「あれが“紅椿”……ねぇ。打鉄をきっちり正統進化させましたって優等生だな。」
速度も優秀。近接と射撃を兼ね備えた二振りの刀……近接射撃……ドズルザク……一年戦争……うっ、頭が……
なんてこと言ってないで、機体を分析しよう。“雨月”と銘打たれた刀のレーザーに関してはド近距離で撃たれちゃ確かにマズいが……刺突時に発射されるものなので狙いは分かりやすい。“空裂”に関しては斬撃が飛ぶとみて問題ない。こっちのほうが予備動作が少ないので防御は難しいか?
そしてエントワッフェンと同じ思想で作られた“展開装甲”。こっちの方が機体の広い範囲をカバー出来るので使い勝手としては上だろう。だが、それぞれのバランスが良いためかエントワッフェンに比べると形態毎の性能は下回っている。反応速度が上だから乗る篠ノ之からしたら嬉しいところではあるな。
「しかし、本気でISを新しく作ったとは。世界情勢が一つ変わるもんですなぁ。」
「ほぼ私物化しているお前が言えたことか?」
「あれに比べたらまだそよ風と言ったところでしょう。」
前もって篠ノ之博士が出没したことを報告しに行ったのだが、既に織斑君の前に姿を現した後だったようで。とりあえず目を付けられたことだけは報告しておいた。
「……お前の知識が束に認められるほどだとは。いや、そうとは薄々感じていたが、随分と早い。」
「恐らくあなた含めたお三方のついでですよ。興味こそあれど、ついでに程度。」
「その“次いで”が重要だ。世界よりもお前のほうに興味が向いた。覚悟しておけよ。」
「覚悟ないでIS弄るわけがないでしょう。」
兎がなにか企んでいるのはよーくわかっている。俺も織斑教諭も気が抜けない。というか周りに居る代表候補生たちが空気になっているのもその緊張感で固まっているからだろう。
……こう考えると簪が一人で作業しているのが羨ましく思える。
と、一組の……山田教諭が急いで走るのが見えた。ビンゴってところだろうが……多分相当マズい事にはなっている。
「簪、回線を開いとく。勝手に聞いてな。」
『もう?いくら何でも早すぎじゃ……』
「仕込みは既に終わってたか、仕込みすら要らん児戯に等しいことか。どちらにせよ面倒なことこの上ねぇ。トラックはいつ着く?」
『……夜って聞いた。あととりあえず近くの物で詰めそうなものは片っ端から詰めたって聞いた。』
「最悪トラックの荷台からリーパーを飛び立たせることは伝えとけ。物資を除けさせるのも頭にな。」
『そうなると、時間稼ぎが必要?』
「いや、その前に何とかするかの二択だ。俺たちは時間稼ぎのことを考えよう。」
「ブリーフィングを始める。先ほどアメリカ軍にて研究開発が行われていたISが暴走し、太平洋上へと逃走したという情報が入った。」
「何かあると思ったが、とんだ案件が飛んできたもんだ。」
「静かにしろ。そこで、お前たちにはこのISの迎撃を行ってもらいたい。質問のある者は?」
「はい。かのISのスペックはありますか?」
「ある……がこれは米軍の機密情報となる。口外は禁止、そうでなければ──」
「俺たちの責任ってか?残念だが俺は降りさせてもらうぞ。」
「何だって?」
「降りるんだよ、俺は。リスクが高すぎるし、そもそも俺は日本の国民でもなきゃ軍人でもねぇ。降りる権利くらいはあるんだろ?」
「……ラーベ、貴様は言っている意味を理解しているか?」
軍人であるラウラが俺を責めはしないが、厳しい目で見る。まぁ同じドイツ人としちゃ思う所はあるだろうな。
「勿論だとも少佐殿。むしろ誰よりも理解した上で言っている。俺たちの背中には幾多もの命がかけられているなんてな。だから、俺は降りる。失敗した時の責任なんざ取れやしないからな。」
「その責任を証左すれば、やれるか?」
