男女比1:20の因習村に転生したけど、俺が生贄ってマジ? 作:飲酒村
『器の身であの神に革命など……命乞いなら、もう少しマシなものにするのだな』
「マシじゃなくて、マジだって。そもそも生贄とか普通に考えて嫌じゃん?」
『神に捧げられる事の何が嫌なのだ? 生贄は神の眷属として生まれ変わるのだ。名誉なことだろう』
「うわ、
レッツ交渉タイム!
少しでも選択肢をミスったら、大蛇の胃の中のドキドキクイズの始まりだ。
『そもそも、貴様も村の者だろう? 神に逆らうなど出来る訳がない。貴様は何か1つでもあの神に逆らったことがあるとでも言うのか?』
「あいつの神社を全焼させて、2回ほど村から脱走しようとしたぞ。この片足はその時に折られたやつだ」
『……何を言っているのだ?』
反体制派の証拠を言ってみろというので、ちゃんと説明したのだが、めちゃくちゃ首を捻られる。
おかしい。
俺のスピーチ力が足りなかったのだろうか?
「だからさ。生贄になるのが嫌で、1回目は神官にうんこをぶつけた隙に逃げて足を折られて、2回目は翌日にぼっとん便所に火を投げ込んで爆発した隙に逃げたの。それで、また連れ戻されたら、神社が全焼してたんだよ」
『繰り返せと言ったわけではない! 何故、そのような行動に出たのか、理解出来ぬと言っているのだ!!』
今度は、端折ったりせずに丁寧に伝えてみるが、大蛇は理解出来ないと叫び声を上げる。
解せぬ。
「はぁ……これだから、昔ながらの神様は。現代は子供を使い捨てる時代から、大切に扱う時代に変わったんだよ? 封印を解いて欲しいなら、お前も現代化しないと」
『我が言うのもなんだが、貴様は本当に交渉する気があるのか?』
「もちろん」
蛇のくせに青筋が立っているのが、ハッキリと分かる、大蛇。
煽っているのは確かだが、何も勝算が無いわけではない。
これは俺なりの交渉術だ。
「ここで俺を食ったところで、お前は何も変えられない。だが、俺の手を取れば何かを変えられる。お前に俺を食う利益があるか?」
『貴様…!』
あくまでも俺の方が、交渉は優位だという雰囲気を漂わせるのだ。
交渉のカードを握っているのは、あくまでも俺だ。
「そもそも、最初に言ったけど、俺は捧げ物の器を盗みに来たんじゃないぞ? 長老の依頼で祭りの前に、一度掃除するために取りに来ただけだ。お前に不利益は何もない。むしろ、新しい酒をすぐにでも貰えるんだぞ? こっちが感謝して欲しいぐらいだぜ」
『だから、その煽り口調で交渉する気があるのか!』
「おいおい、神を相手に交渉するんだ。緊張で敬語ぐらい使えなくても、しょうがないだろ? また崇められるようになった時に、そんなに短気じゃ苦労するぞ」
『貴様は本当に何なのだ…?』
もはや呆れて、怒りも沸いてこないといった風の大蛇に、チャンスを見出す。
これで俺の印象は、良くも悪くもバッチリだ。
人を見下す奴には興味の対象になってからが、本当の交渉の始まりなのだ。
「それにだ。お前の記憶に俺みたいな奴が1人でもいるか?」
『居る訳が無かろう、貴様のような失礼な存在が』
「そうだ。この出会いは、まさに千載一遇。この機会を逃せば、次は無いってことだ」
『…ッ!』
神が何年生きているかなど知らない。
だが、反応を見ても俺のような存在と会うのは、初めて。
現状を抜け出すチャンスが転がり込んでくるのは、これは最初で最後だ。
「さあ、どうする? お前に不利益はない。本来、来るはずの無かった、子供を1人見逃すだけ。それだけで、お前は千年に一度の機会を得られる。だが、お前が怒りに任せて、目の前の子供を食べれば、そこで終わりだ。これから先の千年間をこの湖で寂しく過ごせばいい」
『…………』
俺の言葉に、怒りを鎮めて深く考え込む、大蛇。
恐らくは、俺のパーフェクトな交渉術に感心しているのだろう。
これで、新たな仲間をゲットだぜ。
『1つ答えろ』
「なにを? 悪いけど、革命の計画は今考えたから、全くもって練れてないぞ」
『そこは嘘でも、考えていると言えば……いや、話が逸れたな。我が聞きたいのはそこではない』
「じゃあ、なんだ?」
大蛇がゆっくりと、俺の顔に巨大な顔を近づけて来る。
そして、その瞳で俺の中身を値踏みするように、見つめる。
『
お前は誰だ?
