば自暴自棄になって宇宙の欠片へと突撃した。
触手の刺突を避け、『欠片』で一突きを入れる。
しかし、それは少し怯んだだけだった。
逆に、返しの薙ぎ払いで壁に叩きつけられてしまう。
背中を強打した激痛に身悶える。
それでも、怒りが、悲しみが、痛みを上書きしていく。
そして、立ち上がり、再度突撃する。
刺突を避ける。
一撃を入れる。
吹き飛ばされる。
ひたすらそれの繰り返しだった。
壁に叩きつけられるたびの激痛は、もう感じなくなっていた。
だが、宇宙の欠片も学習する。
同じことを繰り返しても、大した有効打にならないことを悟ったのだろう。
それは、戦略を変えた。
突如、上部のハートが花開く。
それは、不気味な口のような形状に姿を変えた。
そこから発せられたのは、到底形容できないような、精神に直接響く歌であった。
「…っ!」
それが周囲に響き渡った瞬間、私は耳を押さえた。
それでも、歌は脳内を直接揺さぶってきた。
こんな攻撃を続けられたら、こちらから手を出すことができなくなる。
それに、これが範囲攻撃なら──
ここで、私は最悪の事態に気づいてまった。
ロンドンは?
何かを叫んでいるのを見て以来、一度も彼の姿を確認していない。
いや、視界には映っていたはずだ。ただ、怒りに我を忘れて気にも留めなかっただけ。
そう気づいた瞬間、私は耳を押さえたまま周囲を見回した。
彼の姿を見つけるのに、そう時間はかからなかった。
ロンドンは、スーザンの体の前で立ち尽くしていた。
歌などまるで聞こえていないかのように。
焦点の合わない目で、ただスーザンだけを見下ろして。
誰がどう見ても、彼はもはや正気ではなかった。
どうして?
なぜこうならなければならないの?
なんでいつもこうなの?
なんで?
なんで?
なんで?
なんで?
なんで?
……………
「──!」
「──い!」
「──おい!聞こえているのか!グスタフソン!」
その呼び声で正気を取り戻す。
「管理人さん!ロンドンが!ロンドンが!」
「今は自分の心配をしろ!後ろだ!」
その言葉で振り返ると、触手が背後に迫っていた。
が、もはや回避するには遅かった。
「…っ!」
体に焼け付くような痛みが走る。
触手が、私の左肩を貫いていた。
即座に触手を無理やり引き抜き、彼方の欠片で一撃を入れる。
…少なくとも、相手の触手を一つ潰すことはできた。
ここで私は気づいた。
歌が、止まっている。
どうやら、常時歌い続けることはできないようだ。
貫かれた痛みに耐えつつ、彼方の欠片を構え直す。
「グスタフソン!大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫です!問題ありません!」
「ならいい!いいか?次歌い始めたらもう打つ手はない!お前も限界に近いだろう、それまでに終わらせろ!」
「言われなくても!」
そう叫び返し、私は再び駆け出した。
しかし、戦闘を続行し始めてすぐに気づく。
──宇宙の欠片の動きが、鈍っている。
どうやら、これまでの攻撃も無駄ではなかったらしい。
遅くなった触手の動きを回避することは、もう難しくなかった。
一撃を入れた後の反撃も、十分回避できる速度まで落ち着いた。
「…!」
宇宙の欠片の防御が少し遅れた。
その隙をつき、私は触手の猛攻を掻い潜り、真下へ体を動かす。
そして──
「うああああああ!」
私は、彼方の欠片を力の限り突き刺した。
刃が宇宙の欠片の奥深くへと沈む。
勝った──
その油断が命取りとなった。
絶命する直前、宇宙の欠片が断末魔をあげたのだ。
あまりにも突然のことに、私は反応できずにその声を聞いてしまう。
しかも、至近距離で。
「あ…」
「グスタフソン!」
スピーカーから私の名前を叫ぶ管理人の声を聞きながら、私はその場で崩れ落ちる。
意識が遠のいていく。
そして、気を失う直前。
最後に見たのはこちらの様子を窺うオフィサー達の姿と、事切れたスーザンの姿だけであった。
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「…う。」
「あ!目が覚めましたか!」
眩しい。
マルクトの声がする。
それに消毒液の匂い。
どうやら、医務室のベッドに寝ているようだ。
重い瞼を開き、ゆっくりと視線をマルクトに移す。