「俺の手の届く範囲だけに限りますがね。大体、こういう時に日本には自衛隊というものがあるんでしょう?ISを使うとはいえ、ペーペーの人間を使うよりも信頼できるってものでしょうに。」
「……済まんが、これは委員会より提示された案となる。」
「こんな不確定要素しかない作戦が国際委員会からの下知?全くお笑いだ。残念だがやはり降りさせてもらう。降りかかる火の粉くらいは払ってやるが、確実性がないなら作戦には乗らん。」
「待てよ!まだ話し合ってすら」
「せめて話し合いの土俵に持ってこいと言っている。俺は俺で行動させてもらうぞ。」
「なぁ待てって!」
「やめろ一夏。軍人でない以上、責任が取れないなら降りるのも手だ。」
「そうだ。自信がないのであれば引き下がってもらって構わん。他に辞退者は……いないな。これよりスペックを公開する。」
『……盗聴器くらい置いておけばよかったんじゃないの?』
「どの道失敗する作戦だ。変に盗聴すりゃバレて責任が降りかかる。」
『腰抜けって噂されるよ?』
「蛮勇と勇敢は違う。勇敢ってのはきちんと成功するっていう確証があって行動するものだ。蛮勇で迷惑散々かけて死ぬより、腰抜けできちんと準備した方が良いに決まってる。」
『君も失敗したくないタイプ?』
「失敗したくないわけじゃない。取り返しがつかない失敗をしたくないだけだ。アンタみたいに世界から雲隠れして研究し続けるのもまぁ……悪くはないが、俗世には浸ってたいんだよ。」
『ふーん……というか、箒ちゃんといっくんが失敗すると思ってる?』
「成功率で見りゃ40%で、今突貫で立てられる作戦にしちゃ上等。でも、当人たちの能力値……いや、経験値としちゃどう見る?一方は今日プレゼントされて慣らしもしてねぇ機体だ。基本成功率から下がるもんだ。」
『君だってISの経験値ほぼ溜まってないくせに。』
「全部フォビドゥンのフィルターが掛かるから仕方ねぇだろうがよ。」
手を動かしながらフォビドゥンの調整をし続ける。簪は今席を外している……というより、4組の方に行っているのと、もうじき着くであろうトラックの誘導を頼んである。
「じゃあな、兎の博士。流石に俺もこっちに集中したいんだ。」
『ま、成功したなら臆病者としての評価を甘んじて受け取りなよ。』
「逆に失敗したなら二の矢を講じた戦術家だ。その時はその時で甘んじてその評価を受け取るさ。知ることもしない奴の評価なんて、微塵も効かないがな。」
フォビドゥンの制御……主にAIC周りを入念に弄る。今回は軍用ISが相手。SEをぶち抜ける破壊力があるに違いない。
「……ラーベ。居るか?」
「ボーデヴィッヒか。空いているぞ。」
「あぁ……」
一時間たったくらいかどうか。襖が開く音がするが、タイピングの手を止めることはない。一行書き終わったとき、ボーデヴィッヒが口を開く。
「先ほど、一夏と篠ノ之が上がった。」
「成功するか?」
「いや……」
「だろうな。」
「……貴様は狡猾だな。」
「分かる人には分かる。ただそんだけでいい。」
「いや……多少なりとも、他の者が背負う責任も軽くなる。」
「そうなるとお前は救われねぇじゃねぇか。」
「軍人だからな。本来なら先ほどの中で一番に行かなければならないものを……」
「なら次の防衛線くらいちゃんと敷いとけ……まぁ敷き終わってるんだろうが。」
こうして休憩が取れているならローテーションはきちんと組んでいることだろう。少なくとも、軍人として最低限の動きはしている。
「少なくとも、今回の作戦でボーデヴィッヒにおける非はあんまりない。非難すべきは頭の悪い上層部、この地を脅かす米軍の機体だ。」
「いや……軍人である以上異論を唱えるべきだった。」
「過ぎたことは仕方ないだろ。これからのことを考えるべきだぜ。」
と、ラウラの持つ端末がコール。さて、コインの表裏はどちらに転んだ?
