学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD ―Re:Build―   作:UG-san

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Ep.5-2 再会(後編)※

 胸の奥が強く脈打つ。

 

 こんな場所で、こんな場面で会うなんて思ってもいなかった。

 

 教室の奥。

 教材棚の陰へ身を縮めるように座り込み、必死に息を殺している。

 その姿は、俺が知っている美玖とはまるで違って見えた。

 

 誰かを睨み返すような強い目。

 少し近寄りがたい雰囲気。

 学校ですれ違っても、誰にも弱さを見せない。

 そんな印象しか残っていなかった。

 

 けれど今の彼女は違う。

 肩は小刻みに震え、制服の袖を強く握り締めている。

 きっと、ずっと一人だったんだ。

 そんな考えが頭をよぎる。

 だが、今は感傷に浸っている場合じゃない。

 

 教室の中には三体。

 正面から扉を開ければ、音に反応した連中と鉢合わせになる。

 俺は深く息を吐き、小窓から目を離した。

 

「どうだった?」

 

 陽向が耳元で尋ねる。

 

「生きてる人がいた。」

 

 二人の表情が少しだけ明るくなる。

 

「本当か。」

 

「ああ。」

 

 それだけ答えてから、言葉を続ける。

 

「でも助けるには少し考えないといけない。」

 

「他の奴らか。」

 

 隼人も小さく声を落とす。

 俺は頷いた。

 

「三体とも教室の中央にいる。」

 

「倒すしかないのか?」

 

 その言葉に、俺はすぐ首を横へ振った。

 

「無理だ。」

 

 自分でも驚くくらい、迷いなく答えていた。

 

「相手がどれだけ強いか分からない。」

「噛まれたらどうなるのかも分からない。」

「それに。」

 

 一度言葉を切る。

 校庭で見た教師の姿が頭に浮かぶ。

 噛まれ、倒れ。

 また立ち上がった教師。

 

「あいつらが元は人だったとしたら……。」

 

 その先は口にできなかった。

 俺にはまだ、人を殴る覚悟すらない。

 まして殺すなんて考えられない。

 陽向も隼人も黙って俺の話を聞いていた。

 反対しない。

 それだけで十分だった。

 

「だったら、どうする?」

 

 隼人が静かに尋ねる。

 俺は再び教室を見た。

 三体は元のように教室の中を歩き回っている。

 

 歩く。

 ぶつかる。

 立ち止まる。

 また歩く。

 さっき見た動きと何も変わらない。

 

 ……音。

 

 鍵になるのは、やっぱり音だ。

 扉に向かって消しゴムを投げた時。

 三体は一斉に音のした方を向いた。

 

 もし、もう少し大きな音なら。

 もっと長く引き付けられるんじゃないか。

 

 教室には前後二つの扉がある。

 俺たちは前側。

 さっき音を鳴らしたのは後方。

 なら。

 後方へ意識を向けさせている間に前側から救出する。

 単純だ。

 

 だけど、単純だからこそ失敗は許されない。

 タイミングを間違えれば、美玖を危険に晒すことに鳴る。

 俺は教室の配置を頭の中で思い浮かべた。

 

 扉。

 机。

 教材棚。

 三体の位置。

 美玖の位置。

 

 何度も線を引き直す。

 まるでじいちゃんの工房で、部品の組み付けを考えていた時のように。

 焦るな。

 急ぐな。

 失敗したらやり直せない。

 そう自分へ言い聞かせる。

 

「悠斗。」

 

 陽向が俺の肩を軽く叩いた。

 

「大丈夫か。」

 

「ああ。」

 

 俺は小さく頷いた。

 

「方法はある。」

 

 二人が俺を見る。

 

「戦わない。」

 

 その一言で十分だった。

 二人とも黙って続きを待つ。

 

「音で動くなら、それを利用する。」

 

 俺は後方の扉を指差した。

 

「もっと大きな音を向こうで作る。」

「奴らが反応して扉付近に集まる。」

「その間に前から助け出す。」

 

 陽向が小さく息を呑む。

 

「そんなこと……できるか?」

 

「分からない。」

 

 正直に答えた。

 

「でも今分かってることは一つだけだ。」

「あいつらは、音の出どころを追っている。」

 

 その時だった。

 教室の中から。

 

 ――ゴン。

 

 また鈍い音が響く。

 三体が同時にそちらへ向かう。

 その様子を見て、俺はゆっくり息を吐いた。

 やっぱりだ。

 この仮説は間違っていない。

 あとは。

 どうやって、もっと大きな音を作るかだった。

 

 どうやって音を作る。

 

