男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ? 作:飲酒村
『うわ……また逃げて来たんだ……』
「ちくしょう…! 松葉杖を折るとか、障害者差別かよ! 因習村らしい陰湿さだな!」
『神社に火をつけて、元気に村の外に出ようとした放火魔がそれ言う?』
脱出2度目。昨日の森とは違う、村の端。
昨日ぶりの、神を名乗る金髪少女との再会。
足が折れたから大丈夫だろうと、監視の目を緩めたところを狙って火事を起こしたのだが……上手くいかなかった。
(やはり、この神もどきには、村の外に出る存在を感知する能力があるらしいな。次の脱走に活かさないと……」
『まだ逃げる気満々なんだね……』
「! 俺の心まで読めるのか!?」
『いや、普通に口からもれてるだけだけど?』
次なる逃走計画を考える俺に、神を名乗る少女が呆れた金の瞳を向けて来る。
このガキ……子供じゃなかったら、持ってきたクソ爆弾をぶつけてやってる所だ。
『で、なんでそんなに逃げたがるの?』
「逆に聞くが、生贄になりたい奴が居ると思うか?」
『名誉なことじゃん。神様の器になれるんだよ?』
まるで、当たり前のことを聞くなとばかりに、首を傾げる少女。
これが、因習村の恐ろしさか。
自分達の異常性を欠片たりとも理解せずに、相手を異常者扱いしてくる。
この因習レイシスト共め。
「バカバカしい。この世に自分以上に大切な存在なんぞあるものか」
『あらら、寂しい人間だね。自分より大切な存在が居ないなんて』
「なんとでも言え。大体、器ってなんだよ? 神様は神様らしく、神棚にでも飾られていればいいだろ。子供を無駄死にさせるな」
『無駄死にじゃないよ。ちゃんと、
神降ろし。
そんな、非現実的なことを言いながら、少女は透き通る金の髪を揺らす。
「神降ろし?
『何を言ってるんだい? 神降ろしは、巫女じゃなくて
呆れた顔で否定されてしまう。
そう言えば、ここは貞操逆転の世界だったな。
現実での巫女の仕事が、男の仕事になっているのだろう。
「は? 男女平等にしろよ? 日本国憲法エアプか?」
『知らないよ。私はそんなもの。私はこの村しか知らないからね』
どうやら、この因習村は例によって日本国憲法が通じないらしい。
だが、日本という言葉は否定していないので、他の国という可能性はこれで消えた。
警察に頼るという選択肢もこれで出来た。
「そもそも、お前は俺と普通に喋れてるよな? 俺を器にする必要あるか?」
『それは、お前が私の器として育てられてきたからだよ。器は別次元の存在を、体の中に降ろす存在。神様が見えなきゃ、自分の所に案内なんて出来ないじゃん? 器として当然の能力だよ』
最初から神様の容れ物として、育てられてきたから神様が見える。
そんな、どこまでも残酷な真実に俺は憤ってしまう。
子供を家畜扱いとか……どこまで前時代的価値観に染まってるんだ!
「器…器…どいつもこいつも器呼ばわり…! 名前ぐらい呼べよ!」
人間として見ずに、子供を単なる道具として扱う。
そんな態度にイラっとして神に怒鳴りかかる。
だが、神を名乗る少女の方と言えば。
『
何を当たり前のことをとばかりに、そんな残酷なことを言ってのけたのだった。
「……は?」
『名前は個人を現すために記号だよ。容れ物に中身と別の名前を貼り付けたら、中身が分かりづらくなっちゃうでしょ?』
「この邪神が…!」
『邪神でも、この村では大切な神様さ。貴重なものは、それ以外のものより優先される……当たり前でしょ?』
砂糖の瓶に、塩というラベルを貼ったら紛らわしいよね?
その程度のことだとばかりに、少女は乾いた笑いを浮かべる。
たったそれだけの理由で、
「ふざけんなッ! 俺には
だからこそ、俺は叫ぶ。
俺にはちゃんとした名前があるのだと。
『──名前?』
ゾワッと空気が変わる。
先程まで笑っていた少女の目が、ジトリと嫉妬を孕んだものになる。
『なんで器がそんなもの持ってるの? なんで、生贄が名前なんて贅沢なものを貰えてるの? ねえ──誰がつけた?』
今ここで憑り殺してやろうか。
そんな明確な殺意をにじませながら、少女は俺に方に近づいて来る。
神様面をしていた時より、めちゃくちゃ怖い。
「お、親に決まってるだろ……」
『あり得ない。器は生まれた時から、神への捧げものだ。それはお前が母親の腹の中にいた時から決まっている。生贄に名前なんかつけられるわけがない……答えろ』
先程まで普通に会話をしていたので、忘れていたがこいつは俺の片足を折った張本人。
首の骨を折ることも、容易にできるはずだ。
俺は、リスクとメリットを考えて、真実を話すことにする。
「……俺は転生者で前世がある。名前はその前世のものだ」
『転生? 記憶が残るなんて珍しいね……本当かい?』
「本当だよ。なんなら、外の世界のことを話してやろうか? 器の体じゃあ、絶対に知りえない情報をな」
転生ではなく、記憶があることの方を疑う少女。
まあ、神様なんてものがいるのだから、この世界では転生自体は普通にあるのかもしれない。
仏教と神道では、転生要素は珍しくないし。
『………いや、いいよ。器につけられた名前じゃないなら、別にいい』
器として生まれた存在の名前ではない。
