男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ?   作:飲酒村

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3話:神官

 

「あんた、神社を燃やしておいて……どう責任を取るつもり?」

「責任? おいおい、俺は後1週間で生贄になるんだぞ? 弁償とか期待するだけ無駄だぞ。常識的に考えろよ」

「野郎! ぶっ殺してやる!!」

 

 狐面の女がマジレスを返す俺に対して、ブチギレながら拳を振り上げる。

 これが因習村……こんな幼い体に対して、暴力を振るうなんてどうかしてるぜ。

 

飛鳥(あすか)姉さん! 気持ちは分かりますけど、相手は器様です! ましてや、男の子……女が手を上げるなんて…!」

「止めないで、文香(ふみか)! 相手が誰であろうが、許せないことがこの世には存在するのよ!!」

 

 狐面の神官は2人。

 どちらも黒髪ロングだが、背丈は違う。

 飛鳥と呼ばれた背の高い方が、俺をぶん殴ろうとして、背の低い文香がそれを必死に止める。

 

「へー、飛鳥(あすか)文香(ふみか)って言うのか。俺は上澤野(かむさわの)八代(やしろ)。よろしくな」

「は? このタイミングで自己紹介? というか、あんたに名前なんてあったの?」

「今まで知りませんでした……」

「いや、喋ったことぐらい……そう言えば、記憶にないな」

 

 取り敢えず自己紹介すると、飛鳥と文香が本気で驚いたような声を上げる。

 まあ、この器の記憶を漁っても、まともに人と会話した記憶が無いので、しょうがない。

 というか、子供相手にろくに会話しないとかネグレクトの極みかよ。

 

「まあ、いいや。今度から八代(やしろ)って呼んでくれ」

「はぁ? あんたなんて、クソガキで十分よ!」

「飛鳥姉さん、せめて八代様って呼んでください……他の人に聞かれたら、大変ですから」

 

 少し、周りを気にするような素振りを見せる文香に、俺はピンと来る。

 なるほど、神官のこいつらでも生贄の俺を大切にしないと、体裁が悪いらしい。

 そうと決まれば……倍プッシュで煽るだけだ! 

 

「そうだぞ。ちゃんと俺のことを名前で呼ばないと、神罰が下るぞ? お?」

「クソガキ!!」

 

 文香の手を振りはらい、ついに解放された飛鳥が怒りの鉄拳を俺の頭に叩き込む。

 

「うがッ!? ば、馬鹿力…!」

「あ、姉さん……本当に殴ってしまいました」

 

 とても女とは思えない力に、思わず俺の目には星が舞い散る。

 貞操逆転世界……女が男の役割を担っているだけあって、女の力が普通に強いな。

 

「ちくしょう……いいのか? 俺は生贄だぞ?」

「先に煽って来たのはそっちでしょうが」

 

 狐のお面で表情は見えないが、明らかに勝ち誇った声を上げる、飛鳥。

 こうなったら……最終手段に出るしかない! 

 

「そんなに謝って欲しかったら、謝ってやるよ……ただし、他の村人達の前で土下座でな!!」

「え? い、いや、別にそこまでは求めてない──」

「そして、泣きながら『もう、逆らいません。言われたことはエッチなことでも、何でもやるから許してください!』って言って、お前の世間の評判を無茶苦茶にしてやるよ!!」

「人をショタコン扱いして社会的に抹殺するつもり!?」

 

 子供の見た目を活かした、相手を社会的に抹殺する。

 現実社会で言えば、女児が防犯ブザーを鳴らしながら、交番に駆け込むに等しい行為だ。

 後は、追ってきた相手を指差せば、誰であっても小児性愛者(ペドフィリア)のいわれは避けられない。

 

「ククク……このまま謝り続けていいのか? 俺の土下座を見たら、最後。最終的に謝ることになるのはお前達の方だぞ?」

「ひ、卑劣な…!」

「ほ、本当にやりませんよね…?」

 

 俺の完璧な交渉術に、戦慄する2人に俺はニヤリと笑う。

 これで、俺の立場は保障されたはずだ。

 

「もちろんだ。お前達には、世話をして貰った恩があるからな」

「恩を仇で返しておいて言う?」

「だが、忘れるなよ? 俺にはいつでも、最終兵器の土下座が残されていることをな!」

「土下座を武器にする人、初めて見ました……」

 

 持てる武器は全て使う。

 これが、弱者の兵法よ。

 

「後、神社が全焼までしたのは、素直にごめんなさい。正直、ここまで燃えるとは思ってませんでした」

「ああ……うん。素直に謝られると、それはそれで、調子が狂うわね」

「まさか、半分冗談でぼっとん便所の中に、火を投げ入れたら爆発するとは思わなかった。今は反省してる」

「やっぱり、あんたの名前は(クソ)ガキで十分よ!」

 

 流石の俺も心の片隅で、ちょっと燃やし過ぎたなと思っていたのだ。

 いや、ボヤ騒ぎを起こす程度のつもりだったんだが、ちょっと木造建築舐めてた。

 というか、ぼっとん便所ってメタンガスは発生するけど、溜まらないようになっているんじゃないのか? 

