男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ? 作:飲酒村
「神様の名前とか知らない? もしくは、知ってそうな人とかは? 後、自分の家で神様に何か関係がありそうなものとか知らない?」
「えっと……いきなり言われても……それより本当に誰?」
長老の家で出迎えてくれた、金髪金眼の孫娘に質問を浴びせるが、ものすごい困惑した顔をされてしまう。
確かに、いきなり白い狐のお面を被った人間に、話しかけられたら困惑するか。
「俺は
「生贄って……もしかして、う、器様…?」
「
「
「早苗ちゃんか、良い名前だな。よろしくな」
そう言って、俺は握手を求める。
相手は、俺とは違って見た目通りの子供。
優しく接するとしよう。
「よ、よろしくお願いします」
ぎこちなく手を差し出してくれる、早苗ちゃん。
見た目は、あの神様と似ているが、態度は雲泥の差だ。
あっちは腹が立つが、こちらは素直で可愛い。
「朝から、何の騒ぎだい、早苗?」
そんな感想を抱いていた所で、家の奥の方から1人の老婆が現れる。
白髪に、深い皺が刻み込まれた肌。
だが、背筋はシャキッと伸びており、偉い人特有のオーラが伝わってくる。
「あ、お婆様……その、八代様…器様が来られて」
「器様が?」
早苗のお婆様。つまりは、この因習村の長老だ。
彼女は俺の存在に驚いて、目を見開く。
「これはこれは、器様。このようなみすぼらしい家に、わざわざ足を運んでくださるとは……一体、どのようなご用件でしょうか?」
だが、流石は年の功とでも言うべきか、即座に敬意を込めた口調になる。
「俺は上澤野八代です。俺を生贄として捧げようとしている神様の名前を、調べに来ました。神様の名前とか知らないですか? もしくは、知ってそうな人とかは? 後、早苗の髪と目の色が、神様とよく似ているんですが、何か関係があるんですか?」
相手が丁寧な口調にしてくれたので、俺も敬語を使う。
変に機嫌を損ねて、情報を隠されるのも嫌だし。
「名前を? それは一体、何故でしょうか?」
「あの神の名前を当てたら、俺を自由の身にしてくれるって約束したんです」
「器様を自由に…? それは、本当のことでしょうか?」
「疑うなら、神官の2人にも聞いたらいい。お告げで伝えられています。そもそも、俺の話が嘘なら、名前が分かったところで何も起きないですよね?」
俺が自由になるという言葉に、困惑した表情を浮かべる、長老。
隣の早苗も良く分かっていないような、顔をしている。
「知っていることがあれば、何でも教えて欲しい。俺はこの体を死なせる気はない」
「しかし……神様の名前など……長いこと生きてきましたが、子供の頃より聞いたことがありません。そして、この村で一番の年寄りは私です。私より昔のことを知っている人間も居ないかと」
「むむむ…ッ」
長老の返答に、俺はお面の下で唇を噛む。
嘘を言っている可能性も無いではないが、どちらにせよ俺の耳に入ることはないのだろう。
困った。これだと、名前が分からずに、盗んだ車で走り出す作戦を取るしかなくなってしまう。
「……ですが、早苗が神様に似ているというのは……少しだけ、心当たりがあります」
「本当ですか!?」
しかし、天は俺を見捨てなかった。
長老が何かを考えこむように、顎に手を当てる。
「それは一体? 教えてください!」
「教えることは構いませんが……1つだけ条件があります」
「条件?」
長老が、改めてじっくりと俺の方を見る。
年寄り特有の経験を重ねた、重い視線が俺の内部を見透かそうとする。
「あなたが、本当に器様であることを証明して頂きたいのです」
俺が器であることを証明しろ。
そんなことを告げる、長老。
「証明…? なんでですか?」
「まことに失礼ですが、あなた様は私の記憶にある器様とは、あまりにも性格がかけ離れております。そして、今はお面でお顔を拝見することも出来ません。悪しき考えを持つ者の仕業かもしれないと、疑うことをどうかお許しください」
