学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD ―Re:Build―   作:UG-san

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Ep.11-2 外の世界へ(後編)

 車の陰へ身を滑り込ませる。

 朝露の残るボンネットが朝日を反射して眩しい。

 

 海人は、腰を落として車体へ身を寄せている。

 その姿を見て、俺たちも同じように体勢を低くした。

 

 駐車場には教師の車が何台も並んでいる。

 

 軽自動車。

 セダン。

 ワゴン車。

 

 普段なら何気なく通り過ぎるだけの場所だった。

 今は、その一台一台が命を守る壁になる。

 

 海人が前方を確認する。

 右手を軽く振る。

 

 進む。

 

 俺たちは一台分だけ移動する。

 

 止まる。

 

 また海人が確認する。

 

 進む。

 

 その繰り返しだった。

 誰も焦らない。

 

 急げば音が出る。

 音を立てないよう、一歩ずつ。

 確実に距離を縮めていく。

 

 車列の隙間から校門が見えた。

 

 もう少し。

 本当に、もう少しだった。

 

 海人が車の鼻先を回り込んだ瞬間。

 車体の陰から、不意に制服姿の人影が立ち上がる。

 直前まで誰も気付かなかった。

 

 距離は一メートルもない。

 

 その瞬間。

 奴らの頭がゆっくりこちらへ向く。

 

 「……ッ!」

 

 海人が小さく息を呑む。

 

 足音に反応したそいつが呻き声を漏らしながら腕を伸ばした。

 

 考える時間は一瞬。

 

 海人は一歩踏み込み、

 金属バットを横薙ぎに振り抜く。

 

 ゴッ!!

 

 乾いた音。

 

 奴らの頭が横へ弾け飛ぶように揺れた。

 そのまま体が崩れる。

 アスファルトへ倒れ込み、二度と動かなかった。

 海人は倒れた奴らを一瞥するだけで、すぐ俺たちを振り返る。

 

「止まるな。」

 

 小さく、それだけ言う。

 

 俺たちはすぐ動き出した。

 立ち止まっている時間はない。

 陽向が海人の横を通り過ぎる時、小さく呟く。

 

「……やっぱ強ぇな。」

 

 海人は肩をすくめただけだった。

 

「褒めるのは後でな。」

 

 俺は海人の背中を見る。

 

 海人はもう迷わない。

 奴らを倒すことにも。

 躊躇がない。

 

 それが良いことなのか。

 悪いことなのか。

 まだ俺には分からない。

 

 でも一つだけ確かなことがある。

 今、この場で俺たち全員が生きているのは、間違いなく海人のおかげだった。

 

 海人は再び先頭へ戻る。

 その向こうには、校門が見えていた。

 

 あと十数メートル。

 背後、遠くから奴らのうめき声が聞こえてくる。

 いつまでも奴らを引きつけらるわけじゃない。 

 

 

 あと数メートル。

 最後の車を回り込む。

 

 

 目の前には校門へ続く舗装路が真っ直ぐ伸びていた。

 

 昨日まで、何度も歩いた道だ。

 

 登校するときも。

 放課後も。

 部活へ向かう時も。

 当たり前のように通っていた。

 

 その道を今は、誰も声を出さず駆け抜けようとしている。

 海人が校門の外を確認する。

 左右へ素早く視線を走らせ、小さく頷いた。

 

「行ける。」

 

 その一言で全員が動き出した。

 海人。

 陽菜。

 俺。

 美玖。

 莉乃。

 隼人。

 陽向。

 翼。

 

 できるだけ足音を抑えながら、それでも一気に距離を詰める。

 

 校門は開いたままだった。

 門柱の脇を抜ける。

 

 

 校門を越えた。

 その瞬間、不思議なくらい胸の空気が軽くなった。

 

 

 学校の外へ出た。

 たったそれだけのことなのに、まるで長い牢屋から解放されたような気がした。

 

 校門を抜けたところで、道路へ黒く残るタイヤ痕が目に入る。

 急ブレーキを掛けながらハンドルを切ったような長いスリップ痕。

 昨日の朝にはなかったと思う。

 

 誰が残したものかはわからない。

 でも、誰かが、この学校から脱出した跡だということはわかった。 

 

 

 海人がそのまま道路を少し進む。

 俺たちも続いた。

 学校から離れたところで、ようやく海人が立ち止まる。

 

「ここまで来れば。十分だな」

 

 全員が立ち止まった。

 誰もが肩で息をしている。

 それでも、大きな物音を立てないよう必死に呼吸を整えていた。

 

 俺は振り返る。

 校舎は朝日に照らされ、静かにそこへ建っていた。

 まるで何事も起きていない学校のように。

 

 

 しばらく誰も話さない。

 学校を見つめたまま立ち尽くす。

 

 陽菜がぽつりと呟いた。

 

「……昨日まで普通だったのにね。」

 

 誰へ向けた言葉でもなかった。

 俺も自然と校門を見つめる。

 

 昨日の今頃。

 俺はあの坂を上ってきた。

 

 制服姿で。

 いつものように。

 

 今日も授業があって。

 昼になれば友達と昼飯を食べて。

 放課後は祖父の店へ顔を出そう。

 そんなことを考えながら歩いていた。

 

 たった一日。

 それだけしか経っていない。

 それなのに。

 

 もう、あの頃の世界はどこにも残っていなかった。

 

 隣へ美玖が並ぶ。

 何も言わない。

 

 ただ、学校を見つめている。

 その横顔はどこか寂しそうだった。

 俺は静かに息を吐く。

 

「……行こう。」

 

 学校へ背を向ける。

 

 ここはもう、俺たちの居場所じゃない。

 でも。

 あの家庭科室で過ごした時間まで消えるわけじゃない。

 

 葵たちは。

 今もあそこにいる。

 だからこそ、生きなきゃいけない。

 また会うために。

 

 学校においてきたのは荷物だけじゃない。

 昨日までの日常そのものだった。

 

 手の中の槍を握り直し、一歩踏み出す。

 

 

 ここから先は、誰も答えを知らない。

 

 どこへ向かえば安全なのか。

 誰が生き残っているのか。

 何が待っているのか。

 

 何一つ分からない。

 それでもーー。

 立ち止まるわけにはいかなかった。

 

 

 学校という最後の「日常」を背に、俺達は歩き始めた。




〜読者の方へ〜

ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて第1章終了となります。

本作は、原作と違いなかなか銃器が出てきておりません。
本心としてはどんどん出していきたい一方、現実的にストーリーを考えると、出番はもう少し先になりそうです。

また、ここまでは各話前後編に分けていましたが、第2章からは基本的に各話1編となります。
これにより少しテンポが上がるかな?と思っています。
(各話の文章量に差があり、「今回は短いな」となることもあるかと思います。申し訳ありません。)

ここまで、仕事休みの合間で執筆しておりますが、10月半ばよりペースが落ちるかもしれません。
そうならないよう、プロット作成や書き溜め等進めておきたいと思いますので、今後もお付き合いいただければ幸いです。
自分自身楽しみながら進めていきたいと思います。

ゆっくりな進行ですが、今後も読んでいただけると書いている側としても励みになります。
(「ここはイマイチ」でも結構です。感想大歓迎です。)

改めまして、ここまでお読みいただきありがとうございます。
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