男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ?   作:飲酒村

2 / 7
2話:名前

『うわ……また逃げて来たんだ……』

「ちくしょう…! 松葉杖を折るとか、障害者差別かよ! 因習村らしい陰湿さだな!」

『神社に火をつけて、元気に村の外に出ようとした放火魔がそれ言う?』

 

 脱出2度目。昨日の森とは違う、村の端。

 昨日ぶりの、神を名乗る金髪少女との再会。

 足が折れたから大丈夫だろうと、監視の目を緩めたところを狙って火事を起こしたのだが……上手くいかなかった。

 

(やはり、この神もどきには、村の外に出る存在を感知する能力があるらしいな。次の脱走に活かさないと……」

『まだ逃げる気満々なんだね……』

「! 俺の心まで読めるのか!?」

『いや、普通に口からもれてるだけだけど?』

 

 次なる逃走計画を考える俺に、神を名乗る少女が呆れた金の瞳を向けて来る。

 このガキ……子供じゃなかったら、持ってきたクソ爆弾をぶつけてやってる所だ。

 

『で、なんでそんなに逃げたがるの?』

「逆に聞くが、生贄になりたい奴が居ると思うか?」

『名誉なことじゃん。神様の器になれるんだよ?』

 

 まるで、当たり前のことを聞くなとばかりに、首を傾げる少女。

 これが、因習村の恐ろしさか。

 自分達の異常性を欠片たりとも理解せずに、相手を異常者扱いしてくる。

 この因習レイシスト共め。

 

「バカバカしい。この世に自分以上に大切な存在なんぞあるものか」

『あらら、寂しい人間だね。自分より大切な存在が居ないなんて』

「なんとでも言え。大体、器ってなんだよ? 神様は神様らしく、神棚にでも飾られていればいいだろ。子供を無駄死にさせるな」

『無駄死にじゃないよ。ちゃんと、()()()()の器として、お前には生きて貰うから』

 

 神降ろし。

 そんな、非現実的なことを言いながら、少女は透き通る金の髪を揺らす。

 

「神降ろし? 巫女(みこ)にでもやらせてろ」

『何を言ってるんだい? 神降ろしは、巫女じゃなくて男巫(なぬし)がやるのが普通でしょ?』

 

 呆れた顔で否定されてしまう。

 そう言えば、ここは貞操逆転の世界だったな。

 現実での巫女の仕事が、男の仕事になっているのだろう。

 

「は? 男女平等にしろよ? 日本国憲法エアプか?」

『知らないよ。私はそんなもの。私はこの村しか知らないからね』

 

 どうやら、この因習村は例によって日本国憲法が通じないらしい。

 だが、日本という言葉は否定していないので、他の国という可能性はこれで消えた。

 警察に頼るという選択肢もこれで出来た。

 

「そもそも、お前は俺と普通に喋れてるよな? 俺を器にする必要あるか?」

『それは、お前が私の器として育てられてきたからだよ。器は別次元の存在を、体の中に降ろす存在。神様が見えなきゃ、自分の所に案内なんて出来ないじゃん? 器として当然の能力だよ』

 

 最初から神様の容れ物として、育てられてきたから神様が見える。

 そんな、どこまでも残酷な真実に俺は憤ってしまう。

 子供を家畜扱いとか……どこまで前時代的価値観に染まってるんだ! 

 

「器…器…どいつもこいつも器呼ばわり…! 名前ぐらい呼べよ!」

 

 人間として見ずに、子供を単なる道具として扱う。

 そんな態度にイラっとして神に怒鳴りかかる。

 だが、神を名乗る少女の方と言えば。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。殺す予定の家畜に一々名前なんて付けないでしょ?』

 

 

 何を当たり前のことをとばかりに、そんな残酷なことを言ってのけたのだった。

 

「……は?」

『名前は個人を現すために記号だよ。容れ物に中身と別の名前を貼り付けたら、中身が分かりづらくなっちゃうでしょ?』

「この邪神が…!」

『邪神でも、この村では大切な神様さ。貴重なものは、それ以外のものより優先される……当たり前でしょ?』

 

 砂糖の瓶に、塩というラベルを貼ったら紛らわしいよね? 

