W杯優勝したからカスじゃないカス   作:W杯で優勝するために雇われなかった男

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 今更ながら頑張れ日本


W杯優勝したからカスじゃないカス

 

 ベスト16と聞いて、あなたはどう思うだろうか。

 

 十分良い成績? 

 何とも言えない微妙な成績? 

 優勝以外は無価値、論外だと答える人もいるだろう。

 

 ベスト16。

 

 それがサッカーワールドカップ──4年に一度開かれる、フットボールの世界一を決める祭典における日本の過去最高成績。

 8強より先に進んだことは、一度としてない。

 

 日本は確かに強くなった。

 今やW杯出場常連国になり、チームプレイや組織力は世界随一といっていいだろう。

 評価はされている。成長はしている。

 だが、それでも。

 

 

『日本がワールドカップを優勝することはない』

 

 

 何度も挑んだ。

 今回こそはと意気込み、期待されて、しかしその度に敗れ、散っていった。

 阻むのは、世界の壁。

 いくら自分たちのサッカーをしても、徹底したパスサッカーを磨き貫いても、あと一歩が届かない。

 

 悔しかった。

 負けては涙を流し、「よくやった」「頑張った」「感動をありがとう」と自分達を慰めた。

 そして次こそはと決意を新たにしては、次の四年後を目指す。

 同じことの繰り返し。

 

 ──本当に、この国は世界一になれるのか。

 

 誰もが心の奥ではそう感じていた。

 いくら頑張ったところで、報われる日は来るのかと。

 このまま何も変わらないのではないかという疑念に押し潰されそうになりながら、ただ次の機会へ向けて直向きに前を向く。

 

 そして迎えた2018年ワールドカップ。

 この大会で日本は過去の最高成績に並ぶベスト16に進出。

 次の試合で勝利すれば、史上初となるベスト8。

 かつて届かなかった世界8強の壁を破れるかどうかという正念場。

 日本中の誰もが勝利を信じ、しかし一方でやはり不可能ではとも感じていた。

 

 日本のサッカーは通用しないのでは。

 いくらパスを繋ぎ、全員で走って守ったところで勝てるのか。

 またしても世界の壁を突破できず、ここで敗退してしまうのでは、と。

 

 

 ──1人の英雄が、それを覆すまでは。

 

 

 

 2018年、ワールドカップ決勝戦。

 出場32カ国からなる熾烈なノックアウト・トーナメントを勝ち抜き、駒を進めた2つの国のチーム。

 一つは欧州の強豪、フランス。

 そしてもう一つは──()()

 

 誰も優勝候補とは見做していなかった国の快進撃は、世界中を驚かせた。

 

 かつて不可能と笑われていた夢は──いま、現実になろうとしている。

 

 その原動力となったのは、一人のプレイヤー。

 昨年行われた20歳以下の若手有望選手が集まる国際大会、U-20W杯で日本のエースを務め、更に優勝まで導いた若き英雄。

 その活躍から10代の若さでA代表に選出された彼はいま、日本サッカーの歴史を覆そうとしていた。

 

 8万人の大観衆が固唾を飲んで見つめる中、試合が動いたのはお互い無得点のまま迎えた後半アディショナルタイム。

 

『止めた──!! キーパー渾身のスーパーセーブっ!!』

 

 自陣に食い込んだ敵チームの鋭い攻撃、それを凌いだキーパーの魂のセーブ。そこから展開される速攻反撃。

 これが、今大会のラストプレーになるだろう。

 

『さぁ、ボールを繋いでいく日本。恐らくこれが最後の攻撃!』

 

 土壇場で味方からパスを受けたのは、チームの絶対的エース。

 今大会最多の得点を誇るストライカーに運命は託された。

 

 しかし敵も黙ってはいない。

 遠目でも絶対に点を渡さないという気迫を感じさせるDF陣の防壁を、しかし鮮やかに、芸術的なボール捌きで抜いていく。

 

 そして遂にペナルティエリア圏内に侵入し、キーパーと一対ー。

 いや、違う。後ろから抜けてきた味方が、ほぼフリーの状態で1人。

 

 パスを出せば一点の場面。

 それもただの一点ではない。この大会の優勝を決める値千金の得点。

 

