銘俠傳   作:えんけつ

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 お待たせしました。やっと竹と邂逅です。趙活くんは青城に行ってもらうので長期間別行動となります。


玻璃為吾心

 目が覚めると大分疲労も抜けたのか、身体が仕事を求めるように力のやり場を探していた。取り敢えず日課の朝練を済ませ、出店で肉まんを買う。皮が妙に硬い。2、3助言をしてやると店主は得心がいったのか、昼にも買いに行くと少しマシになったのを出してきた。ちゃんとやれば普通に美味しいじゃないか。

 

「いやはや、人を外見で判断するもんじゃねぇや。兄さん、ありがとよ。おかげでもっと売れそうだ」

「いや、そこまで大層なことはしていない。あんたの腕が良いのと、見ず知らずの人間の言うことを信じた、人徳あってのことだ」

「そうか?そう言ってくれると嬉しいよ。あんたが良ければうちで働かないか?来たばかりなんだろう?」

 

 別段料理が嫌いなわけではない。大師兄の当番の時は進んで変わる程度には好きな方だ。この店主も悪い人間ではない。

 

「魅力的な提案だが、一応武芸を高めるために来ているからな……職に貴賤は無いが、肉まん屋をやっていたと知られれば師匠から何を言われるか分からん。申し訳ないが断らせてもらう」

「そうかそうか、いや、別に良いんだ!俺だって期待してたわけじゃねぇさ。でもお前さん鉄拳門に入っちまったんだろう?あてはあんのか?」

「いや……午前一杯使ってみたが今のところは無いな。なに、まだ一日目だ。もう少し散策するさ」

 

 今日から何をすれば良いかと雷掌門に聞きに行ったのだが、そんなもん自分で決めろと突き放されてしまった。

 一通り崆峒内を回ってみたが、くじ引きの結果はやはり重要らしく、唐門の高弟という身分もあって直接的には言われなかったが、どこに行っても遠回しに断られる始末。

 

「よし、助けられた身だ。いいことを教えてやる。大鍛冶場の主人は裂骨魔といって、とんでもない怪力の持ち主だ。丹によってその力を得たと言われているが、そんな都合の良いものがある筈ねぇ!俺から見たらありゃ天の采配と、鍛錬の賜物だね。兄さん、唐門の人間だろう?あんたらの鍛冶の腕は天下の知るところだ。鉄拳門に入ったなら仕事ってことで大鍛冶場でも働かせてもらえるだろう。そこにいってあの怪力の秘密を盗んでくるといい」

 

 なるほど……雷掌門はそんなこと口にも出さなかったが、表に出るのを厭う気難しい人物なのだろう。ここでその話を聞けたのは僥倖かもしれん。

 

「助かった。早速向かうとしよう」

「あー、待て待て。行くなら朝が良いぜ。今頃仕事中で、入っていったら何をされるか分からん!」

「忠告感謝する」

 

 せっかくなので何個か肉まんを買って宿舎へと戻る。さて、午後はどうすべきか。練功をしても良いが、人目につくのは避けたい。幸い部屋は狭いとはいえ一人部屋だ。いっそこの部屋の中でするか?それとも、まだ無色市場にあるという闘技場は見ていないし、そこに行って暇をつぶすか?

 

「「弱ったな」のだ……」

 

 気が付くと緑の衣服に身を包んだ少女が隣に立っていた。見た目からして鉄拳門の所属だろうか。彼女もこちらに気が付いたのか、睨み返してきた。

 

「すまない!気に障ったようなら謝罪する。すぐに退散しよう!」

「……あ~、悪かったのだ。僕は目が悪くて……睨んでいた訳じゃないのだ」

 

 どうやら外見が気に食わなかったようでは無くほっとする。我ながら唐門に慣れきっているな。ここでは気を引き締めよう。

 

