男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ?   作:飲酒村

2 / 2
2話:名前

『うわ……また逃げて来たんだ……』

「ちくしょう…! 松葉杖を折るとか、障害者差別かよ! 因習村らしい陰湿さだな!」

『神社に火をつけて、元気に村の外に出ようとした放火魔がそれ言う?』

 

 脱出2度目。昨日の森とは違う、村の端。

 昨日ぶりの、神を名乗る金髪少女との再会。

 足が折れたから大丈夫だろうと、監視の目を緩めたところを狙って火事を起こしたのだが……上手くいかなかった。

 

(やはり、この神もどきには、村の外に出る存在を感知する能力があるらしいな。次の脱走に活かさないと……」

『まだ逃げる気満々なんだね……』

「! 俺の心まで読めるのか!?」

『いや、普通に口からもれてるだけだけど?』

 

 次なる逃走計画を考える俺に、神を名乗る少女が呆れた金の瞳を向けて来る。

 このガキ……子供じゃなかったら、持ってきたクソ爆弾をぶつけてやってる所だ。

 

『で、なんでそんなに逃げたがるの?』

「逆に聞くが、生贄になりたい奴が居ると思うか?」

『名誉なことじゃん。神様の器になれるんだよ?』

 

 まるで、当たり前のことを聞くなとばかりに、首を傾げる少女。

 これが、因習村の恐ろしさか。

 自分達の異常性を欠片たりとも理解せずに、相手を異常者扱いしてくる。

 この因習レイシスト共め。

 

「バカバカしい。この世に自分以上に大切な存在なんぞあるものか」

『あらら、寂しい人間だね。自分より大切な存在が居ないなんて』

「なんとでも言え。大体、器ってなんだよ? 神様は神様らしく、神棚にでも飾られていればいいだろ。子供を無駄死にさせるな」

『無駄死にじゃないよ。ちゃんと、()()()()の器として、お前には生きて貰うから』

 

 神降ろし。

 そんな、非現実的なことを言いながら、少女は透き通る金の髪を揺らす。

 

「神降ろし? 巫女(みこ)にでもやらせてろ」

『何を言ってるんだい? 神降ろしは、巫女じゃなくて男巫(なぬし)がやるのが普通でしょ?』

 

 呆れた顔で否定されてしまう。

 そう言えば、ここは貞操逆転の世界だったな。

 現実での巫女の仕事が、男の仕事になっているのだろう。

 

「は? 男女平等にしろよ? 日本国憲法エアプか?」

『知らないよ。私はそんなもの。私はこの村しか知らないからね』

 

 どうやら、この因習村は例によって日本国憲法が通じないらしい。

 だが、日本という言葉は否定していないので、他の国という可能性はこれで消えた。

 警察に頼るという選択肢もこれで出来た。

 

「そもそも、お前は俺と普通に喋れてるよな? 俺を器にする必要あるか?」

『それは、お前が私の器として育てられてきたからだよ。器は別次元の存在を、体の中に降ろす存在。神様が見えなきゃ、自分の所に案内なんて出来ないじゃん? 器として当然の能力だよ』

 

 最初から神様の容れ物として、育てられてきたから神様が見える。

 そんな、どこまでも残酷な真実に俺は憤ってしまう。

 子供を家畜扱いとか……どこまで前時代的価値観に染まってるんだ! 

 

「器…器…どいつもこいつも器呼ばわり…! 名前ぐらい呼べよ!」

 

 人間として見ずに、子供を単なる道具として扱う。

 そんな態度にイラっとして神に怒鳴りかかる。

 だが、神を名乗る少女の方と言えば。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。殺す予定の家畜に一々名前なんて付けないでしょ?』

 

 

 何を当たり前のことをとばかりに、そんな残酷なことを言ってのけたのだった。

 

「……は?」

『名前は個人を現すために記号だよ。容れ物に中身と別の名前を貼り付けたら、中身が分かりづらくなっちゃうでしょ?』

「この邪神が…!」

『邪神でも、この村では大切な神様さ。貴重なものは、それ以外のものより優先される……当たり前でしょ?』

 

 砂糖の瓶に、塩というラベルを貼ったら紛らわしいよね? 

 その程度のことだとばかりに、少女は乾いた笑いを浮かべる。

 たったそれだけの理由で、()()()には名前が無いのだと。

 

「ふざけんなッ! 俺には上澤野(かむさわの)八代(やしろ)って名前がある!!」

 

 だからこそ、俺は叫ぶ。

 俺にはちゃんとした名前があるのだと。

 

 

『──名前?』

 

 

 ゾワッと空気が変わる。

 先程まで笑っていた少女の目が、ジトリと嫉妬を孕んだものになる。

 

『なんで器がそんなもの持ってるの? なんで、生贄が名前なんて贅沢なものを貰えてるの? ねえ──誰がつけた?』

 

