学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD ―Re:Build―   作:UG-san

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Ep.3-2 居場所(後編)

 校内放送は途中で悲鳴に変わった。

 

 誰かの絶叫。

 何かが倒れる音。

 そして突然の沈黙。

 

 教室全体が凍り付く。

 

 何が起きたのか分からない。

 誰も理解できない。

 だからこそ恐怖だけが広がっていく。

 静寂は数秒だった。

 

 次の瞬間には誰かが立ち上がり、誰かが叫び、教室全体が混乱に飲み込まれた。

 

「逃げろ!」

「何があったんだよ!」

「先生は!?」

 

 机が倒れる。

 椅子がぶつかる。

 生徒たちが出口へ殺到する。

 悲鳴が重なる。

 

 私は立ち上がった。

 

 状況は分からない。

 でも。

 ここにいてはいけない。

 その直感だけはあった。

 

 鞄を掴む。

 周囲の流れに乗るように教室を出た。

 

 廊下も混乱していた。

 生徒たちが走っている。

 泣いている者もいる。

 教師を探している者もいる。

 何が起きているのか尋ね合う声も聞こえた。

 だが答えを持っている人はいない。

 皆が不安と恐怖の中を動いている。

 私も同じだった。

 

 その時。

 

「美玖!」

 

 聞き慣れた声がした。

 振り向く。

 神崎だった。

 その後ろには仲間が二人いる。

 どちらも見覚えがあった。

 

「神崎……」

 

「何やってんだよ!」

 

 いつもの乱暴な口調。

 けれどその顔には余裕がなかった。

 

「こっち来い!」

 

「何が起きてるの?」

 

「知らねぇよ!」

 

 神崎は苛立ったように答える。

 だがすぐに周囲を見回した。

 

「でもヤバいのは分かる」

 

 その声は真剣だった。

 

 私は少しだけ迷う。

 

 決して一緒にいたいわけじゃない。

 それでも、一人よりはましだった。

 

 周囲ではまだ悲鳴が聞こえている。

 何が起きているのか分からない。

 そんな状況で一人になれるほど強くはなかった。

 

「行くぞ」

 

 神崎が先頭に立つ。

 私も後を追った。

 

 教室棟の廊下を走る。

 

 逃げ惑う生徒たちと何度もすれ違う。

 泣きながら友人の名前を呼ぶ女子生徒。

 携帯を握ったまま立ち尽くす男子生徒。

 教師を探している者。

 階段へ向かう者。

 

 皆が違う方向へ動いている。

 校舎全体が混乱していた。

 

 やがて渡り廊下へ出る。

 

 校庭が見えた。

 

 遠くで誰かが走っている。

 誰かが倒れている。

 何かが起きていることだけは分かる。

 だが何が起きているのかは分からない。

 知りたくもなかった。

 

 渡り廊下を抜ける。

 

 管理棟。

 そこは教室棟より静かだった。

 不気味なほどに。

 遠くから悲鳴だけが聞こえてくる。

 その静寂が逆に恐ろしかった。

 

 その時。

 

 どこかでガラスが割れる音が響いた。

 全員が足を止める。

 音は遠い。

 

 階下かもしれない。

 別の棟かもしれない。

 誰にも分からない。

 

 だが確認へ向かう者はいなかった。

 神崎が短く言う。

 

「こっちだ」

 

 四階の廊下を進む。

 音楽室。

 準備室。

 空き教室。

 閉まった扉が並ぶ。

 どの部屋も静まり返っていた。

 人の気配はない。

 まるで学校から人が消えてしまったようだった。

 

 神崎たちは空き教室の一室へ飛び込む。

 私も続いた。

 扉を閉める。

 鍵を掛ける。

 

 ようやく少しだけ息がつけた。

 

「……なんなんだよ」

 

 仲間の一人が呟く。

 誰も答えない。

 答えを持っていないからだ。

 

 教室の窓から外を見る。

 

 遠くで人が走っている。

 校庭にも人影が見える。

 だが距離が遠い。

 何が起きているのかまでは分からない。

 

 神崎は窓際に立ったまま舌打ちした。

 

「警察来るよな」

 

 仲間の一人が言う。

 

「来るだろ」

 

 神崎も頷く。

 だがその声には確信がなかった。

 

 私は携帯電話を取り出した。

 父の名前を見る。

 連絡先は残っている。

 だが指は止まった。

 

 電話を掛けるべきなのか。

 今さら何を話せばいいのか分からなかった。

 迷っているうちに画面が暗くなる。

 

 結局そのまま携帯を閉じた。

 神崎がこちらを見る。

 

「家族か?」

 

「……別に」

 

 短く答える。

 

 神崎はそれ以上聞いてこなかった。

 

 少し意外だった。

 

 普段ならもっと踏み込んでくる。

 だが今はそんな余裕もないのだろう。

 

 廊下を誰かが走り抜ける音が聞こえる。

 時間が過ぎる。

 十分。

 二十分。

 実際にはそれほど経っていないのかもしれない。

 それでも長く感じた。

 

 誰も笑わない。

 誰も冗談を言わない。

 不安だけが教室に溜まっていく。

 

 外から悲鳴が聞こえる。

 どこかで扉が閉まる音。

 何かを引きずるような音。

 校舎全体から異様な気配が漂っていた。

 

「なあ」

 

 神崎が小さく言う。

 

「助け来ると思うか?」

 

 誰も答えない。

 皆が同じことを考えていた。

 

 助けは来るのか。

 帰れるのか。

 今日の夕方には終わるのか。

 

 誰にも分からない。

 その不安が、少しずつ空気を変えていく。

 

 神崎たちも同じだった。

 さっきまでの余裕はない。

 

 神崎は何度も舌打ちを繰り返していた。

 落ち着きなく教室を歩き回る。

 その姿は、私が知っている神崎とは少し違って見えた。

 

 焦り。

 苛立ち。

 恐怖。

 

 それらが少しずつ表に出始めていた。

 

 私はそれを感じ取っていた。

 

 だが。

 

 まだこの時は気付いていなかった。

 

 この教室が。

 私にとって、最も恐ろしい場所になることを。

 

 

 そして——

 

「帰る場所なんてない」

 

 そう思っていた私が、“本当の居場所”を見つけることになるとは。

 まだ知らなかった。

 

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