「そ、そうか、それを聞いて安心した。何分この肌と髪でな、よく難癖を付けられるんだ」

「少なくとも僕はそこまで心が狭く無いのだ!君は留学生だな?……初対面の君には悪いが、これを雷の親分に届けて欲しいのだ」

「承知した。……これは書状か?」

「分かってると思うけど、中は見るなよ?」

「さすがにそれくらいの分別はあるさ」

「どうせ闘技場あたりをうろついてるのだ。探すならそこを探してみてくれ。悪いが僕は仕事に戻らなきゃならん!」

 

 じゃ、頼んだぞ~と言って彼女は小走りに去っていった。そういえば名前も聞いていないな……。

 幸い雷掌門は闘技場近くで見つけることができた。書状を見るなりばつの悪そうな顔をしていたが……知らなくていいことは知らない方が良いだろう。

 

 

翌朝、起きてすぐに大鍛冶場の前で待機していると、昨日の少女が目の前まで歩いてきた。

 

「君は昨日の……そういえばお互い名前すら名乗っていなかったのだ。鉄拳門嫡伝の女弟子、郁竹なのだ。よろしく頼むよ」

「唐門の銘という。書状は雷掌門には渡したぞ。随分とばつの悪そうな顔をしていたが……」

「ふん。賭け事をする人間にはお灸を据えてやるのだ。親分は掌門としての自覚が無いのだ」

「あぁ、そういう……」

 

 思い起こせば肩を下ろして闘技場から出てきた風であった。あれは賭けの後だったのか。確かに掌門が掛けをしていて、鴨にされているとなれば風聞は悪い。いや、昨日はたまたま運悪く負けたのかも知れないが。

 

「で、こんな朝早くから何の用なのだ?」

「いや、大鍛冶場で働きたくてな。主人を待っているところだ」

「おお!僕も大いに唐門の鍛冶の技には憧れがある!ぜひ手伝ってくれ!」

「いや、そんな簡単に決めて良いのか?君は弟子とはいえ、主人が決めるべきだろう」

「はははっ!君は面白いことを言うな!心配ないのだ!僕がこの大鉄舗の主人なのだ!」

「……なんだと!?」

 

 てっきり筋肉質な大男だとばかり思っていた。……本当にこの娘に店主が言っていたような怪力があるのか?

 

「……君が何を考えているのかは顔を見なくても分かったのだ。まぁ、僕が腕を見せねば疑うのも無理はないのだ。……銅銭を持っているか?」

 

 財布を開いて竹師妹……いや、師姉に渡すと、彼女はそれを手でつかんでこちらに向けてきた。

 

「おい、待て。何をするつもりだ?」

「まぁよく見ておくのだ」

 

 郁竹が銅銭を指に挟むと、瞬く間にそれはひしゃげてしまった。……気を悪くさせたとはいえ、俺の銅銭なのだが……まぁ良いか。確かに並大抵の力でないことの証明にはなった。

 

「疑って悪かった、師姉。では、働かせてもらおう」

「し、師姉はやめるのだ!郁竹でいい。僕も君のことは唐銘と呼ぼう」

「では、郁竹、今日からよろしく頼む」

「う、うむ……取り敢えず鉄舗に入れ。火を入れるぞ」

 

 大鍛冶場はその名前ほど大きくはないようで、唐門の鍛冶場とさほど設備は変わらないようだ。とはいえ唐門の方は晴天の下にあるため、天候に関わらず鍛冶をできるこちらの方が質としては上だろう。ただ、室内の分木炭や焼けた鉄の匂いは酷く、慣れていなければ顔をしかめてしまうやもしれない。

 

「設備の説明は今更僕がしてあげる必要は無いな?」

「あぁ、問題ない。おおよそ見当がつく」

 

 地炉(じろ)蹈鞴(たたら)、金床に水桶。大槌小槌に火箸に坩堝(るつぼ)と、この少女の内面を伺い知れる、良い鍛冶場だ。床も定期的に清掃されているのだろう。少なくとも危険な状態の鉄の端材などは見当たらない。

 