それが分かると急にトーンダウンする、少女。
そして、いつもの神様面に戻る。
『でも、名前か……』
何かを考えこむ、少女。
『ねぇ、お前はこの村を出たいんだよね?』
「ああ、生贄なんてまっぴらごめんだ。子供は自由に生きるべきだ」
『だったら、1つ遊戯をやろうか。私に勝てたら、お前を自由にしてあげるよ』
「本当か!?」
まさかの譲歩の発言に、俺は思わず前のめりになる。
『ああ、本当だよ。私の出す問題に答えられたらだけどね』
「問題? なんだ、それは?」
少女は希望に目を輝かせる俺を嘲るように、唇を吊り上げる。
まるで、希望を与えてから、取り上げてしまおうとでも、考えているかのように。
『私の名前を当ててごらん?』
目の前の少女の名前を言ってみろ。
そう言って、神は金の瞳を蛇のように細める。
「お前の名前を当てればいいのか? 今ここで?」
『なに、今すぐにとは言わないよ。1週間あげる。その間に、私の名前を見つけ出してごらん。答えは祭りの日……神降ろしの儀式の際に聞くよ。それなら、変に逃げ出そうとしないでしょ?』
1週間の猶予を与えるから、その間に名前を探して当ててみろ。
そんな奇妙な問題を出す、少女。
「本当だな? 当てられても『発音が違う』とか『昔の名前』とかで逃げるなよ?」
『言わないよ。当てることが出来たら、正直に言うよ。ま、当てられたらだけど』
クツクツと、邪悪な笑みを浮かべる、少女。
明らかに何か裏がある。
(村の外に出る場所を見張られている以上は、このまま脱出に挑んでもらちが明かない。それなら、ここは提案を受けて猶予期間を手に入れた方が良いか)
しかし、現状だと魅力的な提案なのも事実。
今はこの提案に乗るのが最善だろう。
そう考えて、小さく頷く。
「分かった、その
しかし、条件の提示も忘れない。
名前を当ててみろなんて課題を出すのだ。
どう考えても、普通に見つけられる名前じゃない。
しっかりと、村全体を調べる必要があるだろう。
『いいよ。祭りまでの1週間は自由に動けるように、神官の2人にも伝えておくよ』
「神官? あの、狐面の2人のことか……ん? 俺以外にも話せるのか?」
『いや? 普通に話せはしないよ。でも、神官にはお告げで伝えられる。私、これでも神様だから』
そう言って、あっさりと了承する、少女。
この自信……やっぱり、超難問だろうな。
となれば……。
「分かった。約束だぞ」
『うん。そっちも、もう火をつけるとかしないでよね? ……村人が死んだらシャレにならないから』
「勿論だ。じゃあな」
約束を取り付け、俺は折れた松葉杖の代わりにいい感じの木の棒を拾い、立ち上がる。
そして、神社の方へと戻っていき──
(……よし! あの少女は消えたな。反転して、このまま外を目指すか!)
神を名乗る少女が消えたのを確認すると、すぐさま反転して村の外を目指す。
逃げ出さない約束?
いやいや、村の外に出て図書館で、地域の郷土史を調べるだけだから。
名前を知るための手段だから、セーフ──
『本当に懲りないね、お前は』
「ぶへッ!?」
突如として、俺の顔面に襲い掛かる衝撃。
多分、少女が俺の顔に拳を叩き込んだのだろう。
「ま、前が見えねぇ……」
『私の目はこの村全てを見張ってる。夜中だろうが、早朝だろうが同じ。逃げられるとは思わないことだね』
「ちくしょう……じゃあ、今度は車で強行突破してやる」
『話聞いてた?』
どこに逃げても見つけられるなら、捕まらない速度で逃げる。
そう告げる俺に、少女は心底呆れた表情を向けてくる。
『次に村の外に出ようとしたら、残った四肢も全部へし折るからね?』
「は? 俺は神様の器になる男だぞ? 傷つけておいて、ただで済むと思うなよ! 祟りを受けるぞ!」
『まさか、その神様本人への脅しに使われるとは思わなかったよ。お前はとんでもない馬鹿だね』
俺を殺したら、お前が大変な目に遭うぞと脅してみるが、やはり相手にされない。
チッ、貴重な生贄の立場を利用できると思ったんだがな。
案外、生贄は俺じゃなくても別に良いのか?
『とにかく、次はないよ。せいぜい、村の中で私の名前を一生懸命探しているんだね。次に会うのは、1週間後──』
「いや、多分、それまでにまた来るぞ? 本人から情報を引き出せるなら、それが一番確実だし」
『…………』
俺の言葉に、少女は呆れてものも言えないという顔で絶句する。
取り敢えず、村の端っこに行けば答えを確実に持っている、こいつと出会えるのだ。
ギャルゲーの幼馴染みのように、足しげく通うメリットはデカい。
ちょくちょく顔を出すことは確定だ。
『……何なの、お前?』
「
そう名前をハッキリと告げて、少女に背を向ける。
(取り敢えず、神社に戻ってそこから調べるか。神様の名前なら、神社に書いてあるだろうし)
そうして、俺は神社を詳しく調べるために、今度こそ本当に帰路につくのだった。
「嘘だろ…! 神社が全焼!? これじゃあ、神社を調べられねぇ……最悪だ! 一体誰が火なんてつけしたんだよ、クソッ!!」
「あんただよ、このクソガキ!!」
そして、全焼した神社を目にして、愕然としながら狐面の女に拳骨を入れられるのだった。
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