学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD ―Re:Build― 作:UG-san
車の陰へ身を滑り込ませる。
朝露の残るボンネットが朝日を反射して眩しい。
海人は、腰を落として車体へ身を寄せている。
その姿を見て、俺たちも同じように体勢を低くした。
駐車場には教師の車が何台も並んでいる。
軽自動車。
セダン。
ワゴン車。
普段なら何気なく通り過ぎるだけの場所だった。
今は、その一台一台が命を守る壁になる。
海人が前方を確認する。
右手を軽く振る。
進む。
俺たちは一台分だけ移動する。
止まる。
また海人が確認する。
進む。
その繰り返しだった。
誰も焦らない。
急げば音が出る。
音を立てないよう、一歩ずつ。
確実に距離を縮めていく。
車列の隙間から校門が見えた。
もう少し。
本当に、もう少しだった。
海人が車の鼻先を回り込んだ瞬間。
車体の陰から、不意に制服姿の人影が立ち上がる。
直前まで誰も気付かなかった。
距離は一メートルもない。
その瞬間。
奴らの頭がゆっくりこちらへ向く。
「……ッ!」
海人が小さく息を呑む。
足音に反応したそいつが呻き声を漏らしながら腕を伸ばした。
考える時間は一瞬。
海人は一歩踏み込み、
金属バットを横薙ぎに振り抜く。
ゴッ!!
乾いた音。
奴らの頭が横へ弾け飛ぶように揺れた。
そのまま体が崩れる。
アスファルトへ倒れ込み、二度と動かなかった。
海人は倒れた奴らを一瞥するだけで、すぐ俺たちを振り返る。
「止まるな。」
小さく、それだけ言う。
俺たちはすぐ動き出した。
立ち止まっている時間はない。
陽向が海人の横を通り過ぎる時、小さく呟く。
「……やっぱ強ぇな。」
海人は肩をすくめただけだった。
「褒めるのは後でな。」
俺は海人の背中を見る。
海人はもう迷わない。
奴らを倒すことにも。
躊躇がない。
それが良いことなのか。
悪いことなのか。
まだ俺には分からない。
でも一つだけ確かなことがある。
今、この場で俺たち全員が生きているのは、間違いなく海人のおかげだった。
海人は再び先頭へ戻る。
その向こうには、校門が見えていた。
あと十数メートル。
背後、遠くから奴らのうめき声が聞こえてくる。
いつまでも奴らを引きつけらるわけじゃない。
あと数メートル。
最後の車を回り込む。
目の前には校門へ続く舗装路が真っ直ぐ伸びていた。
昨日まで、何度も歩いた道だ。
登校するときも。
放課後も。
部活へ向かう時も。
当たり前のように通っていた。
その道を今は、誰も声を出さず駆け抜けようとしている。
海人が校門の外を確認する。
左右へ素早く視線を走らせ、小さく頷いた。
「行ける。」
その一言で全員が動き出した。
海人。
陽菜。
俺。
美玖。
莉乃。
隼人。
陽向。
翼。
できるだけ足音を抑えながら、それでも一気に距離を詰める。
校門は開いたままだった。
門柱の脇を抜ける。
校門を越えた。
その瞬間、不思議なくらい胸の空気が軽くなった。
学校の外へ出た。
たったそれだけのことなのに、まるで長い牢屋から解放されたような気がした。
校門を抜けたところで、道路へ黒く残るタイヤ痕が目に入る。
急ブレーキを掛けながらハンドルを切ったような長いスリップ痕。
昨日の朝にはなかったと思う。
誰が残したものかはわからない。
でも、誰かが、この学校から脱出した跡だということはわかった。
海人がそのまま道路を少し進む。
俺たちも続いた。
学校から離れたところで、ようやく海人が立ち止まる。
「ここまで来れば。十分だな」
全員が立ち止まった。
誰もが肩で息をしている。
それでも、大きな物音を立てないよう必死に呼吸を整えていた。
俺は振り返る。
校舎は朝日に照らされ、静かにそこへ建っていた。
まるで何事も起きていない学校のように。
しばらく誰も話さない。
学校を見つめたまま立ち尽くす。
陽菜がぽつりと呟いた。
「……昨日まで普通だったのにね。」
誰へ向けた言葉でもなかった。
俺も自然と校門を見つめる。
昨日の今頃。
俺はあの坂を上ってきた。
制服姿で。
いつものように。
今日も授業があって。
昼になれば友達と昼飯を食べて。
放課後は祖父の店へ顔を出そう。
そんなことを考えながら歩いていた。
たった一日。
それだけしか経っていない。
それなのに。
もう、あの頃の世界はどこにも残っていなかった。
隣へ美玖が並ぶ。
何も言わない。
ただ、学校を見つめている。
その横顔はどこか寂しそうだった。
俺は静かに息を吐く。
「……行こう。」
学校へ背を向ける。
ここはもう、俺たちの居場所じゃない。
でも。
あの家庭科室で過ごした時間まで消えるわけじゃない。
葵たちは。
今もあそこにいる。
だからこそ、生きなきゃいけない。
また会うために。
学校においてきたのは荷物だけじゃない。
昨日までの日常そのものだった。
手の中の槍を握り直し、一歩踏み出す。
ここから先は、誰も答えを知らない。
どこへ向かえば安全なのか。
誰が生き残っているのか。
何が待っているのか。
何一つ分からない。
それでもーー。
立ち止まるわけにはいかなかった。
学校という最後の「日常」を背に、俺達は歩き始めた。
〜読者の方へ〜
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて第1章終了となります。
本作は、原作と違いなかなか銃器が出てきておりません。
本心としてはどんどん出していきたい一方、現実的にストーリーを考えると、出番はもう少し先になりそうです。
また、ここまでは各話前後編に分けていましたが、第2章からは基本的に各話1編となります。
これにより少しテンポが上がるかな?と思っています。
(各話の文章量に差があり、「今回は短いな」となることもあるかと思います。申し訳ありません。)
ここまで、仕事休みの合間で執筆しておりますが、10月半ばよりペースが落ちるかもしれません。
そうならないよう、プロット作成や書き溜め等進めておきたいと思いますので、今後もお付き合いいただければ幸いです。
自分自身楽しみながら進めていきたいと思います。
ゆっくりな進行ですが、今後も読んでいただけると書いている側としても励みになります。
(「ここはイマイチ」でも結構です。感想大歓迎です。)
改めまして、ここまでお読みいただきありがとうございます。