「僕が使い慣れたこの槌以外、道具と設備は自由に使っていいのだ。山の住人の注文は、全部そこの帳面に記してある。自信のあるものは、唐銘に任せよう……。ただし、とりかかる前には一声かけてくれ。同じもの作っては困るだろう?」

 

 看板付近に下げられた帳面を見ると、雑多な注文が書き連ねていた。(くわ)(すき)、鉄鍋、包丁……

 

「椅子に茶卓もあるな。ここは木工も行うのか?」

「うむ。鍛冶屋と看板には書いてあるんだがな。僕がここの主人になるずっと前から、ここでは木工仕事も請け負っているのだ。この山の日用品の大体はこの鉄舗から生まれたのだ」

「それは凄いな。……いや待て、この『鳥を打ち落とす案山子』というのは何だ?他にも『人を殺せる独楽・戰鬥陀螺(ベイブレード)』だの『頑駄無白龍大帝』だの……名前だけじゃなく草案まで書いてあるが、こんなものは便所の落書きだぞ」

「構うものか、僕は仙人でも天才でもないぞ。やれる仕事はやって、やらない仕事は放っておくのだ」

 

 ……いや、しかしこのベイブレードなるものにはなぜか無性に男心をくすぐられるな……。独楽を操る技術でなく、独楽同士で戦わせるというのは全く発想に無かった……四師兄辺りがいたら、これで商売の一つでも閃いていたやもしれん。

 

「兎に角、まずは簡単なものから小手調べだ。包丁を一丁打ってくれ。この程度であれば、唐門の高弟がてこずりはしないだろう?」

「当然だ。包丁と言わず、別に、剣を鋳っても構わんのだろう?」

「大歓迎なのだ!是非見せて欲しいのだ!」

 

 地炉は既に郁竹が火を入れたようで、蹈鞴を踏めば炉は赤くなった。さぁ、久しぶりに人前で打つのだ。気合を入れなくてはな。

 鉄鉱石を入れ、橙、黄、白とその色の移り変りを見守る。白くなったら火箸で掴んで金床へ。一打、二打、三打……火花と共に聞き馴染んだ高い音が響く。鉄鉱石から鋳鉄へ、鋳鉄から剣へ。鋼と鉄でもって夾鋼となし、これを剣とする。

 

「……まだ百も打ってないのに」

「真気を込めながら打ち、百錬を以って剣とし、千餘を以って神兵とする……実を言えば、これは唐門の技ではない」

 

 汗が目に入る。一打する度に真気を消耗する。目に映るものは白色しか残らず、聴こえるのは槌が出す音だけ。手袋の中で汗が滲む感覚すらも、やがて薄くなってゆく。

 

 身体が騒ぐ。貴方はこれを覚えている。貴方は帰ってきた。この果てなき荒野と、無数の剣の丘へ。

 

 

創造理念の鑑定―――何の意図があって

 

基本格子の想定―――何を目指し

 

構成材質の複製―――何を使い

 

製作技術の模倣―――何を磨き

 

成長経験の同調―――何を想い

 

蓄積年月の再現―――何を重ねたか

 

 

 だが、この広大な荒野で貴方が知っているのはたった一対の剣のみだ。

 

 

 我に返ると、鍛造は既に終わっており、俺の前には一対の剣があった。

 

 

「……一応聞いておくのだ……それは、もしかして……」

「あぁ、当然本物とは違うが、干将・莫邪だ」

「ひゅっ――」

 

 郁竹は何かを言おうとしたようだが、のどに息が詰まってむせてしまった。

 

「他言無用で頼む。まだ早朝だ。人も見てはいまい」

「そ、そんなもん作るなら前もって言っておくのだ!?人に見られたらどうするつもりだったのだ!?」

「まぁ、なんとかしてくれるだろ?主人よ」

「こ、こいつ開き直りやがったのだ!?」

「口ではそう言ってもその目は雄弁に語っているぞ……ほれ、握るか?」

 

 郁竹が槌を下ろし、干将・莫邪を握る。その眼差しには崇拝と対抗心が入り混じっていた。

 

