ハーレム展開かと思いきや、なんと今の俺の立場は生贄らしい。
貴重な男の子は神様への捧げものになるそうだ。
クソが、こんな村に居られるか!
俺は絶対、この因習村から脱出してやる!
君達は、生贄というものをご存じだろうか?
まず、宗教的な行為。
神様への上納品だったり、災厄を防いだり、豊作などを願う目的で行われるあれだ。
古くから、人間が行ってきた行為であるため、多くの創作などでもモチーフになっている。
基本的には、神様への捧げものなので貴重なものとして扱われる。
きっと、こんな所を覗いている読者の皆様なら、知っていることだろう。
さて、では、なぜ俺がこんなことを言っているかというとだ。
なってしまったのだ。
その生贄とかいう奴に。
神様に捧げられる
何故俺が? そう考えて、
おかしな言い方だが、そうとしか言えない。
何故なら、俺こと
因みに、前世の記憶を思い出したのはつい最近だ。
そう、俺は、まだ子供のこの体は片目を潰されたのだ。
覚えているのは、狐のお面を着けた女達が、俺を取り囲んで儀式を行っていたこと。
『器様』だのなんだのと言っていたが、激痛と記憶が増えた混乱でそれどころではなかった。
とにかくだ。
転生者である俺は、この体の持つ記憶を読み取って、2つのことを理解した。
それはこの村が因習村ということと、この世界の男女比が狂ったあべこべ世界ということだ。
因習村なのは、まあ先程までの説明で分かるだろう。
問題はあべこべ、貞操逆転世界の方だ。
どうにも、この世界には男性がほとんどいないらしく、男女比は1:20程度。
そして、男女比が極端なせいで、男性と女性の役割が入れ替わっている。
基本的には、男性は貴重な存在で守られるべき存在となっている。
え? じゃあ、なんで生贄になっているのか?
生贄って貴重なものを使うのが普通。つまり、数の少ない男性が選ばれるわけだ。
そして、男女の役割が逆になっているってことは、巫女や生贄なんかの美少女の役目のものが男性の役目になる。
その結果が、貴重な男。しかもさらに貴重な子供が生贄になるというわけだ。
クソが。
「冗談じゃねぇ、逃げるぞ」
そういう訳で、俺は当然の如く脱走を図ることにした。
生贄が逃げて良いのか?
「子供を生贄に捧げる奴らのことなんざ、知るか」
子供を殺す。そんな前時代的な因習に囚われたクソ共に配慮する必要はない。
神なんてものが本当に居るか知らんが、それで神の怒りを買っても村の人間の自業自得だ。
この村から脱出して、自由を手に入れてやる。
「さて、後はどうやって逃げるかだな……」
しかし、脱獄の覚悟を固めてみたは良いが、問題はどうやって逃げるかだ。
俺はグルリと、自分が今閉じ込められている部屋を見る。
(木造……窓は木の格子のものが1つ。ただ、俺の身長じゃ届かん位置のもの。扉も1つ。当然、外から鍵がかけられている。寝るための布団が1つに、机が1つ。水を飲むようの木のお椀が1つ。臭い便所も1つ。もちろん、和式のぼっとん便所)
まるっきり囚人である。
本当に生贄を丁重に扱う気があるのか?