 ここまで勝ち上がってきたという自負。

 のしかかる国民の期待と祈り。

 初優勝という悲願を前にして、余人には想像することすら困難な重圧の中で。

 

 その若きストライカーは、一切の迷いなく右脚を振り抜いた。

 

 そして──

 

 

『決まった──!! 日本、後半AT! 決めたのはやはりこの男!!』

 

 

 ボールがゴールネットを揺らした。

 一泊遅れて、スタジアムが大歓声に包まれる。

 

『そしてここでホイッスル! 日本、悲願のW杯初優勝──っ!!』

 

 その日、世界中のサッカーファンが目撃した。

 世界でフットボールが最も熱くなる舞台で、誰にも優勝を信じられていなかったアジアの島国が起こした奇跡を。

 不可能が可能へと裏返る瞬間を。

 

 日本サッカー界に革命を起こした、英雄の誕生を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分が日の丸を背負ってプレーすることは2度と無いと思います」

 

 ──国中が熱狂に包まれる中で告げられた、救世主の宣言を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

 知らず、自分の喉から声が漏れ出た。

 

 あの日本のワールドカップ優勝がかかった試合を、帝襟アンリは自宅のテレビで観戦していた。

 日本の優勝は彼女にとっても夢だ。

 なんならその悲願達成のために日本サッカー連盟に今年入ったのだから。

 

 そしてその願いは、彼女の予想より遥かに達成された。

 決勝ゴールの瞬間は絶叫した。優勝した瞬間も絶叫した。涙が止まらなかった。

 嬉しかった。心から感動した。きっと、あの試合を忘れることは死ぬまでないだろうと思える素晴らしい一戦だった。

 

 

 そして一夜明け、興奮が冷めぬまま大会現地のホテルで行われた日本代表の初優勝に対する記者会見。

 会場に集まった報道陣のお目当ては、やはり決勝点を決めた背番号10番。

 

 雉間 八咫郎(きじま やたろう)

 日本ワールドカップ初優勝の立役者。最新の英雄。

 18という若さで日本サッカー界に永遠に刻まれる偉業を成し遂げた救世主。今後の日本サッカーを背負っていく象徴になった男。

 世界が求めた、稀代のストライカー。

 得点の瞬間にはSNSで彼の名前が世界的なトレンドになり、一夜にして彼を知らない者はいなくなった。

 

『次回のワールドカップでの優勝も期待していいんでしょうか!?』

 

 画面の向こうでは某新聞社所属の記者の質問に、会場がにわかに騒ついた。

 ワールドカップ連覇。

 そこから始まる、日本サッカー界の真の黄金時代。

 

 眩いほど焚かれたフラッシュを浴びる英雄が何を答えるのかと、彼の次の一言に注目が集まる。

 

 英雄はマイクに口を近づけ──

 

 

 

「次回というか……

 

 

 自分が日の丸を背負ってプレーすることは2度とないと思います」

 

 

 

 だから告げられたその一言に、誰もが言葉を失った。

 会場に集まった記者やカメラマン。同じ時間を過ごしたチームメイトや監督すら。

 

 お祭りムードだった空気が、一転して凍りつく。

 

 何故、どうして。

 よりによってこのタイミングで。

 

『な、なぜでしょうか……?』

 

 誰もが閉口する中、震える声をかろうじて言葉にして尋ねた記者の問いに、

 

「……答えたくありません」

 

 英雄は、何も答えなかった。

 混乱した空気のまま会見は終わり、そうしてワールドカップ二連覇という夢は、始まる前に終わりを迎える──

 

 

 

 ブーッ、ブーッ、ブーッ! 

 

「え、あっ、電話!」

 

 耳を疑う衝撃的な会見からアンリが我を取り戻したのは、邪魔になるからとマナーモードにしていた電話が鳴ってからだった。

 慌てて取り出し、着信相手を確認。

 かけてきたのは、同じ目的のために協力を打診していた男だった。

 

「え、絵心さん! 会見見ましたか!? ブルーロックは「計画変更だ、アンリちゃん」……へ?」

 

 アンリが彼と協力して密かに進めていた計画。

 それは日本がワールドカップ初優勝するために世界一のストライカーを生み出すための計画、青い監獄(ブルーロック)

