ようこそぬくぬく至上主義の教室へ   作:棚木 千波

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何となく毎日投稿チャレンジになってきたので五話です。
なんかよう実二次でも大体ある、あのイベントです。


#5 思い上がりと水泳

 

 入学してすぐに、オリエンテーションがあった。

 今年の新入生に向けた部活動や生徒会の紹介が体育館で行われていたとの事。どんな部活動や先輩がいるのかを知れるとてもいい機会なのだが、迷った末にオレは行かなかった。

 

 理由は単純。まず間違いなく人混みなのと、この身体はまず狙われると知っているからだ。

 

 ことスポーツにおいて、体格に恵まれていると言うのはそれだけで有利に繋がる。そして自分で言うのもなんだが、オレの身体は他の一年女子よりも育っている。

 

 つまりオレは運動部の皆さんからしても、非常に魅力的な存在の筈なのだ。この理論すごいナルシストみたいで嫌なんだが、多分そんなに外れてないと思う。

 

 身体を動かす事は嫌いではないが、オレには特定の種目で一番になりたいという欲求はあまりない。所謂エンジョイ勢という奴だ。

 

 やっていく内に目覚める可能性もゼロじゃないかもしれないが、今のところそんな予定はない。そしてそんなフワフワした奴が遊び半分でやっては、真面目に取り組んでいる人たちに迷惑がかかる。

 

 そして文化系に関しても特に興味はなかったので、最終的には他のことを優先する事にした、というわけだ。

 確かその日にあの南雲副会長や橘先輩と会えた訳なので、それはそれでプラスだったとも思うしな。

 

 要するに何が言いたいのかというと、別にオレは運動は嫌いじゃないという話だ。

 何をするにも体力は必要だし、自分の思い通りに身体を動かせるというのも生きる上で大事な一要素だ。そんな考えに基づき身体は動かして来ているので、体力テストも中の上の成績位なら取れる自信があった。

 

 

 そうして迎えた体育の時間。

 オレの目は、死んでいた。

 

 

「どうしていきなり水泳なの……」

 

 まだ屋内プールで風がないのが救いだが、それでも水泳であるという事実は変わらない。

 そして水泳という事は当然、水着姿にならないといけないわけだ。オレは自分の腕を掴んで、少しでも身体が小さくならないかを試さずにはいられなかった。

 

「冬野さん、思った通りのスタイルだね! ていうか肌も白ーい!」

 

「スラっとしていて羨ましいです。何か運動でもされてるんですか?」

 

「まぁ、人並みにはね……」

 

 Aクラスの中ではよく話す方の白石と西川にも見られているが、二人のは羨望よりの視線だ。悪くはないが良くもない。

 

 女子の中でも特に長い足。水着に収めるのもそこそこ苦労する程に主張の激しい胸。そんな胸と張り合うようになんか実ったヒップ。普段は制服で仕舞い込んでいるオレの身体とその曲線が、スク水となった事で晒されている。

 

 はっきり言おう。多分エロい。

 多分その気になればグラビアアイドルとも戦えるのがオレの身体なのである。別に一ミリも望んでないが。

 

「冬野、すげぇな……」

 

「流石にぶっちぎりだぜ……」

 

「Bクラスの一ノ瀬(いちのせ)やDクラスの櫛田(くしだ)にも負けてないぞ……」

 

 そんな女子がクラスメイトにいれば、当然男子はそういう目で見てくる。理解はするが、勿論気持ちがいい訳がない。Aクラスの男子たちはそこまで露骨じゃない気がするから、焼け石に水程度でマシではあるが。

 

「うわぁ……」

 

「へぇ……」

 

 そして同性からもあまり良い目では見られない。

 勿論半数くらいはチラと見るだけで終わるが、残る半数くらいは奇異の目や怨嗟の視線を向けて来るのだ。白石と西川のような称賛や羨望もなくはないが、それはそれでなんか照れくさい。

 

 総じて水着は超だるい。

 本音を言うとサボりたかったのだが、そのペナルティが如何ほどかがまだ分からなかった。あと初回からサボるのは印象が悪いという理由から、なくなくの出席となったのだった。