 その一点だけを考えながら、俺は廊下を見回した。

 教室の壁際。

 そこに、掃除用具を立て掛ける金具がある。

 モップが一本だけ残されていた。

 柄は木製。

 先端には金具が付いている。

 俺は静かに近付き、ゆっくりと持ち上げた。

 

「それを使うのか?」

 

 隼人が囁く。

 

「ああ。」

 

 俺は後方扉を指差した。

「扉の窓枠、金属部分を叩く。ガラスを割らないように。」

「ガラスの割れる音は大きすぎる。」

「管理棟中に響くかもしれない。」

 

 陽向も小さく頷いた。

 

「教室の中だけに聞かせるってことか。」

 

「そう。」

 

 俺はモップの重さを確かめる。

 軽すぎず、重すぎない。

 正しい位置に当てれば、十分な音が出る。

 だが、一度きりだ。

 深く息を吸う。

 

 じいちゃんと一緒に木片を投げて遊んだ記憶がふと蘇る。

 狙う場所を決めたら迷うな。

 迷った投げ方は、必ずぶれる。

 俺は身体を半歩だけ引いた。

 そして。

 

 振り抜く。

 

 モップは静かな放物線を描き、教室後方扉のアルミ枠へ吸い込まれるように飛んだ。

 

 ――ガンッ!

 金属同士がぶつかる乾いた音。

 一拍遅れて、

 

 ――カラン……。

 モップが床へ倒れる音が続く。

 その瞬間だった。

 教室内の三体が、一斉に後方を向いた。

 迷いはない。

 全員が音の方へ歩き出す。

 その姿を見た瞬間、確信する。

 やはりだ。

 音を追っている。

 

「今だ。」

 

 俺は小さく呟き、扉へ手を掛けた。

 ゆっくり。

 僅かな音をたてて扉が開く。

 三体は振り返らない。

 俺は身体を滑り込ませた。

 教室の空気は重かった。

 

 血の匂い。

 鉄臭さ。

 倒れた机。

 そのすべてが、ここで何が起きたのかを物語っていた。

 

 足音を殺しながら、教材棚へ近付く。

 あと数歩。

 その時だった。

 教材棚の陰に隠れる彼女が顔を上げる。

 青ざめた表情。

 その視線が、まっすぐ俺へ向いた。

 一瞬だけ目が合う。

 俺は口元へ人差し指を当てる。

 

 ――静かに。

 声を出さないで。

 その仕草だけを送る。

 美玖は小さく息を呑み、こくりと頷いた。

 俺のことには、まだ気付いていないかもしれない。

 だが、それでいい。

 今は教室を出ることが先だ。

 

 俺はゆっくり手を差し出した。

 ためらいながらも、彼女の指先が俺の手へ触れる。

 

 冷たい。

 

 驚くほど冷え切っていた。

 ぎゅっと握り返す。

 その小さな震えが掌から伝わってくる。

 

 大丈夫。

 そう言いたかった。

 

 でも言葉は飲み込む。

 俺は頷くだけにした。

 美玖も小さく頷き返す。

 そのまま二人で扉へ向かう。

 一歩。

 また一歩。

 息を止めるように歩く。

 教室後方では、三体がモップが当たった扉の周囲を彷徨っていた。

 まだこちらには気付いていない。

 

 あと少し。

 あと数歩。

 扉へ手が届く。

 俺は静かに扉を押し開けた。

 彼女を先に廊下に押しやる。

 続いて俺も廊下へ出る。

 ゆっくり扉を閉める。

 

 カチリ。

 小さくラッチが収まる音だけが響いた。

 教室の奴らがこちらに反応した気配はない。

 誰も追ってこない。

 四人で顔を見合わせる。

 ようやく全員が息を吐いた。

 美玖は壁へ背中を預けるように座り込み、その場で肩を震わせた。

 泣くのを堪えるように唇を噛んでいる。

 その姿を見て、俺は初めて声を掛けた。

 

「……もう一人じゃない。」

 

 美玖がゆっくり顔を上げる。

 その瞳が、改めて俺の顔を映した。

 

 数秒。

 

 信じられないものを見るように見つめる。

 やがて、小さく目を見開いた。

 

「……悠斗?」

 

 あの頃より少し低くなった声。

 けれど、その呼び方は昔のままだった。

 

 俺は少しだけ笑った。

 

「久しぶり、美玖。」

 

 それは、あまりにも短い再会の言葉だった。

 けれど、その一言だけで十分だった。

 

 美玖の瞳から、一筋の涙が静かに零れ落ちた。

 

 

 

 




※ヒロインイメージ
 生成AIでこねこねしてたら出来ました。設定とか考えてたらいつの間にか物語に。
 原作とはイメージ変わってます。


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