 直接部屋に火をつけるのもなんだかなと思って、冗談でやったのが、まさか成功するとは思わなかった。

 

「あの……失礼ですけど、八代様はその…良く生きておられましたね」

「足も折れてるのに、良くやるわ。ある意味尊敬するわよ」

「人間、頑張れば何でも出来るんだよ」

 

 呆れる2人の視線を受け流しつつ、俺は情報をまとめる。

 

(しかし、飛鳥がさっきショタコンと言っていたな……この用語を知っているということは、時代は1981年以降であることは確定だ。ショタコンの語源は、1981年のアニメ雑誌で正太郎コンプレックスと答えられたのが始まりだからな。そして、そこから一般に広まった時間を考えれば、時間軸は1990年代以降のはず……もしくは。飛鳥が重度のオタクの可能性もあるか)

 

 この体の記憶を見れば、すぐに分かると思うかもしれないが、生憎外に出される機会はほとんどなかった身だ。

 ぼっとん便所や神社だけでは、現代社会でも古ければ普通にある組み合わせなので、それだけでは時代を断定できない。

 

(ショタコン…道路…因習村と言えど、外部との交流は普通にあると見て良いな。俺自身が外に出るのは、あの神に邪魔をされるが、俺以外が外に出るのは可能だな)

 

 神を名乗る少女の名前を調べる。

 そのためには情報が必要だ。

 ネットや図書館の有無の差はとんでもなく高い。

 協力者は作れるなら、出来る限り多く作るべきだ。

 

「何よ、急に黙って」

「いや、これからどうしようかと思って。せっかくの寝る所もなくなったし」

「あんたが燃やしたのよ!!」

「チッ、反省してまーす」

 

 以前に器として接していた時よりは、態度が軟化しているが、飛鳥と文香は仲間にはならないだろう。

 腐っても神官。

 しかも、あの神が言うには、お告げで一応はコミュニケーションが取れるらしいし。

 

「で、でも、実際どうしましょうか?」

「……取り敢えず、私達の家に連れて行きましょう。また、どっかに行かれても困るし。常に見張れる範囲に置いた方が、楽でしょ」

 

 どうやら、俺は2人の家で預かられることになったらしい。

 よし。これで、拠点の確保は出来たな。

 

「決まりだな。じゃ、俺は寄り道してから行くから」

 

 そう言って、俺はあの神を名乗る少女の名前を探しに行く。

 

「いや! どこに行こうとしてるのよ!?」

「自由に動かれたら困ります……」

 

 しかし、そんな俺の肩は力強く、飛鳥と文香に掴まれてしまう。

 

「どこって、村だけど?」

「器は神官が世話をするのが慣例よ。外に出る必要はないわ。黙ってついてきなさい」

「それに、器様の顔を直接見ることは、禁じられているんです……神様が嫉妬で器様を見た人間を殺してしまうので」

 

 そんなバカなと笑い飛ばしてやりたいが、神の力は実証済み。

 この折れ曲がった左足が何よりもの、証拠だ。

 俺も無駄に村人を殺す気はない。

 

「器様じゃなくて、上澤野(かむさわの)八代(やしろ)だからセーフ……じゃダメか? というか、嫉妬ってなんだよ……知らねぇよ」

「それで、本当にこっちが死んだらどうしてくれるのよ」

「でも、あの神は祭りまでの1週間は自由に動けるように、お告げで神官の2人に伝えるって言ってたぞ?」

「え? そ、そうなんですか…? でも、お告げは寝ている時じゃないと、授けて貰えないので……」

 

 俺の言葉に声を詰まらせる、飛鳥と文香。

 お告げの仕様にそんなルールがあったのか。

 まあ、起きている時にも声をかけられるなら、普通に話すのと変わらないか。

 

「はぁー……仕方ねぇな。今日の所は我慢してやるよ。その代わり、お前達が付き合ってくれよ?」

「何であんたが偉そうなのよ……腹が立つわね、ほんと」

「付き合うって……何にですか?」

 

 仕方ないので、村全体の探索は明日に回すことにする。

 しかし、その代わりに。

 

「あの神の名前を探すのを手伝ってくれ。神官なんだから、名前ぐらい知ってるだろ?」

 

 一番、情報を知っていそうな2人にヒントを尋ねる。

 お告げをまだ受けていないということは、あの神から口止めもされていないはず。

 初手から答えに辿り着けるかもしれないのだ! 

