学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD ―Re:Build―   作:UG-san

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Ep.2-2 籠城(後編)

 足音が聞こえなくなってからもしばらく、誰も口を開かなかった。

 全員が扉越しに階段の方を見ている。

 

 今のは何だったのか。

 

 生存者だったのか。

 それとも別の何かなのか。

 

 結局、誰にも分からない。

 確認しようという意見も出なかった。

 今はそんな余裕はない。

 ようやく辿り着いた避難場所を失う方が怖かった。

 

「……とりあえず中を見よう」

 

 俺がそう言うと、皆もようやく動き出した。

 

 家庭科室の中は思っていたより広かった。

 

 調理台。

 流し台。

 棚。

 冷蔵庫。

 調理器具。

 

 普段なら何とも思わない光景が、今は妙に頼もしく見える。

 

 数人で手分けして確認を始めた。

 

 棚を開ける。

 引き出しを調べる。

 冷蔵庫を確認する。

 

 その結果は――。

 

「思ったより少ないな」

 

 隼人が呟いた。

 俺も同意だった。

 

 小麦粉。

 塩。

 砂糖。

 乾物。

 調味料。

 実習用に残っていた食材が少し。

 

 確かに何もないわけではない。

 だが安心できる量でもなかった。

 

「何日分くらいだ?」

 

「ここにいる全員なら三日くらいかな。」

 

「そんなに持つか?」

 

「……分からない」

 

 誰の声にも自信がない。

 当然だった。

 

 助けが今日来るなら十分だ。

 明日の夕方でも問題ない。

 だが来なかったら。

 その先を考えると誰も口を閉ざした。

 

 家庭科室の窓際では女子生徒たちがカーテンを閉めている。

 

 外から人影が見えないように。

 少しでも安心するために。

 

 男子は机を動かしていた。

 出入口を塞ぐためだ。

 

 誰かが指示した訳じゃない。

 それでも自然と役割が生まれていた。

 

 皆、何かをしていなければ怖かった。

 

「助けって来るよな」

 

 誰かがぽつりと言った。

 沈黙。

 

「来るだろ」

 

 別の誰かが答える。

 

「学校だし」

 

 だがその声に力はなかった。

 

 皆分かっている。

 願望だ。

 根拠はない。

 

「待ってればいいんじゃないか?」

 

 男子生徒の一人が言う。

 

「ここに籠もってさ」

 

 何人かが頷いた。

 自然な発想だった。

 

 実際、安全そうに見える。

 水もある。

 扉も少ない。

 今のところ奴らもいない。

 だが。

 

「食料が足りない」

 

 俺は言った。

 

「それに他の部屋に使える物があるかもしれない」

 

「探索するのか?」

 

「管理棟の同じ階だけ」

 

 即答した。

 

 下へ行くつもりはなかった。

 今の状況で階段を使うのは危険すぎる。

 

「三階の工作室とかは?」

 

 男子の一人が言う。

 

 俺も少しだけ考えた。

 

 階段を下った先の工作室。

 工具がある。

 材料もある。

 じいちゃんの店で育ったせいか、そういう場所には自然と目が向く。

 使えるものもあるだろう。

 だが。

 

「今は、行かない」

 

 首を振る。

 

「階段を使うことになる」

 

 それだけで十分な理由だった。

 階下に何がいるか分からない。

 危険を犯す必要はない。

 

 結局、全員が納得した。

 探索は管理棟の四階限定。

 家庭科室を拠点にする。

 まずはそれだった。

 

 十分ほど後。

 

 探索組、残留組数人ずつに分かれて探索を始める。

 俺は陽向と隼人を連れて廊下へ出た。

 

 静かだった。

 驚くほどに。

 

 自分たちの靴音だけが響く。

 

 窓から差し込む昼の光。

 整然と並ぶ扉。

 人気のない廊下。

 

 つい一時間前まで普通の学校だったとは思えない。

 

 いや。

 見た目だけなら今も変わらない。

 だからこそ不気味だった。

 

 遠くから悲鳴が聞こえる。

 それが現実だと思い出させてくる。

 

「嫌な感じだな」

 

 陽向が小さく言う。

 

「分かる」

 

 俺も頷いた。

 

 静かすぎる。

 静かな場所ほど怖い。

 何がいるのか分からないからだ。

 

 音楽室。

 準備室。

 空き教室。

 

 順番に確認していく。

 

 どこも無人だった。

 だが人がいなかったわけではない。

 途中までいた痕跡は残っている。

 

 机の上に置かれたままのスマホ。

 開きっぱなしの鞄。

 落ちた教科書。

 飲みかけのペットボトル。

 

 逃げたのだろう。

 慌てて。

 何も持たずに。

 

 その光景が妙に生々しかった。

 

 やがて中央階段付近まで来る。

 自然と足が止まる。

 階下から音が聞こえたからだ。

 

 ガタン。

 

 何かが倒れる音。

 続いて走る足音。

 悲鳴。

 

 そして。

 

 何かを引きずるような音。

 

 全員の顔が強張る。

 陽向が階段の方を見た。

 

「見てみるか?」

 

 半分冗談のような声だった。

 

「やめろ」

 

 即座に隼人が止める。

 俺も同意だった。

 見たい気持ちはある。

 だが危険だ。

 好奇心で死ぬのはごめんだった。

 

 しばらく耳を澄ます。

 だが音は遠ざかっていった。

 

 二階か。

 一階か。

 分からない。

 

 ただ一つだけ確かなことがある。

 下は危険だ。

 

 俺たちは無言でその場を離れた。

 

 探索を続ける。

 廊下の奥へ。

 そして。

 

 ゴン。

 

 音がした。

 

 全員が振り向く。

 音は近い。

 四階の空き教室の一室。

 閉じられた扉の向こうからだった。

 誰も喋らない。

 

 ゴン。

 

 もう一度。

 確かに聞こえた。

 

 中に誰かいる。

 生存者か。

 奴らか。

 

 分からない。

 

 俺はゆっくり扉へ近付く。

 

 鼓動が速い。

 

 陽向も。

 隼人も。

 そして俺も。

 息を潜めている。

 

 声を掛けるべきか。

 それとも開けるべきか。

 

 迷いながらドアの前へ立つ。

 そして耳を澄ませた。

 扉の向こうにも、誰かがいる気配がした。

 

 そこで音は止まった。

 まるでこちらの存在に気付いたように。

 俺は静かに息を吸う。

 そして――。

 

「……誰かいるのか?」

 

 ささやき声で扉越しに問い掛けた。

 

 返事はない。

 

 ただ沈黙だけが返ってくる。

 

 だが俺は確信していた。

 この部屋には誰かいる。

 

 扉の向こうにいるのは誰なのか。

 生存者なのか。

 それとも——。

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