「おはようございます、グスタフソンさん!調子はどうですか?」
「最悪です…」
「それは大変ですね!少し休んでください!」
「肩の傷も治りましたから!翼の医療技術はすごいんです!」
「はは…」
そう力なく笑いつつ、頭の霧が晴れていくのを感じる。
確か、私は宇宙の欠片と戦っていて、肩を貫かれた。
そこで気づいた。穴が塞がっている。
もはや痛みどころか、傷があったような痕すらない。
確かに、翼の医療技術は卓越しているようだ。
それで、最後に断末魔で倒れて、ロンドンとスーザンが──
私は勢いよくベッドから体を起こした。
「マルクト!」
「わっ!びっくりさせないでください!どうしたんですか?」
「ロンドンとスーザンは?二人はどうなったんですか!?」
ここまでの重傷を短時間で完治させるほどの医療技術だ。もしかしたら、スーザンも助かるかもしれない。
ただ、マルクトは、心当たりがないようだった。
「えっと、ロンドンとスーザン、っていうのはどなたですか?」
「私の近くで倒れていた二人のオフィサーです!どうなったんですか!?」
そこまで言って、やっとマルクトは思い出したようだ。
「ああ!あの二人のことですか!えっと、一人は私が到着した時点でもう死んでいましたね!もう一人は『退社』しました!」
静寂。
壁掛け時計が時を刻む音が、やけに大きく聞こえた。
「どうかしたんですか?」
スーザンが、死んだ。目の前で、死んだ。
助けられなかった。
また、助けられなかった。
それに──
「…『退社』ってなんですか」
「え?」
「…『退社』ってなんなんですか?」
「すみません、もう少し大きく──」
「だから!『退社』ってなんなんですか!?」
自分でも驚くような大声が出た。
マルクトも、少し驚いたような動きを見せる。
「急に大声を出さないでください!驚きましたよ!それで、『退社』がなんなのか、って話ですよね。私の部門には、いや、この会社には軟弱な職員はいらないんです。」
彼女のトーンが、普段のものから格段に冷たくなる。
「…は?」
「この程度で精神崩壊するオフィサーは、いらないんです。彼らは、あくまでもあなたのようなエージェントを守るための使い捨てですから。」
その答えに、言葉を失う。
含みのある言い方。つまり、ロンドンは…
あの日、あの時聞き取れなかった言葉は──
「使い捨て、ですか。」
「はい。あなたのような優秀な職員が生き残れば、それでいいんです。量より質ですから。」
全ての辻褄が合い始めた。
エージェントである私にだけ強力な装備が支給される理由。
私よりも、能力的に優れていたはずのスーザンやロンドンがオフィサーに留められた理由。
アンジェラが言った、知らない方が良いこと。
「さて、何はともあれ、あなたが無事でよかったです!今日は医務室で寝てもらいますが、明日には──」
マルクトの言葉が終わるのを待たず、私は患者衣のまま、裸足で立ち上がり、歩き始める。
目的地は、アンジェラのいる管理室。
「ちょっと待ってください!どこにいくんですか!傷は全部治ったとはいえ、あなたはまだ──」
「うるさい」
マルクトの言葉を遮り、医務室から出る。
背後の医務室の扉を叩きつけるように閉めた。
それでも、扉越しに声が聞こえてくる。
それを振り切るために、歩みを速める。
この感情はなんだろう。
怒りだろうか、悲しみだろうか。
戦闘の時は感覚麻痺剤として機能したそれは、今度は私の心を引き裂いていた。
碌に考えることすらできない。
ただ、歩みを進めるだけ。
時間感覚は、とうに失われていた。だが、酷く長い道のりであったことは確かだ。
それでも、私は管理室の扉の前に辿り着いた。
そして、ノックすることなく扉を開ける。
既に、その部屋に管理人の姿はなかった。
ただ、そこにはアンジェラが立っていた。初めて、私がこの部屋に来たときのように。
「こんにちは、グスタフソン。」
「…アンジェラ。」
アンジェラを問い詰めようとする。
しかし、私が何かを言う前に彼女が先に口を開く。
「グスタフソン、あなたの気持ちは痛いほどわかるわ。私だって、彼らが死ななければよかった、と思ってる。」
「…なら──」
「でもね、これは仕方がないの。オフィサー達一人一人をあなたのようなエージェントに育成するためには、とてつもない費用が必要なのよ。」
心を繋ぎ止めていた糸の最後の一本が、切れる音がした。