内心でそう愚痴ってしまうが、事実は変わらない。
(協力してくれそうな人はゼロ。そもそも、この体の記憶だと、どいつもこいつも俺に会う時は狐のお面を被っていて、個人特定が出来ねぇ。宗教的意味合いか、情が移らないようにするためか知らんが、外部からの手引きも厳しいな……)
生贄に期待することは死ぬことだけ。
当然、必要以上に関わる気はないということだろう。
(チャンスがあるとすれば、飯の時間。この瞬間だけは、扉を開ける。そのタイミングで抜け出るしかないが……それは相手も分かっている。いつも2人で来るから隙が無い)
飯の時間の記憶を掘り返す。
狐面の女が配膳を行うが、いつも2人体制。
1人が飯を渡し、もう1人が食べ終わった食器や、汚れた服などを回収していく係。
恐らくは、脱走の可能性も潰しているのだろう。
「何とか、2人の隙をつく必要があるな。何か動揺させて、行動を縛る方法……」
2人体制で万全を期しているとは言え、心まではそうではないはずだ。
(いっそのこと、殺して……いや、子供の体じゃ無理か)
家畜の世話をしている時に、一々命の危険まで考える奴はいない。
動揺を引き出すこと自体は可能なはずだ。
「さて、どうしたもんか……」
俺は布団に寝転がりながら、天井の木目を睨みつけた。
この体はまだ子供だ。10歳そこそこ。力もなければ、背も低い。
おまけに貞操逆転の世界。男性より女性の方が力が強いはず。
正攻法で狐面の女二人を倒すなんて、夢のまた夢。
頭を使うしかない。
(待てよ? あいつらは全員、狐の面をつけている。間違いなく、これは掟や決まりだ。因習村の人間なら、掟は絶対に破りたくないはず。もしくは、俺の前で仮面を取るとペナルティが発生するはず)
俺は相手の決まりを逆に利用することを思いつく。
「狐の面を取れないのなら。目の部分を塞いだら、相手は俺の動きを終えない」
狐のお面の視界を潰す。
そうすれば相手は、俺の目でお面を取ることも出来ずに、何も出来なくなるはずだ。
「視界を塞げる拡散性……投げやすさ……しばらく仮面に残る粘着性……」
俺は、この部屋で利用できるものが無いかを考えて、もう一度部屋を見渡す。
布団。すぐに落ちるので却下。
服。同じ理由で却下。
机。威力は高いが、1回しか投げられないので2人相手には不向き。
そうして、俺は最後の最後にぼっとん便所を見る。
「………背に腹は代えられないか」
やるしかない。
そう覚悟を決めて、俺はため息を吐くのだった。
カチャリ。
いつもの鍵の音がした。
俺は布団に横になった状態で、苦しそうな声を出す準備を始める。
これでも貴重な生贄。神に捧げる前に死んだら困るはずだ
「
扉が開き、狐面の二人が入ってくる。
いつもと同じ声。
一人が盆を、もう一人が後ろで俺を監視している。
「……今日は、なんだか具合が悪い…目が…うずいて……」
「……少し、お目を見せて頂きますでしょうか? 神降ろしの後遺症かもしれませんので」
俺はゆっくりと体を起こし、わざと弱々しい声を出した。
配膳係の女が、少しだけ動揺した声でわずかに身を寄せてくる。
その瞬間──俺は布団から跳ね起き、右手にもった水汲み用の椀の
「クソ、くらえっ!」
べちゃっ!
狐面の目の部分に、褐色の物体──
「きゃあっ!? な、なにこれ…!?」
「べ、便?」
強烈な臭いが一気に部屋に広がる。
配膳係の女が悲鳴を上げ、顔を押さえて後ずさる。
「さらに、もう一発!」
俺は迷わず残りのうんこも、もう1人の回収係に向かって投げつける。
べちゃっ! ド真ん中ストライク!
「うわっ…!? か、仮面を外して…!」
「だ、ダメよ! 神様以外に、器様の顔を直接見ることは許されないわ!? 天罰で殺されるわよ!」
「で、でも、どうしたら…!?」
2人が同時にパニックになる。狐のお面の視界が完全に塞がれた。
2人の体つきの良い女性が狐面を取ることもできず、うんこを顔に着けたまま、ただ臭いと粘つく感触に狼狽して固まる。
スカトロ好きの人にはたまらない光景かもしれないが、俺が興味があるのは自由だけだ。
「今だ!」
俺は二人の間をすり抜け、扉に向かって全力疾走した。
「に、逃げた? もしかして、器様が逃げられた!?」
「は、早く! 新しいお面を…! いえ、他の人を呼んで!」
廊下は薄暗く、木の床が軋む。
後ろから女達の悲鳴と怒声が聞こえるが、無視をして走る。
(どうする? どこに逃げる? 馬鹿正直に、道を走っても捕まるだけ……なら! あの森に!)
俺は神社の中から飛び出し、すぐ傍にあった山へと飛び込む。
石や木々が、柔らかい素足のぶつかり痛みが走るが、無視をして走る。
ここで捕まったら、臭いうんこを汲み上げた努力が水の泡だ!
