―唐突な終幕―
ある日の酒の席。再びダンダンと酒を交わす。
「そういや、最近あの話を聞かないな?」
「あの話?」
「ほら、死体が笑うっていうやつ」
「ああ、あれなら解決したよ」
「え!? いつの間に。冒険者達の情報網でも、何も入ってきてないぞ」
「ああ、色々と表には出せない話でな…」
前置きしつつ、俺はゆっくりと真相を語り始める。
「死体を改めて調べると、妙なことに気づいた。二人の男女組の持ち物だ」
「たしか地図が水浸しだったってやつだろ?やっぱり人魚か?」
「あの地図はマッピングが途中だったが、この手の冒険者はそもそも未開拓ルートを積極的に探索しない。比較的安全なルートで活動するから、既に完成された地図を用意するか、そもそもマッピングはそこまでしない」
「たしかに、危険を冒してまで、ってタイプには見えないな」
「ああ。ただしこういうタイプはある程度実力もある。安全圏で稼げるってのはそれなりに知識や経験がないとできない。そこで改めて気になったのは、もう一つの手荷物だ」
「…緊急信号か?」
「そう。持っていてもおかしいとまでは言わないが、ド新人でもないこの二人が割高なこれを掴まれて所持しているのはチグハグだ。持っているだけで舐められるしな」
エールを一口飲む。
心地よい苦みが口内に広がる。
「一方で、蘇生させたパーティの方にも気になるところがあった。あいつらの証言はあやふやななのに、一致しているところが多いんだ」
「というと?」
「何かを隠しているように聞こえた。記憶がないとごまかしつつ、みな3階以降でやられたというストーリーにしたがっているように感じた」
「そうか!やつらは低階層で全滅した事実を伏せたかった。自分たちの評判が下がることを恐れて。それで自然と下の階層の未知の脅威に襲われたような物言いになったということか」
ある程度名のあるパーティーなら、自分たちの評判は無視できない。
不要なトラブルを避けることや依頼を得ることにもつながるからだ。
「そう。そこで俺は再び聞き取りをしてみた。パーティーの中で、一番口の軽くて気が弱そうなやつを単独でな。口外しない限りに、話してくれたよ」
「どうせ脅したんだろ?表も裏も知ってるお前が何をしたかは考えたくないな」
ダンダンは魚の切り身を口に運ぶ。
「実際は、異変は2階で起きていた。あいつらは野営地で休んでいた時、徐々に気分が愉快になっていって、みな笑い出していったらしい。これはおかしいと気づいた頃には、体の自由は利かなくなっていって、意識を失った。最後に見た光景には歩き茸がいたらしい」
「歩き茸の胞子か!?」
「ああ。歩き茸にやられたなんて言えないからな。それでうその証言を混ぜたんだろう」
「でも人をそこまで異常状態にさせるのは大型だろ。低階層で大歩き茸が出たなんて目撃情報は聞いたことがないぜ」
「ああ。そこで歩き茸という点を意識しながら、低階層の調査をさらに進めた」
「どうだった?」
「鍵は地図だった。男女コンビの方が持っていた地図は書きかけではなく、ある場所への道を示していた。ぱっと見ではわからないように細工がされていたけどな。通常のルートから外れた城の尖塔の一つ。樹木で防がれていたが、人が通れる隙間が窓にあった」
少し気まずそうに一拍置き、話を続ける。
「今思えばちょっと警戒が足りていなかったな。結果オーライで、その時中には人はいなかった。そのまま階下に直通しているような構造になっていて、地下3階くらいから4階くらいに相当するところまで降りたところで、少し開けた場所に出た。そこには上手い事作られた水場と大型の歩き茸が狭い階段や隙間にうまい事はまったまま育てられていたんだ」
「歩き茸の養殖?」
「それも新種だ。あとから分かったが、その歩き茸の胞子を吸い込むと、笑いが止まらなくなってしまうんだ。その時は俺はすぐに戻り、改めて根回しした後に護衛と再調査をして証拠を含め回収したわけだ」
「商売がらみだったわけだ」
「ああ。裏島主も絡んだ、新しいビジネスだった。ここでドラッグを製造していたんだ。新種の歩き茸の胞子から材料を作り、カーカブルドーに運び、ドラッグを製造・販売していた。男女二人のコンビは、ドラッグ製造の手伝いや販売に関わっていて、その最中に事故に近い形で、胞子にやられ水のみ場に落ちたらしい。ドラッグ製造に関わる一味がそれを発見し、2階付近に捨て置いたというのが顛末だ。」
連中も、この二人だけなら笑い顔の死体であっても、誰も不審がらないと思ったのだろう。
しかし実際は同じ時期に何件も同じ事件が起きてしまったわけだ。
「おいおい、随分な大事になっちまってるが、そんなところに手を突っ込んでしまって大丈夫か?」
「まぁ…表と裏のバランスの結果、事なきを得たってとこだな。実際、新種の歩き茸はコントロール仕切れていないし、養殖エリア外へも逃げ出し冒険者を殺している。やつらにしても、ビジネスが明るみになるのは避けたい。研究も栽培も他のところで続けられそうってことで、その場所は焼き払い、島での養殖はしない方向で話はまとまった」
「ドラッグ自体は続くんだな」
「しばらくは研究も製造も止まるだろうけど、その先はどうなるかね。まぁ俺も両島主も、迷宮と冒険者達が通常のサイクルにあることが第一だからな。本業が成り立たないと元も子もない」
「ならひとまずの解決を祝して、改めて乾杯だ」
グラスを軽く上にあげる。
また一つ公にはできない話を、酒と共に呑み込む。
丁度、注文していたお任せ料理がテーブルに置かれる。
木の皿に盛られたのは、「キノコと胡椒の冷燻盛り」だ。
森で採れた数種の茸が低温でゆるやかに燻され、しっとりとした香気をまとっている。
粒のまま散らされた黒胡椒は銀光を帯び、舌に微かな痺れと森の記憶を残す。
一口ごとに、森の深部と静かな焚き火の余韻が口内にひろがり——旅人の舌を慰めるような、静かな味付けだった。