 その程度のことだとばかりに、少女は乾いた笑いを浮かべる。

 たったそれだけの理由で、()()()には名前が無いのだと。

 

「ふざけんなッ! 俺には上澤野(かむさわの)八代(やしろ)って名前がある!!」

 

 だからこそ、俺は叫ぶ。

 俺にはちゃんとした名前があるのだと。

 

 

『──名前?』

 

 

 ゾワッと空気が変わる。

 先程まで笑っていた少女の目が、ジトリと嫉妬を孕んだものになる。

 

『なんで器がそんなもの持ってるの? なんで、生贄が名前なんて贅沢なものを貰えてるの? ねえ──誰がつけた?』

 

 今ここで憑り殺してやろうか。

 そんな明確な殺意をにじませながら、少女は俺に方に近づいて来る。

 神様面をしていた時より、めちゃくちゃ怖い。

 

「お、親に決まってるだろ……」

『あり得ない。器は生まれた時から、神への捧げものだ。それはお前が母親の腹の中にいた時から決まっている。生贄に名前なんかつけられるわけがない……答えろ』

 

 先程まで普通に会話をしていたので、忘れていたがこいつは俺の片足を折った張本人。

 首の骨を折ることも、容易にできるはずだ。

 俺は、リスクとメリットを考えて、真実を話すことにする。

 

「……俺は転生者で前世がある。名前はその前世のものだ」

『転生? 記憶が残るなんて珍しいね……本当かい?』

「本当だよ。なんなら、外の世界のことを話してやろうか? 器の体じゃあ、絶対に知りえない情報をな」

 

 転生ではなく、記憶があることの方を疑う少女。

 まあ、神様なんてものがいるのだから、この世界では転生自体は普通にあるのかもしれない。

 仏教と神道では、転生要素は珍しくないし。

 

『………いや、いいよ。器につけられた名前じゃないなら、別にいい』

 

 器として生まれた存在の名前ではない。

 それが分かると急にトーンダウンする、少女。

 そして、いつもの神様面に戻る。

 

『でも、名前か……』

 

 何かを考えこむ、少女。

 

『ねぇ、お前はこの村を出たいんだよね?』

「ああ、生贄なんてまっぴらごめんだ。子供は自由に生きるべきだ」

『だったら、1つ遊戯をやろうか。私に勝てたら、お前を自由にしてあげるよ』

「本当か!?」

 

 まさかの譲歩の発言に、俺は思わず前のめりになる。

 

『ああ、本当だよ。私の出す問題に答えられたらだけどね』

「問題? なんだ、それは?」

 

 少女は希望に目を輝かせる俺を嘲るように、唇を吊り上げる。

 まるで、希望を与えてから、取り上げてしまおうとでも、考えているかのように。

 

 

『私の名前を当ててごらん?』

 

 

 目の前の少女の名前を言ってみろ。

 そう言って、神は金の瞳を蛇のように細める。

 

「お前の名前を当てればいいのか? 今ここで?」

『なに、今すぐにとは言わないよ。1週間あげる。その間に、私の名前を見つけ出してごらん。答えは祭りの日……神降ろしの儀式の際に聞くよ。それなら、変に逃げ出そうとしないでしょ?』

 

 1週間の猶予を与えるから、その間に名前を探して当ててみろ。

 そんな奇妙な問題を出す、少女。

 

「本当だな? 当てられても『発音が違う』とか『昔の名前』とかで逃げるなよ?」

『言わないよ。当てることが出来たら、正直に言うよ。ま、当てられたらだけど』

 

 クツクツと、邪悪な笑みを浮かべる、少女。

 明らかに何か裏がある。

 

(村の外に出る場所を見張られている以上は、このまま脱出に挑んでもらちが明かない。それなら、ここは提案を受けて猶予期間を手に入れた方が良いか)

 

 しかし、現状だと魅力的な提案なのも事実。

 今はこの提案に乗るのが最善だろう。

 そう考えて、小さく頷く。

 