なんとしてでも、逃げだしてやる。
走る。
走る。
走り続ける。
そして──
「ハァ…ハァ…道路だ…!」
山の開けた部分から、道路が目に入る。
「てっきり、過去にでも飛ばされたかと思ってたけど……現代社会でよかった」
文明の証であるアスファルトに、妙な安心感を覚える。
正直に言って、現代日本の知識しか持たない俺が、江戸時代とかに飛ばされていたとかだと、逃げ出せてもどうしようもなかったからな。
「取り敢えず、あの道路を目指して……そうすれば、ヒッチハイクでもして、警察にでも行けば……」
道路に向けて、一歩前に踏み出す。
希望への道しるべ。
それが今、目の前に──
──バキッ!
「は…?」
何かが折れる鈍い音。
同時に、体が地面に倒れこむ。
そして、片足に襲い来る、激痛。
「痛ッ!?」
痛みに呻きながら、左足を見てみると、俺の左足が──逆方向に折れていた。
「なん…で!?」
訳が分からずに混乱する。
走っている最中に折れたのなら分かる。
だが、先程まで立ち止まっていたのに、なぜ今急に?
そんなもの、外部から何か危害を加えられない限り、あり得な──
『今回の器は、随分と活きが良いね』
ザワリと草木が揺れる。
それは、何者かに踏み倒されたからではない。
物理的な接触は何もない。
だが、間違いなく、何かがそこに居る。
「誰だ…!?」
『誰って、おかしなことを聞くね』
甲高い少女の声が響く。
しかし、その中にあるのは子供とは思えない、あまりにも重厚な威圧感。
透き通るような金色の髪が揺れる。
否、ようなではなく、本当に透けている。
この世にあって、この世にないもの。
『神様に決まってるじゃん』
黄金の瞳が俺を射抜く。
着物を着た少女の姿。
だというのに、俺の体は蛇に睨まれたカエルの様に動かない。
「神…? 本当にそんなものが居るのか?」
『ん? おかしいね、そんなことをお前が聞くなんて』
「知らねぇよ。俺はお前の生贄になる気なんてない」
まさか、本当に神なんてものが居るとは思わなかったが、事実として受け止めるしかない。
よく考えれば、俺が転生なんてことをしているのだ。
神様というファンタジー存在が普通にいる世界でも、何もおかしくない。
『まあ、いいや。足も折ったことだし、また神社に帰ってもらうよ。儀式にはまだ早いし』
「儀式? 何をするつもりだ…?」
『神降ろしさ。お前には、私の現世での器になってもらう』
「体を奪うのか…!」
まずい、逃げなくては。
そう思うが、動くのは口だけ。
折れた脚だけでなく、手も動かない。
『なーに、そんなに心配しなくていいさ。別に死ぬわけじゃない。私と一緒に生きていくだけさ。ま、自由があるかは知らないけど』
「ふざけんな! てめえ1人で勝手に生きとけ!! 子供を巻き込むんじゃねぇ!!」
『寂しいことを言わないでよ。私達は一蓮托生さ……おっと、お前のお迎えが来たようだよ』
神を名乗る少女の声と共に、狐面の女達が俺に近づいて来るのが見える。
逃げ出したいが折れた脚では動けない。
「このクソガキ……ゴホン。器様、神社に戻りましょう」
「ちくしょう……」
『あはは! じゃあね、今度会うのは儀式の時だ。それまで、大人しくしているんだよ?』
最後にそう言い残して、神を名乗る少女は、どこにもいなかったかのように消える。
後に残されたのは、片目と片足を失い、大人の女性に連行される哀れな少年のみ。
もう、諦めて運命を受け入れるしかないのか?
いや……諦めるわけにはいかない!
(絶対…何をしてでも、この因習村から脱出してやるからな!)
そう内心で覚悟を決めながら、俺は狐面の女達にズルズルと引きずられていくのだった。
その翌日。
「あのクソガキ!! 今度は火事を起こしやがった!」
「神社ごと焼き払うつもりですか!?」
俺は神社で火事を起こして、その隙に2度目の脱出に成功するのだった。
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