「……分かった。すぐに警戒態勢を。」
「やられたか?」
「一夏が船舶を庇って重症と聞いている。」
「密漁船かなんかだな。正義感が強いのはいい事だが、蛮勇も甚だしい。」
「貴様……仲間が負傷したのだぞ?」
「それを想定していない方が馬鹿というものだ。」
ボーデヴィッヒが突然……ではないか、俺の胸倉をつかむ。まぁ散々デリカシーのないことを言ったから、当然と言えば当然だ。
「何故そうやって怒る?今この行動で時間を浪費して、結果的に負傷者が増えたほうが悪い結果になるだろう。」
「貴様は……今私が怒っている原因が分からないというのか?」
「分かるさ。その上で合理的じゃないなぁとだけ思っている。」
「貴様は……感情を全てコントロールしているとでもいうのか?私以上に“作られた人間”に思えてくる。貴様の、親は……一体誰なのだ?」
「俺が作られた人間に見えるのなら、それならそれで構わん。俺の出生がどうあろうとも、今の俺が俺だ。だがな……」
逆にボーデヴィッヒの首を掴む。互いの手が首に延ばされている状況だが、俺の方が身長が高い以上、ボーデヴィッヒの方が不利。
「俺とて感情を持つ人間だ。親を蔑まれれば怒りが湧いてくる。この状況下でなければ、お前を殴り殺していたかもしれん……それを抑えるための機体なのだ。」
「この機体が……貴様のマスクだとでもいうのか!?」
「マスクであり、最終弁であり、託された遺産の軌跡。フォビドゥンが俺の生きる証と言っても過言じゃあない。まぁそれだけに固執しても悪いのは分かっているから、ほかの物にも手を出している。」
「……益々貴様が人の感情をトレースしている何かに思えてきた。」
「考えを根本から理解するのは同じ人間でも難しいものだろう?例え俺が人でなくとも、理解しようと歩み寄っているだけマシと思って貰いたいものだ。」
首を掴んでいるラウラの腕を払い除け、受け身が取れる程度に軽く押す。そうして俺がコンソールに向かった時……奇妙な文字列を見つけた。俺が打ったものではない。
「これは……IS本体からのアクセス?いや違う、アクセスにしては不可解な……ラファールのデータベースに何かが侵入……いや違う。ISコアのカーネルレベルでのマルウェア、いや元からバックドアが仕掛けられていた……下手人は篠ノ之博士、アンタだな?」
『凄いじゃん、直ぐに原因特定するなんて。もしかして、ISコアの解析進んでる感じ?』
「表層だけだが、SEの生成方法やらは何とかってところだ。まだ作れはしないぞ。」
『で……君のISがシャットダウンしちゃったねぇ?君にも手はないかなぁ?』
「リーパーに対しての攻撃は……ないな。あくまでISだけを狙ったか。そこまで煽られてお怒りか?」
『うーん……まぁそうなるかな!ISを持たない状態でもう一人の天災君はどうするかなって!』
「正直なところ、今の手持ちじゃ無理だな。学園に戻れば手はあるんだが……」
「……貴様、今度は何をしでかしたのだ?」
「EOSをフォビドゥン対応型にした。」
「正気か??」
「むしろEOSが厳しかったからリーパーをコアにしたんだよ。だが……今ならいけるか?」
『へー、案外考えてるもんなんだ。』
「更なる調整は必須だしISの防御システムがない分動きは鈍重になるが……フォビドゥンなら無問題だな。だがデュートリオンエンジンの関係でリーパーは四機随伴させたいところだな……」
数秒考えた末、簪にコールする。すぐに出てくれたので助かるというものだ。
『掛かってくると思った。先鋒がやられたって聞いた。』
「緊急だ。俺のISが起動しなくなった。」
『冗談……を言うわけないか。本当に言ってる?』
「EOS、トラックに積んであるか?」
『えっと……リーパーの有人機みたいなのはあるけど……これ?』
「それだ!よく持ってきてくれたな。そいつをフォビドゥンのコアにする。」
『……え?絶対防御無かったよねこれ?』
「フォビドゥンならある程度無視できる。」
システムをEOSの調整用に変更して直ぐに作業を始める。リーパー用のシステムと基本OSは同じ。イオンのバックパック性能であれば……撃墜の可能性は限りなく低い。
『……成功するとして再試験できる保証はないなら、やらない主義だったよね。可能性はあるの?』
「現状で90%だ。5%を今からの調整で繰り上げる。」
「残りの5%は?」
「残っていた候補生と織斑先生、全員叩き起こせ。それで100%だ。ここに連れてこい、EOSの調整しながらブリーフィングだ。」