「分かった、その遊戯(ゲーム)受ける。ただ、また、あの神社に閉じ込めるのは無しだよな? 閉じ込められたら、あてずっぽうで名前を告げるしか出来ないからな」

 

 しかし、条件の提示も忘れない。

 名前を当ててみろなんて課題を出すのだ。

 どう考えても、普通に見つけられる名前じゃない。

 しっかりと、村全体を調べる必要があるだろう。

 

『いいよ。祭りまでの1週間は自由に動けるように、神官の2人にも伝えておくよ』

「神官? あの、狐面の2人のことか……ん? 俺以外にも話せるのか?」

『いや? 普通に話せはしないよ。でも、神官にはお告げで伝えられる。私、これでも神様だから』

 

 そう言って、あっさりと了承する、少女。

 この自信……やっぱり、超難問だろうな。

 となれば……。

 

「分かった。約束だぞ」

『うん。そっちも、もう火をつけるとかしないでよね? ……村人が死んだらシャレにならないから』

「勿論だ。じゃあな」

 

 約束を取り付け、俺は折れた松葉杖の代わりにいい感じの木の棒を拾い、立ち上がる。

 そして、神社の方へと戻っていき──

 

 

(……よし! あの少女は消えたな。反転して、このまま外を目指すか!)

 

 

 神を名乗る少女が消えたのを確認すると、すぐさま反転して村の外を目指す。

 逃げ出さない約束? 

 いやいや、村の外に出て図書館で、地域の郷土史を調べるだけだから。

 名前を知るための手段だから、セーフ──

 

『本当に懲りないね、お前は』

「ぶへッ!?」

 

 突如として、俺の顔面に襲い掛かる衝撃。

 多分、少女が俺の顔に拳を叩き込んだのだろう。

 

「ま、前が見えねぇ……」

『私の目はこの村全てを見張ってる。夜中だろうが、早朝だろうが同じ。逃げられるとは思わないことだね』

「ちくしょう……じゃあ、今度は車で強行突破してやる」

『話聞いてた?』

 

 どこに逃げても見つけられるなら、捕まらない速度で逃げる。

 そう告げる俺に、少女は心底呆れた表情を向けてくる。

 

『次に村の外に出ようとしたら、残った四肢も全部へし折るからね?』

「は? 俺は神様の器になる男だぞ? 傷つけておいて、ただで済むと思うなよ! 祟りを受けるぞ!」

『まさか、その神様本人への脅しに使われるとは思わなかったよ。お前はとんでもない馬鹿だね』

 

 俺を殺したら、お前が大変な目に遭うぞと脅してみるが、やはり相手にされない。

 チッ、貴重な生贄の立場を利用できると思ったんだがな。

 案外、生贄は俺じゃなくても別に良いのか? 

 

『とにかく、次はないよ。せいぜい、村の中で私の名前を一生懸命探しているんだね。次に会うのは、1週間後──』

「いや、多分、それまでにまた来るぞ? 本人から情報を引き出せるなら、それが一番確実だし」

『…………』

 

 俺の言葉に、少女は呆れてものも言えないという顔で絶句する。

 取り敢えず、村の端っこに行けば答えを確実に持っている、こいつと出会えるのだ。

 ギャルゲーの幼馴染みのように、足しげく通うメリットはデカい。

 ちょくちょく顔を出すことは確定だ。

 

『……何なの、お前?』

上澤野(かむさわの)八代(やしろ)だよ」

 

 そう名前をハッキリと告げて、少女に背を向ける。

 

(取り敢えず、神社に戻ってそこから調べるか。神様の名前なら、神社に書いてあるだろうし)

 

 そうして、俺は神社を詳しく調べるために、今度こそ本当に帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

「嘘だろ…! 神社が全焼!? これじゃあ、神社を調べられねぇ……最悪だ! 一体誰が火なんてつけたんだよ、クソッ!!」

「あんただよ、このクソガキ!!」

 

 そして、全焼した神社を目にして、愕然としながら狐面の女に拳骨を入れられるのだった。

 




感想・評価の程よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。