「さて、やるか」

「な、何を……」

「当然、試し打ちだ」

 

 通りに出ると、冬の寒さが肌をついた。まだまだ空が白んできたくらいの時間だ。人もいない。

 

「い、良いんだな!本当にやるぞ!」

「大丈夫だ。生まれつき人より頑丈でね」

 

(それにしても、この剣は無性に手に馴染むのだ……懐かしいというか……これが神剣の凄みなのか?不思議な感覚なのだ……)

 

 郁竹が干将を振り下ろし、俺が莫邪で返す。

 実を言えば干将・莫邪を鋳ったのはこれが初めてではない。真気を込めれば、何故か俺の鋳つ剣は全て干将・莫邪となる。

 掌門から人前で鋳つのは控えろと言われているが、郁竹ならば大丈夫だろう。なぜか確信があった。

 

 干将・莫邪同士の打ち合いは、双方が双方を引き寄せるため、似たような形に収まるようだ。昔大師兄にせがまれて打ち合った時と似たような形に収まった。いや、にしてもやはり力が強い、かなり強いな。何処にこんな力があるんだ……。

 

「う、うむ、ここまでとしよう。どうだった?」

 

 何故か教えてもいないのにどんどん郁竹が上手くなるため、このままでは負けると思い、適当なところで中断してしまった。なんと情けない!

 

「……悪くは無かったのだ」

「それは良かった。さぁ、返してくれ」

 

 俺が手を出すと、彼女は剣を抱きかかえ、後ろに数歩下がった。……嫌な予感がする。

 

「……いや、これはもう僕のものなのだ」

 

 嫌な予感、的中。

 

「なっ……造ったのは俺だぞ!」

「剣を造れとはいったが、こんなものを出すわけにはいかないのだ!大体材料も設備もこの大鉄舗のものなのだ!」

「いや、目の前でどう打つか見せてやったろう……唐門の師弟師妹にも限られた数人にしか見せていない。授業料として免除してくれないか?」

「確かに学びになる事は多かったが、それだけで同じように打てたら誰も苦労しないのだ!兎に角主人がダメと言っているのだ。これ以上言うなら君をクビにするのもやぶさかでないのだ……こんな逸品を見せられて、鍛冶師の身で我慢などできるものか!それに君はもう一対持ってるじゃないか!なのに僕から取り上げるなんて、ズルいぞ!」

「いや、最後の方本音が出てるぞ!」

 

 脳裏に四師兄の顔が浮かぶ。一体一対だけで何両となるか……。

 

「……分かったのだ。この剣は君に返そう。だが条件があるのだ」

「出来る範囲で叶えよう」

「実は昨日、君に届けてもらったのは留学の嘆願書なのだ。君からも僕が唐門に留学出来るように口添えして欲しい」

「それは良いが……俺の口添えに意味はあるのか?」

「大いにあるのだ!ちょうど数ヶ月後に大会があるのだ!君がそこで勝てば、唐門の株も上がるし、僕が唐門に行って学ぶものが大きいと皆が知れば、身分が崆峒四妹といえど、上もここから出すことを拒めない筈なのだ。大体蘭姉も自由にやっているのだ!菊姉とアホ梅がケツを持てば良いのだ!」

「いや、そう言われても何が何だか……」

「兎に角、君は数ヶ月後の大会に勝って勝って勝つのだ!奴等に目に物を見せてやれ!」

 

 その後、郁竹は変なスイッチが入ってしまったのか、大鍛冶場に戻ると自分がいかに不運な境遇か、いかに梅という人間が愚図なのか、自分が目指す鍛冶師とは何なのかといった話を声を張り上げて話した。

 普段は鋳造したものを受け取りにくるため人が並び野次馬も多いとの事だったが、その日は俺以外誰も近づいて来なかった。




竹ってCV誰になると思います?伊藤ゆいな?僕は小原好美派です。趙活?杉田だろ。
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