 

「神様の……」

「名前…ですか?」

 

 揃って、顔を見合わせる飛鳥と文香。

 お面の下なので、表情は分からないが困惑しているのが分かる。

 

「神様って……神様じゃないの?」

「私もそれしか知らないです」

 

 そして、名前を知らないと答える。

 あろうことか、神官である2人がだ。

 

「はぁー、使っかえ。神官なら自分の所の神様の名前ぐらい覚えておけよ」

「う、うるさいわね! 名前なんて知らなくても、神様呼びで今まで何とかなって来たんだから、それでいいでしょ!」

「名前が呼ばれない神様が、可哀想だと思わないの? 後、器呼びの俺のことも可愛そうだと思え」

「昔から、そういうものだって教わってきましたから……」

 

 ちょっとバツが悪そうに、固有名詞とかなくても何とかなると告げる2人に、ため息を吐く。

 しかし、これでハッキリとした。

 あの神が、自信満々に当ててみろと言ったのは、神官ですら知らないからだ。

 自分に仕える人間にすら教えてないんだから、余所者が知るのは、まず無理だろう。

 

「じゃあ、あの薄汚ねぇ灰になった神社のご利益は何なんだ?」

「燃やしたあんたが言うな!」

 

 しかし、俺は諦めない。

 名前が分からないなら、ご利益から絞り込むだけだ。

 一神教でもない限り、神様は基本的に、別々のご利益を持つからな。

 

「ご利益は色々ですね。商売繁盛・金運向上・五穀豊穣・農業祈願・家内安全・学業成就・開運とかです」

「まあ、それ以外にも大体のことは、お願いを聞いてくれるわよ」

 

 文香の説明に、飛鳥が付け加える。

 ちゃんと存在する神なので、そこは意外と融通が利くのだろうか? 

 

「商売繁盛…五穀豊穣…家内安全か……パッと思いつくのは、稲荷(いなり)神社か。そのお面も狐だしな」

「稲荷……うーん、そうなのかしら? 稲荷なら、村の他の場所にもあるけど……勧請(かんじょう)して、置いたのかしら?」

「どうなんでしょうか。ここの(やしろ)や鳥居は赤くなかったですけど……」

 

 ご利益から、ひょっとして稲荷神社かと思うが、飛鳥と文香は微妙な反応をする。

 やっぱり、これだけで確定は出来ないか。

 そもそも、生贄信仰とか稲荷では聞かないしな。

 もっと情報を集めないとな。

 

「ありがとさん。今度、あの神に会いに行くときに油揚げでも持っていて、反応を見てみるか」

「……神様に迷惑をかけないように、一応言っておくけど普通の油揚げは狐の好物じゃないわよ」

「ネズミの油揚げがお稲荷さんの好物ですよ。本当に神様に捧げに行くのなら、用意しますけど」

「え? あいつ、あの見た目でネズミ食うのか」

 

 あの少女の見た目で、バリバリとネズミを食べる姿を想像して、ちょっと身震いする。

 器とか言ってるけど、もしかして物理的に俺を食べようとしているのだろうか? 

 

「見た目……そう言えば、神様ってどんな姿をしてるの?」

「あ、確かに。器…八代様は神様の姿を見ることが出来るんですよね」

「私達は見たことないのよね」

 

 そんな俺の言葉に、飛鳥と文香が反応する。

 崇めてはいるが、姿を見たことはない神様。

 まあ、普通に考えれば気になるか。

 俺は、そう思って何の気も無しに答える。

 

「身長は大体この体と同じくらいの少女だ。着物を着て、金髪で金色の目をしてるぞ」

「金髪で……」

「金の瞳……」

 

 俺の言葉に、2人は何か思い当たる節があるかのように考え込む。

 

「何か分かったか?」

「いや、それって長老の所の孫娘に似ているなって思っただけよ」

「よし、長老の所に行くか!」

「け、決断が速いですね……」

 

 そして、割と貴重そうな情報をポロリと零してくれる。

 同じ金髪で金の瞳。

 何かしら、関わりがある可能性が高い。

 これは、すぐにでも調べる必要があるな! 

 

「だから待ちなさいって! あんたの顔を直接見るのは禁忌(きんき)だって、さっき言ったでしょうが!」

「だから、長老さんを訪ねるのだとしても、事前に連絡を入れないと……」

「ちくしょう! 誰の顔面が凶器(きょうき)みたいなブサイクだって!?」

「そこまでは言ってないわよ!」

 

 再び飛鳥と文香に肩を抑えられて、止められてしまう。

 クソ、片足でなければ…! 

 もしくはここが宇宙空間なら、足など飾りと言って逃げられたのに! 

 

 というか、俺の素顔自体が悪さするわけでもないのに、対策しないといけないとか理不尽過ぎる。

 なんで、一々相手に仮面を被ってもらうのを、待たないといけないんだよ。

 

「いや……待てよ。お前達が、俺の顔を直接見なかったらいいんだよな?」

「そうですけど……」

 

 しかし、そこでふと気づく。

 嫉妬だか何だか知らないが、神以外が俺の顔を直接見るのがダメなら、対策は簡単。

 それは──

 

「じゃあ、俺がそのお面つけたらいいんじゃねぇか?」

「「………あ」」

 

 ──俺自身がお面をつけることだ。

 

 

 

 

 

「突撃! 隣の長老宅!! 朝早くからお邪魔します! ご迷惑だと思いますが、許せ!! 我、器様ぞ!!」

 

 翌日の朝。

 俺は借金取りのように、長老宅の扉を強引に叩くのだった。

 

「だ、誰…?」

 

 そして、恐る恐る顔を出した少女を見て、頷く。

 金色の髪に、黄金の瞳。

 

「……確かに神の姿に似てるな」

 

 確かにあの神様と、何かしらの関係はありそうだと。




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