性格違い過ぎるだろと言われて、俺は黙り込む。
神官の2人は俺のクソ爆弾攻撃などもあり、こいつはそういう奴だと認識を改めたが、長老は違う。
恐らくは、ただ言われるがままに生贄として生きていた、この体のことしか知らない。
だからこそ、急にアグレッシブになった俺に対して、偽物ではないかと疑念を抱いているのだ。
「お面を外せばいいか?」
「え? い、いや、それはお待ちください! せめて、私達がお面を被る時間をください!」
「う、うん……直接、顔を見るのはダメだから」
なので、サクッとお面を外して証明しようとするが、長老と早苗に慌てて止められてしまう。
なんか、自分が魔眼の持ち主にでもなった気分だ。
「でも、これが一番確実だろう? 俺の顔を見て、神様に天罰を与えられれば、それが俺が器であるという証明になる……違うか?」
「それは、そうですが……」
「顔が同じだけなら、そっくりさんの線もある。証明するには、これしかないと思うが……どうする?」
ちょっと脅しっぽくなるが、仕方ない。
以前と違うと言われたら、俺としては『はい、そうです』としか言えないのだ。
下手にボロが出ても困るので、こうして押し切ろうとしているのである。
素直にごめんなさい。
「……いいえ。他にも方法はございます」
「他にも?」
しかし、長老は別の方法を提案して来る。
「器様は神様が見えるそうですね?」
「ああ、バッチリ見えるよ」
「それはつまり、神様と同じ景色が見えるということです。村の奥にある湖には、普段は神様にしか入れない祠があります。そして、祭りの時にだけ、神様の手によって私共もその場所に入れるようなるのですが……神様と同じものを見ることが出来る器様ならば、今この段階でも入ることが出来るでしょう」
「なるほどな……そこに行って、証拠の品を持って来いってことか」
俺は長老の説明に納得する。
実際に器なら入れるかどうかは分からない。
しかし、俺の場合は村の外に出ようとすれば、いつでも神に会える。
最悪、神に入れてくれと頼めば何とかなるだろう。
「ええ。そこには、お神酒を入れるための豪華な皿があります。毎年、祭りの際に中身を入れ替えるのですが、しっかりと掃除する時間も無いので、可能ならばこのタイミングで一度、こちらに持ち帰って掃除してしまおうかと」
「その皿を持ってくればいいんだな?」
「はい。器様ならば、可能なはずです」
これは、なんというか、納得できる条件だ。
その祠に行って、依頼された皿を持って帰ってくる。
ゲームで言う所のお使いクエストみたいなものだ。
「分かった。じゃあ、案内を頼む」
「早苗。器様をご案内してあげなさい。場所は分かるでしょう?」
「はい、お婆様。それでは、行きましょうか」
そうして、俺は早苗に連れられて村の奥にあるという、祠へと向かうのだった。
「デカい湖だな……」
「あの湖の中心にあるのが、祠です」
目的地に到着。
俺と早苗の目の前には、広大な湖がある。
そして、その中心には島があり木の祠がポツンと建っている。
その木の祠に向けて、橋がかかっているのだが……それが非常に不気味だ。
細く、どこか腐食しそうな雰囲気が漂っている。
「あの橋を渡らないといけないのか?」
「橋…? え、何も見えませんけど……」
俺の言葉に早苗が首を傾げる。
どうやら、あの橋は俺にしか見えてないらしい。
「見えないのか?」
「はい……お祭りの時には神様が橋をかけてくださるんですが……普段は何もないんです。でも、器様が見えると言うなら、普段から橋はあって、祭りの時に見えるようにしてくださっているんですね」
「これが、俺と神様にしか入れない理由か……因みに船とかで行けたりはしないのか?」
「ダメです。湖には大きなヘビが居て、勝手に入ろうとしたら沈められるって、お婆様から言われています」
なるほど。これで物理的に村人には入れないようになっているわけか。
単なる湖でも、障害を置けば難攻不落の砦になるというわけだ。