肉体ではなく、俺の魂そのものへと大蛇は声をかける。
「
『なるほど……転生か。どうりで、体に似合わぬ話し方をする』
「悪かったな、体と違って魂は老けていて」
『神に革命を起こす目的は何だ?』
「答えるのは1つまでという話だろ? それ以上聞きたかったら、まずは俺を岸まで返すことを保証してくれ」
口を開けば、この体など一口で呑み込まれてしまうだろう。
だが、俺は引かぬ、媚びぬ、省みぬ。
それ以上聞きたかったら、俺の要求を飲めと告げる。
『……いいだろう。貴様の言う通り、我に不利益はない。その話を受けてやろう』
「じゃあ、俺はこの皿を持って、一度帰るな? 詳しい話は、掃除して戻って来たときにしようぜ」
『せいぜい、貴様が本当の盗人でないことを祈っておこう』
鼻を鳴らし、ゆっくりと俺から顔を離す、大蛇。
どうやら、何とか交渉に成功したようだ。
早苗も待っていることだし、早く戻るとしよう。
「あ、そうだ。お前はあの神様に恨みがあるんだろうけど、早苗ちゃんは襲うなよ? 顔とか髪がそっくりの女の子だけど、完全な別人だからな」
ふと、早苗と神様が似ていることを思い出したので、忠告しておく。
俺をいきなり盗人扱いする奴だ。
ただ似ているというだけで、八つ当たりで早苗を殺しかねない。
釘を刺しておくに越したことはないだろう。
『早苗…? あの少女が……憎き神に似ているだと?』
「ん? いや、金髪に金の目で、顔もよく似てるだろ?」
『………いや、あの神は──』
僅かに困惑した空気。
俺があまりにも当たり前に言うものだから、自分の常識を疑っているような、奇妙な間。
その間が空けた時、大蛇は予想だにしない言葉を零した。
『──少なくとも男神だったはずだが…?』
「長老さん、俺、あそこの祠の大蛇に食われそうになったんだけど? 何? 俺を抹殺しようとしてたの?」
早苗の家に帰ってきての第一声。
俺は死にかけたぞと、恨み節を長老へとぶつける。
「お、お婆様、ただいま戻りました」
「まあ、命の危機は今更だから、もう何も言わないけどさ。取り敢えず、この皿を早めに掃除してくれ。この皿をすぐに返さないと、あの蛇が怒るんで」
「それは……まさかそのようなことになるとは、思っておりませんでした。御身を危険にさらしてしまい、真に申し訳ございませんでした、器様」
俺の嫌みを真っ向から受け止めた長老は、俺に対して深々と頭を下げる。
老人。しかも、女性に頭を下げさせることに罪悪感を抱いた俺は、少し慌てる。
「いや、まあ、俺が怪しいのは事実だけどさ……取り敢えず、話してくれますか?」
「早苗が神様に似ているという話ですね。長い話でもありませんので、ここで話しましょうか」
「あの、お婆様……私もお話を聞いてもいいですか?」
「構わないわ、早苗。こちらに来なさい」
そう言って、長老は座布団を俺と早苗に差し出してくれる。
これに座って話を聞けということだろうと、解釈して俺はどっかりと座り込む。
松葉杖があるとはいえ、片足で歩くのは中々にキツイのだ。
「では、どこから話しましょうか……まず、私達の家系は
「ほーん」
長老の説明に、俺はそんなものかと頷く。
軽い?
いや、権力者が神の血を引いてるなんて、どこの国でもよくあるプロパガンダだし。
まあ、この世界ではガチなのかもしれないが。
「つまり、早苗は神様の子孫だから似てるってことか?」
「私はそのように考えております。もちろん、あくまでも私の考えですが」
確かに、それならば説明はつく。
早苗が似ているのは遺伝子の先祖返り。
神様本人か、その縁者の子孫という単純な話。
だが、新たに得た情報がその仮説の邪魔をする。
(じゃあ、あの大蛇が言ってた男の神様ってなんだ? あれか? 実は俺が女と勘違いしているだけの、男の娘なのか?)