 

「Aクラスは見学者も少なめだな。全員夏までには泳げるようにしてやるから、安心していいぞ!」

 

 やって来たガタイの良い体育教師が、少し離れた所にある見学スペースを見てそう言った。

 オレもその視線を追うと、数人の女子がベンチに座って此方を見ているのが分かった。杖を傍に置いて座る坂柳で目が留まったけど、やはり彼女は体育の授業には参加出来ないらしい。

 

「……っ」

 

 僅かに同情しかけた所で、坂柳の鋭くなった視線がオレに向けられた気がした。この距離で気付くのかよとも思うが、確かに今のはオレが悪い。身体的特徴で人の目をひいてしまう共柄(ともがら)として、配慮の欠けた行いだったと言わざるを得ない。

 

 ごめんと意味を込めて数秒目を閉じると、坂柳の表情が微笑みに変わった。どうやら勘弁してくれたらしい。

 ところでオレと坂柳はまだ会話した事なかった筈なんだが、何故視線だけで意思疎通出来たんだろうか。不思議である。

 

「まずはどれだけ泳げるかを見る。準備運動が終わったら順に入っていけ!」

 

 そんなやり取りをしている内に、体育教師の話が進んでいたらしい。

 並んで体操を済ませた後、男女別でプールへと入って流すように指示が飛んだ。

 

 そうしてオレの番になったので、意を決して水面へと身体を落とした。

 

(っ……! 冷、たい……!)

 

 ヒヤリとした水の感触が、オレの足先から胸の辺りまでを駆け抜ける。そして水の抵抗に身を包まれながら、オレも泳ぎ方を確認していく。

 

 なんか中学三年の水泳授業の時より泳ぎにくいのは、まぁ、()()()()()()()()()()()としか考えられないよなぁ……。

 あと何度でも言うけどプールの水が冷たい気がする。オレ、寒いの苦手なんだが……。

 

 それでもどうにか50mを泳ぎ切り、プールデッキへと上がって休んでいると、聞き慣れない声が突然オレの耳を揺らした。

 

「——ねぇ冬野。あんたって、坂柳と面識あるの?」

 

「ん?」

 

 ジッと此方を見ていたのは、オレとは似て非なる淡い菫色の長髪と瞳を持つ女子だ。

 教室ではあまり話している所を見てないが、名前は神室(かむろ)だった筈。

 

「別にないけど、急にどうしたの?」

 

「さっき、見学スペースのあいつとアイコンタクトしてたでしょ。あれで面識がないなんて事あるわけないじゃない」

 

「あー、そういう事か」

 

 要はさっきのやり取りを見られていたらしい。

 オレにしては珍しく視線に気付かなかったという失態だが、気になるのは何故神室が気付けたかの方だ。考えられるのは坂柳と神室は友人関係、という事になるのだが。

 

「たまたま目が合ったからそう見えただけだと思うけど。神室さんは坂柳さんと仲良いの?」

 

「そんなんじゃない。あいつに付き合わされてるだけだから」

 

「ふーん。付き合わされてる、ね」

 

 教室でも一緒にいたような気がしたのだけど、何やら訳ありのようだ。

 神室の隠そうともしない不機嫌さに、オレの中でちょっとだけ食指が動いた。

 

 チラリと視線を動かすと、変わらずニコニコとした顔でオレたちを見る坂柳が確認できた。流石にこの会話まで聞かれているとは思わないが……少し伝え方は考えてみよう。

 

「もしワタシが坂柳さんと面識があったら、どうするつもりだったの?」

 

「……別にどうもしないけど。ただちょっと、期待しただけ」

 

「……それ、どういう意味?」

 

「何でもない。変な事言ってごめん、忘れて」

 

 オレが首を傾げると、神室は首を振って背を向けてしまった。

 しかし彼女としても失言だったようだ。なのでオレは引き留めようとして、その手を掴む。

 

「っ……。なに?」

 

「もしかして、坂柳さんと何かあったの? それがあるから、ワタシに声を掛けたの?」

 

「……いいから離してくれない? 冬野には関係なかったみたいだから」

 

 いきなり手首を掴まれて迷惑そうに言う神室だが、オレはその手を離そうとはしなかった。

 だって話して欲しいのはオレの方なのだし、声を掛けたのだってそっちだろ?