さすがは神様。小細工を働いているな。
「じゃあ、俺は行ってくる。こっから先は、お前にはついて来られないからな」
「はい。大丈夫ですか?」
「ああ。取り敢えず、行けるだけ行ってみるさ」
答えると、俺は早苗に手を振って橋を渡り始める。
途中で、大きな蛇と遭遇しないように祈りながら。
今はこのまま逃げるより、情報優先だ。
「わわ…! 八代さんが宙を歩いています!」
「へー、他の人からすると、そういう風に見えるんだな」
早苗の驚く声に、俺は感心する。
どうやら本当に俺の歩いている橋は、一般人には見えないらしい。
「さてと……祠に到着したのは良いけど、皿はどれだ?」
俺は到着した島で、木の
特に派手な祠ではない。
湖の上に建っているのに、湿気で腐っていないのは凄いが、それだけだ。
「祠の中か? ……あった! 豪華な皿ってこれのことだよな」
祠の扉を開けると、中に朱塗りの皿が置いてあった。
これが長老の言っていた、皿で間違いないだろう。
「おーい! 早苗ちゃん、これでいいのか?」
「は、はい! そのお皿です」
皿を振って、向こう側に居る早苗に確認を取る。
どうやら、これで間違いないらしい。
後は、これを長老の下に持ち帰れば、クエストクリアだ。
へ、簡単なお使いだったぜ。
『──我への供物を盗む不届き者は誰だ?』
声が響く。
湖面がさざめきを立てて、中から何かが這い出して来る気配がする。
おいおい、マジで居るのかよ。
「わ、わわ……水がへ、ヘビみたいな形に動いています…!」
「湖に住む大蛇って、本当に居るのかよ。大分、ファンタジーだな」
祠の浮かぶ島を締め付けるように、とぐろを巻いた大蛇が鎌首を持ち上げる。
そして、俺を餌として値踏みするかのように、チロチロと舌を出す。
『貴様が盗人か?』
「盗人じゃねぇよ。ちゃんと、皿の掃除をするためって依頼を受けて来たぞ?」
俺は大蛇を見つめ返しながら、これは単なる掃除だと言い張る。
実際問題、大蛇を害しに来たわけでもないので、争う理由はこっちにはないのだ。
「そもそも、お前ってあの金髪の神様が置いた、祠の警備員みたいなもんだろ? 俺は一応、あの神様の器だからな。俺を食ったらお前の主が困るぞ」
そして、俺は神様の器の予定。
上司に捧げられる供物を、部下が食べる訳にはいかないはずだ。
そう、思っていたのだが。
『主だと? ふざけるな! 我はあの神から──この湖に封印されているのだぞ!?』
大蛇はとんでもないことを口にする。
部下などではなく、封印されている敵対者だと。
「……マジ?」
『我をこの湖に縛り付けているばかりか、我を鎮めるための供物すら盗み出そうとするとは……万死に値する!』
「うわぁ……お前って、祟り神の部類かよ……怒らないように
衝撃の事実に俺は少し慌てる。
てっきり、祭りの時にお神酒を捧げるって言うから、金髪の神側と思っていたが、どうやら退治された伝承を再現するタイプの祭りだったらしい。
あれか? 八岐大蛇を
『特に、あの神の眷属というのなら、容赦はせん。
「もしかして、長老さん。俺を抹殺するために、ここへ送り込んだのか?」
思わずそう愚痴ってしまうが、しょうがないだろう。
真面目に依頼をこなしに来たのに、この仕打ち。
そもそも、俺だってあの金髪の神様の味方じゃねぇし──
「待てよ?」
『なんだ、命乞いか?』
「お前って、あの神様に封印されてるってことは、つまり、あの神の敵だよな?」
──ふと気づく。
お互いの立場に。
『何を当たり前のことを……』
「俺はあの神の生贄だ。死にたくない」
『だから何だと言うのだ?』
俺はあの神様に生贄にされかけている。
この大蛇は、あの神様に封印されている。
つまり――
「一緒に手を組んで、あの神に革命でも起こさないか?」
『……は?』
──俺達は手を取り合えるということだ。
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