 そのための最重要コーチであるのが、絵心甚八。

 彼が提唱する「世界一のストライカーは、世界一のエゴイストでなければならない」という理論のもと、本気でW杯優勝するための構想を練っていたのだ。

 しかしその前に日本が優勝するという嬉しい誤算が生じ、計画そのものが不要になるのではと思っていた。

 そこに先ほどの会見。

 もう何が何やらで、アンリ1人では処理しきれないところだった。

 

「変更、ですか?」

『あぁ。とはいえ世界一のストライカーを生み出す、そこに変わりはない』

「じゃあ何を……?」

 

 とりあえず計画は続行するらしい。

 努力が無駄にならなかった事実に安心しつつも、不安もある。

 この計画の目的地は何処に向かうのか。

 

 

『目標の具体化だ。ブルーロックの最終目標は──

 

 

 ──雉間八咫郎を超えるエゴイストを作ることだ』

 

「雉間八咫郎を、超える……」

 

 ごくり、と喉がなる。

 世界王者となった日本、その最大の要因たる絶対的エース。

 ブルーロックは、彼を超えるということをゴールにした計画へと生まれ変わるという。

 

『何故ヤツが代表を辞めたか分かるか?』

「え? 会見では何も……」

『ファックオフ。少しは脳みそ使って考えろバカ巨乳』

「バカ巨乳!?」

『質問を変えるぞ。何故日本は王者になれた?』

 

 それは、考えるまでもないだろう。

 日本イレブンが全員一丸となって戦ったこと。応援し、彼らを支えた人々の存在。

 そして何より、

 

「彼が、雉間八咫郎がいたからですか?」

『そうだ。日本に足りなかった最後のピース、絶対的なFW。ヤツの存在が最大の理由だ。

 

 逆に言えば、奴がいなければ優勝はあり得なかった』

 

 それはきっと、事実だろう。

 もし彼がいなければ、この結果はなかった。

 優勝どころかまた8強の壁の前に立ち尽くし、涙を飲むことになっていたかもしれない。

 

『そして奴が代表に戻ることがなくなった以上、日本はまた以前に逆戻りだ。連覇はおろか、もう一度王座につくこともない』

「……っ」

 

 これも事実なのだろう。

 ワールドカップで彼の活躍を目にしたからこそ理解できる。

 この国であれ以上の選手が今後出てくる、その光景が彼女にはどうしても想像出来ない。

 

『だが、奴がいたままでは日本のサッカーは奴1人に依存する。それを脱却するために奴は辞退した』

 

 自分がいなければ勝てないようなチームに未来などない。

 そう憂いたからこその、あの衝撃的な一言があった。

 

 

『奴は、雉間八咫郎は自分を超えるストライカーの出現を待っている』

 

 

 世界最高峰の舞台で魅せた圧巻のパフォーマンス。

 あの神懸かったストライカーをさらに超える存在。

 そんな世界の超一流たちすら超えた奇跡を、自分たちで生み出さなければならない。

 でなければ──この国のサッカーに、未来はない。

 

 

『連合の銭ゲバ共に伝えな。もう一度優勝フィーバーで儲けたければ──

 

 

 ──俺に、ブルーロックに投資しろとな』

 

 

 こうして青い監獄は始動する。

 世界一を目指すという目標は変わらぬまま、目標をより鮮明にして生まれ変わった。

 若き才能をぶつけ合い、たった1人の英雄を作り出すイかれた計画が。

 

 全ては四年後、もう一度あのW杯決勝の舞台で勝つために──! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Q.ワールドカップ優勝したから代表辞めていいですか? 

 A.ダメみたいですね……

 

 ワールドカップ優勝した次の日。

 人で鮨詰めになった記者会見の会場。

 激マブフラッシュで目が痛くなる中で「もう代表やーめた! 二度とやんねー!」って言ったら一気にお通夜みたいな空気になった件について。

 

 違うねん、俺にも言い分があんねん。

 まず、俺はそもそもFWというポジションがあんまり好きじゃない。目立つし、点取らないと負けた時に戦犯扱いされるから。そんなことになったら確実にメンタル病む自信がある。

 だから俺みたいな休み時間に教室の隅でひっそり息を潜めているような陰キャじゃなくて、もっとウェイでウェイな陽キャ共がやるべきなのだ。アイツら責任とか感じなさそうだし(偏見)。

 