 今ここで憑り殺してやろうか。

 そんな明確な殺意をにじませながら、少女は俺に方に近づいて来る。

 神様面をしていた時より、めちゃくちゃ怖い。

 

「お、親に決まってるだろ……」

『あり得ない。器は生まれた時から、神への捧げものだ。それはお前が母親の腹の中にいた時から決まっている。生贄に名前なんかつけられるわけがない……答えろ』

 

 先程まで普通に会話をしていたので、忘れていたがこいつは俺の片足を折った張本人。

 首の骨を折ることも、容易にできるはずだ。

 俺は、リスクとメリットを考えて、真実を話すことにする。

 

「……俺は転生者で前世がある。名前はその前世のものだ」

『転生? 記憶が残るなんて珍しいね……本当かい?』

「本当だよ。なんなら、外の世界のことを話してやろうか? 器の体じゃあ、絶対に知りえない情報をな」

 

 転生ではなく、記憶があることの方を疑う少女。

 まあ、神様なんてものがいるのだから、この世界では転生自体は普通にあるのかもしれない。

 仏教と神道では、転生要素は珍しくないし。

 

『………いや、いいよ。器につけられた名前じゃないなら、別にいい』

 

 器として生まれた存在の名前ではない。

 それが分かると急にトーンダウンする、少女。

 そして、いつもの神様面に戻る。

 

『でも、名前か……』

 

 何かを考えこむ、少女。

 

『ねぇ、お前はこの村を出たいんだよね?』

「ああ、生贄なんてまっぴらごめんだ。子供は自由に生きるべきだ」

『だったら、1つ遊戯をやろうか。私に勝てたら、お前を自由にしてあげるよ』

「本当か!?」

 

 まさかの譲歩の発言に、俺は思わず前のめりになる。

 

『ああ、本当だよ。私の出す問題に答えられたらだけどね』

「問題? なんだ、それは?」

 

 少女は希望に目を輝かせる俺を嘲るように、唇を吊り上げる。

 まるで、希望を与えてから、取り上げてしまおうとでも、考えているかのように。

 

 

『私の名前を当ててごらん?』

 

 

 目の前の少女の名前を言ってみろ。

 そう言って、神は金の瞳を蛇のように細める。

 

「お前の名前を当てればいいのか? 今ここで?」

『なに、今すぐにとは言わないよ。1週間あげる。その間に、私の名前を見つけ出してごらん。答えは祭りの日……神降ろしの儀式の際に聞くよ。それなら、変に逃げ出そうとしないでしょ?』

 

 1週間の猶予を与えるから、その間に名前を探して当ててみろ。

 そんな奇妙な問題を出す、少女。

 

「本当だな? 当てられても『発音が違う』とか『昔の名前』とかで逃げるなよ?」

『言わないよ。当てることが出来たら、正直に言うよ。ま、当てられたらだけど』

 

 クツクツと、邪悪な笑みを浮かべる、少女。

 明らかに何か裏がある。

 

(村の外に出る場所を見張られている以上は、このまま脱出に挑んでもらちが明かない。それなら、ここは提案を受けて猶予期間を手に入れた方が良いか)

 

 しかし、現状だと魅力的な提案なのも事実。

 今はこの提案に乗るのが最善だろう。

 そう考えて、小さく頷く。

 

「分かった、その遊戯(ゲーム)受ける。ただ、また、あの神社に閉じ込めるのは無しだよな? 閉じ込められたら、あてずっぽうで名前を告げるしか出来ないからな」

 

 しかし、条件の提示も忘れない。

 名前を当ててみろなんて課題を出すのだ。

 どう考えても、普通に見つけられる名前じゃない。

 しっかりと、村全体を調べる必要があるだろう。

 

『いいよ。祭りまでの1週間は自由に動けるように、神官の2人にも伝えておくよ』

「神官? あの、狐面の2人のことか……ん? 俺以外にも話せるのか?」

『いや? 普通に話せはしないよ。でも、神官にはお告げで伝えられる。私、これでも神様だから』

 

 そう言って、あっさりと了承する、少女。

 この自信……やっぱり、超難問だろうな。

 となれば……。

 

「分かった。約束だぞ」

『うん。そっちも、もう火をつけるとかしないでよね? ……村人が死んだらシャレにならないから』

「勿論だ。じゃあな」

 

 約束を取り付け、俺は折れた松葉杖の代わりにいい感じの木の棒を拾い、立ち上がる。

 そして、神社の方へと戻っていき──

 

 

(……よし! あの少女は消えたな。反転して、このまま外を目指すか!)

 

 

 神を名乗る少女が消えたのを確認すると、すぐさま反転して村の外を目指す。

 逃げ出さない約束? 