大蛇は早苗を見ても、何の反応も示さなかった。
よくよく考えると、恨み骨髄の神様に似た奴の方が俺なんかよりも、反応しそうなのにだ。
つまり、大蛇の知る神とは別人クラスに、違う人相をしている可能性が高い。
(そうなると、大蛇を封印した神様と金髪の神様はまさかの別人か? ヤバいな……別人だった場合、同盟の前提が崩れる)
あの後は、大蛇の疑問をスルーして帰って来たので無事だったが、皿を戻しに行った時にそこをツッコまれる可能性がある。
そうなれば、大蛇の胃の中で一寸法師をするはめになる。
今のうちに、適当な言い訳を考えておかないとまずい。
「それと……」
「まだ、話があるのか?」
俺が内心で冷や汗をかきながら、考え込んでいた所で長老が話を続ける。
「はい。遥かに昔なのですが、生贄は私共の家系から出すのが習わしだったそうです」
「え? じゃあ、俺って早苗の兄妹なの?」
「えぇ!? そ、そうだったんですか!」
衝撃の事実に、悩みが吹っ飛ぶ。
どうやら、俺達は兄妹だったようだな。
「いえ、あくまでも遥か昔の話です。
「なんだ……じゃあ、兄妹じゃないのか」
「び、びっくりしました」
思わず、天涯孤独のこの身に家族が出来るのかと浮足立ったが、無駄足だったようだ。
「今は、貴重な
「因みに実家とか分かる?」
「……申し訳ございません。今はどの家から器様が出たかを話すことは、掟で固く禁じられているのです。私はその答えを知っておりますが、墓まで持っていくつもりです」
この体の親を探してみようかと思ったが、長老は話せないと断固とした意志を見せる。
村人同士での不平等感を無くすためか、はたまた親の罪悪感を消すためか。
それは俺には分からないが、何をしても口を開かないことだけは、容易に見て取れた。
「そっか……じゃあ、いいや」
「ご理解いただけて幸いです」
「取り敢えず、聞きたいことは聞けたしな。神と早苗は同じ血を引いている。昔は、中村家からだけ生贄が出されていた。これだけ分かれば、名前が分か……らねぇな」
長老から貰える情報は以上だろう。
貴重な情報ではあるのだが、名前に結び付く情報が無い。
生贄信仰のある神様ということしか分からないが、正直に言って絞り切れない。
生贄信仰とか、昔はどこでもやっていたのだから。
何なら、あの大蛇も口ぶりから察するに昔は生贄を貰ってたぽかったし。
「やっぱり、あの大蛇に直接聞いてみるのが一番か……」
流石に神官や長老たちとは違って、宿敵の名前ぐらい知っているだろう。
だが、問題は。
(あいつの言ってる神様と別人だった場合が怖いな……ドヤ顔で別の神様の名前を言って、不正解とか恥ずかしすぎる……)
その名前が正解かが分からないのだ。
直接顔を合わさせて、本人かどうかを確かめて貰うのが一番だが、封印されているそうなので、動けるか分からないのがネック。
「いや、待てよ?」
俺はドツボにはまっていたことに気づく。
名前を当てたら、自由にしてくれる。
その言葉を信じて、神の敷いたレールに乗ってしまっているのだ。
(俺の最終目標はなんだ? そうだ。この体を自由にすることだ。金髪神様の名前を知ることじゃない。別に方法は何でもいい。そのために、あの大蛇と手を組んだんだろう)
蒙が開かれる。
何のために、大蛇と手を組んだのかを思い出せ。
名前が分からなければ、暴力で勝てばいいじゃない。
(そのために俺が取るべき方法は1つ!)
戦力を増強することだ。
「戻って来たぞ、大蛇。取り敢えず、その祠を壊していい?」
湖の祠に皿を持ち帰って来た俺の片手には、小さなハンマーが握られていた。
対、祠用最終兵器のハンマー君である。
『待て、待て! 話が唐突過ぎるぞ!?』
「あ、それから、これから毎日、村の祠を壊していくつもりだから。お前も協力しろよ?」
『せめて理由を言え! 封印されているとは言え、ここは我の家だぞ!?』
せっかく封印を解いてやろうとしているのに、何故か慌てて反論して来る、大蛇。
あれか? 住めば都で、愛着が湧いてるのか?
殊勝な奴だ。
「いや、お前みたいに封印されてる奴がいたら仲間に加えて、逆にあの神の祠なら壊して力を削げるかもしれないし、一石二鳥じゃねって思ってさ」
『祟られるつもりか、この馬鹿!!』
こうして、俺達の祠破壊RTAが始まるのだった。
お前、あの祠を壊したんか!
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