 じゃあなんでやってんだよと聞かれると、話はサッカーを始めた頃まで遡る(陰キャ特有の冗長な自分語り)。

 サッカー好きな両親の影響で始めたばかりの頃、ポジション決めで揉めた結果ジャンケンで勝った俺がFWをやることになった。

 よりによって一番やる気のない俺にお鉢が回ってきたのだ。しかし決まった以上はやらざるを得なくなり、役割だと割り切って全うすることに。俺のせいで負けたとか言われたら嫌じゃんね。

 

 そして役割として点を取ってたらそのまま俺がFW続行することに。

 それは小学校、中学校になっても変わらず──気がつけば全日本だの日本代表だのに選ばれることになっていた。途中でやーめた! なんて言える空気ではなくなっていたのだ。

 

 おかしい。おかしくない? 

 俺はただ、与えられたポジションの仕事をこなしていただけ。こういうのってもっとこう、「ゴールを決めるのが俺の全て!」みたいな人達がやるべきじゃない? ゴールを決めるのが人生の醍醐味、生きる意味! みたいな奴らがさ。

 でも何故かそういう奴らに限ってゴール決めないんだよなぁ……。

 何で君たちはペナルティエリアに入ってからゴール外すの? キーパーに止められるならまだしも、何でゴールポストの枠外に撃つの?? わざと? わざとなの? そういうのが陽キャには求められるの??? 

 

 そんなこんなで陽キャの生態に一生共感できそうにないまま過ごしていたら、ワールドカップ決勝になっていた。

 超がつく大舞台、メチャクチャ多い観客。のしかかる責任。

 こんな試合で点取れずに負けたらどうなるんだろう……碌な目に遭わないのは確かだ。

 

『日本のエース、得点得られず』

『日本、悲願の優勝を逃す。原因はエースの力不足か』

 

 みたいな感じの記事が載って日本中から総スカンを食らうに違いない。

 おぉ、神よ。何故このような試練を私に与えるん……? 

 

 考えたらそれだけで胃が痛くなる。きっと一生戦犯扱いで死ぬまで陰口とか叩かれるに違いない。

 とか考えてたらマジでお腹痛くなって試合終了間際まで点取れないままだった。

 本当に危なかった。ハーフタイムにトイレに篭るハメになるから絶対にPKとかやりたくなかったし。もう二度とやりたくない。

 

 大体代表に選ばれたところで俺にメリットとかないんだよなぁ。

 責任重くなるし、慣れない人たちと慣れない土地に行って慣れない飯を食わなきゃいけないし。

 

 サッカーってそこまでしてやらなきゃならないものかなぁ、と思う。

 

 でもいいこともある。

 前にドイツに行った時に会った同年代くらいの兄ちゃんは気さくに話しかけてきてくれた。

 結構派手な薔薇のタトゥーしててちょっとビビったけど、俺みたいのに話しかけてきてくらるなんていい人に違いない。何言ってるのかは全然分からんかったけど。

 

 まぁでもやっぱホームよ。ホームが一番やね。

 そしてホームにいるためには海外に行くことがないチームにいることが肝要。

 

 つまり代表になんかならなければいい。

 

 とはいえ頼まれたら基本断れない典型的な日本人である俺がそうなるためには、罪悪感のない辞め方が求められる。

 では罪悪感を感じない辞め方とは何か? 

 それは仕事を完了した上で引き継ぎを完璧にすること。

 俺の代わりにこう、いい感じにFWをやってくれる人間にあとを託す。

 

 が、問題があった。

 ワールドカップを優勝させたので仕事は済んだんだが、代わりにストライカーやってくれそうな人間に心当たりがない。

 どうしたもんかにゃあ……まぁでもW杯優勝したし、多少問題があっても許してくれるよね? 

 同じ大会で2回も優勝したところでって感じやし、無問題無問題! 

 

 

 おれは日本代表をやめるぞ!! ジョ◯ョ──!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お前を超えるエゴイストを生み出す」

「アッハイ」

 

 

 赤毛巨乳美人さんにホイホイ着いて行ったら変なガリガリおかっぱメガネに引き合わされた件。

 これが噂の美人局……? いまから変な壺とか買わされたりする……のか? 

 

 




 もう少し主人公喋らせればよかったと反省。
 読んでくれてありがとうございます、感想ください待ってます。
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