 いやいや、村の外に出て図書館で、地域の郷土史を調べるだけだから。

 名前を知るための手段だから、セーフ──

 

『本当に懲りないね、お前は』

「ぶへッ!?」

 

 突如として、俺の顔面に襲い掛かる衝撃。

 多分、少女が俺の顔に拳を叩き込んだのだろう。

 

「ま、前が見えねぇ……」

『私の目はこの村全てを見張ってる。夜中だろうが、早朝だろうが同じ。逃げられるとは思わないことだね』

「ちくしょう……じゃあ、今度は車で強行突破してやる」

『話聞いてた?』

 

 どこに逃げても見つけられるなら、捕まらない速度で逃げる。

 そう告げる俺に、少女は心底呆れた表情を向けてくる。

 

『次に村の外に出ようとしたら、残った四肢も全部へし折るからね?』

「は? 俺は神様の器になる男だぞ? 傷つけておいて、ただで済むと思うなよ! 祟りを受けるぞ!」

『まさか、その神様本人への脅しに使われるとは思わなかったよ。お前はとんでもない馬鹿だね』

 

 俺を殺したら、お前が大変な目に遭うぞと脅してみるが、やはり相手にされない。

 チッ、貴重な生贄の立場を利用できると思ったんだがな。

 案外、生贄は俺じゃなくても別に良いのか? 

 

『とにかく、次はないよ。せいぜい、村の中で私の名前を一生懸命探しているんだね。次に会うのは、1週間後──』

「いや、多分、それまでにまた来るぞ? 本人から情報を引き出せるなら、それが一番確実だし」

『…………』

 

 俺の言葉に、少女は呆れてものも言えないという顔で絶句する。

 取り敢えず、村の端っこに行けば答えを確実に持っている、こいつと出会えるのだ。

 ギャルゲーの幼馴染みのように、足しげく通うメリットはデカい。

 ちょくちょく顔を出すことは確定だ。

 

『……何なの、お前?』

上澤野(かむさわの)八代(やしろ)だよ」

 

 そう名前をハッキリと告げて、少女に背を向ける。

 

(取り敢えず、神社に戻ってそこから調べるか。神様の名前なら、神社に書いてあるだろうし)

 

 そうして、俺は神社を詳しく調べるために、今度こそ本当に帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

「嘘だろ…! 神社が全焼!? これじゃあ、神社を調べられねぇ……最悪だ! 一体誰が火なんてつけしたんだよ、クソッ!!」

「あんただよ、このクソガキ!!」

 

 そして、全焼した神社を目にして、愕然としながら狐面の女に拳骨を入れられるのだった。

 




感想・評価の程よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

貞操逆転世界の中堅冒険者(作者:だいたいおおそよだいたい)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

貞操逆転世界に転生した男、フィル(29)▼フィルは自分の事をおじさんになりつつあるただの冒険者だと思っているが。▼しかし!!この男女比1対5の貞操逆転世界で無防備かつムチムチなフィルに劣情を抱かない女はいるか!?!?▼いや!いない!!!▼それはそれとして貞操逆転世界かつ中世な世界観かつ魔法もある属性テンプレもりもり世界で生きていく。▼そんな物語。


総合評価:957/評価:7.54/連載:26話/更新日時:2026年05月08日(金) 00:04 小説情報

あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する(作者:あに)(オリジナルファンタジー/日常)

身体がちょいとガタつくけど、大丈夫。▼僕はみんなのお兄ちゃんだからね。▼カクヨムの方にも投稿してます


総合評価:3482/評価:8.31/連載:20話/更新日時:2026年05月16日(土) 17:04 小説情報

W杯優勝したからカスじゃないカス(作者:W杯で優勝するために雇われなかった男)(原作:ブルーロック)

 日本がサッカーW杯で優勝するために世界一のストライカーを生み出すための計画、ブルーロック。300人の高校生FWたちが、たった1人の英雄になるために人生を賭けて競い合うーー▼ ーーその前に、日本を優勝させた英雄が誕生したら?


総合評価:997/評価:8.6/連載:1話/更新日時:2026年07月13日(月) 23:33 小説情報

貞操逆転世界で『くっころの似合う男騎士枠』を狙ってみた。(作者:くっ!殺す!!)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

 その為に魔物をベルセ◯ク並みのぶち殺し方してたら男女関係なく怖がられてんだけどどう言う事?


総合評価:3680/評価:8.17/連載:9話/更新日時:2026年05月05日(火) 10:59 小説情報

ヤンデレに監禁されて夢のヒモ生活!えっ?貯金が尽きた!?(作者:エアロマグロ)(オリジナル現代/コメディ)

 月残業100時間のブラック企業勤めの俺は、目が覚めたらヤンデレに監禁されていた。▼ 会社に行かなくていい。満員電車に乗らなくていい。▼ 毎日寿司、ステーキ、焼肉の夢のヒモ生活が幕を開けた。▼ ――のだが。▼「……あなたと離れるって考えたら……出勤するのが辛くて、三ヶ月前に……クビになった」▼ それからの三ヶ月間、無職のまま、貯金を切り崩してあの豪華な食事を…


総合評価:1014/評価:8.4/連載:11話/更新日時:2026年04月23日(木) 00:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>