「だから、しょうがないの。ごめんなさ──」
「うるさい」
今度は、私が話を遮る番だった。
「え?」
「だから、うるさいって言ってるんです!初めて会った時からずっと、ずっと言ってますよね!エージェントとオフィサーは違うって!あなたも、マルクトも!私の何がそんなに特別なんだ、って聞いてるんですよ!おかしいじゃないですか!」
「グスタフソン」
気づけば、目から涙が溢れていた。
「あの二人は!ロンドンと!スーザンは!私なんかよりもずっと優秀だった!なんで!なんであの二人がオフィサーで、私がエージェントなんですか!なんであの二人が死んで、私が生き残るんですか!もう、もうこんなの二度と嫌だったのに!」
「グスタフソン」
「心理テストがどうこうはもうやめてください!あんなの、なんの役に立つかすらわからないのに!聞いても教えてすらくれないのに!なのになんで!なんで──」
「グスタフソン!」
部屋が静まり返る。
「グスタフソン、少し落ち着いて。そして、ごめんなさい。あなたがエージェントになった理由を、ここまで隠してきて。」
「…」
「あなたがエージェントになった理由は、間違いなくあの心理テストのスコアが、他の人よりも高かったからよ。これに、嘘偽りはない。ただ、それがなんの基準になるか、今まで教えてこなかったことは、本当にごめんなさい。」
「…そんな言い訳聞きたくない。」
掠れきった声でそう言うも、アンジェラは意に介さず話を続ける。
「あの心理テストがなんの基準になるのか。それは、心の強さよ。」
「心の強さ…?」
「ええ。あなたは今日、スーザンとロンドン、二人の親友の死を経験した。それなのに、精神的には健康。そこが、エージェントとオフィサーの違いよ。」
信じられなかった。
そんなことで?
「…今の私が、精神的に健康に見えますか。」
「少なくとも、ロンドンやその他の精神崩壊したオフィサーよりは。」
否定できなかった。
「普通ね、人間というのは短時間で肉塊になった人間を見たり、親友の死に目に遭ったり、肩を貫かれたり、これだけのことを一度に知らされたりしたら、精神を病んでもおかしくないのよ。」
アンジェラは淡々と続ける。
「それなのに、あなたはまだ私に怒るほどの余裕がある。これこそが、あなたがエージェントになった理由なのよ。」
もはや、反論する気力はなかった。
「…もういいです。」
「ええ、そうでしょうね。早く医務室に戻りなさい。できるだけ、心身を休ませるように。これから、こういったことは珍しくなくなるから」
私はアンジェラに背を向け、管理室を後にした。
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医務室に戻った頃には、もうマルクトはいなかった。
私は疲れ切った体を動かし、なんとかベッドに横たわった。
脳内でスーザンやロンドンのことが頭の中に渦巻く。
しかし、何を考えようと、誰を責めようと、彼らはもう戻ってこない。
永遠に。
とっくに枯れきったと思っていた涙が一筋頬を伝うのを感じながら、私は目を閉じた。
この会社は、私が考えていたよりもずっと、ずっと残酷な場所だ。
けれど、それよりも。このまま私だけ生き続けなければならないことの方が、ずっと残酷に思えた。
「…私が代わりに死ねばよかったのに。」
独り言が、闇に消える。
こんな日でも、普段通り瞼が重くなる。
意識が遠のく。
もう何も考えたくない。
二度と目を覚ましたくない。
そんなことを考えているうちに、私は眠りへとついた。
夢を見ることは、ないだろう。
お疲れ様でした。このシリーズで最初の死者ですね。実は、スーザンとロンドンは私が第三話執筆中に適当に考えたオフィサーなんです。11人のメンバーは全員エージェントですからね。
本音を言うと、この瞬間が一番楽しみでした。自職員が可哀想な目に会う場面を書くこと。そのためだけにこのシリーズを書き始めた、と言っても過言ではないでしょう。
さて、サブタイトルにもありますが、この会社に夢、希望、明るい未来。そんなものはありません。
恐怖に対面しても、未来は作られないのです。
…少なくとも、これから当分先は。
ここまで読んでくださってありがとうございました。これ以降も、ご贔屓にされていただけるとありがたいです。それではまた。