 

「いや、流石に気になるよ。あと神室さんの身体は温かいから、そういう意味でも嫌」

 

「は??」

 

 掴んだ手首から彼女の熱が伝わってくるのだが、なんか思ったよりも温かい。オレたち二人とも今泳いで水に濡れているのに、この違いはなんだろうか。単にオレの身体が冷えてるだけか。

 

「私が悪かったから離してくれない? 大丈夫、もうあんたに構ったりしないからさ」

 

「いや、そういう事じゃなくて——」

 

「——よし、殆どの者が泳げるようで何よりだ。では次に、男女別で競争をしてもらう。距離は50m、泳ぎは自由だ!」

 

 神室が本気でオレを振り払おうとした所で、体育教師がそんな事を言い出した。

 流石に無視は出来ないと、オレと神室はそのままの体勢で耳を傾ける。

 

「先生、いきなりですか?」

 

「ああそうだ。だが一位になった者にはボーナスとして5000ポイントを進呈しよう。やる気、出てきたんじゃないか?」

 

「ちょ、マジっすか!」

 

「逆に一番遅かった奴には補習を受けてもらう。だが夏までには必ず上手くなる事を保証しよう!」

 

「うっそ……」

 

「それは困りますね……」

 

 なんか面倒な事になってるな、と思ったのも束の間。

 手で感じていた温もりが、ひらりと消えてしまっていた。

 

「あっ」

 

 気付いたらオレの手から逃れて、さっさとプールへと入っていく神室の背中がそこにあった。

 すぐに追いかけようとして、らしくない事をしている自分に遅れて気が付いた。

 

 正直言って何も分からないが、神室と坂柳の間に何かがある事だけは確かだ。

 そして神室の反応から、彼女としてはそれがあまり良くないモノに感じているように見えた。

 

 だから知りたくはある。けれどそれが自業自得——神室に非があってのものなら、オレは関わるべきではない。どんな関係であっても、それは彼女が自分で負うべきモノだからだ。

 

「っ……! 神室さん、ちょっといい?」

 

「……もういいでしょ。ほっといてくれない?」

 

 競争の流れで神室さんの隣のレーンに入れたので、スタートの前にそう話しかける。

 相変わらず水が冷たいので、口が回るうちにとオレは簡潔に伝える。

 

「今からの50m、ワタシが勝ったらさっきの続き、話してくれない?」

 

「……は? いや、なんでよ」

 

「大したことじゃないよ。ただ、知りたいだけ」

 

 本音を伝えておきつつ、それでも断られたら諦めよう。

 そんなつもりで持ちかけたら、少し考えた末の神室さんが、その口角を持ち上げた。

 

「……わかった。自信あるみたいだけど、私が勝てば聞いてこないんだよね?」

 

「うん、約束する」

 

「ならやってあげる。後悔させてあげるから——!」

 

「ようい、始め!」

 

 そうして勝負が成立するのと同時に、体育教師の合図がプール全体に響いた。

 後ろの壁を蹴って一気に身体を加速させ、その勢いのままに水中をかき分けていく。

 

 うなれオレの身体。急展開だが本領発揮といくとしよう——!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃ、そういう事で」

 

「冷たい……冷たいよ……」

 

 そしてオレは普通に負けた。二着だった。

 別に胸部装甲が邪魔だったからとかそう言う訳でもなく、普通に地力で負けた感じだった。

 

 やっぱり慣れない事はするもんじゃない。すっかり冷えた身体でそう思うオレなのだった。

 

 ……けど、とりあえず坂柳の事も調べてみるべきかもな。……くしゅん。




 ☆神室真澄?

 ☆冬野氷華の身体能力は中の上?


 閲覧、感想、評価など誠にありがとうございます。まだまだ四月が終わりませんが、よければ次回もまたお願いいたします。
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